さて、次の日になってしまったわけですが……どうすっかね?
どんな言葉を相棒に伝えれば良いのかを考えていたら、結局朝になってしまった。それでも、良い案は何も浮かんでいない。
そして、何故か白ネコさんがいないんですよね。全然気付かなかったけれど、そういえばそもそも帰ってきていなかった気がする。夜は直ぐに寝てしまうあの彼女がいないってのも珍しい。ん~……もしかして相棒たちと一緒に寝ていたりするのかな? まぁ、そんなことを気にしている余裕なんてないわけだけど。
それにしても、ホントどんなことを伝えれば良いのやら……
そして、そのままお別れの時間となってしまいました。
あの相棒にどんな言葉をかけるのかは、まだ決めていない。でも、何も言わずにこのまま別れるのだけは避けたいのですよ。
「よし、それじゃ私たちはこれで帰ります。クエストを手伝ってもらってありがとね。槌ちゃんにネコちゃんたち」
いつもと何も変わらない様子の相棒さんが言葉を落とした。
残されている時間はもうほとんどない。
「は、はい! こちらこそありがとうございました! また機会があれば是非一緒に……」
そして、未だ緊張気味のご主人。どうやらクエストは上手くいったみたいだけど、やはり相棒の前だと緊張するらしい。それでも、ご主人は確実に成長している。ハンターとしても……きっと人としても。
そうだというのに、俺は止まったままだ。この世界へ来て、変わったことだってある。けれども、結局のところその中身が成長をしていない。
じゃあ、どうするかってことだけど、それが分からない。
「……またね」
その眠そうな顔を隠しもせず、小さな声で言葉を落とし、大老殿へ向かう3人に手を振る白ネコさん。昨晩は何をしていたのやら……
さて、そうなるといよいよ次は俺の番です。
何も言わないわけにはいかない。何かを言わなければいけない。けれども、良い言葉なんて何も思いつかない。口下手なこの性格がたった一日考えただけで変わるわけがないのだから。
洒落た台詞回しや、気の利いた口回しなんて思い浮かばない。
言葉に落とし何かを伝えようとしたって、どうせその全てを伝えることなんてできやしない。そんな性格なんです。
だから、こんな場面でも俺は少ない言葉を落とすことしかできない。それが今の俺の精一杯。
けれどもその分、積もり溜まった想いを乗せて、言葉にしてみようと思うんだ。
「へい、相棒」
「うん」
俺の言葉を聞き、相手は不安そうな顔をした。
その言葉が君の望んでいるものかどうかは分からないけれど、俺から言えるのはこれくらいだ。
「今度は消えない。そして、俺の方から行く。だから待っててくれ」
未練がないといったら嘘になる。そんな簡単に捨てられるものでもない。
けれども、もう決めました。この世界で生きていこうって。
それは俺が決められることではないし、そのために何ができるのかも分からない。でも、その想いを言葉にするのは大切だと思うんだ。
だから、再会を約束する言葉にそんな想いを乗せてみた。
強いモンスターと戦うのは心の底から面白いって言える。でも、この世界へまた来たいと思ったのはそのことだけじゃない。この相棒とまた一緒にいたいと思ったからだ。
じゃあ、それも言葉にしろよって話なわけですが……流石にそれは許してください。
「うん……わかった。待ってる」
予想していなかったのか、酷く驚いたような顔をしてから、はにかむように笑い、そんな言葉を落としてくれた。
やっぱりまだ全ての想いを言葉にすることはできないけれど……伝わってくれたかな。伝わってくれていれば良いな。
「それじゃ……またねっ!」
「ああ、きっとまた」
そして、お別れの時。
俺と相棒のやり取りを見ていた妹さんはぶっすーとした表情をしながら、『貴方は来るな!』なんて言って飛行船の中へ。意地悪くクスクスと笑う弓ちゃんは何も言わず、一度頭を下げ、手を振りながら。最後に乗り込んだのは相棒だったけれど、此方に背中を向けていたせいで、その表情を見ることはできなかった。
とはいえ、アイツがどんな表情をしているのかは予想できる。
あの相棒さんには本当にいつもいつも迷惑をかけてばかりだ。でも、今度はそんな相棒の愚痴だって聞いてやれるし、正面から向き合うことだってできるはず。
根本的に無茶苦茶なこの世界。それならきっと理屈はいらない。
さて、これでもう元の世界には帰るに帰れなくなったわけですが……どうなることやら。
ここまでしておいて、流石にいつものように消えるわけにはいかない。この世界へ残る理由は元々あった。今度はそこに俺の想いも含めてみる。
誰に祈れば良いのかなんて分からない。けれども、そんなわけでどうかお願いします。
「……元の世界に戻らないつもり?」
相棒たちの見送りを終えて直ぐ、白ネコさんが声をかけてきた。まぁ、そりゃあ聞かれますよね。
チラとご主人さんを見ると、放心状態といった様子。きっとご主人にとって、相棒たちと過ごしたこの時間は夢のような時間だったんだろう。あの様子じゃ暫くはクエストも無理そうだ。
「うん、そのつもりだよ」
もしかしたら、ご主人にこの会話を聞かれてしまうかもしれないけれど……まぁ、その時はその時。それにご主人になら話しても問題ない。
んで、この世界で生きることだけど……ひとりで勝手に決めてしまって申し訳ないです。でも、もう決めました。俺はこの世界を選びます。
とはいえ、この彼女を捨てることなんてできないわけですよ。……俺だってやっぱり彼女のことは好きなわけですし。
「だから、その……俺はこの世界で頑張ろうと思うわけでして、もしよろしければ君も一緒に……」
落とされるそんな言葉がたどたどしいのは、ご愛嬌ってことで。
そもそも、この世界へ残れるのかも分からない。だから、この会話に意味なんてないかもしれない。けれども、相手の気持ちは知っておきたいし、自分の気持ちは伝えておきたい。
さてさて、そんな俺の考えをこの彼女はどう思ったのやら。
「そこに貴方が居てくれるのなら」
そして、俺の言葉に彼女はそんな返事をしてくれた。
その言葉はつまり、一緒にいてくれるってことの意味なはず。
「ありがとう。悪いな、いつも」
「それでいい。私はそんな貴方が好きなのだから」
……なんでこう。この人はそういうことを普通に言うんだろうか。言われる此方の身にもなってもらいたい。ふたりだけの時ならまだしも、こういう時は反応に困る。
「でも、浮気は絶対に許さない」
へっ? あれ? もしかして、さっきの相棒さんへのセリフは白ネコさん的にアウトですか? ちょ、ちょっと待ってください。そんなつもりは微塵もなかったのですが……
「い、いや、そんなことしないって」
怪しい時もあるかもしれないけれど、俺は白ネコさん一筋です。それに、そういうことはちゃんと自分の中でも分けることができている……と思う。
「どうして貴方の周りに集まるのは女の子ばかりなの?」
そんなことを俺に言われても……俺が集めているわけじゃないですし。ただ、そんな能力があったらすごく素敵だと思う。俺だって男なわけですから、そう思うくらいは許してください。
それに俺だって男の友人が欲しいっていつも思っていた。悲しいことだけど、男の友人といえるのはバルバレにいるあの加工屋くらいなんです。その次となると、バルバレのギルドマスターとか大長老とかになってしまう。俺の交友関係なんてそんなもんだ。
「大丈夫、浮気なんてしないよ」
「……ん、それならいい」
信頼されてないってことはないと思うけど……まぁ、普段の行いのせいといったところでしょうか。
さて。さてさて、相棒たちも行ってしまったし、次は俺たちだけで頑張らないとだ。
現在のHRは5。そして、とりあえずの目標はオストガロア討伐。それで最終的には人間の姿に戻り、この世界へ残ることだけど……どうすれば良いんだろうね? こればっかりは考えても本当に分かりません。
とはいえ、ずっと残っていたモヤモヤも少しは晴れてくれたんだ。それなら先だって見えてくるはず。未来なんて誰にも分からないけれど、その未来が少しでも良いものになるよう足掻くことはできる。
そうだというのなら、頑張ってみるのも悪くない。
そんなわけで気持ち新たに進んでみましょうか。
ここ最近続いていた雰囲気もようやっと終わり、これからは進んでくれそうです
主人公も悩んでいましたが、男性キャラを出してあげれば良かったなぁと思っています
ゴリゴリの筋肉キャラとか良いですよね
では、次話でお会いしましょう