ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第19話~予想外~

 

 

 寝不足のせいか目蓋は重く、いつもより若干狭くなった世界へ差し込んだ陽の光はやたらと眩しく感じた。

 昨日もほとんど寝てないから、ホント眠いんです。

 正直なところ、今すぐに寝てしまいたい。それも自分の家でゆっくりと。しかしながら、そんなことはできそうにないわけですよ。

 

「ん~……早起きするのも気持ちがいいね!」

 

 大きな伸びをしながら俺の隣に立っている奴が、そんな言葉を落とした。

 

「君もそう思わない?」

「ひたすらに眠いです」

 

 だってそもそも俺は寝てないんだ。早起きとかそう言う話じゃない。

 はぁ、どうしてこんなことになっちゃったんだろうね? せめてご主人が一緒にいてくれればまだ良かった気がする。ご主人がいれば、面倒なことになった時、押し付けられるわけですし。

 けれども、今は俺とこの相棒さんの二人きり。逃げることなんてできるわけがない。コイツもコイツで何を考えているのやら……

 

「……んで、どうして俺が行かないといけないの?」

 

 本当にそれがわからない。

 相棒曰く、強いモンスターがいるから手伝ってくれとのことだったけど、この相棒ならまず大丈夫だろう。それにあの弓ちゃんもいるっぽいし、俺なんて絶対にいらない。だいたい、あの二人でダメなら俺だって無理です。

 

「んもう、またそんなこと言って。……別に手伝ってくれたっていいじゃんか」

 

 あっ、いやそれは……まぁ、はい。そうですね。お手伝いします。

 はぁ……立場弱いなぁ。それもこれも全部俺がいけないんだけどさ。ホント、申し訳ないとは思っているわけですよ。

 

「……それに、どうせ君から私たちのところには来てくれないんでしょ?」

「そりゃあ、そうだろ」

 

 だって、今は他にやらなきゃいけないことがあるし、お前ら二人でも充分やっていけてるみたいだし。

 

「そこは嘘でも違うとか言ってよ……」

 

 ため息混じりの相棒さん。

 とは言っても、そもそもこんな姿だ。俺がいたところで戦力になんてほとんどならないと思うぞ? 武器も防具も下位装備。そんな状態でお前らが普段戦っているG級のモンスターを相手にするとか絶対無理です。G級モンスターってのはそれほどに強いのだから。

 

「そう言う問題じゃないの」

 

 そう言う問題じゃないのか……

 でも、足を引っ張るのは嫌なんです。そして何より、今はご主人を立派なハンターにするため、頑張らないといけないんです。

 

「それで、その強いモンスターってのは?」

 

 相棒が龍歴院へ来た理由なんかを考えると、なんとなくどのモンスターがターゲットなのかわかるけど、一応聞くだけ聞いてみる。

 しかし、このままじゃ、この相棒さんがパッケージモンスターを全部倒しちゃうんじゃ……

 

 

「んとね。ナルガクルガって言うモンスターだよ。なんでもすごく強いんだって」

 

 

 おろ? ナルガが相手なの? ユクモ村だし、タマミツネが相手なんだろうって思い込んでいた。確かにナルガの危険度はタマミツネと同じだし、強いモンスターと言えば強いモンスターだけど……いや、お前らなら絶対大丈夫だろ。

 ナルガはMH4Gに出ないモンスターだけど、癖が強いモンスターでもない。確定行動も多いし、理不尽な当たり判定もない。2Gの時と比べればかなり優しくなったと思う。

 

「ナルガねぇ……ホントに俺が行く意味あるの?」

 

 ナルガ素材が手に入ると考えれば嬉しいし、ナルガは戦っていて面白いモンスター。だから、そこまで文句はない。だからと言って、この相棒さんや弓ちゃんと一緒に戦うとなると……まぁ、色々思ってしまうわけですよ。

 

「……多分、私たち二人でもなんとかなると思う」

 

 でしょうね。俺もそう思うもん。

 てか、相棒がそんなことを言うなんて珍しいね。いつもはもっと控えめな……ああ、そっか。今回はソロじゃなくて弓ちゃんがいるから強気なのか。昔からそう言う奴だった。

 

 ただ、この相棒ならソロでも問題なくいけると思う。本当にこの人上手いんです。

 

「だから、これは私のワガママです! それにこうやって色々と繋がりを作っておかないと、君ってまた何処かへ行っちゃいそうなんだもん」

 

 あー……そう言われると俺からは何も言えないわけでして……それにまた消えることになってしまうと思う。今までの流れ的に今回はオストガロアを倒したところでだと思うけど。

 

「……ホントはさ。君を大老殿へ連れて行きたいところなんだ」

 

 …………コイツは何を言っているんだ? ものすごいことを言っているわけですが、そのことを分かっているのだろうか。

 

「そんなことできるの?」

 

 半分くらい俺のせいだけど、この相棒と弓ちゃんはかなり有名なハンター。そんなハンターがいきなりわけわからんネコなんて連れてきたら色々と問題になりそうだ。しかも大老殿は選ばれたハンターのみが集まる場所。いくらオトモとは言え、対して活躍もしてないようなネコが其処へ行けるとは思わない。

 

「うん、大丈夫だと思う。それくらいの意見が通るくらいの仕事してるもん。向こうだって私に違うギルドへ行かれたくないだろうし」

 

 あの……相棒さん、腹黒くなってません? こんなこと言う人じゃなかった気が……なるほど、あの弓ちゃんの影響だな?

 

「……でもさ、今の君には槌ちゃんがいるし、そんなことできない。それでも、やっぱり君とは会いたかったからこうやって無理矢理でも呼んだんだ」

 

 ああ、そう言うことですか。良かった。もしかしたら、大老殿へ連れて行かれるんじゃないかと思ってかなり焦った。あのご主人もかなり上手いハンターだと思うけど、前回のホロロ戦のことと言い、何処か引っかかるところがある。俺にできることは少ないけど、オトモなりにできることをちゃんとやりたいんです。

 それにしても、相棒も色々と考えていてくれたんだね。

 

「だから、今日はよろしくね」

「ああ、できるだけ頑張ってみるよ」

 

 ひとり足りないけれど、久しぶりのパーティー。嫌だ嫌だと言いつつ、実は楽しみにしている自分もいたりします。

 ただ、できるならあの彼女も一緒にいてくれたら良いのになって思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、無事ユクモ村へ到着。

 少しばかり漂ってくる硫黄の香りと純和風の建物。ゲームをやっている時も思っていたけれど、この村の雰囲気が一番好きかもしれない。

 

「君ってこの村へ来るのは初めてなの?」

「うん、初めてだよ」

 

 嘘ではないです。ゲームの中では何度も訪れたけれど、実際に来るのは初めて。だからちょっとワクワクしてます。

 でも、それ以上に今は眠い。少しでも気を抜いたら寝てしまいそうだ。寝ぼけて変なことを口走らなければ良いが。

 

「あっ、お帰りです。……って、良いハンターとはネコのことでしたか」

 

 眠気を紛らわすため、ぐしぐしと目を擦っていると、誰かがとてとてと近づいてきてそんなことを言った。

 防具はレウス一式、武器はラギア弓であるボルトアロー。そんな装備の女の子。幼さを感じる顔立ちも少しばかりの成長を感じた。

 

「あれ? 言ってなかったっけ? このネコちゃんが前に言っていたアイルーちゃんだよ。ディノバルドを倒すときは手伝ってもらったんだ」

「はい、ネコと言うのは今初めて聞きました」

 

 ふむ、どうやら相棒は俺のことを話してはいないらしい。この子の場合、知らないフリをしている可能性もあるけど……ま、まぁ、この様子なら多分大丈夫だろう。てか、この子には本当にバレたくないです。相棒さん以上に、何を言われるか分かったものじゃない。

 

「とりあえず、今回はよろしくお願いします。はじめましてですね。弓を使っている者です」

 

 そう言ってから弓ちゃんは丁寧に頭を下げた。見た目は可愛いし、外面は本当に良い子なんだけどなぁ。この子のファンも多いみたいだし。

 

「初めましてニャ。よろしくお願いするニャ」

 

 俺がそう言うと、隣にいる相棒さんの視線が強くなった。

 いや、流石に無理だって、言えませんって。はぁ、これはまた胃が痛くなりそうだ。回復薬でも飲めば治るのかな? いや、ネコだから飲めないのか……

 

「それで、この後はどうしますか?」

「ん~……どうしよっか? 直ぐにクエストへ行かなくて良いはずだけど……あっ、じゃあ温泉に入りたい」

 

 直ぐにクエストやらなくて良いんだ……いや、まぁ、俺としても今は寝たいから有難いんだけどさ。あと、一日あれば新しい武器を作ってもらえるしそれも美味しい。いつまでもマッカォ武器じゃ厳しいんです。ただ、これでナルガを倒せばナルガ武器も作ることができるんだよなぁ……

 まぁ、いっか。睡眠武器はあって困らないし作ってもらうことにしよう。

 

「そう言えば、名物なのにまだ温泉へ入っていませんでしたね。それじゃあ、明日に向けてゆっくりと休みましょうか」

 

 ナルガかぁ、まず大丈夫だとは思うけど、確一とかだとやばいよなぁ。それならいっそ防具も作ってもらっちゃおうかな。人間の装備と違ってネコの装備は早く作ってもらえるし。

 ただ、ホロロ防具の見た目ってあまり好きじゃないんですよ。そんなことを言ってる場合でもないけど。

 

「そだね。それじゃ、集会浴所へ行こうか。ほら、ネコちゃんも行くよ」

「遠慮するニャ」

 

 さてさて、加工屋の元へ行こうか。装備のことを頼んだら、もう今日は寝よう。今ならいくらでも寝ることができそうだ。

 

「……ネコちゃんなのに恥ずかしいの?」

 

 意地の悪い笑をしながら相棒さんはそんなことを言った。最近は相棒さんにいじめられっぱなしだ。

 

 ……いや、そりゃあ、お前らと温泉へ入るのは恥ずかしいよ。それにほら、色々と問題があるのですよ。言わなきゃバレないことではあるけれど、何処から漏れるのか分からない。そうなった時、あの彼女に何を言われる……てか、何をされるのか分からない。あの彼女、怒ると怖いんです。それもすごく。

 

 相棒も本気ではなかったと信じたいけど、さっさと逃げることにした。自分の平穏な未来のために。

 

 

 

 

 

 

 そして、次の日。

 加工屋へ頼んでいた装備も完成し、準備は整いました。防具の防御力は驚きの2.5倍。これだけ固めれば流石に確一はないだろう。

 

 んで、昨日だけど、加工屋へ頼んだ後はさっさと寝てしまいました。とにかく眠かったってのもあるけれど、起きていたら何をされるのかわからないし。

 さてさて、それじゃあナルガと戦ってきますか。調子も悪くないし、パーティーのメンバーには文句なし。サクッと倒してこよう。

 けれども、その前にひとつ。

 

「ボクの武器は睡眠武器だから、爆弾を持って行ってほしいニャ」

 

 せっかくの睡眠武器なのだし、一度は睡眠爆破をやっておきたいよね。流石に一回は眠らせることができると思う。

 

「了解」

「はい、分かりました」

 

 そんな準備をし、飯を食べてから渓流へ出発。目的はナルガクルガの討伐。

 

 そう言えば、下位集会所クエストに渓流でナルガの討伐クエストってあったかな? 捕獲クエストはあったと思うけど……まぁ、ゲームとは違うし、そんなことを考えても仕方無いか。

 

 

 

 

「よし、それじゃ出発だー!」

「はい」

「うニャ」

 

 渓流に着いてから相棒さんが元気な声を出し、それに続いて俺たちも声を出した。それがなんとも懐かしい感じで、悪くない気分だった。

 

「ナルガクルガはエリア6にいるニャ」

「了解!」

 

 そう言えば、体験版もナルガのクエストは渓流だったなぁ。なんだか色々と懐かしい気分になる。

 うむ、戦い慣れた相手ではあるけど、油断せずにいこう。この二人なら大丈夫だと思うけど、一応二人はナルガクルガと初見なわけですし。

 

 そして、エリア6へ到着。

 

「……え、えと相棒さん?」

「うん? どうしたの?」

 

 其処にナルガクルガはいた。確かにソイツがナルガクルガであることに違いはない。見慣れた相手であることにも違いはない。

 

 けれども、ソイツの姿を見て身体は固まった。

 

「アレが今回のターゲットなのか?」

「うん、そうだよ。初めて見たけど、ナルガクルガって白くてカッコイイんだね。もっと黒いのかと思ってた」

 

 昨日、早々に寝てしまい、クエストの詳細を聞かなかった俺が悪いのだと思う。

 でもさ、こんなこと予想できるわけがない。

 

 通常種よりも一回り大きく、その全身には白色の文様。

 

 

 つまるところ、今回のターゲットはナルガクルガの特異個体……白疾風ナルガクルガらしい。

 

 


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