ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第66話~神様の気まぐれ~

 

 

「ちょ、ちょっと! ソイツはターゲットじゃ……ああもう! ホントに、貴方って奴はっ!」

 

 慌てたような、怒ったような妹さんの声が響いた。

 いや、ホント申し訳ないですが、コイツとだけは戦わせてください。やっぱり、負けっぱなしのままで終わらせたくはないんだ。

 次はいつ訪れてくれるのか分からないこのチャンス。絶対に逃がさない。

 

 俺たちに気づき、咆哮をあげ、近づいてきたジョーの頭へとりあえず溜め2。その溜2攻撃はカチ上げだった。つまり、スタイルはブシドーじゃない。溜の早さからストライカーでもないことが分かるし、ローリングは普通だから、ギルドスタイルで決定。

 つまり、今はこの世界で一番慣れている状態。悪くない状態だ。

 

 さて、とはいうもの、今の装備は上位と下位のどちらなのだろうか。防具の方は下位でも良いけれど、武器まで下位武器だとしたらちょいと面倒くさい。

 金レイアでもいれば弾かれるかどうかで、斬れ味の確認ができるんだが……まぁ、どうせやることは変わらないんだ。何も考えず全力でやれば良い。

 

 カチ上げからのローリングをすると、ジョーの尻尾振り回転攻撃が来た。2回連続は確定。さらに、頭を狙える大チャンス。

 1回目の尻尾振りをフレーム回避してから、頭の来る位置を確認。

 そして、2回目の尻尾振りを始めたところで、ハンマーを振り下ろし始め、回ってきた頭へ縦1。空中へ縦2。

 

 それでもって――ホームラン。

 

 40、15、50……105。スタンまであとカチ上げ2回、か。

 ホームランを頭へ叩き込んだところでジョーは怯み、その怯んだジョーへ妹さんが斬りかかった。

 

 久しぶりなせいで、どうにも集中しきれていないけれど……そっか、今回はソロじゃないもんな。それなら勝機は充分にある。

 ホームランを叩き込んだ後のジョーは右後脚を大きく振り上げ、四股踏みの動作。ソイツをローリングなしで避けてから、振動をローリングでフレーム回避。

 直ぐに、右腰へハンマーを構え、頭へカチ上げ。これで145。スタンまであとカチ上げ1回。

 

 なんとも面倒なことに、ジョーは怒り状態になると弱点が頭から胸へ変わってしまう。だから、スタンを取るのなら非怒り状態の時の方が良い。怒り状態でスタンを取っても前脚に吸われるせいで胸へ攻撃できないんだ。

 

 余計なことは考えず、とにかくジョーの動きに集中。情けないことに、俺の集中力は長く続かない。だからやれるときは容赦なく、一気に畳み掛ける。

 

 ジョーのショルダータックル。頭側へローリングで回避。ハンマーを直ぐに右腰へ。

 

「スタン取るぞ!」

 

 そして、ジョーの顔面へもう一度カチ上げ。

 其処で、今日1回目のスタン。

 

 面白いくらいに身体がよく動いてくれる。ネコの時には味わうことのできなかった、モンスターへ攻撃を叩き込む感覚が本当に心地良い。

 俺にはやっぱりハンマーが一番合っているんだろう。

 

 スタンを取り、ダウンしたジョーの動きに注意しながらホームランを2セット。起き上がり、威嚇中のジョーへさらにホームランを1セット。

 このジョーとの戦いが、心の底から楽しいって思える。その感覚はネコの時じゃ覚えなかったもの。だから、今ばかりは全力で楽しませてもらおう。

 

「乗った! 支援!」

 

 妹さんがジャンプ攻撃から乗りへ。ナイス。そして支援了解です。

 今の自分の防具が下位なのか上位なのかは分からないから、無茶はしないよう、安全に攻撃できるスタンプで乗りの支援。

 乗りダウン後はまず確実に怒り状態になるだろうから、ここでできるだけダメージを稼いでおきたい。2回目のスタンは……まぁ、ジョーが疲労状態になってから狙うとしよう。

 

 今度は妹さんの乗りも無事成功し、ジョーが再びダウン。

 先程と同じようにホームランを顔面に3セット。弾けるスタンエフェクト。確かに感じるヒットストップ。これだからハンマーはやめられない。

 

 起き上がったジョーは予想通り怒り状態へ。咆哮をフレーム回避してから、弱点である胸へカチ上げ。

 ここに来て、ようやっと集中力も上がってきた。まだ感覚を掴みきれてはいないけれど……相手の攻撃を喰らう気はしない。ゴリラやテオほどではないけれど、ジョーとは何度も何度も戦ったんだ。ネコの時には活かしきれなかったその経験を今は活かすことができる。

 

 上を向きながらジョーが2歩後退。

 ローリングで距離を詰め、ブレス中のジョーへ横振りからのホームランをその胸へ。

 結局、この世界ではジョーの闘技大会でソロSを出すことができなかった。その時に覚えた悔しさとかそういうものを含めて全部ぶつけさせてもらうとしよう。

 

 

 もしかしたら、1発でも攻撃を喰らえば、それだけでベースキャンプ送りだったかもしれない。回復薬だって持ってきてないし、この身体で戦うのは本当に久しぶりのこと。

 それでも、その時だけは負ける気がしなかった。

 それに、ご主人へアレだけ偉そうに立ち回りとかハンマーの使い方を教えてしまったんだ。下手なことなんてできたもんじゃない。

 

「すまん! 砥石をくれ」

「それくらい持ってこい!」

 

 とはいえ、今回は相手が良かったってのもあると思う。

 確かにジョーは弱い相手じゃないけれど、攻撃のパターンは覚えやすいし、無茶をせず、立ち回りさえ気をつければノーダメでクリアするのも難しくない。

 あとは自分がどれだけ集中して戦い続けることができるのかってだけ。

 

「2回目乗る! その間にさっさと研げ!」

 

 そして、クエストが始まったばかりの頃は調子の悪かった妹さんの動きも、かなり良くなってきている。ライゼクスとの相性が悪かったってことなのかな。

 

 ネコの姿となってから戦ってきた相手の中では一番の強敵。1発でも攻撃を喰らえば乙る緊張感。いくらハンマーを叩きこんでも終わりの見えない絶望感。

 ただ、それが良い。

 できることなら自分の集中力が続く限りずっと戦っていたいくらいだ。

 ゲーム中では満足にできなかった動きができ、ネコの姿では味わえなかった爽快感を味わえる今が本当に面白い。

 

 2回目の乗りも無事成功し、妹さんからもらった砥石のおかげで斬れ味も復活。

 現在、2スタンに乗りも2回。少々名残惜しいと思ってしまうけれど……そろそろ終わりの時間だろう。

 今回はソロじゃないのだし、残念ながらリベンジマッチとはいえないかもしれない。だから、次にまた戦える機会を楽しみにしているよ。

 

 乗りダウン中のジョーへ縦1、縦2。そしてグルリと回り、その反動を活かして――ホームラン。

 

 ありがとう。

 お前のおかげで大切なことを思い出すことができた。お前のおかげで俺はまた一歩前へ進むことができる。

 

 ホームランを叩き込んだジョーは大きな悲鳴をあげ……動かなくなった。

 

 イビルジョーの討伐、完了です。

 

「ん~……っしゃ! お疲れ様、妹さん」

 

 さてさて、ジョーも討伐することができたし、ジョーから剥ぎ取りをしたら、次はライゼクスだ。頭を狙いやすい相手だし、アイツなら振り向きへホームランも狙える。もしかしたら3スタンだっていけるかも。

 いや~、やっぱりネコの姿より人間の姿の方が面白いな! これからは何も気にせずハンマーを振り回す日々を送ることができると思うと、ワクワクが止まらない。

 何が起きて人間の姿に戻れたのかは分からないけれど、これからの生活が本当に楽しみだ。

 

 そんなウキウキ気分のまま討伐したばかりのジョーから剥ぎ取りをしようとした時だった。

 ガツン――と再び、あの鈍器で頭をぶん殴られたような感覚。しかも、さっきよりもずっと強い。そんな衝撃のせいで、ほぼ無抵抗のまま地面へ倒れてしまった。

 

 そして、気がつくと――

 

 

「……うそ……だろ」

 

 

 やたらと世界が大きく見えるようになっていた。

 

 1mちょっとの可愛らしい大きさ。手足も短く、二足歩行するよりも四足歩行した方が速く移動できる。色の種類は茶ブチで、くるりと丸まった尻尾とピンと立った耳が特徴。サポート傾向はアシストで、ブメ3種に遠隔強化、緊急撤退持ち。そんな姿の奴が――どうやら俺のことらしい。

 つまり、ネコの姿に逆戻りみたいです。神様の気まぐれはそれほど長く続いてくれなかった。

 

 ウキウキ気分から一転。気分は最悪です。

 

 そして何より――

 

「…………」

 

 妹さんの俺を見る目がちょっとヤバい。

 いや、こんなのどうすれば良いのさ。ただ、別に今回の俺は悪くないよね? 一時的に人間の姿へ戻ったのだって、俺のせいではないわけですし。

 

「あーその、えと……は、ハンターさん! 次はライゼクスも頑張って討伐するニャ!」

「…………」

 

 お願い! 無言はやめて。一番心にくるし、どうすれば良いのか分からないから。

 

 ……いや、ホントうっそだろ、おい。

 ああなんで、どうして……せっかく俺の素敵なハンマーライフが始まると思ったらまたネコって、ネコって……

 

「……話はクエストが終わったら聞くから」

「あっ、はい」

 

 このクエストが終わらなければ良いのにと思った。

 

 


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