大老殿へと向かう飛行船の上。
沈みかけの太陽は真っ赤に染まり、綺麗な景色が広がっていた。目を閉じればそよぐ風を感じ、それもまた気持ちがいい。
「あの……ひとつ聞いても良いですか?」
そんな感じで、黄昏を楽しむ私に弓ちゃんが声をかけてきた。
因みに、あの子はちょっとはしゃぎ過ぎたせいか、今はすやすやと睡眠中。
私と違って、あの子はパーティーに所属していない。だから、あのネコちゃん――彼を一生懸命オトモにしようとしていたのかなって思う。だって、ずっとひとりじゃやっぱり寂しいもんね。
「うん、どうしたの?」
弓ちゃんが何を聞きたいのかはだいたい分かる。多分……彼のことだろう。察しの良い弓ちゃんのことだ。2回目にもなれば薄々であっても何かを感じるはず。
いや、まぁ、あんなに上手いネコがいるはずないのだし、そりゃあ怪しむわけだけどさ。あの彼も隠したいのか隠したくないのかよく分からない。とは言え、あの彼、不器用ですしなぁ……
「えっと、今日もついてきてくれたあのアイルーのことですが……」
ほら、やっぱり。
それで問題なのはここから。あのネコちゃんが彼であることは間違いない。けれども、彼からそのことを直接は教えられていないし、多分、彼も隠しておきたいことのはず。だから、私から教えてしまうのはちょっとマズい。
ん~……ま、いっか。
弓ちゃんだって同じパーティーだったんだ。仲間外れにするのは可哀想だもんね。
「気づいた?」
「その、ふたりの会話が聞こえていまして……」
あら、それでバレちゃったのか。それじゃあ、もう仕方無いね。とは言え、どうせいつかはバレること。それが少しだけ早くなっちゃっただけなんだろう。
「本当にあのアイルーが先輩なのですか?」
「どうやらそうみたいだよ。ふふっ、あの彼がネコちゃんだなんて似合わないのにね」
笛ちゃんは元々ネコっぽかったし似合ってるけど。
そう言えば、まだ彼はあの白ネコちゃんが笛ちゃんだってことを知らないのかな? どうせ知らないんだろうなぁ……
槌ちゃんも含めて普段はどんな会話をしているんだろうね? きっとすごく面白い光景なんだろうなぁ。こっそり見てみたいかも。
「いや、確かに似合いませんが、そもそもどうして先輩がアイルーに?」
「それは私も分からないし、多分、彼もどうしてなのか分からないと思うよ」
相変わらず不思議な人だ。
多分、彼と笛ちゃんがこの世界の人間じゃないってことが関係しているんだと思うけど、やっぱり意味が分からない。
……ネコちゃんじゃなく、人間だったらまた皆で一緒にいられたのに。
こうして彼や笛ちゃんと再会できたことは嬉しいけれど、上手くいきませんなぁ。
「そう、ですか……」
「あと、あの白ネコちゃんは笛ちゃんだよ」
「なるほど……はい!?」
こっちは多分、教えちゃっても問題ないはず。
彼のことは……うん、まぁ、きっと大丈夫。
「え? その白ネコって、先輩と一緒にいたあのアイルーですか?」
「うん、どうやらふたりともアイルーちゃんになっちゃったみたい」
ホント、あのふたりは何をやっているんだろうね……
そんなふたりをオトモにしちゃっている槌ちゃんも大変だ。その辺は笛ちゃんがなんとかフォローしてくれるとは思うけど、大丈夫かなぁ。
「……何者なんです? あのふたりって」
それは……私も分からない。
でも、あのふたりが悪い人たちじゃないってことは分かるし、それだけで充分なんじゃないかなって思う。今でこそ、私は伝説のハンターだとか色々と言われるけれど、それはあのふたりのおかげ。
私をそんなハンターにしておいて、ふたりがのんびりしていることに色々と思うところもあるけれど、嫌いになれるわけがない。
あのふたりは今でも私にとって大切な仲間なんです。
「それも私には分からないかな。でもさ、またこうやって皆が揃ったんだもん。ちょっと姿は変わっちゃったし、簡単に会うことはできなくなっちゃったけど、消えちゃったわけじゃない。だから、良いのかなって思うんだ」
言いたいことはたくさんあるし、不満だらけ。でも、消えてしまったわけじゃない。
もしかしたら……というより、きっとまた、あのふたりは消えてしまう。それは避けられないことで、仕方の無いこと。
でも、また消えてしまう前に全部を話してくれればそれで良いのかなって私は思います。
ふふっ、ホント勝手な人たちだ。
「……ふむ、それもそうですね。また会える日が楽しみです」
「うん、そうだね」
とはいえ、これであのふたりとサヨナラってことはないと思う。それは私の願いも入っているけれど、あのふたりがいてそんな簡単に終わるわけがないのだから。
こうして離れてしまったからこそ分かる。中心にいたのはいつだって――あのふたりだ。
そんなものに巻き込まれてしまった私たち。だからきっと私たちの物語はまだ終わっていない。
な~んて私は思うんだ。
よし、それじゃ、彼に負けないよう私も頑張るとしよう。
今はちょっと忙しいけれど、ここを乗り切れば少しは落ち着けるはず。そうしたら今度は皆でのんびりする時間も取れると思うから。
その時が楽しみです。
―――――――――
「ネコさんネコさん。見て! 新しい防具だよ!」
相棒たちとクエストへ行った次の日。
ようやっとご主人の上位装備が完成しました。
防具はアシラS。クマ耳のようなものが付いたフードに、腰巻のようなものが特徴。ザザミ防具も良かったけれど……うむ。アシラ装備も可愛いじゃないか。流石は人気防具だけある。
「うニャ。似合ってると思うニャ」
「ホント? ありがと!」
女性は可愛い防具がたくさんあって良いよね。複合装備を組む時とか、性能よりも見た目を大切にしてしまうことも良くあった。
次は是非ミツネSを作ってもらいたいところ。ガンナーのミツネSの方が好きだけど、剣士だって可愛い。ああでも、ガムート装備も捨て難いな。あのモコモコ具合もなかなかなのだし。あとは王道のキリンSや大雪主防具なんかも……
なんてことを考えていたら、何故かまた白ネコに叩かれた。
あの……最近、俺のことをペシペシ叩きすぎじゃないですか?
「……ご主人さん、武器の方も完成したの?」
不満の意を込めて白ネコに視線を送ってみたけれど、見事にスルーされた。
むぅ、なんなんだろうか。男なら誰だって……あれ? そういえば、全く気にしてなかったけど、この白ネコって女性……で良いんだよね?
いや、そもそもアイルーって性別があるっけ? ああ、でも、ネコートさんやイモートなんかは女性か。それに、アイルーのボイスで性別も決まっていた……ような気がする。
じゃあ、この白ネコは女性ってことで良いのかな。てか、そうじゃないと困る。この白ネコには好きなんて言われてしまったわけだし。
「うん、そっちも完成したよ。えと、オブシドハンマー2とエムロードビート3でいいんだよね?」
まぁ、そんな白ネコのことは良いとして、ご主人の武器は無事完成。これでガンガンクエストを進めることができますね。
「それで大丈夫ニャ」
エムロードビートの次の強化には上位ライゼクス素材、オブシドハンマーの強化には……竜玉だったかな。
そうなると、オブシドハンマーが先に強化できるわけだけど、竜玉かぁ。それは苦労しそうだ。一応、今の段階でも戦うことのできるロアルからも出るけど確率が低い。確率的にはガノトトスが一番。でも、ガノは嫌い。戦いたくない。
竜玉って勝手に集まってるイメージだけど、いざ集めようとすると面倒だよね。
う~ん……武器の強化は苦しくなったらするって感じで良いのかな。今はまだゴリ押しで良いと思う。
「えと、それで……これからはどうしよっか?」
「……集会所のクエストをクリアしていけば良いと思う。そうすれば、ご主人さん宛に緊急クエストが届くはずだから」
緊急クエストかぁ。何になるんだろうね? まぁ、ガノトトスじゃなきゃなんでも良いけどさ。
「了解です! それじゃあ、クエストを受注してくるね」
お願いします。
この段階なら面倒なモンスターもいない。それにこのメンバーなら苦労することもないはず。ジョーが乱入してきたらまた別だけど。
「……ナルガのクエストはどうだったの?」
クエストカウンターへ向かうご主人を見送っていると、白ネコが喋りかけてきた。昔と比べれば本当によく話をしてくれるようになったと思う。
それはきっと良いことなんだろう。ただ、やっぱり未だに俺は緊張します。白ネコはあまり気にしてないようだけど、ユクモ村ではあんなことを言われたわけですし……
「すごく強い相手だったけど、他の皆が上手かったからあっさり倒せたニャ」
相棒や弓ちゃんはもちろんとして、妹さんが本当にすごかったんです。俺はほとんど何もしてないといって良いと思う。あの3人がいればドンドルマも安心だ。
「そっか、私も行きたかったな」
いや、君はその誘いを断ったじゃん。
いったい何を考えているのやら……
まぁ、でも久しぶりに皆とクエストへ行けて俺も楽しかったかな。また、そんな機会があれば良いけど、アイツら忙しいからなぁ。
せめて、もう一度くらいはまたあの4人でクエストへ行きたいのだけど、それは叶わぬ願いなんだろうか。
ホント、難しいものです。
「クエスト受注してきたよー!」
な~んて、少しばかり湿っぽくなっていると元気なご主人の声。
「何のクエストニャ?」
さてさて、そんな気持ちは切り替えて目の前のことに集中しましょうか。
「んとね、渓流でロアルドロスを倒してくれだって」
了解。
丁度、竜玉が手に入るチャンスだし、尻尾の切断を狙ってみるとしよう。
そんじゃ、今日も元気に行ってみましょうか。