ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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大量の誤字報告に感謝、感謝




第29話~離れたからこそ~

 

「え、えと、今日はどうされたのですか?」

 

 さて、相棒さんがこうしてまた来やがったわけだけど、何の用事があるのやら……

 申し訳ないけれど、これからご主人もどんどん忙しくなるだろうし、クエストを手伝うのは勘弁してもらいたいところ。むしろ、此方が手伝ってもらいたいぐらいなのだから。

 

「近くまで来たからちょっと寄ってみたんだ。槌ちゃんとも会いたかったし」

 

 そうやって相棒さんが言うと、ご主人はすごく嬉しそうな顔をした。まぁ、憧れているハンターに会いたかったと言われたのだからそりゃあ喜びはするだろう。

 そしてどうやら、面倒なことにはならなそうですね。また二つ名モンスターと戦うことになるとかは遠慮したいです。強い敵とは戦いたいけれど、今は他にやらなきゃいけないことがあるのだから。

 

 んで、さっきから白ネコがワインの入ったグラスを持ったまま固まっているけれど、どうかしたのかな? 急に有名なハンターが現れたから驚いているのだろうか。

 

「って、あれ? 初めて見るネコちゃんがいるけど……そのネコちゃんも槌ちゃんのオトモなの?」

「はい、最近オトモになってくれた子です!」

 

 相棒の言葉に対し、ご主人がそう応えると相棒さんがものすごく良い笑顔になった。絶対に意地悪なこと考えてるよ、これ。

 

「へー、そっか、そっか……うん、パーティーも賑やかになって楽しそうだね」

 

 まぁ、そうですね。確かに賑やかにはなったし、この白ネコのおかげでパーティーもかなり強くなった。それはすごく良いことなわけですが……やっぱり色々考えちゃうんだよなぁ。

 

「あっ、ちょっとネコちゃんを借りても良いかな? 話したいことがあるんだ」

「はい! いくらでもどうぞ!」

 

 だから、ご主人はそうやって俺のことを物みたいに扱わないでほしいのですが……力関係的には物扱いされてもおかしなことじゃないけど。

 

 はてさて、この相棒が話したいこととはなんでしょうね?

 

 

 

 

 相棒さんに言われ、ご主人たちから少し離れた場所へ。

 

「新しいオトモ増えたんだね!」

 

 すごく良い笑顔。何を考えているのか分かったものじゃないし、分かりたくもないかな。だってコイツ、絶対に悪いこと考えてるもん。

 

「……そうだな」

 

 今のパーティーに文句は何もない。ただ、ちょっとゴタゴタしちゃっているせいで、少しの失敗だけで崩壊してしまいそうな感じがある。人間関係とかそう言うことで。

 そう言う問題を考えるのは苦手なんです。俺が初めてこの世界へ来たときも、色々と問題のあるパーティーだったけれど、そこはあの彼女が頑張ってくれたりしたおかげでどうにかなった。俺ひとりじゃどうなっていたのやら……

 

「あの白ネコちゃんってどんな感じなの?」

「……上手いよ。ひたすらに上手い。少なくとも俺と同じくらいは」

 

 俺よりも上手い気がしないでもないけれど、そこはほらプライドとかが邪魔をしたので、そう言ってみました。

 あの白ネコにどんな過去があったのかは知らないけれど、ネコよりも下手と言うのはちょっと凹む。

 

 そして、そんな俺の言葉に相棒は酷く驚いたような顔をした。

 

「えっ? ほ、本当ですか? 君と同じくらい?」

「うん」

 

 いや、俺だって最初は驚いたよ。でもそれは事実なんです。パーティー的には有り難いことだけど、気分はやっぱり複雑。

 俺程度の実力じゃ無双することなんてできないし、勇者様プレイをしたいわけでもない。そうだと言うのになんともモヤモヤするんです。苛立つと言うよりは、悔しいと言う感じが強いわけですが。

 

「ほえー、そんなアイルーちゃんがいるものなんだね。ちょっと信じられないけど……バルバレでアイルーちゃん専用の闘技大会を見に行ったとき、君ほど上手いアイルーちゃんいなかったもん」

 

 そうなんだよなぁ。

 闘技大会に出るくらいなのだし、あのネコ達だって下手ではないと思うんだが、やっぱりネコはネコだった。だから余計に分からなくなるわけですよ。

 

「ふふっ、じゃあもしかしたら槌ちゃんのオトモをクビになっちゃうかもね」

 

 ……なんでこの人はそんな良い笑顔で鬼みたいなことを言うのだろうか。俺が今一番心配していることなのに。

 クビになるのだけは嫌なんです。せっかくこの世界へ来たのだから、やっぱりモンスターと戦いたい。その気持ちはこの小さな身体になったところで変わらないのですよ。

 

「でも、もしクビになっても私が拾ってあげるね! 弓ちゃんも君とまた会いたがっているみたいだし」

 

 冗談なのか本音なのか……

 ただ、正直嬉しい提案ではあります。保険をかけているみたいだし、まるで自分の実力に自信がないみたいですごく気分は悪いけれど――

 

 

「そ、その時はよろしくお願いします……」

 

 

 そう言葉にしてしまうくらいは追い込まれていたりするんです。

 いや、自分でも情けないなぁって思っていますよ? でもさ、あんな上手い奴が一緒にオトモやっているとそう思っちゃうんです。

 

「えっ? はい? い、いや、そりゃあもしそんなことになったら直ぐ、君を捕まえに行くけど……え? そ、そんなにあの白ネコちゃんって上手いの?」

 

 はい、そんなに上手いんです。1匹でも問題なくクエストをクリアしていってしまうくらいには。集会所でもオトモは2匹まで連れて行けるそうだけど、今の立場はかなり崖っぷち。不安しかありません。

 ホント、こればっかりは予想外だった。何と言うか……窓際社員が転職先を探しているような状況です。

 

「……クビになると決まったわけじゃないけど、もしかしたらまたお世話になるかもしれないかな」

 

 そうやって俺が言うと、相棒さんはなんとも複雑な顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 旧砂漠でテオ・テスカトルの討伐を終えた帰り道。

 ちょっと遠回りになってしまうけれど、彼や槌ちゃんと会っておきたいなぁって思い、ベルナ村を訪れた。やっぱり彼とは会いたかったから。色々とあったけれど、あの彼とはそれなりに長い付き合い。今はちょっと小さな体となってしまっているけど、あの彼であることに違いはない。

 それにこうやってちょこちょこ会っておかないと、あの彼って直ぐに何処かへ行っちゃいそうだし。

 

 そして、ベルナ村へ着くとちょうど打ち上げをしているところ。そこには見覚えのないアイルーちゃんが一匹。白色の毛が特徴的なアイルーちゃんだった。

 

 オトモは2匹まで連れて行けるわけだから、新しいオトモが増えても不思議じゃない。あの彼がいるのだし、増やさなくても良いとは思うけど。槌ちゃんだって彼の実力は分かっているだろうし。

 それで、その白ネコちゃんを見たとき、ちょっと色々と思うところがあった。それは、意地悪なことのように見せかけた私の本音。やっぱり私もあの彼と一緒に狩りをしたいんです。先日のナルガクルガとの戦いはかなり厳しいものだったけれど――それ以上に楽しかった。それはあの彼がいたからだと思う。

 

 だから、私はもしクビになったら私たちが拾ってあげると言った。そうなれば嬉しいなって思うけど、あの槌ちゃんだって彼がいなくなったら困るだろうから冗談のような口調で。

 

 ただ、彼からの返事には驚きました。

 

 ――そ、その時はよろしくお願いします……

 

 彼の実力を考えたらクビになるわけがない。そうだと言うのに、そんなことを言うんだもん。

 彼は色々と考え過ぎちゃう人(今はネコだけど……)です。長い付き合いなのだし、それはよく分かっている。私に対してよく、自信を持て! だとかあの彼は言う。彼だって自分に対して自信を持ってないくせに。

 今では私もそれなりに有名なハンターとなってしまったけれど、私からして見ればやっぱり彼は私よりもずっと上手い。その知識量もそうだし、ハンターとしての実力も。私にとって彼は憧れのハンターで、大切な人。それはアイルーちゃんの身体となってしまった今も変わらない。

 

 そんな彼が、あの白ネコちゃんが自分と同じくらい上手いと言った。最初はただのお世辞かなぁって思った。

 そして、あのセリフ。

 フルフェイス防具のせいで彼の表情は見えない。でも、どんな表情をしているのか予想できちゃった。

 

 う~ん……あの彼と同じくらい上手いアイルーちゃんですか……正直、そんなの信じられるわけがない。先日見に行ったアイルーちゃんの闘技大会も――ああ、うん。ネコだもんね、仕方無いね。って感じだったし。

 けれども、あの彼はやっぱり上手い。それは小さな体となってしまった今も変わらない。ナルガクルガと戦ったあのクエストのことを考えるに確かなこと。

 そもそも、彼と同じくらい上手いアイルーちゃんが沢山いるのなら、ハンターなんていらない。だから、あの白ネコちゃんが異常なんだと思う。実際にあの白ネコちゃんの動きを見ていないからなんとも言えないけど……

 ただ、彼の口調的に、嘘ではなさそうです。

 

「今日は直ぐに帰っちゃうのか?」

 

 むぅ、あの彼と同じくらい上手いとなると……私には笛ちゃんくらいしか思いつかない。

 そう言えば、笛ちゃんはどうしたのかな? 彼が話をしてくれないせいで、二人の詳しいことは未だに知らない。彼が話してくれないせいで!

 

「一日二日くらいならのんびりできるよ。ドンドルマは弓ちゃんが頑張ってくれているし」

 

 私が知っていることと言えば、あの二人がこの世界の人間ではないと言うこと。後は、元の世界でも彼と笛ちゃんが一緒にいるってことくらいだ。

 

「……それ、直ぐに帰らなくて良いのか?」

 

 う~ん、笛ちゃんはこの世界へ来てないのかな? もし、あの白ネコちゃんが笛ちゃんだと言うのなら全部繋がるのだけど、彼の口調的にそうではなさそうなんだよね。

 てか、そもそもどうして彼はアイルーちゃんになっているのさ。そう言うものだと思っていたけど、改めて考えると意味が分からない。

 

「相手はオオナズチだし弓ちゃんなら大丈夫だよ」

 

 相変わらず不思議な人だね、君は。

 そして悩んでいる彼には申し訳ないけど、今の状況は……何と言うかちょっと嬉しいです。

 

「ああ、それくらいなら大丈夫そうだな。そんじゃ、そろそろご主人のところへ戻ろうか。打ち上げもまだ始まったばかりだし、君も参加したらどう?」

 

 彼は色々と考え込んでしまう人だ。でも、その考え込んでしまったことは全て自分の中へ押し込んでしまう。

 もっと私たちを頼りにしてくれたって良いのに、全部自分でどうにかしようとする。私から彼に相談することはあっても、彼から私に相談してくれることはほとんどなかった。だから、私は彼の弱い部分を知らない。それは彼の良いところで、悪いところ。

 

「えっ? いいの? そりゃあ、是非参加したいけど」

 

 そんな彼が今はこうやって私に悩みを話してくれている。

 少しは信頼されていたのかなって思えてそれが嬉しい。

 

「うん、ご主人だって喜ぶと思う」

 

 今はこうして離れ離れとなってしまったけれど、何処かで繋がっていたのかなって思える。少し離れてしまったからこそ、繋がりが強くなることもあるのかな?

 

「ふふっ、ありがと。それじゃあ、よろしくね」

 

 もうあの頃に戻ることはできないけれど、今は今で結構楽しいって思える自分がいたりします。

 

 

 


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