ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第30話~やっぱりなしで~

 

 

 ……驚いた。

 

 この世界にいることは知っていたし、いつか会いたいなぁって思ってはいたけど、まさか本当にあの娘と再会できるとは思っていなかったから。それもこんなにも早く。

 

 とは言え、本当に有名なハンターになっちゃったんだね。それはあの彼が原因だけど、私もちょっとは関係あるから悪いなぁって思う。ただ、同じパーティーの仲間が有名になるのは誇らしい。私は遠慮したいけど。

 

「えと、槌ちゃん。私も打ち上げに参加して良いかな?」

 

 あのホロロネコと何かしらの会話を終え、戻ってきてからあの娘はそう言った。

 

「は、はい! もちろんです!」

 

 どうにも緊張気味のご主人さん。憧れのハンターだって言っていたもんね。緊張してしまうのも仕方無い。

 あの娘とこうやって再会できたことは驚いた。けれども、これは嬉しい。信じてもらえるのかは分からないけど、あの娘には今の私のことを話しても良いと思っていたし。

 

 そして、あのホロロネコだけど……やっぱり普通のネコではないんだと思う。他のネコを見たことがなかったから、最初はまだよく分からなかった。でも、先日の闘技大会へ行って他のネコを見ることができ、あのホロロネコの異常さを理解。いや、まぁ、フレーム回避を多用している時点でおかしいとは思っていたけど。

 

 ただ、そうなるとこのホロロネコは何者かってことになる。

 

 本当にただのネコなのか――私と同じような人間なのか。

 

 でも、前者の可能性はかなり薄いと思う。それはあの闘技大会のことであったり、ホロロネコが過去の話をしてくれないことからそう考えた。

 じゃあ、後者。私と同じ人間となると……望んでしまうことがあるのです。そうであったら良いなぁって思ってしまうのです。

 

 それは酷く自分に都合の良いことで、そんな都合の良いことなんてあるわけがないとも思う。でも、あのホロロネコのハンマーに関する詳しさだったり、その性格だったりと全てが全て私の望んでしまっている方向に進んでいる。

 

 その分、私の考えが間違いだった時は落ち込むと思う。だから、本当のことを聞くのは怖かった。今の状況だって不満に思っているわけではないのだから。

 それでも、自分の気持ちには嘘をつけないわけで、どうしたものかなぁって思う。

 

「ありがとう。それと初めまして。白ネコちゃん」

 

 ご主人さんの隣に座ったあの娘がそう私に声をかけてきた。

 初めましてじゃないんけどなぁ。まぁ、私が私だとあの娘は知らないわけだしそれも仕方無い。あの娘と再開できたのは嬉しいけど、なんとも複雑な状況だ。

 

「……ハンターさんにちょっと話したいことがあるにゃ」

 

 そんななんともモヤモヤした状況は嫌だったから、早々に動くことにする。あのホロロネコが彼かどうかは分からない。でも、もし彼だとしたら色々が繋がる。それに、この娘とホロロネコは親しいみたいだし、話をする価値は十分にある。

 

「えっ? う、うん。わかりました」

 

 振り回しちゃってごめんね。でも、こればっかりは伝えた方が良いと思うの。

 

 

 

 

 さっきのホロロネコみたいにご主人たちから少し離れた場所へ。

 

「えと……それでどうしたのかな?」

 

 そう言えば、さっきはどんな話をしていたのかな? 戻ってきたホロロネコのテンションが低かったから、楽しい話をしていたわけではなさそうだけど。

 

 さて、まずは何から話をしよう。私が私であることを伝えちゃった方が楽だけど、伝えにくい。どうやって話せば良いのか全然わからない。

 

「あのネコって何者?」

 

 だから、まずはあのホロロネコのことを聞くことにした。

 

「ん~……どう言えば良いのか分からないし、私もあのネコちゃんから直接教えてもらったことはないんだ。だから、今の君にはまだ教えられないかな」

 

 まぁ、そうだよね。

 今の私はただのネコでしかない。そんな私に教えることはできないってことだと思う。でも、この娘のこの言い方は、まるで……

 

「つまりね……君は誰なのかな?」

 

 私を真っ直ぐ見ながら、あの娘がそう言った。

 

 

「あの彼の彼女。貴方と同じパーティーのひとり」

 

 

 はい、言ってやりました。

 悩んでいるのは苦手だし、こう言うのはさっさと進めてしまいたい。

 

 そんな私の言葉に対して、あの娘は特に驚くようなこともなかった。察しの良いこの娘のことだし、なんとなく予想はしていたのかな。

 

「……そっか。うん、色々と繋がった。ふふっ、久しぶりだね、笛ちゃん。ちょっと小さくなった?」

「中は変わってないから大丈夫」

 

 それに私だって少しは大きくなったのだ。この娘にはまだ負けてるけど……どこがとは言わない。言いたくない。

 

 さて、此処までは良いのだ。問題はこの後。今のパーティーに不満はないし、あのご主人のためホロロネコと一緒に頑張ろうと思っている。でも、できれば知っておきたい。

 

 ばくばくと暴れる心臓。僅かに乱れる呼吸。

 それ以上に膨らむ期待。

 

「それで、あのネコは?」

 

 私が聞いた。

 

 

「……さっきも言ったけど、直接教えてもらってはないんだ。でも――間違いなくあの彼なはずだよ。私に対してはもう隠す気もないみたいだし」

 

 

 あの娘が答えた。

 

 

 そっか。そうなんだ。……うん。よかった。

 

 本当に良かった。

 

 最初にこの世界へ来た時はずっと私ひとりだった。あの彼と会うまで一年の間。……その期間は辛かったかな。どうしてこんなことになっちゃったのかなぁって思いながら、でも何かをしていなければ壊れてしまいそうだったから、ひたすら狩りを続けていた。誰かに頼ることなんてできなかったから、ひとりでずっと。

 

 そして、あの彼と出会ってからそんな生活とは一気に変わった。それからは楽しかったと思う。心の底から。あの時、私の中にあったちっぽけな勇気を振り絞って彼へ声をかけて本当に良かったと思う。

 それから色々とあったわけだけど、どうにかできたのは彼のおかげだと思っているし、そんな彼を好きになったのも自然だと思う。

 

 ダラを倒して元の世界へ戻り、それでもまた彼と再会することができた時は本当に嬉しかったし、ずっと一緒にいたいと思った。

 その後、またこの世界へ来ることになったけれど、その時は彼と一緒だったからそれだけで私は満足だったし、あの娘たちとも無事合流することもできた。

 

 そして、元の世界へまた戻り、気がつけばまたこの世界。身体は小さくなっているし、そもそも人間の体じゃない。

 

 何より――あの彼がいない。そのことが一番辛く感じた。

 

 けれども、今日こうやって彼と再会することができたのだし、私はもう大丈夫。これで私は前に進むことができる。

 本当に良かった……

 

「それで、笛ちゃんはこれからどうするの? 彼にはまだ伝えてないみたいだけど」

 

 うん、まだ伝えてない。予想……と言うより、あの彼だったら良いなって思ってはいたけど、確信していたわけじゃなかったから。

 

「確認もできたから話しちゃおうと思う。ただ、貴方たちのところへ行くことはできないかな」

 

 また4人一緒にクエストに行きたいと思っているけど、今の私はあのご主人さんのオトモ。だから、あのご主人さんのために頑張りたい。それにあの彼が一緒なのだから、きっとあのご主人さんを立派なハンターにするお手伝いがちゃんとできるはず。

 自分で言うのもアレだけど、私たち以上のオトモはいないと思う。世界を2回も救ったオトモはそんなにいないだろうから。

 

「そっか。ふふっ、槌ちゃんもいいオトモさんがついてくれたね。うん、笛ちゃんたちなら安心だ。それにしても、笛ちゃんはこうして素直に教えてくれたって言うのに、あの彼はどうして素直に教えてくれないのやら……」

 

 そう言う性格だもん、仕方無い。あの彼は何か悩みがあっても、全部自分の中へ押し込んでしまうような性格。

 私は思うことがあったらちゃんと言って、っていつも言っていたんだけどなぁ。

 

「それじゃ、そろそろ戻ろっか。あっ、槌ちゃんには教えるの?」

「ううん、ご主人さんにはまだ秘密にしておく。もし知ったら多分混乱させちゃうもの」

 

 どうやら、私たちのパーティーを尊敬しているらしいし、あのご主人さんがハンマーを使い始めたのはあの彼を見てかららしい。そんな存在が今、こうやって自分のオトモをしていると知ったら色々大変そうだ。

 だから、ご主人さんには申し訳ないけど伝えないでおく。

 

「うん、そうだね。槌ちゃんには教えない方が良いかも……」

 

 さて、お話も終わったし戻らないとだ。

 そうしたら彼に私のことを伝えて……あの彼のことだし、まだ私が私だとは気づいていない。ふふっ、私が私だと知ったら、彼はどんな反応をしてくれるだろうか。きっとすごく驚いてくれるはず。

 

 今まで恥ずかしさを抑えてにゃーにゃー言っていた甲斐も……うん?

 

 うん?

 

「ちょっと待って」

「えっ? あ、うん、どうしたの?」

 

 ちょっと待って、待ってください。

 いや、そうじゃん、私はあの彼の前でずっとにゃーにゃー言っていたのか。

 

 

 私が……にゃーにゃー?

 

 

 ヤバい。

 

 本当にヤバい。ちょ、ちょっと待って、待ってください。これは恥ずかしい。すごく恥ずかしいです。

 でも、あの彼だって私と同じようにニャーニャー……いやいや、そう言う問題じゃなくて私がにゃーにゃー言っていたことが問題でして、私が私と伝えると言うことはそんな恥ずかしいことをしていたと教えるようなものでして、自分で言うのもアレだけど、彼の前では一生懸命クールっぽいような女の子を目指していたんです。私も彼の前では良い格好していたつもりで、やっぱり彼の前ではそうやって格好をつけたかったわけです。だって好きな相手の前なわけですし。そうだと言うのに、こうして伝えてしまうと私が今まで一生懸命コツコツと積み上げてきたものをぶち壊してしまうわけで、それは心からマズいと思うわけで……いや、じゃあどうするかってことだけど、どうしよう。ああ、これはマズいぞ。記憶か、彼の記憶を消せば私の痴態も消すことが……

 

「記憶を消すのってどうすれば良いかな?」

「いや……何言ってんの?」

 

 残念ながら今の身体は小さい。昔だったら笛でスタンプをするだけだったけど、今じゃそんなこともできない。大タル爆弾でも使えば……

 ああ、でもそんなことをしたら私の存在自体……いやいや、落ち着け。そもそも記憶を消すことができるのかもわからない。

 

 ……うん。決めました。

 

「やっぱり、彼にはまだ教えない」

「あっ、はい。わかりました」

 

 それが正解だと思う。

 

 

 


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