ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第64話~少し羨ましい~

 

 

「えと……槌ちゃん?」

「は、はい! なんでしょう!」

 

 多分、こうなるんだろうなぁって予想はある程度していたけれど、実際そうなってしまうと気分は複雑です。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ?」

「す、すみません……」

 

 つまりですね……さっきから槌ちゃんがどう見ても緊張していますって感じで、ちょーっとマズイなぁって思っているわけです。前回、槌ちゃんと一緒にいったクエストは採取ツアーだったから良かったけれど、今回は狩猟クエスト。この様子だと色々と危ない。

 むぅ、困ったものですなぁ。

 

 だいたい、どうして槌ちゃんは私にだけこんなに緊張するのさ。あの彼や笛ちゃんとは普通に話ができるのに、私だけダメっていうのは理不尽だ。てか、普通に凹む。

 まぁ、そんなことを槌ちゃんに言ったら余計に萎縮されそうだけど……

 

 しまったなぁ。こうなるんだったら槌ちゃんは弓ちゃんに任せた方が良かったかもしれない。槌ちゃんの境遇が私に似ていたから、その助けに少しでもなれたらって思い、槌ちゃんとペアを組んでみたけれど、どうにもよろしくない感じだ。

 いやぁ、ホントどうしましょうか。

 

「えっと、槌ちゃんってタマミツネとは戦ったことはあるの?」

 

 もう何でも良いから槌ちゃんの緊張を解さないと。私ひとりでもなんとかなるとは思うけど、槌ちゃんのためにもなるから一緒に戦ってもらいたい。

 

「いえ! 初めてです!」

 

 なるほど、初見か。

 私だってタマミツネと戦うの初めてだし、いやぁ……困りましたな。まずったなぁ。これで槌ちゃんが3回ダウンでもしてしまったらどうなるか分かったものじゃない。あの彼も私と行った初めてのクエストはこんな気分だったのかな?

 

「了解。初めて戦うモンスターだし、難しいかもしれないけど、頑張ろうか」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 とはいえ、まぁ、前回よりはまだいい方なのかな? 私がそう思いたいだけなのかもしれないけど……

 

 今回のクエストの場所は原生林。せっかくだし、私としてはあまり行くことのないマップの方が良かったけれど、そんなことを言っても仕方無い。それに原生林も景色は綺麗だし、嫌いな場所ってわけじゃないから文句はありません。

 うーん、どうやって戦おうかなぁ。クエストが始まってみないと分からないけど、今回はたくさん乗ったり罠を使った方が良いかもしれない。こんな時、あの彼や白ネコちゃんがいれば適切なアドバイスをしてくれるのだけど……あのふたりは今いない。だから、私が頑張らなきゃいけないんだろう。

 でも、自信ないなぁ。不安だなぁ……

 

「え、えと、あの。ハンターさんに聞きたいことがあるのですが……」

 

 あら? まさか槌ちゃんから話しかけてくれるとは思わなかった。なんだろう。何かあったのかな?

 

「どしたの?」

「その、私のオトモ……つまりネコさんと白ネコさんのことなんですが」

「うん、あのふたりが?」

 

 えっと、槌ちゃんはあのふたりの正体を知っているんだっけ? ……いや、確かまだ知らなかったはず。むぅ、色々と面倒くさいなぁ。あのふたりも、うだうだ悩まず全部話しちゃえばいいのに。

 

「その、あのふたりって昔はどんな感じだったんです?」

 

 うん? もしかして、ふたりのことを知っているのかな。

 

「ちょっと待って。あれ? もしかして槌ちゃん、あのふたりのことを……」

「あっ、はい。教えてもらいました!」

 

 なるほど、それなら話も早いや。そかそか、あのふたりもちゃんと自分のことを話すことができたんだね。それなら一安心。

 

「了解。それで、あのふたりだけど……」

 

 うーん、昔はどうだったかって聞かれてもなぁ。確かに私が一番長い付き合いではあるけれど、知らないことが多すぎる。

 ただ、言えるのは――

 

「今と変わらない、かな」

 

 それだけは確かなこと。

 いくら小さな姿になっちゃってもあのふたりはあの二人だった。彼は彼で相変わらず無駄に気を遣うし、変に臆病だけど、やるときはちゃんとやってくれる。笛ちゃんも笛ちゃんで自由な性格は変わらないけれど、ちゃんと周りの人たちのことを考えてくれている。

 

「あっ、やっぱりそうだったんですか」

「うん、あのふたりはいつもあんな感じだったかな」

 

 さてさて、どうして槌ちゃんがそんな質問をしたかってことだけど……やっぱり色々と考えちゃってるんだろうなぁ。

 それはきっと、あの頃の私と同じようなもの。

 

 ――私なんかが一緒にいていいのかな。

 

 そんな不安が槌ちゃんにあるはず。

 槌ちゃんの実力はよく知らない。けれども、あのふたりと比べたらやっぱり劣って見えてしまうと思う。それも自分のことだから余計に。

 私もそのことをずっとずっと悩んでいた。それに今だって私があのふたりと釣り合うとはやっぱり思えない。私だって最初と比べればかなり成長したと思っているけれど、それでもあのふたりとは釣り合わないんです。だって、あのふたりは何か違うんだもの。根本的に。私たちと何かが。

 

「……不安?」

「そう、ですね……」

 

 だよねー。

 私のときは、あのふたりもまだ、ただのハンターだった。でも、今は違う。私がいうのもアレだけど、超有名なハンターなんだもの。これは槌ちゃんも本当に苦労していそうだ。

 

「そりゃあ、不安ですし、私なんかのオトモしてもらってすごく申し訳ないです。でも、だから頑張らないといけないのかなって……私じゃ、あのふたりに並べるほどのハンターになることはできません。だからといって、それを言い訳にして逃げたくないなって思っています」

 

 ……どうやら私は勘違いしていたみたいです。

 

 確かに私と槌ちゃんの境遇はすごく似ている。でも、槌ちゃんは槌ちゃんであって私じゃないんだ。そんな当たり前の考えが抜けていたんだと思う。

 

「……そっか。強いね、君は」

「あっい、いえ! そんな! そんなことは……それにこんな生意気なことを……」

 

 少し、羨ましい、かな。実際、槌ちゃんに嫉妬している自分だっている。

 だって、あの時の私はそこまで思えなかったのだから。言い訳にして逃げようとしていた私がいたのだから。

 

 あーあ、ホンっト羨ましいなぁ。私もまたあのふたりと一緒の時間を過ごせたらなぁ。

 槌ちゃんを見ているとそんなことばかりを思ってしまう。その願いが叶う可能性はほとんどないことだってちゃんと分かっているのに。

 

「よし、そろそろ着きそうだし、お喋りはここまでにしよっか。初見の相手だし気を抜かず頑張っていこー」

「はい! 頑張ります」

 

 やっぱりまだ不安はあるけれど、私が思っていたよりもずっと槌ちゃんは強い子だ。これならきっと今回のクエストだって問題なくクリアできるはず。

 そうだというのなら後は私が頑張るだけ。まだまだ槌ちゃんとはお話したいこともあるけれど、それは帰り道ですればいい。今はとにかくクエストに集中しないとです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「槌ちゃん! また、あのブレスが来るよ!」

 

 了、解、ですっ!

 

 タマミツネと戦い始めてどのくらいの時間が経ったのかは分からないけれど、随分と長い時間戦っている気がする。

 けれども、どうにかまだダウンせずに戦えているし、自分でも驚いたけれど、動きも悪くない。憧れのハンターさんと一緒にクエスト。そんな状況、私なら絶対に固まってしまうと思っていたのに……いや、まぁ、固まらないのはいいことなんだけど。

 

 タマミツネから吐き出されるブレスをジャスト回避。そして、直ぐにハンマーを腰へ構えて、そのハンマーをタマミツネの頭へ横からカチ上げ。

 

「おおー! ナイス!」

 

 そんな攻撃が当たったところでタマミツネは大ダウンをした。

 タマミツネと戦うのはこれが初めてだし、やたらと動きが速いせいで攻撃をなかなか当てられない。それでもどうにか戦えているのはハンターさんのおかげなんだろう。

 乗ってくれるし、罠も使ってくれる。私が攻撃を喰らえば直ぐに生命の粉塵だって惜しみなく使ってくれる。まさに至れり尽くせりな状況。そこまでされたのだから、私も頑張らないと。

 

 大ダウンしたタマミツネへ横振りから縦振り。そして、ぐるっと回ってから――全力でホームラン。

 そして、このクエスト2回目のスタンを奪った。

 

 気持ちはふわふわと浮いているのに、身体は勝手に動く。何かを考える前に、身体はもう動いている。そんな頭と身体がバラバラの状況だっていうのに、怖いくらいにはまっていた。

 

「よし、ラッシュかけて! これで終わらせよ!」

「了解です!」

 

 これも成長したってことなのかな? なんとも実感が湧かないけれど、全てが全て良い方向へ繋がっている。

 緊張で動けなくなるだろうって思っていた。頭が真っ白になって何も考えられなくなるだろうって思っていた。そうだというのに、自分でも不思議なくらい冷静な私がいて、その私が身体を動かしてくれている。

 それはゴア・マガラやシャガルマガラと戦った時と同じような状況。

 うーん、いつもこんな状態になることができれば私ももうちょっと活躍できるのになぁ。なんて思ってみたり。

 

 そして、スタンをしたタマミツネへ私が2回目のホームランを叩き込んだところで、相手は動かなくなった。

 

 はぁー……何といいますか、今回は本当に疲れました。

 主に、緊張だとかそういうことで。

 

「おおー、討伐完了だ。お疲れ様、槌ちゃん」

「はい! お疲れ様ですっ!」

 

 とはいえ、今回は恥ずかしいことにならなくて一安心。前回は本当に酷かったからなぁ……

 だから、私も少しは成長できているんじゃないかって思うんだ。ただ、欲をいえばもうちょっとハンターさんの動きだとかを見られればなぁって思っています。

 そんな余裕が私にできるのはいつになるのやら……

 

「それじゃ、剥ぎ取りして帰ろうか。帰り道はまたゆっくりお喋りでもして」

「は、はい。今日は本当にありがとうございました!」

 

 今日も問題なくクエストをクリアできたのは、どう考えたってこのハンターさんのおかげ。私なんかをクエストへ連れていってくれたこともそうだし、色々とお世話になってしまい、感謝するばかりです。ホント、私は周りの人たちに恵まれてるなぁ……

 

 さてさて。確か、ネコさんが私はタマミツネの防具にすればいいとか言っていたと思う。流石に一回で全ての素材が手に入るとは思えないけれど、たくさん素材が手に入ればいいなぁ。

 

 倒したタマミツネからサクサクと剥ぎ取りも終え、後は帰るだけ。水玉っていうすごく珍しそうな素材も手に入れることができたし、なかなかの収穫でした!

 

 

 

 そして、その帰りの飛行船でハンターさんとした会話だけど、昔のお話とか、ネコさんと白ネコさんが付き合っていて、その対応とかはどうしていたのかってことを聞きました。

 それで、思ったんだけど……どうしてネコさんはこのハンターさんと付き合わなかったのかなぁって……

 い、いや、ネコさんと白ネコさんの仲が良いのは知ってるよ? でも、その……何といいますか、そっちの方が自然といいますか……それほどに、ネコさんとこのハンターさんの仲の良さを知ったんです。それにハンターさんだってきっと……

 そんなこと言えたものじゃありませんが。

 

 ま、まぁ、そのことはいいとして、ネコさんたちの対応だけど、別に気は遣わなくていいそうです。急にいちゃつき始めることもあるけど、何か一般的なものとはズレているから、見ていて微笑ましいとか言っていた。

 そう言われるとそんな気もする。あのふたり、変わってるからなぁ。

 

「ハンターさんって今回はのんびりできそうなんですか?」

「うん、今回はちゃんと休みをもらったから、少なくてもあと一日はゆっくりできるよ」

 

 それは良かった。漸く私もこのハンターさんと普通に会話ができるようになってきたのだし、もっと色々な会話をしたい。それにできれば弓のハンターさんからも話を聞いてみたいし、ネコさんたちがハンターさんたちとどんな会話をするのかも気になる。

 

 それに今回は私もちゃんと戦うことができたのだし、ネコさんに報告しないとだ。私もちゃんと成長することができたのだと。

 うんうん。龍歴院に戻って皆と会うのが楽しみです!

 

 

 






次話はようやっと主人公のお話となりそうです

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