ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第34話~ご主人が貴方で~

 

 

 打ち上げの途中、急にご主人が立ち上がり何処かへ走っていった。そんなご主人の様子が気になり、其方の方を見てみると――

 

「うん? 団長さんじゃん」

 

 MH4、4Gの主要キャラのひとり。我らの団の団長がいた。

 MHXでもベルナ村に団長がいることはあったから別におかしなことじゃない。それは良いんだが……ご主人と団長との関係は? ってことになる。

 俺だって団長とは何度か話をしたことがあるし、団長も団長で顔は広いだろう。ただ、ご主人の様子を見るにただの知り合いって感じでもなさそうだ。そうなると……まぁ、そう言うことなのかなって思ってしまう。

 

 最初にご主人と会った時、ハンターになったばかりの初心者ハンターと言われた。だから、初めのうちはその言葉を信じていたし、きっと元々才能のある人なんだろうって思っていたんです。

 でも、どう考えたってあのご主人、初心者ハンターじゃないよね。初心者にしては流石にうますぎる。とは言え、ご主人だってそのことを隠したがっているようだったから聞くことはしなかった。

 

 そして今日、この状況を考えるに……

 

 初めてこの世界へ来たとき、あの団長と出会い、俺は我らの団へ所属するのかと思っていた。だってそれがMH4のシナリオだったから。

 けれどもそんな予想は外れ、どこの旅団に所属することもなくあの相棒や彼女と一緒にパーティーを組むことに。別にそのことに対して何か文句があったわけではないけれど、どうしても気になることがあった。

 

 この世界にはあの団長がいるのだから我らの団に所属しているハンターがいるはずで――それはどんなハンターなのかって。

 だって、ゲームではソイツが主人公だったのだから。

 

 う~ん、まだ何とも言えないところではあるけど……そう言うことなのかな? 我らの団と関わることはないだろうと思っていたのに、こんなこともあるんだね。

 

 ご主人と団長がどんな話をするのか気になったけれど、もし俺の予想が正しければきっと積もる話もあるはず。だから今は、ご主人が戻ってくるまでのんびり待つとしよう。

 

 

 

 

 

 ご主人さんが帰ってくるまでの間は、ちびちびとビールを飲んでいた。俺の正面には白ネコが座っているわけだけど、どうにもこの白ネコとは会話が噛み合わない。だから2匹の間で会話をすることもなかった。まぁ、以前本人も話すことが苦手と言っていたし、無理して話すこともないのかなって思う。それに俺だって、沈黙を無理やり会話で埋めたいと思うようなタイプでもないし、良しとしておこう。この白ネコと仲良くなりたいとは思うけれど、近づきすぎるのも良くないと思うんだ。

 そんな言い訳を頭の中でしていると、団長との話が終わったのかご主人は戻ってきてくれた。

 これで、また我らの団に戻ることになったとか言われたらどうしようか。そうなってもご主人についていきたいけれど、ついていって良いのか分からない。

 

「さっきの人は知り合い?」

 

 ご主人が帰ってきて直ぐ、白ネコがご主人に尋ねた。

 

「うん、ちょっと昔……このベルナ村へ来る前、お世話になっていたんだ」

 

 お世話に、か。その言葉だけじゃ何も分からないけど、少なくともご主人と団長の間で色々なことはあったはず。もし、MH4の主人公がこのご主人だったと言うのならなおさら。

 防具無しでダレンの背に乗り、ナグリ村やチコ村、そしてシナト村の人々の助けとなり、天廻竜をひとりで倒す。そんな物語があったのかも。ただ、あんまり深いことは聞けないよなぁ。知っているからこそ聞きにくいことだってあるのだから。

 

「え、えと、それでネコさんたちに相談……と言うか、お願いがあるんだ」

 

 さてさて、此処からが本題だ。悪いことばかりが頭の中に思い浮かんでしまうけれど、何をお願いされるのやら。

 

「どんなお願いニャ?」

「そのね、さっきの人からあるクエストを頼まれたんだ。それでそのクエストなんだけど――私ひとりで行きたいって思ってる」

 

 うん? なんか思っていたのと違う感じだ。そして、ひとりでってのはまたどうしたんだろうか。きっとご主人にもご主人の考えがあると思うけど……まぁ、気になっちゃうよね。

 

「お願いを聞くのは良いけど、それはどんなクエストなのかニャ?」

「……シャガルマガラって言うモンスターの討伐だよ」

 

 ……なるほど。

 

 ゲームの中で村クエのシャガルと戦うのは確かディノバルドを倒した後だったはず。だからゲームを基準に考えると戦うには少々早い。とは言え、ご主人の実力なら勝てるだろうし、もしご主人が我らの団のハンターだったと言うのなら、きっとシャガルとも戦ったことがあるはず。

 

「……どうしてご主人さんひとりで行くの?」

 

 ああ、やっぱり君も気になるよね。

 俺も白ネコもいくらネコとは言え、足手まといになるほどではないはず。それにシャガルだって弱いモンスターじゃないんだ。だから連れて行った方が良いと思うんだが……

 

「……私もね、色々と考えたんだ」

 

 ひとつ、大きく呼吸をしてからご主人がぽつりぽつりと言葉を落とし始めた。

 

「私はネコさんや白ネコさんほど上手くない」

 

 ん~……それはどうだろうか。俺もこの白ネコもスキルが揃っているから戦力になっているわけで、純粋な上手さで言うと微妙な気がする。それにネコと人間を比べてもなぁと思うところ。

 

 少なくとも俺はこれ以上スキル的な面で強くなることはない。今はどうにか戦力になれているけれど、これから先……高難度クエストなんかになってくるとそれもかなり厳しくなる。一方、ご主人はまだハンマーを使い始めたばかりだし、これからどんどん腕が良くなっていく。焦ったって仕様が無いけれど、どうなることやら……

 

「だからね、最近は私なんていらないんじゃないかなって思っちゃってた。ただ、やっぱり私もハンターでいたいから、せめてと思ってネコさんたちの力になれればいいなぁ、なんて思うようになったんだ」

 

 え? ご主人そんなこと考えてたの? 話が急すぎて、俺は今の状況にちょっと混乱気味なのですが……だって、ご主人にそんな素振りはないように見えたし。

 それにご主人だって慣れていない武器でアレだけ戦えているのだから、そんな気にするような事じゃないと思う。俺と違って伸び代がまだたくさんある。

 

 とは言え、ご主人がそう思っていたのなら俺から言えることは何もないわけですよ。

 確かに、自分よりオトモの方が上手いとなったらショックだし悔しい。もし、ゲームでそんなようなことになったら俺はオトモなんて連れて行かなくなる。そんな俺の考えとご主人の思っていることは全然違うかもしれない。でも、きっと同じ部分もあるはず。

 

「ただ、そんな考えのままじゃダメだってわかってる自分がいて……でも、どうすればいいのかわからなくて……そんな自分を変えたかった。自分を変えるきっかけがほしかった」

 

 ふむ……ご主人の気持ちを全部理解できたわけじゃない。できたわけじゃないけど、ご主人がどうしようとしているのかくらいはわかってきた。

 

「だからさ、今回はいい機会だって思ってる。今の私を変えて、ネコさんたちの主人として恥ずかしくないハンターを目指すきっかけになるって」

 

 シャガルをソロで倒すってのは、そのきっかけを作るため、ってことなんだろう。ただ、それでご主人が変われるのかは分からない。きっかけがあったところでソレを活かせるかどうかは全部自分次第なのだから。

 

 でも、ご主人がそう言うのなら俺は応援するだけだ。できれば俺もついて行って一緒に戦いたいけれど、それじゃあ意味がない。

 これはご主人専用のクエスト。それならご主人ひとりで頑張らないといけない。

 

「……ご主人ひとりでシャガルマガラは倒せそうかニャ?」

「え、えと……それはあまり自信ないかも……」

 

 ご主人……其処は嘘でも大丈夫とか言おうよ……

 いや、確かにシャガルは古龍だし強い敵で自信が湧かないのもわかるけどさ。

 

「でもね……それでも私は頑張ってみる。自信はないけど、頑張ってみる。だから、無事に私が帰って来たらまたよろしくね。ネコさん、白ネコさん」

 

 なんとも頼りない感じだったけれど、ご主人さんはそう言って笑ってくれた。

 

「うニャ!」

「わかった。がんばって」

 

 そんなご主人の言葉に俺と白ネコが言葉を落とす。

 

「うん、ありがとう。頑張るね。それに私もシャガルマガラとは色々あったんだ。そんなことも含めて今回は丁度良かったって思っているよ」

 

 ん~……やっぱりご主人は我らの団のハンターだったってことなのかな? この世界の我らの団がどんなことをしていたのかは分からない。でも、抗竜石が開発されたのは我らの団のおかげで、俺も抗竜石には何度もお世話になった。他にもあの旅団のおかげで色々な人々が救われてきたはず。

 そう考えると、このご主人ってかなりすごい人だよね。あの相棒なんかも今じゃすごいハンターだけど、世界への貢献度ならご主人だって負けていない気が……

 

「それで、シャガルマガラのいる場所が結構遠いから、暫くは帰って来られないんだ。ネコさんたちなら大丈夫だと思うけど、クエストへ行く時も気をつけてね」

 

 まぁ、禁足地……と言うか天空山って本当に遠いもんね。なるほど、つまりその間は白ネコと2匹だけになるのか。

 

 な、なにをして時間を潰そうか……これはまた胃が痛くなりそうだ。ご主人が早く帰ってきてくれることをひたすらに願おう。

 いや、やっぱりあの白ネコは苦手なんですよ。

 

「よし、それじゃあそう言うことでよろしくね!」

 

 俺には話が急すぎてついていけてないけれど、とりあえずご主人はこれで前へ進めるようになるはず。だから悪いことではないんだろう。

 それにしても……思っていた以上に頼りにされていたんだね。こんな身体のせいでどうにもそんな感じはしなかった。

 

 うむうむ、きっとご主人ならシャガルだって倒してくれるはず。だってこのハンターはもっともっとすごいことをやってきたのだから。

 

 こうして今、改めて思うんだ。本当に良いハンターのオトモになれたんだなって。

 ご主人も色々と考えてしまっているわけだけど、俺はご主人のオトモであることを誇りに思っています。だから、こうしてご主人のために頑張ろうと思えている。そしてそれは、ご主人が我らの団のハンターであると知らなかった時からずっと。

 

 それほどにこのご主人は良いハンターだって思うんだ。

 

 






次話はご主人さんがシャガルと戦うお話となりそうです


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