「はぁ……何をすればいいのかな」
武器の強化を加工屋さんに頼み、今はクエストへ行くこともできない。頼りになるネコさんもあのハンターさんと一緒に行っちゃったし……どうしよう。
それにしても、前回のクエストは本当に失敗だった。ネコさんは気にしてないと言っていたし、一生懸命私を励ましてくれた。けれども、どう考えたってあのクエストは私が足を引っ張ってたよね……
ネコさんはあれくらい気にしないと言った。そう言ってくれた。けれども、それはあのネコさんが知らないから。
私が初心者ハンターじゃないってことを……
確かに私はこのベルナ村へ来たばかりのハンターで、集会所のクエストなんてやったことがない。でも、このベルナ村へ来る前からハンターはやっていたし、それなりの数のモンスターを倒してきた。そうだと言うのに、前回のクエストは散々な結果。ホロロホルルと戦うのは初めてで、ハンマーだってこのベルナ村へ来てから使い始めた。それでも、彼処まで何もできないのは流石に凹んだ。
もし私が本当に初心者ハンターだったらまだ良かったと思う。でも、私はそうじゃないのだ。それなりの経験を積んでしまったハンターなんだ。
そして、そのことをあのネコさんは知らない。だって、もし知っていたら、あんな優しい言葉はかけてくれないもの。
本当はネコさんにちゃんと伝えないとダメだと思う。でも、そのことを伝えてしまうのはやっぱり怖い。だって、あのネコさんはすごく上手いし、私よりずっとずっと多くの知識がある。それこそ、私のオトモなんかじゃなく、あのハンターさんのオトモになるくらいの実力が。
そんなネコさんが私のオトモをやってくれていることは嬉しい。でも、私なんかよりももっと良いハンターのオトモになってもらいたいって思って……ただ、あのネコさんと別れてひとりでハンターをやる勇気はなくて……
ホント、どうすればいいのかなぁ……
「おお、ハンター殿。先日は、ホロロホルルの狩猟ご苦労だった。改めて礼を言う」
どうしたものかと悩んでいたら、村長さんの声。
「ああ、いえ……あれはネコさんが頑張ってくれたからで、私はそんな……」
「ははっ、そんな謙遜しなくても。それよりだ、ネコ嬢のお嬢さんがハンター殿を探しておったぞ。なんでも、新しいオトモを紹介したいとか」
謙遜なんかじゃなくて事実なんですよね……只今、そのことで滅茶苦茶凹んでいるところです。
そして、ネコ嬢さんが私に、か。そう言えば、あのネコさんと初めて会った時もこんな感じだった。オトモは2匹まで連れて行けるし、まだ枠はある。それに、いつの日かあのネコさんとは別れてしまう日だって来るかもしれない。だからこれは有り難いかも。
「分かりました。行ってみます」
今度のネコさんはどんなネコさんなんだろね。仲良くできればいいけど……
「いらっしゃいませ、ハンターさん~」
オトモ広場へ行くと、今日も元気にネコ嬢さんが挨拶をしてくれた。ネコ嬢さんの見た目は小さな女の子だけど、そのとんがった耳を見る限り竜人族だと思う。だからもしかすると、私よりも年上だったりするのかな?
「こんにちは。村長さんからネコさんを紹介してくれるって聞いてるけど……」
「はい~。先日、新しいアイルーちゃんが来まして、是非ハンターさんのオトモに、と思ったんです」
それにしても、このネコ嬢さんってどうやってネコさんたちを見つけて来るんだろう。ハンターの中には旧砂漠とかへ行き、クエスト中に直接スカウトする人もいるって聞いているけど、ネコ嬢さんもそうやって探してくるのかな? いや、ちょっとそれは想像できないや……
「ほらほら、アイルーちゃんもハンターさんに挨拶して」
そう言ってネコ嬢さんが紹介してくれたのは、真っ白な毛が特徴のネコさんだった。
「……えと、初めまして、にゃ」
ふふ、緊張しているのかな? 言葉使いがなんともたどたどしい。あのネコさんだって最初は……ああ、うん、最初からあんな感じだったね。むしろ、私の方が緊張していた気がする。
「このアイルーちゃんも前回紹介したアイルーちゃんと同じように、まだ狩りの経験はありません。ただ、私の勘でしかありませんが、立派なオトモになると思いますよ!」
おおー、それは頼もしい。今のネコさんもかなり頼もしいけど、やっぱりパーティーは多い方が良いよね。
「うん、ありがとうネコ嬢さん。それじゃ、これからよろしくね。えと……白ネコさん」
ネコさんって呼んであげたいところだけど、それじゃあ、あのネコさんと被っちゃうもんね。それにこんなに綺麗な色の毛をしているんだ。白ネコさんって呼び方はなかなか合っていると思う。
「よろしく……にゃ」
もしかしたら、こう言う性格なのかもしれないけれど、どうにも白ネコさんに元気がない。私としてはこれから一緒に戦っていくのだし、仲良くなりたいのだけど……
う~ん、これは仲良くなるまで色々と苦労しそうだ。
「それではハンターさん、良い狩りを~」
「うん、ネコ嬢さんもまたね」
ネコ嬢さんに別れを告げ、新しくオトモとなってくれた白ネコさんと一緒にオトモ広場を後に。
さて、これからどうしよっか?
「これからの予定はどうするの、にゃ」
とりあえず、と言うことで白ネコさんと一緒にご飯を食べることに。
「えと、今武器の強化をしているから、それが完成するまでクエストへは行けないんだ。だから、特に予定は決めてないよ。白ネコさんは何かやりたいことある?」
「特にないけど……あっ、武器と防具が欲しい、にゃ」
まぁ、そりゃあ、そうだよね。武器は確かマッカォのがあったと思うけど、防具は余っていないから、新しく作らなきゃだ。端材の関係でザザミ防具なら直ぐにできると思う。
そして、気になったことがひとつ。
「ん~……別に無理して“ニャ”って付けなくてもいいと思うよ?」
この白ネコさんの喋り方はどうにも無理をしている気がしてしまう。
「……でも、ネコなのに“ニャ”って言わないのは変じゃない?」
それはどうなんだろう。確かにあのネコさんはいつもニャーニャー言うし、今まで会ってきたアイルーさんたちもニャーニャー言っていた。だからと言って、言いにくいのなら言わなくていいと思う。
「うん、別に変じゃないと思うよ。少なくとも私はそう思う」
それくらいで嫌ったりはしないし、安心してほしいかな。
「そっか……それじゃあ、ニャーニャー言うのやめる」
うんうん、そっちの方が絶対にいい。あのネコさんがどう思うのかはちょっとわからないけど。ただ、あのネコさんも優しいし、何も言わないとは思う。
自分らしさってのはやっぱり大切なんじゃないかな。
「ご主人さんは何の武器を使っているの?」
「ハンマーだよ」
使い始めたばかりだし、全然上手く使えない。私の目標はあのハンマー使いのハンターさんのようにハンマーを使うことだけど、いつになったらあんなに上手くなれるのかなぁ。
そして、私の返事に白ネコさんは酷く驚いたような顔をした。あのネコさんの時もそうだったけれど、ハンマーを使うのってそんなに変なのかな?
「え、えと……どうしてハンマー?」
それもあのネコさんと同じ質問。
「昔にね、ハンマーを使うハンターさんがいて、その人がすごくカッコ良かったんだ。そんなハンターさんに憧れて私も使い始めたんだけど……難しいんだね、ハンマーって」
エリアル以外のスタイルにした方が良かったりするのかな? やっぱり最初はギルドスタイルで練習したりとか。
きっと私は片手剣の方が上手く使えると思う。でも、せっかく新しい場所で頑張るって決めたんだ。だから新しい自分になるためにも新しい武器で頑張ってみたい。そう思うんだ。
「よし、それじゃあ私の武器が完成したら、白ネコさんの装備を作ろっか。白ネコさんはどの武器がいい?」
「それじゃあ、ナルガクルガの装備がいいけど……ナルガクルガと戦ったことはある?」
えと、ナルガクルガってのは確か、迅竜のことだよね? 滅茶苦茶強いモンスターだって聞いてる。これはまた、いきなりすごいことを言ってくれるアイルーさんだ。
「戦ったこと、ないです……」
頼りないご主人でごめんね……
「あっ、いや、そんな私が我が儘を言っただけだから、気にしなくても……え、えと、じゃあリオレイアは?」
さっきから、この白ネコさんの要求が予想以上に高い。なんだろうね、この気持ちは。
そして、リオレイアかぁ……このベルナ村へ来てからはまだ戦ったことがない。戦ったことはないけど……
「うん、リオレイアならなんとかなると思うよ」
でも、この白ネコさんはいきなり大型種と戦って大丈夫なんだろうか? リオレイアなら私ひとりで倒したことはあるけれど、やっぱりひとりじゃ厳しい。
ああ、でも新しい防具だってできるしなんとかなるのかな?
「じゃあ、レイアの装備にする」
「了解。出発するのは武器が完成してからになっちゃうけど、大丈夫?」
「大丈夫。私も頑張る」
……白ネコさんって狩りの経験ないんだよね? それでいてこの自信は何処から来るんだろう。私はよくあのネコさんから『ご主人はもっと自分に自信を持つニャ』なんて言われるけど、この白ネコさんを見習えば良いのかな?
難易度高いなぁ……
とは言え、最初はどうなるかなぁって思っていたけれど、この白ネコさんともなんだか上手くやっていけそうだ。ちょっと無口……と言うか、独特の雰囲気のあるアイルーさんではあると思う。でも、私との相性はそんなに悪くないんじゃないかなぁって思います。
だから、これからもよろしくね、白ネコさん。
次話もこの一人と一匹のお話となりそうです
相棒さんたちのお話はそれが終わったらかと