ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第51話~似た者同士~

 

 

 古代林へと向かう飛行船の上。

 半ば強制的に連れて行かれてしまったこともあり、どうにもテンションは上がらない。せっかく強いモンスターと戦えるというのに、もったいないね。

 

「ねぇ、ねぇ、貴方ってニャンターなの?」

 

 そして、先程から相棒の妹さんの絡みがすごい。なんだっていうんだ。

 俺の気持ちなど無視して、無理やり捕まえ、今は妹さんの膝の上。逃げてもダメでした。直ぐに捕まります。

 

「……うニャ」

 

 相棒に助けを求める視線を送ってみても、苦笑いされるだけ。いや、助けてよ。

 

「すごい! じゃあ、じゃあ、貴方もハンターみたいに戦うんだ!」

 

 何が楽しくてこの妹さんはここまで俺を構うのだろう。ネコなんてドンドルマにだって沢山いるってのに。

 いや、まぁ、ニャンターがいるのは此処くらいだけどさ。

 それほどにニャンターが珍しいってことなのかな。

 

 女の子に抱きかかえられている今の状況は決して悪いものじゃない。けれども、残念ながら俺と妹さんの仲は良くなかった。もし、これで俺だとバレたら……

 そんなこと考えたくもない。嫌な汗が止まりません。

 いや、この妹さんが良い子だってことは知っていますよ? ただ、俺との相性が悪すぎるんだ。

 

「戦いはするけど、ネコだからやっぱりハンターさんたちと比べて上手くはないニャ」

「えー? でも、貴方はすごく上手かったってお姉ちゃん言ってたよ?」

 

 相棒の方へ顔を向けた。顔を逸らされた。

 んもう、アイツはまた余計なことを……

 

「そ、それより、今回の相手はやっぱり強いのかニャ?」

 

 なんとも嫌な予感しかしないから話題を転換。

 多分、今回の相手は白疾風だと思う。前回は相棒と弓ちゃんが下位装備だったため、かなり苦労してしまったけれど、今は全員が上位装備。メンバーの技術力に文句はないし、これならサクッと倒すことができそうだ。

 

「私はよく知らないけど、ちょっと変わったナルガクルガが相手だって。楽しみだね!」

 

 なんとも緊張感のないセリフ。ただ、コイツらが普段戦っている相手と比べれば、そう思ってしまうのも仕方の無いことなんだろう。

 

 白疾風かぁ……俺はどう立ち回れば良いんだろうね? いっそ端っこの方で採取をしていた方が良いかもしれない。そっちの方がネコっぽいし。ただ、やっぱり戦いたいんだよなぁ……

 

 

 

 

 その後も、妹さんの手から逃れることはできず、捕まえられたまま古代林まで行くこととなった。俺はもう疲れました。

 

 そして、古代林へ到着。

 

「よーし、着いたー! 頑張るぞー!」

 

 相変わらず元気の良い妹さん。

 言動なんかはすごく子どもっぽいけれど、これでもG級モンスターをソロでバシバシ倒してしまうすごいハンターだっていうのだから不思議だ。

 

「ネコちゃん、ナルガクルガの場所分かる?」

 

 そんな相棒さんの声。

 

「エリア4にいるニャ」

 

 狭いエリアもあるけれど、ほとんどが平坦なエリアだから古代林はかなり好きなマップ。坂道エリアなんて誰も得しない。

 

「了解。よし、それじゃ出発だー!」

「はい」

「おー!」

「うニャ」

 

 相棒の掛け声に皆で元気良く応えてから出発。

 そう言えば、4人で行くクエストは本当に久しぶりだ。前回4人で行ったクエストは……ああ、そっか、ゴグマジオスになるのか。あの彼女がいないから、あの時とはメンバーが若干違うけれど、懐かしいものです。

 ふふっ、また元の世界へ戻ることができたら彼女に自慢するとしよう。

 

 エリア1、2を抜け、メインターゲットのいるエリア4へ。其処には通常種と比べ、ひと回り大きな体に、全身には白色の文様のあるナルガが一頭。

 や、久しぶり、リベンジしに来たよ。

 

 二つ名モンスターの中でも白疾風の体力は少な目。だから、麻痺や罠を使って一気に畳み掛けたいところ。ただ、状態異常にできる武器がなぁ。確か、ラギア弓も麻痺瓶は入らないはずだし。

 まぁ、できないことを願っても仕様が無い。そんじゃ、サクっと倒させてもらおうか。

 

 俺がブーメランを投げるのと同時に、相棒の虫が白疾風へ向けて放たれた。

 そんな攻撃を喰らわせたところで、白疾風が俺たちを発見。そして、咆哮をフレーム回……ああ、うん。まぁ、無理だよね。咆哮は素直にガードをするとしよう。

 

 ん~……尻尾振り攻撃のフレーム回避のタイミング覚えてるかなぁ。なんてことを考えつつ、次の攻撃に備える。

 そんな俺の横をダッシュで駆け抜けていく少女がひとり。その少女は未だ咆哮モーションが終わっていない白疾風を踏みつけ――飛んだ。

 

 そして、白疾風の頭へ背中に担いでいた大剣を叩きつけた。

 

 俺が相棒の妹さんと一緒にクエストへ行くのはこれが初めて。俺、嫌われてましたし。

 妹さんが上手いことは知っていたけれど……これはそんな予想以上かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弓ちゃん! あの真空波くるよっ!」

「は、はい。分かっています!」

 

 白疾風と戦い始めてそろそろ5分といったところ。

 

 その戦況は――此方が圧倒していた。

 

 あの相棒はもちろんだけど、一度戦ったおかげか、弓ちゃんの動きもかなり良い。そして、何より――

 

「…………」

 

 妹さんがちょっとすごいぞ。

 クエストを始める前はアレだけ騒がしかったというのに、始まってからは一度も言葉を出していない。多分、それだけ集中しているってことなんだろう。

 それでもって、初見の相手だというのに、攻撃は喰らわないわ、白疾風の回転攻撃で跳躍してから乗りを決めてくれるわ、と動きがちょっとヤバい。完全にスイッチが入っちゃってる。マジ怖い。

 エリアル大剣は俺も使ったことがあるけれど、あんなにカッコイイんだ……

 

 一方、俺はというと、タゲが散り過ぎているせいで全然貼り付けない。これじゃあ、ダメージも稼げてないよなぁ……

 

 妹さんが回転攻撃を踏みつけ跳躍。そして、そのまま本日3回目の乗りへ。

 妹さんの乗りと相棒が奪う脚怯みのおかげもあって、あのすばしっこい白疾風にほとんど何もさせていない。さらに、ダウンを奪えば弓ちゃんが超火力攻撃で一気にダメージを稼ぐ。

 すごいことは分かっていたけど、このパーティーかなり強いぞ。この3人ならレベル10だってクリアできそうだ。

 

 勢いそのままとでも言えば良いのか、結局、白疾風にエリチェンをされることもなく討伐完了。ゲームだとレベル2は捕獲のはずだけど、今回は討伐でも良いそうです。

 

「おおー、倒した! お疲れ様っ!」

「はい、お疲れ様でした」

「お疲れ様ニャ」

 

 う~ん、これなら俺が来る意味はなかったんじゃないだろうか。ペシペシと攻撃はしていたけれど、このパーティーの中じゃ一番ダメージを稼げなかったと思う。

 てか、他のメンバーが頼もし過ぎるんだ。前回アレだけ苦戦したのが嘘みたいです。

 

 白疾風を倒した後、使うことはないけれど一応、剥ぎ取りをしておいた。今回も報酬はいただかないでおくつもり。素材集めはやっぱりご主人と一緒にしたいから。

 

 そんなこんなで、二度目の白疾風クエストも無事終了。

 

「へい、相棒さんや」

「うん? どしたの?」

 

 帰りの飛行船へ乗り込みながら、相棒さんへちょいと質問。

 

「お前らってこの後、どうすんの?」

「ん~……本当は龍歴院やベルナ村をゆっくり観光したいんだけど、直ぐに帰らないといけないんだ。今回のこれだってかなり無理やりだったし」

 

 あら、そうだったのか。それは少し寂しいかも。一日くらいならゆっくりできると思っていたんだけど……いやぁ、大老殿のトップハンターは忙しいですね。

 

「了解。まぁ、頑張ってくれ」

「むぅ、君が戻って来てくれれば私たちだってもうちょっと楽になるんだよ?」

 

 そう言われると俺も弱いわけでして……いや、悪いなぁとは少しくらい思っていますよ?

 

 相棒の言葉に何も言い返すことができなかったから、笑って誤魔化してみた。そんな俺を見て、相棒さんはため息をひとつ。

 とは言え、今の俺が戻ったところでなぁってのが本音。人間の姿ならまだしも、この姿じゃ流石にG級モンスターと戦うことはできない。戦力になりません。だから、相棒には頑張ってくれとしか言えないわけですよ。

 

「……それとさ、君の妹さんってクエスト中はいつもああなるの?」

 

 クエスト中の妹さんはまさに別人といった感じ。

 笛の彼女なんかはよく転がってくるクンチュウにブチ切れてスイッチが入っちゃったり、相棒も相棒でフルフルが相手だとトリップすることはあったけれど、あの妹さんはソレらとはまた違った感じだった。集中していることは分かるけれど、アレじゃあ見ていてちょっと怖い。

 

「うん、君ほどじゃないけど、あの子のクエスト中はだいたいあんな感じだよ。でもあの子、ムラっ気なんだ。だから、はまらない時は全然かな」

 

 マジかぁ、世の中には色々なハンターがいるんだな。あと、俺ほどじゃないってどういうことだよ。

 そして、相棒の言葉を受け、文句のひとつでも言ってやろうと思ったら、また誰かに抱きかかえられた。んもう、なんですか?

 

「ネコネコ! 見てた? 私の活躍!」

 

 俺の何が妹さんをここまで駆り立てるのだろうか……

 そんな妹さんと俺を見ている相棒さんは苦笑い。んで、弓ちゃんは……あら? なんだか険しい顔をしているけど、何かあったのかね?

 

「……うニャ。見てたニャ。すごく上手かったニャ」

 

 ムラっ気らしいけど、今回は鬼みたいに強かったね。この姉妹は揃ってバケモノだ。

 

「ホント!? じゃあさ、じゃあさ、私のオトモにならない?」

「え……い、いや、ボクにはご主人がいるからそれは無理だニャ」

 

 あと、俺をオトモにするのは本当に止めておいた方が良いと思うよ? 別に俺は君を嫌ってないけれど、君は俺を嫌っているわけですし。

 

「えー、一緒に大老殿行こうよ。私もネコと一緒に戦いたい!」

 

 そんなこと言われても……

 

 多分、これが妹さんの素なんだろうけれど、俺の知っている妹さんとは全然違うせいで、さっきから戸惑ってばかりだ。誰だよ、あんた。

 

 その後も、妹さんに絡まれ続けた。行き帰りの道中の方がクエストよりも疲れたと思う。ああ、早く帰ってビールを飲みたい。

 

 

 

 

 

 そして、龍歴院へ到着。

 ちょっともったいないかなって思ってしまうけれど、クエストの報酬は前回と同じように受け取りませんでした。

 

「それじゃ、私たちはこれで帰るね」

「うニャ。大老殿でも頑張れニャ」

 

 大老殿へと向かう飛行船の前で皆と別れの言葉を交わす。

 ホントに忙しいんだね。大変そうだ。

 

「ネコネコ! 絶対にまた来るから、私のオトモになることをちゃんと考えておいてよっ!」

 

 俺に向かってブンブンと手を振る妹さん。最後の最後まで元気な様子で何よりです。ただ、俺が君のオトモになることはないと思う。

 

「よーし、帰るとしよっか。次はもうちょっとのんびりできる時に来るね。それじゃ、またね。槌ちゃんと白ネコちゃんにもよろしく伝えておいて」

 

 あいよー。

 その次ってのがいつなのかは分からないけれど、それまで俺も頑張ってみるよ。

 

 相棒と妹さんに続き、最後に飛行船へ乗り込んだのは弓ちゃんだった。

 そう言えば、今回は弓ちゃんと全然喋ってなかったね。まぁ、弓ちゃんも自分から話すような性格でもないし、こんなものなのかもしれないけど。

 

「今日はありがとうございました」

 

 礼儀正しい挨拶。ただ、その中身は真っ黒だったりします。

 

「うニャ。此方こそありがとうニャ」

 

 そんな言葉だけを交わしたところで、弓ちゃんは飛行船の中へ。

 大丈夫だとは思うけど、相棒のことよろしく頼むよ。

 

 そして、未だ飛行船の上からブンブン手を振る妹さんに苦笑いをしていると、弓ちゃんが顔だけを俺の方へ向けた。

 

 それで――

 

 

「言ったことありますが私、耳が良いんです。それじゃ、また来ますね――()()

 

 

 なんて言葉を最後に落とし飛行船へ乗り込んでいった。

 

 ああ、うん。

 いやぁ……まいったね、こりゃあ。

 

 まぁ、バレてしまったものは仕方無い。どうせやることは変わらないのだし、アイツらに負けないよう俺も頑張っていくとしようか。

 小さくなっていく飛行船を見送りながらそんなことを思った。

 

 

 

 


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