「ご主人は今後もずっと龍歴院でハンターを続けるのかニャ?」
HR6になるための緊急クエストであったディノバルド討伐を終え、いつもより少しだけ豪華な打ち上げ。いつ飲んだってビールは美味しいものだけど、こういう日に飲むビールはより美味しく感じる。
そして、そんな打ち上げをしながらご主人に聞いてみた。
この世界へ残り、相棒のところへ戻ると決めたのは良いけれど、俺はご主人のオトモ。ご主人ならそのことを許してくれると思う。でも、俺だけの都合で勝手にサヨナラしてしまうのはあまりよろしくない。
「あれ? 言ったことなかったっけ。んとね、私が龍歴院でハンターをしているのは、自分の実力を確かめたいと思ったからなんだ。今はまだ無理だけど、自分が成長できたと思ったら、私がいた旅団に戻ろうと思ってるよ」
あー、そういえばそんなようなことを言っていた気もします。すっかり忘れていました。なるほど、つまりご主人は我らの団に戻るってことか。
ん~……それなら俺もスッキリとした感じで別れることができる……のかな? とはいえ、どの道このネコの身体ってのが問題だよなぁ。この身体じゃなぁ、ネコじゃなぁ……
「ネコさんたちはどうするの?」
「……あの娘の所へ戻ろうと思ってる」
ご主人の質問に対して、俺が言葉を落とす前に白ネコさんが答えてくれた。
この白ネコがどうしたいのか。その気持ちはまだ聞いていない。俺の提案に賛成はしてくれたけれど、彼女は本当にそれでも良いと思ってくれているだろうか。ただ、そのことを聞いたら怒られそうなんだよなぁ。それくらい分かれ、とか言って。
「あっ、やっぱりそうなんだ。うん、私もその方がいいと思うよ。この世界のためにも」
いや、別に俺はこの世界のためを思っているわけじゃなく、ただあの相棒と一緒にいたいからってだけなんだけど……まぁ、いっか。
詰まるところ、ご主人が立派なハンターになったと思えた時が、このパーティーの解散ってことなんだろう。正直、ご主人の実力ならもう十分だと思わないでもなかったり。だって、ご主人上手いもん。まぁ、その実力に気持ちがついてきていないってことなんだろう。
じゃあ、何処がゴールになるのかって話だけど……やっぱりラスボスになるんだろうなぁ。俺みたく、ゲームをプレイした人間からしてみればラスボスであるオストガロアなんかより、獰猛化ラギアとかの方が強いと思ってしまう。ただ、何かをゴールにするのならラスボスって存在は丁度良い。
「了解ニャ。それじゃあ、ボクたちもご主人が立派なハンターになれるようこれからも頑張るニャ」
「うん、よろしくね」
さてさて、どうやらやることは何も変わらないようです。そうだというのなら頑張るだけだ。
ご主人のHRが6となり、ゴールも見えてきた。でも、俺たちが行きたいのはそのゴールのさらに先。今回ばかりはゴールして終わりじゃダメなんだ。それじゃあ何の意味もない。
……そうだというのに、そのゴールの先は相変わらず見えてこない。ホント、困ったものです。
ねぇ、神様。どうにかなりませんか?
これからのことだとか色々と考えたかったから、打ち上げ後ひとり星空を眺めながら考えごとをしてみる。
吸い込まれそうになるくらい綺麗な星空を見ていると、自分の小ささが良く分かった。悩んでばかりのこの人生。そんな悩みだってこの星空に溶けてくれたらなぁ、なんて思ってしまいます。
そう思ってしまうのも俺が逃げているってことなんだろうか。
さてさて、そんな言い訳は置いておくとして、ちょいとばかし真剣に考えてみましょうか。
現在のご主人の防具はアシラ一式。その見た目は可愛いし、正直そのままでいてもらいたいって思わないでもないけれど、流石にアシラ一式じゃこの先がキツイ。そうなると新しい防具を作ってもらいたいのですが……何が良いんだろうね?
ご主人のプレイスタイルが広すぎるせいで、どうにも良い防具が思いつかない。
火力を求めるだけならレウスSで問題ない。ただ、そうなると武器の斬れ味が白は欲しいわけでして、プレイスタイルの幅が狭くなる。
むぅ、ゲームだったらマラソンも楽でスキルも優秀なフィリアSを作れば良いだけだったんだけどなぁ。まぁ、できないことを願っても仕様が無い。
そもそも、武器とか防具を俺が決めてしまって良いんだろうか。ご主人の実力は文句なしなわけですし、ご主人が選んだ方が――
「……何を考えているの?」
星空を眺めることも忘れうんうん考えていると、そんな声。その声を聞いただけで安心してしまう自分がいた。
「ご主人の装備とかこれからのことをさ、考えていたんだ」
真夜中といっても良い時間だけど彼女は寝なくて大丈夫だろうか。
とはいえ、こうやって来てくれたことは嬉しかったりします。
「私はご主人さんの好きな装備で良いと思うけど……」
ああ、やっぱりそう思います? そうだよなぁ。俺が勝手に決めるのはよろしくないよなぁ。
ただ、好きな装備で良いよってご主人に言った時、素直に決めてくれるだろうか。多分だけど、何でも良いよ、とか言われると思う。
まぁ、その時はその時か。
「そっか。それじゃあ明日、何の装備を作りたいかご主人に聞いてみるよ」
「……それで良いと思う」
俺の言葉に対し、彼女はそう言って静かに笑った。
ん~……そうなるともう考えることもなくなってしまいましたね。明日もクエストに行くだろうし今日は寝ようかな。
考えなきゃいけないことはある。けれども、いくら考えたところで答えなんて出やしないのだから。
「……もし、この世界に残ることができたらどうなるのかな?」
寝るとしよう。そう思っていたけれど、俺の方を見ることなく白ネコさんがぽつり言葉を落とした。
「さあ? それは俺にも分からんよ。もしかしたらG級があるのかもしれないし、新しい世界――MH5があるのかもしれない」
残念ながら、この世界へ来るまでに続編の情報などは発表されなかった。だから次がMHXの続編になるのか、新しいナンバリングタイトルが出るのかも分からない。
できれば俺だってG級や新しいモンスターと戦いたい。けれども、どうなるのかはやっぱり分からない。
「ただ、モーション値の検証とか大変だよなぁ……」
俺がこの世界でどうにか頑張れているのは、この世界の人たちが持っていない多くの情報を持っているから。モンスターの肉質、モーション、スキルやモーション値。そんな情報。
けれども、もし新しい場所へ行くことになればその情報全てを使うことはできなくなる。wikiもなければ攻略本だってない。今まで他人任せだった情報を全て自分で集めないといけない。
それはこの世界じゃ普通のことだけど……むぅ、大変そうだ。改めて、そんな情報なしでアレだけ頑張れている相棒さんのすごさが分かる。
「うん、大変だと思う。でも、貴方はそれくらいの方が良いんじゃない?」
どうだろうね。
確かにぬるま湯に浸かっているのは好きじゃない。でも、そんな世界で俺が頑張れる自信はありません。
ホント、贅沢な悩みだ。
「まぁ、もしそうなったらのんびりやるとしようか。いっそのこと金冠集めとかしたりしてさ」
「ふふっ、うん。楽しみにしてる」
そだね、それはそれで楽しいかもしれない。
……この彼女が居てくれて良かったと思う。だって、俺ひとりだったらそんな未来を楽しみになんてできないだろうから。俺ひとりだったら心なぞとっくの昔に折れていただろう。そんなもの想像したくもない。
意味も分からず異世界へ飛ばされたこの俺の人生が幸せか不幸せかは分からない。でも、周りの人たちに恵まれているのは確かなこと。恥ずかしいから言葉にすることなんてできないけれど、彼女たちには感謝するばかりだ。
いつの日かそんな気持ちを言葉にすることができれば良いけれど、それがいつになることやら……
その後も白ネコさんと何の意味もないような雑談を続けることとなった。分かりもしない未来のことを思いつつ、そんな未来でどんなことをしようかとか、そんなことを。
明日のためにもさっさと寝た方が良かったと思う。でも、そんな何でもないような会話には――救われる。
いくら自分の好きな世界とはいえ、やはり漠然とした不安だとか心配があるんだ。それはどうしたって晴れることのない悩みで、向き合わなければいけない課題。そんな時、この彼女の存在が本当に有り難かった。
それはただの傷の舐め合いかもしれない。でも、それで俺は救われている。
ホント、周りに恵まれすぎですね。
そんな俺があの彼女たちに何かできているのだろうか。そんなことが、この世界を歩むと決めた俺の一番の課題になりそうだ。
課題は山積み。やらなきゃいけないことは沢山。
ただ、この人生それくらいが丁度良いのかもしれない。な~んて思っていたりします。
さてさて、HRも6となったわけですし、またひとつ気合を入れて頑張っていくとしましょうか。