ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第73話~その先に何がありますか~

 

 

「あっ、あ! 高電膜! 高電膜出たよ!」

 

 ご主人の新しい防具――ゼクスSを作り始めてもう一週間。これで討伐したライゼクスは5頭目にもなる。

 予定通りではあるけれど、ちょいとかかりましたね。

 

「おめでとうニャ」

 

 そして、ついにご主人の防具に必要な素材が全て揃った。ノヴァクリスタルや王族カナブンなんかは既に用意してあるし、あとは加工屋に頼むだけ。エムロードビートを強化するだけの素材も足りているはずだし、かなり良い感じ。

 

 終わりが、近づいてきました。

 

 まぁ、終わりになんて絶対になってほしくないんだけどさ。ただ、そうならないため、俺に何ができるのかはやっぱり分からなかった。

 

 それで、ご主人だけど、相変わらずのオールラウンダーっぷりを見せてくれている。

 最初はブシドースタイル。次はギルドで、その次がエリアル。そして今はストライカースタイルです。マラソンをするんだし、色々なスタイルを練習するのに丁度良いとは言ったけれど、まさか一回ごとに変えるとは思わなかった。

 それだけコロコロとスタイルを変えているのだし、戦い難いだろうなぁ、なんて他人ごとのように考えていたけれど、ご主人ったらそんな素振りなぞ見せず普通に上手いのね。きっとソロでもそれほど苦労することなくライゼクスを倒せるだろう。

 なるほど、これが主人公補正か。ずるい。俺にもその補正がほしい。

 

 残念ながら、元の世界じゃストライカースタイルは触っていなかった。だから、ことストライカースタイルに関してはほとんど何のアドバイスもできていない。それにエリアルスタイルだって、バッタしかしていなかったからまともなアドバイスはできなかった。それでも、ご主人は上手く使い熟している。

 一度、どのスタイルが一番使いやすいか聞いた時は――

 

『ん~……特にない、かな』

 

 なんて言われてしまった。

 マジ羨ましい。一度でいいから俺もそんなことを言ってみたいものだ。

 

 逆に言えば、自分のスタイルを確立できないってことだけど、モンハンなんて絶対にそっちの方が良い。モンスターに合わせてスタイルや武器を変えられるのが一番なのだから。

 ただ、ご主人にその異常っぷりの自覚はないらしく、今でも俺にアドバイスを求めてくる。割と困っています。エリアルとストライカースタイルは絶対にご主人の方が上手く使えているんだけどなぁ。ギルドとブシドーなら俺の方が上手く……つ、使えていたらいいね。

 

 ま、まぁ、とにかく今後のメイン装備の素材はこれで集まりました。今はそのことを喜ぼう。最近は休む暇なんてなくクエストへ行っていたわけだし、ちょいと休憩ってことで。

 

「ふふ、むふふ。これで私もついにゼクス防具を……」

 

 なんだか怖い笑を浮かべるご主人。

 相棒のフルフル好きもそうだったけれど、女性の好みはよく分からない。いや、ゼクス防具、カッコイイとは思っているけどさ。フルフルは知らん。可愛くはない。アイツが異常なんだ。

 

「……とりあえず、おめでとうご主人さん。それで、これからはどうするの?」

 

 剥ぎ取りをしながら白ネコがそんなことを聞いてきた。

 ん~どうすっかなぁ。とりあえずご主人の装備が完成するまで待つとして、その後は……どうしようね? 正直、ご主人の装備が完成してしまえばオストガロアが現れても問題なく勝てると思う。とはいえ、オストガロアと戦うにはHRが7にならないといけないわけですよ。だから、今はHR7になるための緊急クエストを受けたいのだけど、流石にまだ無理だよなぁ。

 

「ご主人は何か行きたいクエストとかあるかニャ?」

「ゼクス防具かぁ、カッコイイなぁ……」

 

 ……話を聞いてくださいよ。ご主人ってこんなキャラだっただろうか?

 

「あー……こ、今後の予定は打ち上げの時にでも決めよっか」

「りょー」

 

 その頃にはご主人の調子が戻っていることを願うけれど、防具が完成したらまたトリップするんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、今日はお疲れ様でしたっ!」

 

 マラソン中は流石に……と、遠慮していたせいで、久しぶりとなった打ち上げ。まぁ、俺はこっそりひとりでお酒を楽しんでいたりいなかったりしましたが。いや、だって戻ってくると他にやることないんだもん。

 これからもこの世界で生きていくと決めたんだし、何か趣味みたいなものも見つけないとだ。飲酒が趣味ってのも色々とアレですし。この世界の人達の趣味ってどんなものがあるんだろうね?

 ただ、今くらいはちょいと飲み過ぎるのも良いだろう。

 

 そして、加工屋へお願いして再びトリップしたご主人も多少は落ち着いてくれた。

 

「防具ができたらどうしよっか! あっ、絵とか描いてもらえないかな!」

 

 落ち着いてくれた……のかな? まぁ、新しい防具ができて喜ぶのは分かりますが。

 ただ、ご主人のコレはちょっとなぁ。

 

「……似顔絵ならバルバレにいる闘技大会の受付嬢が上手い」

 

 こら、白ネコさんもいらんことを言わないの。

 いや、確かにあの受付嬢の絵はなかなか上手いけどさ。俺たちがダレンを倒した時、俺の似顔絵を彼女に書いてもらったわけだけど、かなり上手かったし。

 

「へー、そうだったんだ。お願いしたら描いてくれるかな?」

 

 どうだろうか? 白ネコが元の姿なら描いてくれそうだけど、今はネコですし。あと、例え俺が元の姿だったとしてもあの受付嬢はただじゃ描いてくれないと思う。多分、何かの闘技大会へ出場するのを条件に、とか言われる。そんなことが容易に想像できます。

 

「ネコさんと白ネコさんは描けないの?」

「……私は無理」

「ボクも無理だニャ」

 

 白ネコの画力は分からないけど、俺の画力はすごいぞ。味があるとか笑えるとかじゃなく、普通に下手です。だいたい、絵が描けたら挿絵とか載せてるわ。いや、何の話だよ。

 

「そっかぁ、じゃあやっぱり頼まないとだね」

 

 別に描いてもらわなくてもいいんじゃ……まぁ、ご主人の好きにしてくださいな。

 

「……それで、今後の予定は?」

 

 ああ、そうか。それを決めないといけないんじゃあないか。ご主人のせいで話がずれてしまった。

 

 現在のHRは6。古龍種やアカム、ウカムは無理だけど、このHRにもなればほとんどのモンスターと戦うことができる。メリットはほぼないけど、ゴリラやジョーなんかとも戦えるわけですし。

 

「ご主人は何か行きたいクエストはあるかニャ?」

 

 本日、二回目の質問となります。

 

「うん? えっと、私は特にないけど……てか、そもそも装備がないから私は戦力にならないし」

 

 オブシドハンマーはあるし、防具もアシラがある。だから、十分すぎるくらい戦力にはなると思うよ。ただ、行きたいクエストは特になし、と。

 ふーむ、それなら俺が選んじゃってもいいのかな?

 

「君は?」

「……私も特には」

 

 白ネコさんも特になし。つまり、決定権は俺にありそうですね。

 うむうむ、それなら今回は俺が選ばせてもらおう。

 

「それじゃあ、ボクはゴア・マガラのクエストに行きたいニャ」

 

 ゴア防具が欲しいんです。どうせいつか作るつもりだったし、今は丁度良い機会だろう。ゴア相手なら負けることもないと思う。てか、このメンバーで苦戦するような相手って何になるんだろうね? ガノの時みたく、ご主人がSBを使い始めたら本当に負ける気がしない。

 

「防具?」

「防具ニャ」

 

 白ネコさんの言葉に俺がそう返すと、彼女は呆れたような顔をしながらも優しく笑ってくれた。ごめんね、いつも付き合わせちゃって。

 さてさて、ご主人はどうなのだろうか? ご主人ならゴアに負けることはないと思う。でも、メリットが何もないんですよね。MH4の頃のゴア防具は優秀だったけれど、今作のゴア防具は……まぁ、前作が優秀すぎたんだろうけど。

 

「ゴア・マガラ……か」

 

 ぽそりと聞こえたご主人の声。

 ……ああ、そっか。そうだよな。ご主人とゴアの間には色々なことがあったんだもんな。そりゃあ何かを思ってしまうのも仕方の無いことだろう。

 

「うん、分かった。ゴア・マガラなら私も戦力になると思う」

 

 いや、いつだってご主人はこのパーティーのメイン火力なんだけど……

 とはいえ、そんなご主人の言葉は普段じゃ聞けないようなものだった。あの相棒もそうだったけれど、どうにも自分に自信がないらしく、いつだって一歩引いてしまっていた。そんなご主人には珍しいセリフ。

 

「ありがとニャ。それじゃ、次はゴア・マガラのクエストをお願いするニャ」

 

 ゲームなら場所は原生林だったはず。金冠マラソンの時、秘境探索を発動させた記憶があるし。

 それで、ゴアを倒してもうひとつ何かのクエストへ行けばご主人の装備は完成。さらに緊急クエストだってそろそろ届く頃。ホント、順調ですね。

 

 ――それこそ怖いくらいに。

 

 そんなことを考えてはダメだって分かっている。でも、考えずにはいられないわけですよ。

 このまま行けるはずがないって。

 いくらゲームをプレイし、この世界で伝説なんて呼ばれていようが、中身は極々普通の人間でしかない。物語の主人公みたく、何度でも何度でも立ち上がれるほどの心は持っていない。

 この先に何があるのか。そんなこと考えたって分かりやしない。いつだって不安だらけだ。それでも、進むしかないというのだから、難しいものです。

 ただ、もし俺がダメになってしまったとしても、今は頼りになる仲間がいる。ひとりじゃない。そんな存在が本当に大きいって改めて思う。

 

 だから、今の俺にできるのは全力でモンスターと戦うことくらいなんだろう。そう思うのです。

 

 さて、そんじゃま、明日も頑張っていきますか。

 

 

 


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