ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第65話~ネコの手は借りない~

 

 

 なんとも気は重いけれど、クエストはもう始まっているのだから、頑張る必要がある。相手は電竜――ライゼクス。正直、ネコなら苦労するような相手でもないし、妹さんほどの実力ならソロでも討伐できるだろう。

 とはいっても、現時点では戦うことのできない相手であり、ライゼクスの素材はご主人の武器の強化に使う。そうだというのなら、気張っていきましょうか。

 

 妹さんと一緒に移動し、ライゼクスのいるエリア7へ。

 俺の装備だけど、今回は麻痺武器ではなく、ナルガ武器となっています。つまり、ナルガ一式装備。火力だってそれなりに出るんじゃないかな?

 

「よしっ、それじゃあ、まずは私が乗るから支援お願いね!」

「了解ニャ」

 

 妹さんのスタイルはエリアル。前回の白疾風討伐クエストでは動きがすごかったし、あの調子で今回も戦ってくれれば、サクっと終わらせることができそうだ。

 

 そして、俺たちに気づき、ライゼクスの咆哮が響いた。

 とりあえずソレをフレーム回避してから、ペシペシとブーメランを当てる。多分だけど、今回は俺たちが一番楽な相手と戦っていると思う。タマちゃんは動きが素早いせいで、クエストの時間はどうしてもかかってしまうし、ガムートも弓ちゃんと白ネコのペアだとそれなりの時間がかかりそうだ。

 ライゼクスが弱いモンスターだとは言わない。でも、やっぱり相性ってあるよね。

 

「乗った! 支援を……あぅ」

 

 クエストが始まってすぐ、妹さんがライゼクスに乗ってくれたけれど……振り落とされました。

 

「ごめん……」

「別に気にしないニャ」

 

 ん~……なんだか、妹さんの様子が前回と違うぞ。

 妹さんとクエストへ行くのはこれがまだ2回目だから何ともいえないところだけど、クエスト中はもっと淡々と戦うイメージだった。そうだというのに、今は無駄な動きが多いし、モンスターの動きが見えていないのか、被弾も多い。

 そういえば、相棒さんがこの妹さんはムラっ気とか言っていたっけ。まだ何ともいえないけれど、きっと今日は調子の悪い日なんだろう。

 ふむ……そうだとしたら俺が頑張らないとですね。

 

 

 それからも妹さんはやはり調子が出ないらしく、かなり苦戦しているようだった。防具が優秀なおかげで乙ることはなさそうだけど、回復をするために戦闘から避難することがかなり多く見られる。

 そんなこともあり、あまりダメージを与えることができないまま、ライゼクスはエリアチェンジ。

 ん~……流石に失敗することはないだろうけど、このクエストは時間がかかりそうだ。罠とか持ってきてないかな?

 

「くっそぉ……ネコネコ! アイツ強いね!」

「うニャー。すごく強いニャ」

 

 まぁ、調子の悪い日だってあるだろう。今回はソロじゃないんだ。そういう時は仲間を頼れば良い。それがパーティーってものだと思う。

 

「ライゼクスはエリア4に行ったニャ。頑張るニャ!」

「うん、了解」

 

 油断していたわけではないと思う。

 だって、例え妹さんが全く戦力ならず、俺ひとりになってもこのライゼクスを討伐することはできるだろうから。けれどもそれは、相手がライゼクス一頭だったらというお話。

 

「うわっ……ネコ! イビルジョーがいる!」

 

 つまりですね。乱入のことをすっかり忘れていたのですよ。

 う~ん、妹さんの状態が状態だし、ジョーと戦うのはちょっと無理があるよなぁ。下手したら3乙する可能性だって充分ある。

 採取ツアーで乱入してきたジョーに俺たちがやられたあのときみたく。ただ……戦ってみたいというこの気持ちは本物なんだろう。誰のためでもなく、自分のためだけに。

 

 それでも、妹さんにライゼクスにこやし玉を投げるって言おうとした。

 そんな時だった。

 

 

 ――…作モー…を…り替……すか?

 

 

 あの声が頭の中でまた響いてくれたのは。

 

 トクリ――と自分の中の何かが跳ねる感覚。

 

「っつ……ボ、ボクがこやし玉をライゼクスに投げるニャ」

「よし、ナイスだネコ! 頼んだよ!」

 

 ――操……ードを切…替えま…か?

 

 何故か頭の中で響き続ける声。前は一回だけ聞こえて終わりだったってのに……ああ、もう。何がどうなってんだよ。とてもじゃないが、こんな状況で集中できる気がしないぞ。

 

 ――操作モ……を切り…えますか?

 

 それでも、どうにかこやし玉をライゼクスに当てることは成功。ただ、響き続ける声のせいでコンディションは最悪だ。

 しかも、本当に鬱陶しいことに、響く声はどんどんと大きくなってくれている。直ぐにでもボリュームを0にしたいところだけど、その方法が分からない。

 

 ――操…モードを切り替…ますか?

 

「おおー、ライゼクスが移動した。よくやったぞネコ! それで、ライゼクスは……あれ、ネコ? どうしたの?」

 

 頭の中で響く声が大きすぎるせいで、妹さんの声だって聞こえてこない。

 ガンガンと声が響き、立っていることだって辛い。ライゼクスは何処かへ行ってくれたが、このエリアにはまだイビルジョーがいる。こんな馬鹿みたいなことをやっている余裕なんてないというのに。

 

 ――操作モードを切…替えますか?

 

 響く。響く。

 

 声が――響く。

 

 

 ――操作モードを切り替えますか?

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 そんな声を出した瞬間。ガツン――と鈍器のようなもので頭をぶん殴られた感覚がした。目眩と頭痛でバランスを崩し、両手を地面へ着く。

 そんななんともよく分からない、フラフラふわふわとした感覚のままゆっくりと立ち上がってみる。

 

 そうしてから見えてきた世界は――いつもよりもずっと小さく見えた。

 

 アレだけうるさかった声はもう聞こえない。

 

「……は? え、え……なんで貴方が?」

 

 そんな、ぽそり呟いたような妹さんの声だってしっかりと聞こえてくれる。

 そして、背中には随分と懐かしい重さを確かに感じることができた。ああ、そっか。いつもはこんな高い場所から世界を見ていたんだっけかな。

 

 手、動く。

 足、動く。

 首をグルリ回すとポキポキと心地良い音が響いた。

 つまり五体満足。コンディションは、悪くない。

 

 ん~っと大きくひと伸び。別に身体が凝り固まっていたわけではないけれど、すっかり慣れてしまった身体とは少々大きさが変わってしまったせいで、なんとも不思議な感覚だ。

 

 今の自分に何が起きているのか。どうしてこんなことが起きてしまったのか。それは分からない。けれども、もらえたこのチャンスを生かさないのはもったいない。

 

「や、久しぶりだね。妹さん。もしかして、髪切った?」

 

 問題なく声も出てくれたけれど、久しぶりに聞いた自分の()()()()はどうにも違和感があった。ホント、あの身体に慣れていたんだなって思い、クスリと笑ってみる。

 

「あっ……あの……な、なんで貴方がいるのさ! 私のネコを何処にやった!」

「いや、ネコは君のものじゃないだろ……」

 

 そんなことを言った記憶はありません。俺はご主人のオトモです。

 

「んで、どうして俺がだけど……どうしてだろうね? そればっかりは俺も分からないかな。ま、とりあえずこのクエストを無事終わらせようよ。話はその後、のんびりすれば良い」

 

 ついつい癖で『ニャ』って付けそうになるけれど、どうにか我慢。この身体で語尾に『ニャ』なんてつけていたら流石にどん引きだ。

 

 

 ……さて。

 

 さてさて。せっかく身体が戻ってくれたんだ。あの小さな身体だって決して悪いものじゃなかったけれど、どうせならこっちの方が俺は嬉しいかな。そうだというのなら、精一杯楽しませてもらおうか。

 

 背中に担いでいたハンマーを手に取ってみる。

 その手に取ったハンマーはゲームの中でもよくお世話になったナルガハンマー……つまり、ヒドゥンブレイカーだった。

 そして、どうやら防具もナルガのものらしい。

 

 ん~……ネコの時の装備が反映されているのかな? 正直、レウス防具とかの方が有り難かったけれど、防具無しという状況よりはマシ。何より、この身体に戻ることができたんだ。それ以上に有り難いことなんてないだろう。

 

 そして、俺たちが騒いでいたせいか、ようやっとイビルジョーが此方に気づいた。

 

 確か、あの時は下位武器に下位防具……だったかな。今の装備が上位の装備なのかは分からないけれど、状況はよく似ている。

 別に、コイツと戦う必要なんてどこにもないんだ。けれども、きっともうこんなチャンスは二度とない。

 それは自己満足でしかないけれど、どうせならやれるだけやってみたいじゃあないか。それにどうせ、どこまで行ったって自己満足の世界なんだ。それなら自分くらい満足させてやりたい。

 

 天を向き、大きな咆哮をあげてから俺たちの方へ近づいてくるイビルジョー。

 そんなジョーを見てから、目を閉じ短い呼吸を一度。

 1スタンだとかそんな生ぬるい目標は設定しない。やるなら全力で。手は抜かない。これで失敗したのなら俺の実力はその程度のものだったってこと。

 自分で自分を追い込み、絶対に逃げさせない。

 

 カチリ――と自分の中の何かがハマった。

 

 ゆっくりと目を開け、見えてきた世界にもう色はない。

 もううだうだと考えるのを止め、あとはもう目の前の敵に集中するだけ。ネコの手はもう借りない。この身体でできる精一杯を出し切ろう。

 

 そんじゃま、ひと狩り行きましょうか。

 

 

 


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