ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第50話~物語の中心は~

 

 

「……ネコさん行っちゃったね」

「うん、行っちゃった」

 

 嵐のごとくというか、何というか……ぽつり残された私と白ネコさん。

 ネコさんはあまり乗り気じゃなかったみたいだけど、私なんかが止められるはずもなく、ネコさんたちはクエストへ行ってしまいました。

 あの操虫棍のハンターさんに、弓使いのハンターさんもいた。大剣を担いでいたハンターさんは誰だか分からないけれど、多分すごく上手いんだろうなぁ。

 

 伝説とまで呼ばれているパーティーの4人中3人がさっきまで此処にいたわけだけど、実感が湧かない。ネコさんの見た目が見た目だからなぁ……いや、ネコさんが上手いのはよくよく分かっているけど。

 

 

 さて、前にネコさんからのお話は聞くことができた。

 それは信じられるようなことじゃないけれど、納得はできている。だって、これまであのネコさんと一緒にクエストへ行ってその動きだとか色々なことを見てきたから。

 

 あのネコさんのことは分かった。分かってしまった。だから、分からないことが増えてしまった。

 

「……ねぇ、白ネコさん」

「どうしたの?」

 

 そして、今日はソレを聞く良い機会なのかなって思います。

 

「せっかくふたりだけなんだしさ。お話でもしよっか」

「……そうだね」

 

 ネコさん――あのハンターさんと同じくらい上手い貴方は誰ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えと、それじゃあホットミルクをふたつお願いします」

「かしこまりましたニャ」

 

 龍歴院でアイルーさんに飲み物を注文。

 甘いホットミルクをちびちび飲みながら、のんびりのんびりお喋りでもしよっか。

 

 とは言え、うーん、何から話せばいいんだろうね? 白ネコさんとは別に緊張するような間柄じゃないけれど、なんとも緊張してしまう。

 何処か遠くをぼーっと眺めている白ネコさんは何を考えているのか分からないし。

 

「……ご主人さんって、ベルナ村に来る前からハンターだったの?」

 

 そして、遠くの方を眺めている状態のまま、白ネコさんが言葉を落とした。

 

 あのネコさんには私のことを伝えた。だからもう隠すつもりもないし、自分のことを話すのも抵抗は少なくなったと思う。

 それでも、やっぱり緊張してしまいます。

 

「うん。ある旅団にね、所属していたんだ。そこで色々な場所を訪れながら、ハンターをしていたよ」

 

 あのネコさんほどではないけれど、私も私で色々な経験をしていると思う。ホント、あの頃は大変だった。

 でも、それ以上に面白かったかな。

 

「色々な場所に行った。色々な人と出会った。時間が流れるのは速かったし、大変なことばかり。そんなことがあったんだ」

 

 懐かしいなぁ。私はもうあの皆と別れてしまったけれど、また会いたいって思うし、元気にしていればいいなって思う。

 

 まぁ、あの皆が元気じゃないところなんて想像できないけどさ。なんてことを思ってひとり静かに笑ってみた。

 

「……そっか。じゃあ、どうしてご主人さんはベルナ村に?」

「自分の実力をさ。試してみたくなっちゃったんだ。それまでだってハンターだったけれど、HRだって上げたかったし、やっぱりもっと上手くなりたかったから」

 

 それで、自分に自信を持つことができたらまた旅団に戻ろうと思ってる。団長さんも私がそうなるまで待つと言ってくれたし、私もまた皆と一緒に旅をしたい。

 

 うん、私のお話はそんなことくらいかな。武器防具なしでダレン・モーランの背中に乗ったりとか、本当に色々なことがあったけれど、色々とありすぎたせいで何を話せばいいのか分からない。

 

 だから、次は――

 

「白ネコさんのお話も聞きたいな」

 

 運ばれてきたホットミルクを受け取り、そんな言葉を落としてから、コップへそっと口をつけてみた。

 温められた牛乳とハチミツの香りが広がる。口の中に広がったそれは熱く甘く……優しい味がした。

 

「あ、あっつ……むぅ、もうちょっと冷ます」

 

 ……白ネコさん、ネコ舌だもんね。

 

「えと、私のお話?」

 

 ホットミルクの入ったコップをそっと机の上に置き、首を傾げながら白ネコさんが言葉を落とした。行動のひとつ一つがかわいい。

 

「うん、白ネコさんのお話」

「そっか、私のお話かぁ」

 

 あのネコさんは私になんて想像ができないような経験をしてきたはず。そして、あのネコさんと同じくらい上手い白ネコさんだってきっと……

 

 そんなお話を聞かせてくれれば私は嬉しいな。

 

 

「ん~と、じゃあ、言っちゃうけど……私もあのネコと同じパーティーのひとりだった」

 

 

 …………は?

 

「あれ? もしかして、彼から聞いてなかった? もう教えてもらったのかと思ってたのに」

 

 え? い、いや、聞いたとか聞いてないとかじゃなくて……え?

 

 だって、だってですよ? あのネコさんと同じパーティーだったってことはですよ? つまりそれは……

 

「え、えと、あのパーティーの誰かのオトモだったってこと?」

「んーそうじゃなくて……マズい。ちょっと待って。さっきのなし」

 

 いやそんな、なしって言われても……

 それにそうじゃないってことも意味が分からない。

 

「じゃあ、確認だけど彼――あのネコからは何か聞いた? 昔のこととか」

 

 グルグルと回る思考。まさに混乱状態。ホロロホルルの攻撃を喰らった時だってここまでじゃなかった。

 

「えと、その……元人間で、あの操虫棍のハンターさんと一緒のパーティーだったってことは……」

「あっ、なんだ、聞いてたんだ。うん、私もそのパーティーのメンバーだったの。今はネコだけど元は人間」

 

 お願い。ちょっと待って。話についていけてない。

 

 確かに、あのパーティーのメンバーは元4人で、現在はふたりが行方不明。そのうちひとりがネコさんで、じゃあもうひとりは? って思っていたし、それがこの白ネコさんだっていうのなら、色々と繋がるけど……え?

 

「その、じゃあ、ネコさんはそのことを知っているの?」

「ううん、知らないと思う。知ってるのはあの娘……あー操虫棍使いのハンターとご主人さんだけ」

 

 とんでもないことを教えられてしまった。つまり、この白ネコさんが行方不明になっている最後のハンターさん。つまり、狩猟笛を使うハンターさんってこと。

 ああ、なるほど、それであのハンターさんは白ネコさんもクエストに誘おうと……えっ? じゃあ、もしかしてさっきってあのパーティーの全員が揃っていたの?

 

 そして、私のオトモが2匹とも大変な人たちなんですが……

 

「あーえー……ちょ、ちょっと待ってね。どうにも混乱しちゃって……」

「あと、私はあのネコの彼女」

「お願い! ホント待って!」

 

 さっきから白ネコさんの落とす言葉が自由すぎる。てかなんだ、ネコさんって彼女いたんだ。ちょっと残ね、いやいや、それはいいとして、私はネコとどうやって付き合おうと……違うそうじゃない。えっと、ネコさんと白ネコさんはあのパーティーのメンバーで、そのことを知っているのは操虫棍のハンターさんと私だけ。それで、白ネコさんがそのパーティーのメンバーだったことをネコさんは知らなくて、白ネコさんはネコさんのことを知っていて。でも、ふたりは付き合っていて……いや、意味分からんぞ。関係が複雑すぎる。

 

「えと、まずだけど、どうして白ネコさんはネコさんに教えてないの?」

 

 ネコさんたちの関係がここまで複雑なのはそれが一番の原因だと思う。それでいて、白ネコさんはネコさんのことを知っていて、そのことをネコさんは気づいていないっていうのが物事をまた複雑にしている。

 

「そ、その、ほら、はずかしいから……」

 

 その気持ちは分からないでもない気がするけど、そこは言ってあげようよ……

 

「だって、ネコになるとか意味分かんない」

 

 うん、そうだね。私も意味が分かんないや。

 ネコさんと白ネコさんの人生はちょっと波乱万丈過ぎると思う。本当ならギルドに報告した方がいいけど、流石に信じてもらえないよね……

 

「りょ、了解。それじゃあ……白ネコさんはどうしてネコさんのことに気づいたの?」

「あんな上手いネコいるわけないもん」

 

 ですよね! それは私も思ってました!

 ただ、その言葉はすごくブーメランだと思う。白ネコさんだっておかしいレベルで上手いし。オトモを連れていた経験がなく、ネコさんと白ネコさんふたりともおかしかったから、そこまで真剣に考えなかったけど、やっぱりおかしいよね!

 

「……それに、私は彼の彼女だし」

 

 急に惚気けないでほしい。どう反応していいのか分からない。あと、独り身の私にその言葉はよく刺さります。

 

「……でも、ネコさんは白ネコさんのことに気づかないんだね」

 

 あっ、マズい。白ネコさんが目に見えて落ち込んでいる。完全に失言だった。

 ああ、困った。いや、その……べ、別に、嫌味のつもりとかじゃなくてですね。思ってしまったことをつい……

 

「多分だけど……あの彼はわざと気づかないようにしているんだと思う」

「わざと……?」

 

 どういう意味だろう。白ネコさんの言葉がよく、分からない。

 

「うん、わざと考えないようにしているんだと思う。元々、他人のことを深く聞く性格じゃないし」

 

 あー、なるほど。それはなんとなく分かる、かも。

 ネコさんって自分のことも話さないけど、聞くこともしないもんね。

 

「でも、私から言うのはなんだか嫌だから、やっぱりまだ彼には教えないようにする」

 

 そんな白ネコさんの気持ちも、なんとなく分かるような気がした。

 私には彼氏なんていませんけどねっ! はぁ……

 

 えっと、なんだっけ? もう何が何やらさっぱりだけど……ちゃんと繋がってくれたことは多い。

 つまり、私のオトモはあのパーティーのふたりだった、と。道理で、私がこうも順調に前へ進むことができているはずだ。こんなにも恵まれたハンターは絶対にいない。

 

「……白ネコさんのこれからの予定は?」

「ご主人さんのために一生懸命、オトモとして頑張る」

 

 それはネコさんと同じ答え。

 

 ……私は恵まれすぎだ。

 

 本当に私なんかがいいのかな? あまり考えたいことじゃないけれど、やっぱりそんなことを思ってしまう。プレッシャーとかそういうもののせいで。

 

「多分、私たちのせいでプレッシャーとかを感じていると思う。でも、ご主人さんならきっと一流のハンターになれると思うし、そのために私たちも協力するから……だから、頑張ってほしい」

 

 それもまたネコさんと同じような言葉で、やっぱり私にはもったいない言葉だった。ふふっ、ネコさんたちはホントに仲がいいんだね。

 

 ネコさんから話を聞いたときに頑張っていこうと決めた。

 その気持ちを変えるつもりもない。

 

「りょーかいですっ! それなら、これからもよろしくね、白ネコさん!」

「うん、よろしく」

 

 なんだか、追い詰められてしまったような気分になるけれど……私が上手くなるのにこれ以上の環境はきっとない。それなら全力でソレに甘えて、全力でやってみるだけ。

 

 うだうだと考えるのは苦手。そうだというのなら迷わず進めばいい。それくらいが私に合っている。

 

 

 それにしても……なんだか急に大きなことに巻き込まれちゃったような気がします。端っこの方で見ているだけだと思っていたのに、気がつけば中心近くまで来てしまった。

 

 そして、その中心にいるのはきっと――

 

 ……うん、私があのふたりについていけるかなんて分からないけど、できるだけ頑張ってみよう。

 胸張ってネコさんと白ネコさんのご主人だって言えるように。

 

 


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