ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第44話~この特別な日に~

 

 

 クシャルダオラと戦うのは、これが初めてじゃないし、あのドンドルマの戦闘街で戦った時もソロじゃなく、パーティーでの戦いだった。

 あの時は大変だったなぁ。それまでクシャルダオラと戦ったことなんてなかったから、どう戦って良いのか分からなかったし、かなり危ない時もあった。

 

 そして、今もこうしてまたクシャルダオラと戦っている。上位ハンターになるための緊急クエストってことで。

 

 最初に戦った時は本当にキツかった。どうにか撃退することはできたけれど、もう一度やってまた撃退できるか分からない。

 そんなんだから私はクシャルダオラがどうにも苦手だったんです。

 

 私にとってクシャルダオラはそんな相手。そんな相手なのだけど――

 

「ブレス来るニャ!」

 

 うん、了解。

 ネコさんに言われた通りに、基本は溜めながら移動。そして、ブレスを吐き終わったクシャルダオラの頭へ溜めていたハンマーを振り下ろした。

 

「ナイスニャ!」

 

 そこで、今日一回目のスタン。

 

 クシャルダオラは苦手だと思っていた相手。けれども――今は負ける気がしない。

 あの時と使っている武器も違うし、場所も違う。そして何より、パーティーのメンバーが違う。だから、あの時と同じわけがないんだけど、何と言うか……私も成長できているのかなって思えて、それが嬉しかった。

 

 それにしても! ダウンしたクシャルダオラの頭は叩きにくい!

 んもう、なんだって、こんなにバタバタ動くのさ。せっかくスタンを取れたのに攻撃が全然当たらない。

 

「……全部、当てようとするんじゃなく、最初の振り下ろしが当たるようにだけ意識して。そうすれば流れで全部当たるから」

「えっ、あ、うん。了解です」

 

 あまりにも私の攻撃が当たらなかったからか、白ネコさんからそんなアドバイスをもらってしまった。

 とりあえず言われたように、バタバタと動く頭をしっかりと見て、最初の振り下ろしを当てるように意識。

 

 1発目ヒット。続いて、2発目も。そして――グルリと回ってからのホームランもまるで吸い込まれているんじゃないかってくらい綺麗に当たってくれた。

 

「ぐぅれいと」

 

 ありがとう。

 な、なるほど、こういうこともあるのか。勉強になります。

 

「あと、もう少しだと思うから、頑張るニャ!」

 

 大丈夫、私はまだまだ戦えるから。

 それにしても……ホント、君たちは何者なんだろうね? 相手はあの古龍クシャルダオラ。そんな相手だと言うのに、私たちが圧倒している。

 相手が弱いわけないし、私ひとりじゃ絶対にこうも上手くいかない。ここまで上手くいっているのはどう考えたって、このネコさんたちのおかげ。

 

 いつか、いつの日か……私は君たちのお話も聞きたいかな。

 

 

 

 

 頭破壊も完了し、ついにクシャルダオラは脚を引きずった。

 私は何度かブレスや突進を喰らっちゃったけれど、危ない場面はほとんどない。一方、ネコさんたちが攻撃を喰らっている姿は見ていない。

 分かっていたけど、私とレベルが違う。

 

「寝た! ストップニャ!」

 

 そして、今にもエリアを移動しようとしていたクシャルダオラがネコさんの攻撃によって3回目の睡眠。

 えと……もう爆弾はないんだけど、どうすれば良いのかな?

 

「ご主人、ご主人。此処に立つニャ」

 

 どうすればいいのか分からず、おろおろしていると、そう言ってネコさんがクシャルダオラの顔の前でぴょんぴょん跳ねた。かわいい。

 よく分からないけど、ネコさんに言われた通り、私もクシャルダオラの顔の前に。

 

「うニャ。それで反対側を向くニャ」

 

 反対? 何が何だかさっぱりです。

 でも、とりあえずネコさんの指示通り反対側を向き、自分の身体の右側にクシャルダオラの頭が来るように立ってみる。

 

「オッケーニャ。それで後はその場所でホームランをすると完璧ニャ」

 

 い、意味が分かりませんぞ。

 だって、私はクシャルダオラに横を向けているから、いくら此処で攻撃しても当たらない。

 

「……とりあえずやってみて」

「あっ、はい」

 

 白ネコさんにまで言われたら仕方無い。

 ホント、どういうことなのやら……

 

 何が何だかわからないまま、ハンマーに力を込めてホームランを出すために、一度ハンマーを振り下ろす。もちろん攻撃はクシャルダオラに当たらない。

 

「そのまま続けるニャ」

 

 う、うーん。これ、やる意味あるのかなぁ……

 ネコさんの言葉を聞きながら、もう一度ハンマーを振り下ろす。でも、やっぱり攻撃は当たらない。

 

 もうどうとでもなれって思いながら、グルリと回ってそのままホームラン。

 

 そして――そのホームランがクシャルダオラの頭へ直撃した。

 

「ナイスニャ!」

 

 えっ。

 

「……クエスト完了」

 

 え?

 

 白ネコさんの言葉を聞いてから、クシャルダオラを見ると、確かに、くたりと横になってもう動くこともなさそうだった。

 つまり、クシャルダオラ討伐完了。上位ハンターとなるための緊急クエストクリア。

 

「え、えと、ネコさん? 最後のは……」

 

 討伐したクシャルダオラから剥ぎ取りをしながらネコさんに聞いてみる。

 ホームランが当たったのは良いけど、何が何だか私には分からなかったし。

 

「えと、なんとなくご主人も分かってると思うけど、ホームランは縦振りと違って、自分の身体の右側から出す攻撃ニャ」

 

 あー、そう言えば、そうだったね。そのせいで、私の右側に立っていたネコさんを何度か吹き飛ばしちゃったこともあるし。

 

「それで、睡眠中のモンスターに与える最初の攻撃はダメージが大きいニャ。だから、ハンマーで一番威力が高いホームランだけを当てるために、言ったんだニャ」

 

 ほえー。それはまた……

 なんだろう、上手い言葉が見つかりません。

 

「寝たときは基本的に、爆弾で良いけど、ああやって叩き起こすのもありだニャ」

 

 そんなこと考えたこともなかった。べ、勉強になります。この知識をまた使う場面が来るのか分からないけど……

 

「……これで上位ハンター。おめでとうご主人さん」

「おめでとうニャ!」

 

 ありがとう。それも君たちのおかげだよ。

 やっぱり私ひとりじゃこんな場所まで来ることなんてできなかったもの。

 

 そして、上位ハンターかぁ……つまりこれからは上位のクエストを受けなきゃいけないってことだよね。ソロ用のクエストばかりを受けてきた私が上位クエストなんて大丈夫なのかな。

 な~んて、不安はやっぱりあるけれど……このネコさんたちがいれば、きっと大丈夫だと思う。

 だから、これからもよろしくね。

 

「よしっ、それじゃ、帰ったら打ち上げしよっか!」

「うニャ!」

「りょー」

 

 どこまで進めるのかなんて分からないけど、行けるところまで行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 クシャルダオラを倒してからベルナ村へ。

 これで私も上位ハンターとなったわけだから、表彰だったりギルドマスターの有り難いお話とかあるのかなぁ。なんて思っていた。

 けれども、そんなことはなく『上位ハンターおめでとう。これからも頑張ってくれ』くらいしか言われませんでした。

 面倒なことにならなくてそれは嬉しいけど、何と言うか拍子抜けって感じ。本当にこれで上位ハンターになれたのか実感も湧かない。

 

「ご主人、ご主人。お酒が飲みたいニャ」

「打ち上げー」

「あっ、うん。そうだね。よし、せっかく上位ハンターになれたんだし、今日は豪華にいこっか」

 

 そして、相変わらずのネコさんたち。ネコさんはよく、白ネコさんがマイペース過ぎて困るってボヤいているけど、私から見れば君もなかなかだと思うよ?

 何かが大きく変わったように思えてしまうけれど、実のところはそんなに変わってないってことなのかな? それがいいことなのか、悪いことなのかは分かりません。

 

 今日は無事、上位ハンターになることができた特別な日。

 そんなことで、普段は使わない高級お食事券を使っていつもよりもずっと豪華な打ち上げとなった。

 

 どうにもふわふわとしてしまって、これが現実なのか、夢なのかも分からないくらい。そして、そんな生活はここベルナに来て――ネコさんと出会った時からずっとずっと続いている。

 流石に私だって分かる。ネコさんがただのアイルーなんかじゃないってことくらい。ただ、それを聞いていいのかが分からなかった。

 

 でも、少しだけ特別な今日というこの日。期待してしまうのです。

 もう長い付き合いとなったネコさんが私に話してくれるんじゃないかって。そう期待してしまうのです。

 

 

 

 

 打ち上げも終わり、帰宅。

 いつもなら、直ぐに寝てしまうところだけど、どうにもその日は寝ることができなかった。いつもより、お酒だって沢山飲んだ。でも、酔っている感じはしないし、疲れているはずなのに、全然眠くない。

 そんな状態で、目を閉じボーッとしていると、隣でゴソゴソと何かが動く気配。

 そして、誰かが家の扉を開け、静かに静かに出て行くのが分かった。

 

 目を開け、隣を確認。

 そこには、スピスピと気持ちよさそうに眠る白ネコさんが薄暗い視界の先に。

 でも、見えたのは白ネコさんだけ。つまり、ネコさんがいない。

 

 トクリ――と私の中の何かが跳ねた。

 

 きっとここで動かなきゃ、また色々と理由をつけて私は動かない。だから、私は動くことにしました。白ネコさんを起こさないよう、そっとそっと。

 

 起き上がってから、静かに扉を開けると心地良い夜風が家の中に。

 もう私は止まらない。進め。

 

 ネコさんがどこへ行ったのかは分からない。でも、確信を持って私はオトモ広場へ向かった。どうしてなのか私も分からないけど、きっとネコさんはそこにいるって思ったから。

 そんな私の予想は当たり、オトモ広場にある大きな石の上、ネコさんがいた。

 

「うニャ? あっ、もしかしてボクが起こしちゃったかニャ?」

 

 照らしてくれるのは月明かりだけ。ネコさんも黒い装備だから、こんな夜じゃその姿は目立たない。

 そうだと言うのに、ネコさんの姿ははっきりと見えた。

 

「ううん、今日は寝られなかったんだ。だから、私もちょっと夜風に当たろうと思って」

「了解したニャ」

 

 そんな言葉を交わしたところで、私はネコさんの隣に座った。

 夜風に晒された石はやたらと冷たく感じる。

 

「ネコさんはどうして外に?」

 

 聞きたいことが沢山あった。

 けれども、やっぱり私にはそれを聞く勇気がないんです。ここまで来ておいて、止まってしまうんです。

 

「ボクはちょっと寝られそうになかったから、抜け出したんだニャ」

 

 そっか。

 もう長い付き合いになると言うのに、私の心臓は暴れっぱなし。

 

 あれ? 私ってネコさんといつもどんな会話をしてたっけ。

 そんなことすら分からないや……

 

 目を閉じてみました。

 少しだけ肌寒いかなってくらいの風がそよぎました。聞こえるのはバクバクと暴れる私の心臓の音ばかりです。

 

 そんな自分を落ち着かせるため、一度大きく深呼吸。

 

「ふふっ、夜の空気もまた美味しいニャ」

 

 笑いながら落としたネコさんのそんな言葉が聞こえた。

 そうだね。これは昼間とはまた違った空気だ。

 

 ……うん。少しだけ、勇気を出してみようかな。

 

「……ねぇ、ネコさん」

「うニャ?」

 

 いきなりネコさんのことを聞くのはやっぱり無理。

 それは無理だけど。

 それは無理だから……

 

 

「私さ。このベルナ村に来る前からハンターをやっていたんだ」

 

 

 まずは自分のことから話してみようと思う。

 

 

 


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