ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第85話~ボーダーライン~

 

 

 ハプルやドスイーオスのような例外はいるものの、ほとんどのモンスターにおいて“頭”というのは弱点になる。モンハンなんてものは高難度になればなるほど、より早いタイムを求めれば求めるほど、その弱点にどれだけ攻撃を入れられるかが大切。

 そう考えると、相手の弱点である頭にだけ攻撃をし続けるハンマーという武器は実に合理的なのかもしれない。まぁ、いくら弱点を攻撃したところで、ハンマーの火力じゃなぁ……って思ってしまうんだけどさ。

 

 そんなハンマーを使い、モンスターの頭を攻撃していると、相手はスタン状態になる。スタンは取れば取るほど相手の耐性値が上がってしまう関係で取り難くなってしまうけれど、ソロでハンマーを担いだ場合、普通なら2回は取ることができる。

 そして、このスタン回数ってのはおおよその目安になるんだ。

 自分がどれだけ頭に攻撃できているのか、とか。そのクエストの調子だとか……相手の残り体力や、自分の火力の目安に。

 

 自分の火力と、取れるスタンの関係は反比例。火力が出ていれば出ているほど、取れるスタンの回数は減ってしまう。威力が低く、そこそこのスタン値である横振りを多用すればその限りではないけれど、そんな戦い方をするハンターはいないだろう。

 つまり、スタンを取りすぎるってことはそれだけ自分の火力が出ていないってこと。

 

 そして、俺はそのボーダーラインが4スタンだと思っている。

 

 4スタンを取ってまだ相手が倒れないとしたら、自分の火力が足りていなかったってこと。それは技術的にではなく、武器自体の倍率の低さが原因であることが多いんじゃないかな。

 

 4スタン。それが今使っている武器の火力が足りているかどうかのボーダーライン。俺はそう考えていた。

 

 

「っつ……ナ、ナイスニャ!」

 

 そして今、そのボーダーラインを――越えた。

 

 アカムと戦い始めて、もう30分近くになるんじゃないだろうか。

 ご主人の動きがかなり良いこともあって此処までは0乙。危ない場面だってない。それでもって、これで4スタン。

 ただ、どう考えたって使っている武器の火力が足りていない。

 

 正直、予想はしていた。相手は体力の多いあのアカムで、ご主人と俺の使っている武器は獰猛化モンスター素材がいらないところまでしか強化していないのだから。

 それでも、ソロじゃなく俺もいる。そして、相手は相性の良いアカムだ、なんて思っている自分もいた。

 

 いやぁ……完全に舐めていましたね。ご主人がどう感じているのか分からないけれど、流石に俺は厳しい状況です。

 

 

 これほどまで長い時間戦っているのにも関わらず、ご主人の集中力は多分まだ切れていない。流石です。俺は……ちょっとヤバい、かな。だってパーティーで4スタンなんて体験したことないのだから。

 

「ソニックブラスト! 顔から離れるニャ!」

「……っつ! 了解ですっ!」

 

 4スタンを取ってからのラッシュ受けてもまだまだ元気に見えるアカムさん。ホント、良い加減倒れてもらえないだろうか。

 そして、このクエストが始まってから初めてご主人が俺の言葉に反応してくれた。それは嬉しいことではあるのだけど……多分、集中力も切れ始めているってことだよなぁ。

 

 上がりに上がった耐性値の関係で、もうスタンを取るのは無理だと思う。終わりが見えない。厳しい状況です。

 

「ご主人、あと少しで倒せると思うから頑張るニャ!」

 

 ソニックブラストを終えたアカムの頭へスタンプを叩き込むご主人へ言葉を送る。自分に言い聞かせるような言葉を。

 まっずいなぁ、このままじゃ倒しきれずにクエスト終了だってあるぞ。

 

 どうにも嫌な予感ばかりが頭の中で膨らむ。

 そんなことを考えていると、アカムの潜り攻撃にご主人が巻き込まれた。

 

「定位置! マップの下! 回復は追いかけた後にするニャ!」

 

 怒り状態で定位置への移動だから、次の行動はほぼ確定でソニックブラスト。そうだというのなら、とにかく安置へ移動しないと。此処で1乙でもしたら精神的にかなりマズい。

 

 いくら火力のない武器を使っているとはいえ、4スタンも取っているんだ。アカムの残り体力だって多くはないはず。そのはずなんだ。

 

 俺の言葉へ返事はしてくれなかったものの、その言葉はしっかりと届いているらしく、潜ったアカムを追いかけるようにご主人も移動。

 

 溶岩島エリアの下の方って溶岩が近く、戦える場所が狭いから苦手なんだよなぁ。まぁ、今はそんな愚痴を溢している余裕だってないわけですが。俺も俺で色々とギリギリなんです。

 

 マップ下へ移動したアカムは予想通り、ソニックブラストを放った。怒ってなければ音爆で大ダウンを取れたのだけど……まぁ、こればっかりは仕方無い。

 4スタンも取ってしまったことで、本当にゴールが見えない。それが精神的にキツい。

 

 ソニックブラストを終えたアカムへご主人はハンマーを振り下ろし、俺はその真後ろからブーメランを投げつける。お願いだから早く倒れてくれと、もう祈るような気持ちで。

 

 そんな思いが届いてくれたのか、ご主人のホームランが入ったところで、ついにアカムは悲鳴を上げ倒れてくれた。

 つまり、討伐完了。

 

 ……ゴールが全く見えず、時間切れまであるんじゃないかとすら思えたのは本当に久しぶりだ。それも相手は1頭のみ。超強化個体のイベクエをクリアした気分。

 ああ、ホント疲れたなぁ……戦っていて楽しいとかじゃなく、今回ばかりはただただ疲れました。こんなにも大変なクエストをクリアできたのだし、もう少し達成感だとかそういうものを味わいたいところだけど、今はその実感すら湧かないほど疲れたんです。

 

「あっ……え? た、倒した……の?」

「うニャ! これでこのクエストは完了ニャ!」

 

 ハンマーを構えたまま、棒立ちでもう動かなくなったアカムを見つめるご主人から言葉が落ちた。

 確かに、俺たちはアカムを倒すことができた。でも……なんだろうね? このフワフワと浮いてしまうような感覚は。そんな感覚のせいで本当にアカムを倒すことができたのか実感が湧かないんだ。

 それはソロで超高難度やドギツい縛りをしてクエストをクリアできた時の感覚とよく似ている。終えた直後は自分でもよく分からず、後から少しずつ少しずつ実感の湧いてくるあの感覚に。

 

「はぁ。そっ、か。それは良かった……」

 

 そして、そんな言葉を落としたところで、ご主人の身体から一気に力が抜けた。

 傍で戦っていたこともあり、小さな身体を使ってどうにかご主人の身体を受け止める。これだけ長い時間集中し続けていたんだ。そりゃあ疲れもするだろう。

 

 お疲れ様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うー……あー……ほっ! とりゃっ! あっ、あ? はっ!」

「おはようニャ」

 

 なんだかよく分からないことを呟いていたけれど、ご主人が起きてくれました。

 現在は飛行船の上、溶岩島からの帰り道。

 

 クエストを終え、倒れてしまったご主人を運ぶのは大変でした。ネコタクアイルーや飛行船を操縦するネコにも手伝ってもらいどうにか飛行船へ。お神輿を担いでいるみたいでちょっと面白かったけど。

 残念ながら、ご主人が倒れたせいで剥ぎ取り回数は減ってしまった。ただまぁ、アカム素材はそんなに使わないだろうし、良しとしましょう。あの時のご主人なんてどうやっても起きそうになかったし。

 

「あ、うん。おはよ……う? って、あっ! あ? あれ? アカムトルムは……た、倒せた……んだっけ?」

「うニャ。ちゃんとアカムは倒せたから大丈夫ニャ」

 

 戦っていた時は本当にキツかったけれど、結果だけみれば0乙なのだし、案外余裕だったのかもしれない。じゃあもう一回どうぞ、と言われたら遠慮しますが。ただ、ハンマーを使って良いのなら喜んでいくんだろうなぁ。

 

「おおー! そうだよね! 私たち倒せたんだよねっ!」

「うニャ」

 

 ようやっとご主人も実感が湧いてきたのか、心の底から嬉しそうに笑いながら言葉を落としてくれた。

 ゲーム中じゃアカムなんてそれほど苦労する相手じゃないだろう。でも、今のこの装備であのアカムを倒せたことは誇って良いことなんじゃないかな。

 いやぁ、ホント、苦労しましたね。オストガロアなんかよりよっぽど強いんじゃないだろうか。依頼された時のことをよく覚えてないけれど、何を思ってあのギルドマネージャーは俺たちにアカムのクエストに行かせたのやら……オストガロアとの戦いが迫ってきているとか、そんな理由なら嬉しいです。

 

「そっかぁ。倒せたのかぁ……ふふっ、なんだか実感が湧かないや」

 

 そんなものだよ。でも、クリアできたことは事実なんだ。きっとそれはご主人にとっても大きなものになると思う。

 きっかけを掴むのは難しい。ただ、そのきっかけってのは案外簡単に掴むことができると思うんだ。このクエストがご主人のきっかけになってくれたら良いなって俺は思います。

 

 

 さて。

 さてさて。

 さっきは分からない、なんていったものの、今までの経験や、ゲームのシナリオなんかを考えるに、オストガロアとの戦いはもう目の前だろう。

 それはつまり、ご主人との別れや、この世界でこれからも俺が歩いていけるかどうか分かるのも、もう目の前まで来ているってこと。

 

 この小さな身体となってからご主人には本当にお世話になっている。

 だから、言わなきゃいけないことがあると思うんだ。例え、このお話がどんな結末を迎えるとしても。この世界を歩んでいくと決めた。けれども、その願いが叶うのか分からない。出会いが突然訪れるものならば、別れだって突然訪れてしまうもの。

 

 今までは準備をする暇もなく、終わりを迎えてしまった。ただ、今回ばかりはそんな結末にしたくない。だから、もう少しだけでも時間が残っていると嬉しいなって思います。

 

 

 


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