ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第21話~限界~

 

 

 ナルガを追って再びエリア6へ。

 鬱陶しいことに、ナルガの目は怪しく光っていた。つまり、怒り状態。俺の防御力で大技を喰らえば一発で乙ることだってあるだろう。

 それでいて、此方は2乙。ドングリも残っていないし、まさに絶望的状況。

 

 馬鹿みたいに心臓は暴れ、呼吸だって荒れている。自分の呼吸と心臓以外の音は消え、視界からは色も消えてしまっていた。

 けれども、時の流れは遅く感じ、今なら1F単位の動きだってできるんじゃないかってくらいだ。それは随分と久しぶりの感覚。

 

 つまり――悪い気分じゃあない。

 

 もう色々と考えるのも、うだうだと言い訳を重ねるのもやめようか。目の前のコイツを倒すことは難しい。それでも、ただで負けてやれるほど、俺はできた人間じゃない。

 

「来るよ!」

 

 誰かの声がした。そして、ナルガは長い時間の構えから連続飛びかかり攻撃。

 敵の行動ひとつ一つで空気が震える。

 

 相手の攻撃は速い。つまり、その分フレーム回避はずっとやりやすい。

 最後の飛びかかりを軸避けしてから、尻尾の傍へ。回転攻撃に派生。威嚇が確定。

 

 回転攻撃、フレーム回避。そして、威嚇中のナルガの顔へブーメランを2発。反時計周りでの尻尾振り。ステップなしで軸避け。ブーメランを顔へ一発。時計回りでの尻尾振り。ステップでフレーム回避。反撃は間に合わない。

 

 ……此処まで戦って漸く、コイツにどう立ち回れば良いのかがわかってきた。まず、飛びかかり攻撃と、尻尾叩きつけ攻撃以外のフレーム回避はそれほど難しくない。尻尾振りも根元部分は判定が厚いけれど、尻尾へ対して垂直に避けることを意識すれば避けられる。

 ただ、一番問題なのが距離を取られること。距離を取られると、此方から反撃できなくなり、相手はひたすらあの真空波を飛ばしてくる。だから、できる限り張り付く必要があった。

 けれども張り付こうとすると、どうしても相手から攻撃を受ける頻度は増える。死と隣合わせのフレーム回避を何度もしなければいけなかった。普通に考えたら、そんな馬鹿なことはするべきじゃない。

 

 それでも、今ばかりは馬鹿なことをさせてもらおう。どうせ普通にやったって勝てない相手。それに、今なら何回でもフレーム回避を成功させる自信はある。

 

 再び、ナルガが飛びかかり攻撃の構えをした。

 軸をずらしてから此方もブーメランを構え、連続飛びかかり攻撃を始めたナルガの進行ルートへブーメランをひとつ。そして、すれ違いざまにブーメランをもう一発。

 

 そこで、足怯みからのダウンを奪った。

 

「ナイス!」

 

 顔の前に移動し、とにかくブーメランを叩きつける。

 怪しく光っていたナルガの目も戻り、今は通常状態。畳み掛けるチャンス。

 

「乗ったよ!」

 

 誰かが乗ったことを確認してから、切れていた貫通ブーメランと巨大ブーメランの術をかけ直し。その二つの術を発動させたところで、乗りが成功。

 ダウンしたナルガへ3人でラッシュ。其処で、本日2回目の睡眠を奪った。

 

「っと、爆弾調合して……ああ、さっきしたんだった。あっ、弓ちゃん落とし穴お願い」

「はい、分かりました」

 

 ひとりが爆弾をもうひとりが落とし穴を設置したところで、起爆。怒り状態となり、ステップをしたナルガが落とし穴の中へ。ナイス。

 

 再び、3人で落とし穴へ入ったナルガの顔へ総攻撃。

 落とし穴から出たナルガは直ぐに、尻尾叩きつけ攻撃の構えを見せた。

 

「弓ちゃん、あの攻撃来るよ!」

「っ! りょ、了解です!」

 

 叩きつけを軸避け、ブーメランを一発。尻尾の刺を抜く動作はなし。回転攻撃、威嚇が確定。

 回転攻撃、フレーム回避。威嚇時にブーメランを2発。尻尾振り攻撃、フレーム回避。ブーメランを一発。そこで、もう一度足怯みのダウンを奪った。

 

「……すご」

「世の中には上手いネコもいるものですね……」

 

 ダウンしたナルガへ全員で総攻撃。

 そして、起き上がったナルガが脚を引きずった。

 

「おおー、あと少し!」

 

 脚を引きずり、エリチェンをする前にブーメランを当て、ダメージを稼ぐ。けれども、残念ながらエリア6で倒しきることはできずナルガはエリチェン。

 とは言え、これで本当にあと少し。寝る場所はエリア9。急いで向かうとしよう。

 

 

 そう考えてから、動き出そうとした時だった。

 

 

「えっ? ネ、ネコちゃんどうしたの?」

 

 あら? 足が動かない。なんだこれ。

 白黒の視界は少しずつ少しずつ狭くなり。自分の呼吸と心臓の音すら聞こえなくなり始め……俺の意識は其処で途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 パチリと目を開け、身体を起こすと心地よい風が自分の身体を撫でた。

 

「あっ、おはよう、ネコちゃん。身体の調子は大丈夫?」

 

 そんな相棒さんの声。

 え……え? 何これ、何がどうなってんの?

 

 クエストはどうなったんだ、とか。此処はどこなんだ、とかで頭がちょいと混乱。

 自分の周りを見て、どうやら飛行船の上らしいことは分かった。けれども、此処へ来るまでの記憶がない。

 

「ク、クエストは? クエストはどうなったんだ?」

「んもう、そんなことより自分の心配をしなよ。急に君が倒れちゃって、私たちだって心配したんだから。はぁ……クエストは成功だよ。討伐じゃなくて捕獲だけど」

 

 おおー、捕獲できたのか。そりゃあ良かった。攻撃を食らった記憶はないけど、俺が3乙目を決めちゃったのかと思って滅茶苦茶焦ってたんだ。

 

 クエストが無事に終わったことがわかり、一気に疲れの波が押し寄せてきた。身体が重く、なんだか頭もボーッとする。戦っていた時間は30分くらいだと言うのに、情けないなぁ……ゴグマジオスの時はもっと長い時間戦えていただろうに。

 とは言え、クエストは成功したらしいし、良しとしよう。これで失敗していたら流石に申し訳ない。俺みたいな名も知れていないネコがクエストを失敗したところで、世間は何とも思わないだろうが、相棒や弓ちゃんみたいなハンターがクエストを失敗したとなると、色々噂になりそうだし。

 

「それより、身体は? 大丈夫なの?」

「うん? ああ、大丈夫ニャ。ちょっと疲れが残っているくらいニャ」

 

 正直、今直ぐにでも寝たいくらい疲れています。

 まぁ、相手はあの二つ名ナルガなんだ。疲れるのも仕方無い。ホント、よく勝てたよなぁ……。流石はこの二人と言ったところだろう。それに、俺も装備を新しくしておいて本当に良かった。睡眠爆破が2回できたのはかなり美味しい。

 

「お疲れ様でした。ネコって皆、貴方みたいに上手いのですか?」

 

 そして、弓ちゃんが登場。

 俺は疲れたしもう一眠りしたいんだけど。

 

「えと……それはわからないニャ。ただ、ボクよりも上手いアイルーは沢山いると思うニャ」

 

 多分、きっと……いるのかなぁ。俺はかなり特殊だし……ま、まぁ、世界は広いんだ。きっと上手いネコだって探せばいるだろう。

 

「そうですか……世界は広いのですね。終盤の貴方みたく、あんな滅茶苦茶な戦い方は久しぶりに見ました。貴方を見ていると色々思い出します」

 

 そんな弓ちゃんの言葉を受けてか、相棒が吹き出した。

 ……こんな時、どんな顔をすれば良いのだろうか。そんな滅茶苦茶でもなかったと思うんだけど……。それにアレくらいしないと勝てる相手じゃないだろうし。てか、そもそも俺の攻撃がどれくらい通っていたのかわからない。ダメージソースのほとんどはこの二人だったと思っている。それなりに攻撃していたと思っていたけど、結局俺はスタンを取れなかった。つまり、まぁ、その程度の戦力だったってこと。

 せめて剣士ならもう少し戦力になれたと思うけど……難しいものですなぁ。

 

「とりあえずさ。クエストも無事に成功したんだし、帰ったら打ち上げやろうよ、打ち上げ」

 

 いつかのように、嬉しそうな顔をしながら相棒がそんな言葉を落とした。

 ん~……打ち上げかぁ。参加しても良いけれど、それに参加しちゃったら帰りが更に一日伸びちゃうよね。待ってくれているかは分からないけど、ご主人を一人にしておくってのも……それに、あまり帰りが遅いともしかしたら、新しいネコを雇ってちゃったりするかもしれない。そうなったら流石に泣く。割と崖っぷちの状況なんです。

 

「えと、ボクはそろそろベルナ村に戻ろうと……ああ、いえ、是非参加させていただきます。打ち上げ楽しみだニャ」

 

 わーい、皆で打ち上げだー。

 断ろうかと思ったら、相棒さんにすごい顔をされた。『お前の秘密、バラすぞコノヤロー』的な顔だった。弓ちゃんにバレるのだけは回避したいんです。弓ちゃんにバレたら絶対にネチネチといじめられる。

 

 ホント、立場弱いなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、次の日。

 あの二人と別れる時が来ました。色々とあったけれど……うん、なかなかに楽しめたと思う。

 

「ホントに素材いらないの? どちらかと言うと君がもらった方が助かるんじゃない?」

「ボクにはまだ必要ないから大丈夫ニャ」

 

 あと、二つ名ナルガの素材はもらわないことにしておいた。此処で素材をもらっておけば、白疾風ネコ装備一式ができると思う。そして、白疾風ネコ装備は強い。ものすごく強い。多分、上位装備でも上から数えた方が早いくらいだろう。

 だから、此処でもらっておけばかなり助かるのだけど……やっぱりほら、あのクエストで俺は倒れちゃったわけだし、素材をもらうのは申し訳なく思っちゃうのですよ。下位ナルガくらいなら良いかなぁって思っていたけれど、二つ名ナルガは流石に無理です。ちっぽけなプライドが邪魔をするのです。

 

 それに、あのご主人と一緒に装備も強くしていきたいなって思うんだ。

 強い装備には憧れるけれど、それをこんな形で手にするのはちょっと違う。別に楽して手に入れたとも思っていないけれど、少しずつ少しずつ成長していった方が絶対に面白い。

 モンハンはソレが面白いと俺は思っている。

 

「う~ん、君がそう言うのなら……」

 

 うん、それで良いんです。

 せっかくこの世界へ来ることができたんだ。それなら全力で楽しみたい。今回は寄り道するくらいで丁度良いのです。

 

「それじゃ、ボクは帰るとするニャ」

「うん、またねネコちゃん」

「また会いましょう。私も今度はもう少し上手くなりますので」

 

 いや、弓ちゃんは今でも十分すぎるくらい上手いと思うけど……ソロで古龍をバシバシ討伐するハンターが何を言っているんだか。今回は相手と防具が悪かっただけでしょうが。

 

 そんな二人と別れの言葉を交わし、飛行船へ。

 さてさて、それじゃご主人のところへ戻るとしようか。今回は完全に寄り道となってしまったけれど、たまにはこう言うのだって悪くはないはず。

 

 あの二人に負けないよう、俺も頑張って上手くならないとだ。

 

 







~お遊び的な予告~

※この通りになるとはかぎりません
てか、なりません


「あっ、お帰りネコさ「……えっ? ボ、ボクは捨てられ「うニャー、今日もチーズが美味し「私はフェニーよりプーギーが「あっ、ちょ、タ、タイムで「……いや、あのネコ、上手くね?「それじゃ、サクッと倒してこよっ「乗ったー「ぐぅれい「世界は広いニャ…「ブシドースタイルって初め「振り向きへ合わせてスタ「……ねぇ、もしかして貴方っ「あー、ハンマー振り回し「だって、あの人が使ってい「……ダブル属性強化速射ライト「やめたげて「闘技大会かぁ…「んで、どうして、お前がいる「メンバーだけは豪華だ「……ただし、相手はアルセルタ「2分くらいで終わ「えっ……ネコさんがあの「釣勝負だ「あっ、黄金魚狙いの術は……おいコラ、目を合わせ「貴方がいたからきっと私が「ネコだってやればできるん「それでも私はハンマーが好「でも、浮気は許さな「ち、違う! 俺は笛さん一筋で「イカ可愛いで「イカじゃない、まだイカじゃ「シャガルマガラは戦ったことのあ「いやほら、ラージャンも木から落ちるって「だから、あのゴリラは木に登ら「……獰猛化は聞いてな「ん~、この4人が揃うのって本当に久しぶ「世界を救って以来じゃ「……負ける気はしな「そんじゃ、もっかい世界を救うとしましょうか」


「……え、コイツ倒して終わりじゃないの?」


では、次話でお会いしましょう

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