ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第83話~迷わず進め~

 

 

 黒でも白でもあり、上も下もない空間。

 正直、何がなんだか全く分からなかった。

 

「うニャ!」

 

 そんな意味の分からない世界にいる1匹のネコ。

 そのネコに見覚えは、ない。

 

 今まで自分が何をしていたのかも分からず、どうすれば良いのかが分からない。今はとにかく、この状況の説明をしてもらいたかった。

 

 唯一分かるのもネコがいるということだけ。

 

「うニャ! むニャむニャ……うニャ!」

 

 意味が、分からなかった。

 

 えっと……そもそもこのネコは何なんだろうか。『うニャ』とか『むニャ』とか言われても俺に何を伝えたいのか分からない。

 たぶん、アイルーなはずだし、できれば人間の言葉を使ってもらいたいのだけど……

 

「……キミには悪いと思っているニャ」

 

 そんな俺の願いが通じてくれたのか、やっと俺にも理解のできる言葉をあのネコが落としてくれた。

 

 悪い? 何のことだ?

 

「でも、キミの力が必要だったニャ……そして、キミしかいなかったニャ」

 

 俺の、力……?

 

 せっかく意味の分かる言葉を落としてくれるようになったというのに、そのネコの言葉は相変わらず分からなかった。

 

「本当に悪いとは思っているニャ。ただ、もう少し……もう少しだけ、キミの力を貸してほしいニャ。ボクのためにも――あの子のためにも」

 

 あの子……それは誰のことで、俺は何をすれば良いんだ? 頼む、頼むからもう少し分かりやすく説明してくれ。

 お前は……君は誰なんだ?

 

 

「小さな身体でできることは少ないけれど、その身体だからこそできることがあるのニャ。だから――迷わず進むニャ」

 

 

 そんな言葉を聞いたところでその世界は崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 目が覚めた。

 ただ、寝起きのせいかどうにもボーっとしてしまい、今の自分の状況がよく分からない。

 

 えっと、此処は……ああ、飛行船か。それで俺は何をしようとしていたんだっけかな。

 フワフワと浮いてしまい、どうにも思考が固まらない。飛行船に乗っているってことは何処かへ向かっているってことだけど、はてさて、何処に向かっているんだ?

 相棒ほどではないにしろ、比較的寝起きは良い方だと思っている。そうだというのに、どうにも……今までこんなことなかったんだけどなぁ。

 

「あっ、ネコさん起きたんだ」

 

 回ってくれない頭を必死に動かしていると、そんな声が聞こえた。

 その声は……ああ、そうだ。俺のご主人だ。俺はそのご主人のオトモで、今は……何をやっていたんだっけ?

 

「ああ、うん。おはよう。それでご主人、俺は何処へ向かっているんだっけ?」

「あー……もしかして、ネコさん寝ぼけてる? 口調がおかし……あっ、おかしくはないんだけど、戻ってる? っていうか……」

 

 そんなご主人の言葉を聞いたところで、やっと頭が回り始めてくれた。

 そっか、今の俺はネコで、だから『ボク』だとか『ニャ』だとかいうようにしていたはず。

 

 ……いや、ちょっと待て。そんなこと普通忘れるか? どんなに寝ぼけていようが、流石にこれはマズいだろ。変な物を食べた記憶もないし、何が起きてるってんだか……

 

「う、うニャ。ちょっと寝ぼけているみたいニャ。そ、それでご主人、ボクたちは何処へ?」

「だ、大丈夫? ……んとね、ほら、ギルドマネージャーから『アンタたちの実力を知りたい』とか言われてアカムトルム討伐のクエストに行くところだよ。えっと、ホントに大丈夫? 体調が悪いようならクエストはリタイアした方が……」

 

 心配そうな表情で俺を見つめ言葉を落とすご主人。

 

 あー……思い出してきました。

 ご主人と今日もクエストないねー、暇だねー。みたいなことを話していたら急にギルドマネージャーに呼ばれ、そんなことを言われたんだっけ。

 それで頼まれたクエストの内容は覇竜――アカムトルムの狩猟。何があっていきなり実力を知りたいなんて言われたのか分からないけれど、クエストがあるのは嬉しかったし、文句無しでそのクエストを受けることになった。つまり、今はアカムのいる溶岩島へ向かっているところ。

 

 ……いや、ホントなんでそんなことも忘れていたんだよ。

 

「心配無用ニャ。ちょっとボーっとしていたけれど、もう大丈夫ニャ」

「それならいいんだけど……」

 

 心配かけてごめん。でも、もう大丈夫です。たぶん……

 

「相手はあのアカムトルムだもん。私だけじゃ絶対に倒せないよ」

 

 ん~……ご主人なら倒せそうだけど。

 と、いうか――

 

「ご主人はアカムと戦ったことはあるのかニャ?」

 

 確か、MH4のイベントの中にアカムと戦うものがあったはずだけど……何のイベントだったかなぁ。あまり印象的なイベントじゃなかったせいかどうにも思い出せない。

 

「うん。一応あるよ」

 

 おお、それは良かった。

 詳しい話を聞いたことはないけれど、ご主人はMH4の村クエ全イベントをクリアしているって考えて良さそうだ。

 

「ただ、その時は片手剣だったし、持っていった爆弾だけじゃ全然足りなくて……もうなんか必死で、よく覚えてないんだ」

 

 あー……そういえば、ご主人の戦闘スタイルはSBでしたね。

 アカム相手にSBとかよくやるよって思うけれど、そんなご主人のことは嫌いじゃない。自分の頑張ろうって決めたひとつの筋を通したい気持ちはよく分かるから。

 

「確かに、アカムは強いモンスターだけど、ご主人なら大丈夫ニャ。今はブシドースタイルかニャ?」

「大丈夫かなぁ……うん、出発前にネコさんから言われたしブシドーだよ」

 

 ああ、うん。じゃあ大丈夫だ。

 

 確かにアカムは強い。強いモンスターなんだけど……ブシドーハンマーなら負ける気がしない。

 ATMなんて呼ばれていた頃や、閃光ハメにより1分もかからず倒されていた頃と比べれば、MHXのアカムは強いと思う。MHXでもHR解放後じゃないと戦えない相手ですし。

 流石は古龍に匹敵するとまで言われるモンスターだけあり、その体力は多く、一発の攻撃がかなり重い。

 とはいえ、その攻撃一発一発は見極めやすいし、ブシドー殺しの多段攻撃もほとんどない。

 つまりですね、武器種とスタイルによってはかなり楽な相手だったり……貫通ヘビィでも担いで来れば一方的にボコボコにできるくらいだと思う。

 

「アカムはハンマーと相性の良い相手ニャ。潜り時と突進さえ気をつければ頭にずっと張り付いていられるニャ」

 

 嬉しいことに、昔からアカムはハンマーと相性良い数少ないモンスター。相手の攻撃さえ見極められれば、弱点である頭を攻撃し続けられます。頭は大きいし、高いスタン耐性なんてなかったかのようにスタンが取れる。どっかの頭は小さく飛んだり、当たり判定のおかしいブレスをしてくる崩竜さんとは大違いだ。

 

「いや、それはちょっと怖いのですが……」

 

 まぁ、そう思うのも仕方無いけど、ブシドースタイルなら相手の動きが分かりやすい頭の前にいる方がむしろ安全な気もする。アカムはそういう相手なんです。

 

「騙されたと思ってやってみるニャ」

「うー……が、がんばります」

 

 ……残念なことにハンマーと相性の良いモンスターは少ない。そんなこともあってハンマーを使うハンターも少ないんだろう。

 けれども、ハンマーは相性の良い相手なら本当に面白い武器なんだ。

 確かに強い武器ではない。でも、これほどに使っていて飽きない武器はない。

 

「そういえば、ご主人は誰の依頼でアカムと戦ったのニャ?」

 

 MH4はそれなりにやったけれど、村クエのストーリーを全て覚えているわけじゃない。ギルクエの発掘防具集めや、全モンスター100頭マラソンで精一杯でした。

 

「えとね、チコ村っていうアイルーちゃんたちの暮らす小さな小さな村があるんだけど、その村にいるアイルーちゃんの依頼で戦ったんだ」

 

 あー、思い出した。そういえば、あの臆病なオトモアイルーの依頼でしたね。

 ゲームを進めているときは、どうせクシャが最後の依頼なんだろうなぁ、なんて思っていたらアカムで驚いた覚えがあります。

 

 アカムトルム……か。

 

 そんなことを考えたとき、頭の奥がズキリと痛み、思わず顔を顰めた。

 

 む、むぅ、まだ寝ぼけているのかな? 別段俺はアカムトルムに特別な感情を抱いているわけじゃないんだが……この世界へ来て初めてアカムと戦った時も、確か閃光ハメを使い何の問題もなく倒したはずですし。

 

「うニャ。一度戦ったことがあるなら大丈夫ニャ。もうあとは迷わず進むニャ!」

「はぁ、私だってそうしたいけど……でも、そうだね。此処まで来たんだもん。よっし、頑張りますっ!」

 

 うん、頑張れ。胸張って、自信持っていきましょう。

 ご主人にはそれだけの実力があるのだから。

 

 

 迷わず進め。

 

 俺も誰かにそんな言葉を言われた気がするのだけど……アレは誰の言葉だっただろうか。

 

 そんなことを思い出すのはもう少しだけ先の未来で、この小さな身体で歩んだお話が終わる時。

 実感なんてほとんどなかったけれど、どうやら終わりが近づいてきたらしい。

 

 

 






分かってしまった方も多いかと思いますが、分からない振りをしていただければ、と思います

では、次話でお会いしましょう

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