ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第80話~憧れと並んで~

 

 

「いや~、結構ヤバい状況だったからホント助かったよ。クーラードリンクありがとね」

 

 そう言って私の目の前にいるハンターさんがカラカラと笑った。

 そんな目の前にいる人は私がずっとずっと追いかけてきた人。数年前に一度この人が出た闘技大会を見てから、私はずっとこの人を追いかけてきた。

 目の前にいるのはそんな存在のハンターさん。

 

「え、えと、うん。そんな、大丈夫……です」

 

 ヤバい。緊張してしまってクエスト中だというのに身体が固まる。

 確かに目の前にいるこの人は私の憧れの存在。けれども、今まで……というか今だって私のオトモなはず。そんなことくらい私だってよく分かっているし、今更緊張するような相手じゃないことだって分かっている。

 でも、理屈じゃないんだ。緊張してしまうものは緊張してしまう。

 

「んと……なんだか固まっちゃってるぽいけど、俺はご主人のオトモだよ。確かにちょいと身体が変わってしまった。でも、俺は俺のまま。だから、今まで通りに接してくれた方が助かるのだけど……」

 

 はい、それは分かってるんです。でも、身体がいうことを聞いてくれないんです。

 

「それに……あまり時間は残ってないと思う。どうなるのかは俺も分からないけれど、いつまたネコの姿に戻ってしまってもおかしくないんだ」

 

 そう言ってハンターさんは何かを諦めてしまったかのように、笑った。

 また、戻ってしまう。この夢のような時間はあまり残されていない……

 

「だからさ、せめて今くらいは精一杯楽しんでやろうぜ」

 

 そう言ってから笑うネコさん。

 ネコさんからは、ハンマーを使う上でたくさんのアドバイスをもらってきた。それは全て言葉としてのアドバイス。本当ならその言葉をもらえるだけでも十分すぎるくらい。

 でも、やっぱり言葉だけじゃ分からないんです。どれだけ的確なアドバイスをもらってもイメージができない。身体が、動いてくれない。

 

「さっきも言ったように、またいつ戻ってしまうのか分からないから、全てを伝えることはできないと思う。それでも、俺なりにこの武器の楽しさを伝えてみるから、ご主人も頑張ってそれを感じてもらえれば嬉しいかな」

「……はい! よろしくお願いしますっ!」

 

 そんなネコさんの言葉を聞き、少しだけ固まっていた身体が軽くなってくれた気がする。

 そうだよね、こんなチャンスは普通なら絶対にないこと。それなら固まっている場合じゃないんだ。そうだというのなら、この訪れてくれたチャンスをしっかり掴まないと。

 

「っしゃ、それじゃ、行くかっ!」

「おーっ!」

 

 気合は十分。

 やっぱりテオ・テスカトルには勝てる気なんてしないけれど、この人と一緒なら大丈夫。そう思えるんだ。

 

「あっ、ちょっと待って。砥石と回復薬ももらえると嬉しいです」

 

 ……何というか、姿が変わってもやっぱりネコさんはネコさんなんだなって思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネコさんにアイテムを渡してから、テオ・テスカトルを追いかけ、火山のエリア7へ移動。

 真ん中に溶岩の池があるせいで、お世辞にも戦いやすいエリアじゃないと思うけど、平だし私はそこまで気にならないかな。

 

「さっきまでは後ろ脚を狙うようにしてもらっていたけど、今度は頭を狙っていこう」

「えっと、いいの?」

 

 エリア7へ入ったところでネコさんがそんな言葉を落とした。テオ・テスカトルはまだ私たちに気づいていない。

 

「うん。やっぱりハンマーなら頭を叩いた方が絶対に面白いもん。どうせ残されている時間は少ないんだ。それなら乙なんて気にせず、楽しんだもの勝ちだろうさ」

 

 そんなネコさんからの提案は嬉しかった。

 後ろ脚の方が安全なことくらいは私だって分かる。でも、いつもは頭しか狙わなかったこともあって、どう動けばいいのかが良く分からなかったんです。

 いや、まぁ、頭なんて狙ったらもっと酷いことになりそうだけど。

 

「分かりました! で、でも、あんまり自信はないです……」

 

 私がそんな言葉を落とすと、ネコさんはクスクスと笑った。その笑顔は少しだけドキリとするから心臓によろしくない。

 

「そんなものだよ。だからこそ――面白いんだ」

 

 そして、私にそんな返事をしてからネコさんはテオ・テスカトルのいる方へ。

 その瞬間からやっとこのクエストが始まった気がした。もう既に2回もダウンしてしまっている奴がいますけど……

 

 私たちに気づいたテオは咆哮を上げてから、その大きな翼を羽ばたかせた。

 

「近距離! 反時計回りに爆破!」

 

 咆哮をジャスト回避し、そのまま羽ばたかせているテオ・テスカトルへハンマーを振り上げながらネコさんが叫んだ。

 

 え、えと、近距離だからテオ・テスカトルから離れればいいってことだよね?

 なんとことを考えたけれど、ネコさんはテオ・テスカトルの頭の前で攻撃を続けたまま。自分で近距離爆破って言っていたのに、意味が分かりません。

 

 そして、ネコさんが言っていたように、テオ・テスカトルを中心に反時計回りに爆発。

 ヤバいと思い、アイテムポーチの中から生命の粉塵をガサゴソと探索。けれども、爆発による噴煙の先に見えたのはジャスト回避からハンマーを右腰へ溜め、相手の頭に向かってハンマーを振り上げるネコさんの姿だった。

 

「テオは突進と飛びかかりの出が早いから攻撃後は常に警戒するように!」

 

 そして、またネコさんがそんなアドバイスをしてから、テオ・テスカトルが私の方へ向かって突進をしてきた。

 その突進をローリングでどうにか躱すと、私の方へ向き直ったテオ・テスカトルが口から炎のブレスを吹き出した。

 

「ブレスの時は脚にホームランか頭に強溜めスタンプが入る! 頑張れ!」

 

 目まぐるしく変わっていく状況。

 そんな中でもネコさんは私にアドバイスをしながら戦っていた。

 

 ブレスの終わりに、ネコさんが右腰へ構えていたハンマーを大きく振り上げ叩き落とす。パキン――とハンマーの攻撃が頭に当たった時にでるエフェクトが光った。

 

「ほい、こんな感じ。それじゃご主人もやってみようか」

 

 いやいや、ちょっと待ちなさい。何を言っているんだこの人は。

 私が? さっきまでのネコさんの動きを? 流石に無理ですよ……

 

 そんな私の思いが表情に出てしまっていたのか、続けてネコさんが言葉を落としてくれた。

 

「大丈夫。ご主人ならきっとできるよ。だって君は俺とあの彼女のご主人なんだから」

 

 そして、またあの笑顔。カラカラと笑いながらも優しさのようなものを感じてしまう。私なんかに向けるにはもったいない表情だ。

 ただ、そのおかげで少しだけ頑張れるような気がしてきた。もしかしたらそれは気のせいかもしれない。でも、今ばっかりは気のせいでいい。それで少しでも私が動いてくれれば。

 

 ……よっし! 気合入りました。頑張ります!

 

 

 

 

 それからネコさんがもう一度攻撃したところでテオ・テスカトルは怒り状態に。

 

「塵粉が当たったら直ぐにローリング! でも、絶対にテオから目を離さないように!」

 

 私よりも確実に多くの攻撃を当てながら、アドバイスを続けてくれるネコさん。

 

「後方爆破! チャンス! ご主人は左で」

 

 そんなひとつひとつの動きに見蕩れ、ひとつひとつの言葉を聞き入ってしまいそうになる。私にとってこの人はそれほどの存在なんです。

 フワフワと身体が中へ浮かんでいるような感覚。夢か現か。そんなことも分からない。

 

 でも、今がすごく楽しいなって私は思うんだ。

 

 怒り状態のテオ・テスカトルのブレスをジャスト回避無しで躱してからハンマーを右腰へ。

 そして、ブレスの終わり際に頭に向かって……

 

「あっ、ごめっ、スタンプ出ます!」

 

 今まではネコさんも白ネコさんも近距離では戦っていなかった。そんなこともあり、スタンプまで溜めてしまう癖が。ただ、今はネコさんも私と同じようにテオ・テスカトルの頭を攻撃している。そこへ私がスタンプをしてしまえば……

 

 どうかネコさんには当たりませんように……なんて思いながらハンマーを振り上げ叩き下ろす。

 けれども、私がハンマーを振り下ろした先にはネコさんが。これは……まぁ、直撃ですよね……。ほんっとうにごめんなさい!

 

 振り下ろされた私のハンマー。それを――ネコさんはジャスト回避。そこから直ぐにテオ・テスカトルの頭へネコさんがハンマーを振り上げた。

 

「おっし、スタンいただき! さっきと同じようにご主人は左で!」

 

 なんだ。

 なんなんだろう、この人は。まるで私と次元が違う。この人が上手いことはよくよく知っている。でも、此処までとは思っていなかった。モンスターの動きだけじゃなく、私の動きまで視界に捉えそこからミスのない行動。

 

 

 ――この人が見ている世界には、何が映っているのだろうか。

 

 

 ああ……本当に、遠いなぁ。

 でも、それが何よりも誇らしく……嬉しかった。

 

 ネコさんがテオ・テスカトルからスタンを取り、ダウン中の相手に私とネコさんで同時に攻撃。

 そして、ダウンしてから2回目の私とネコさんのホームランがテオ・テスカトルの頭へ吸い込まれた瞬間、相手は動かなくなった。

 

「あら? なんだ、思っていたよりダメージは入っていたのか。とはいえ……っしゃ、これでクエストクリアだな!」

 

 心の底から嬉しそうな表情で言葉を落とすネコさん。

 

「どう? 戦っていた時間は短かったし、あんまり上手くはなかったけれど……何か感じてくれたかな?」

 

 本当に短い時間だった。それこそ、残酷なほどに。

 ネコさんのあの動きを私が真似することはできないと思う。もっともっと今のネコさん見ていたかったし、ゆっくり教えて欲しい。

 それでも、ネコさんの動きはしっかりと見ていました。

 

「何を掴むことができたのか、私は分かんない。でも……楽しかったです!」

 

 それは心から私が思うこと。

 モンスターと戦っていて面白いって思えることができた。それはこのネコさんのおかげなんだろう。

 

「ふふっ、そっか。それなら良かった。ん~……俺も久しぶりに楽しいって思えたなぁ。ありがとう、ご主人。……さてさて、それじゃどうせもう時間なんだろう。まぁ、アレだ。もしまた戻ることができたら、また一緒に相手の頭を叩いてやろうぜ。それまで俺はご主人のオトモとして頑張るからさ」

 

 そして、そんな言葉を落としてくれた瞬間――ネコさんの身体が見慣れたいつものソレへ戻ってしまった。

 どうやら私の夢はここで終わりらしい。

 それでも、十分すぎるくらいの意味はあったと思うんだ。

 

「むぅ、やっぱり戻っちゃうのかぁ……まぁ、しゃーない。それじゃ、テオから素材を剥ぎ取ったら帰るニャ。これでご主人のHRも7。帰ったら打ち上げするニャ!」

 

 そういえば、これHR7になるための緊急クエストだったっけ。

 テオ・テスカトルにボコボコにされたり、ネコさんの姿が戻ったりと色々ありすぎたせいでそんなことすら忘れてしまっていた。

 

 HR7かぁ……気がつけばもうそんな場所まで来ちゃったんだね。

 正直、私がそんな場所に立っていられるほどの自信はありません。でも、このネコさんと一緒なら……そう思うのです。

 

「うん、そだね。今日くらいはパーっと騒ごっか!」

「うニャ」

 

 貴方が私のオトモで良かった。

 もう何度も何度も思ったことだけど、今日のネコさんを見て改めてそう思う。

 

 いつまで貴方が私のオトモでいてくれるのかは分からない。だからこそ、それまでの間どうかこの頼りないご主人をよろしくお願いします。

 

 

「あっ、そうだ。ねぇねぇ、ネコさん」

「うニャ? どうしたのニャ?」

「サインください」

 

 断られました。

 

 

 


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