――三学期始業日――
「ざっけんなーーーーーー!!」
うぉう。いきなりの千雨の豹変に俺はびくりと身を竦ませた。見ればフィオも目を丸くしている。
それもまぁ分かる。千雨が
とくに俺の様に『原作』の知識を持たないフィオにしてみれば、千雨はぐちぐち文句を言う印象はあったとしても大声でわめき散らすようには思えなかっただろう。もしかしたらヒーコラ泣き言を言う印象だったかもしれないが、まぁ同じような物か。
で、そんな俺たちを唖然とさせた当の千雨はと言えば、頭を抱えてぶつぶつ呟いていた。
「な、なぁ、千雨? いったいどうしたんだよ?」
問いかければくわっと睨まれた。ぶっちゃけ怖い。俺、滅多にビビることなんてないのに。
「……アイカって、十二歳だったよな?」
「お、おう。大体それくらいだ。戸籍上は九歳だけど」
「つまりは小六。……フフ、フフフフフ」
こ、怖ぇよ。なんか目の焦点合ってないし。ってか瞳孔開いてね?
と思っていたらグワシと腰を掴まれた。そして、
「なんでこの位置に腰があるんだよ! 足が長けりゃいいってもんじゃねぇだろふざけんな! ってか腰細ぇなコノヤロー!」
……いや、そんな目を血走らせて言われても困る。
ちなみに今の俺の制服姿。悪夢の具現、
まぁ中に短パンはいてるけどね。某ビリビリちゃんの如く。いやぁ思いついてよかったよ。JKを参考にしてスカートの下にジャージで行こうと思ってた時に千雨にダメ出し食らった時はどうしようかと。
とまぁ俺の腰を掴んで唸ってる千雨には何も言わずに回想する。きっと色々溜まってたんだろう。今思えば結構なスパルタを課していたようにも思えるし。まだ基礎をやるための土台作りの準備って段階だけどね。
と、千雨の言葉がだんだんと別の方向へ向かっていく。いつの間にか掴んでいたのは腰から足へ。ついでゴシゴシ擦ったかと思えば「素の肌でこの白さ……だと……?」とか言ってる。そりゃ精神は日本人、魂は漢、目指すのは超雄とは言え、一応今の俺って白人少女だしな。
「にしても頭が落ち着かねぇ。足もそうだけど頭もなんかスース―するし。今からでも制服にフード縫い付けちゃダメか?」
「ダメに決まってんだろ! 制服にフードなんて美意識の欠片もねぇ改造、私は認めねぇぞ」
なんというレイヤー魂。そういや『原作』でも学園祭編でクラスメートに指導していたような。
はぁ。でもなぁ。ふとした拍子に自分の顔が映った鏡とか見てしまいかねないってのは、なるべくなら回避したい。色々面倒なものをしょってる顔だし、『自分』に対してのイメージが女で固定されると如意羽衣での変化も困難になる気がする。
「上にパーカー羽織るのを認めさせるとか。なんとかなんねぇかな。こう、宗教上の理由とかで」
「神も信じねぇような顔して何言ってんだよ」
いやいや千雨ちゃん。
「俺ほど神を信じてる人間もいねぇぜ? 宗教は良く知らんけどさ」
なにげに教会で祈ったりもしてたのよ? 『マバリア』の出力が上がる気がするし、『点』の修行にも最適だしね。麻帆良にも教会があったはずだしその内行ってみるか。
「はいはい。話はそれくらいにしてそろそろ出ましょう? 転入初日から遅刻ってのもなかなか刺激的だとは思うけどね」
アイアイ。俺は頷いて鞄を手に取る。
さて、二度目の中学生生活って奴を堪能しましょうかね。
――一時間目終了時――
視界の端で質問攻めにあうアイカとフィオを捉えながら、超鈴音は誰にも聞かれないようにそっとため息を吐いた。
超鈴音。彼女は歴史を改変するため百年以上の未来から時間跳躍にてやって来た未来人である。
超はこの時代に来る前からあらゆる力を磨いてきた。
百年後においてなお天才と呼ばれる科学力を携え、策を巡らせ他者を出し抜く知恵を磨き、我を通す力を鍛え上げた。文字通り、血を吐く思いを経て。
そして、そんな超の持つ力の内、最も強力な物。それが情報である。
現代は情報社会である。西暦何年何月何日に何が起きたか。全てが記録される時代なればこそ、超の持つ未来知識は極めて正確だった。
現に数日前までは、未来人の来訪によってなんらかのバタフライ効果が発生するやもとの超の想定も杞憂に終わり、超の知る通りの歴史がなぞられた。
サウザンドマスターの死亡説の流布。二人の英雄の子は魔法使いたちの隠れ里に預けられ、数年と経たぬ内の娘の失踪。ネギ・スプリングフィールドの魔法学校卒業に、まるで合わせたかのようなタイミングでの彼女の発見。そして来日。全ては超の知る通りだった。
しかし、ついにこれからが勝負という時にイレギュラーが発生した。
(まさかあのタイミングで
超の知る歴史上ではアイカとエヴァンジェリンの戦闘は来年、この2-Aが3-Aになるころに発生するはずだった。
スプリングフィールドの子の血を狙うエヴァンジェリンがネギを急襲。それに対し横やりを入れたアイカが、フィオ、ヘルマンらと共にエヴァンジェリンを迎撃。
学園結界が落ちるタイミングを見計らい事を起こしたエヴァンジェリンは最強の従者であるチャチャゼロを連れていたが、そのチャチャゼロはヘルマンの攻撃によって石化。
そして、
(アイカ・スプリングフィールドとフィオレンティーナ・フランチェスカの二者によって、エヴァンジェリンは
しかし本来の歴史よりもはるかに早いこの時期にアイカとエヴァンジェリンは接触してしまった。しかもエヴァンジェリンの生存というイレギュラーも発生している。
(細かい点を上げれば長谷川サンがそこにいたというのもイレギュラーカ。ヘルマンが戦闘に参加していないという点も不可解。ネギ・スプリングフィールドが一流同士の戦いを目撃していないというのも後々どう響くか分からないネ)
正直頭を抱えたい。超はそう思っていた。
バタフライエフェクトを警戒し、それが杞憂に終わったと油断していた。アイカが麻帆良へとやってきた事を知り、歴史通りに事が進んでいたと思い込んでしまった。
(アイカサンの戦闘情報を集めるために茶々丸を用意したことが裏目に出たカ)
超は視線を動かさずに茶々丸を視界に捉え、あの日の会話を思い出していた。
あの日、アイカとフィオが千雨に魔法関係について話していた時、超はそれを盗聴していた。そのためにウェイトレスの古菲らに任せるではなく自ら注文を聞きに行き、盗聴器を仕掛けたのだから。
アイカが何故エヴァンジェリンと戦闘行為に及んだのか、その正確な理由はおそらくアイカ本人にしか分からないだろう。しかしその切っ掛けの一端は間違いなく長谷川千雨であり、彼女の茶々丸への言及だろう。
麻帆良に敷かれている認識阻害結界。それによって茶々丸を少し個性的な生徒としか認識できないはずの一般人である千雨が、しかしアイカの言葉に反応したこと。それこそがイレギュラー。
もしも茶々丸が居なければ、歴史は超の知る通りに流れていたかもしれない。
アイカとフィオはあえて千雨を巻き込むようなことはせず、エヴァンジェリンとの戦闘は三年生を迎えてからになったかもしれない。
魔法先生たちにアイカがエヴァンジェリンを解放した存在と認識されることはなかったかもしれない。実戦を知り闇の福音を撃破した、ネギ以上に英雄に近い存在と『歴史通り』の期待を持たれていたかもしれない。
しかし、
(結局は後の祭りカ。多少のイレギュラーは容認してでもアイカサンの情報は得ておくべきだと茶々丸を作ったことも、完全に裏目だったようだしネ)
結果だけを見れば最悪といっていいもの。欲していた情報は得られず、自身のアドヴァンテージである未来知識も揺らいでしまった。
とはいえいつまでも過去を振り返ってばかりもいられない。たらればを言い出す科学者など、三流にもほどがある。
(幸い計画実行日までには時間がある。それにイレギュラーは元々想定していたものヨ。リカバーも可能ネ)
前を向け。超は自身に言い聞かせる。あらゆる不確定要素に対抗するために、今まで力を蓄えたのだから。
(最後に勝てばそれでいいのヨ。私は全てで勝とうなどとは思わない。最後の最後、その一瞬だけ勝てればそれでいいネ)
意思は変わらずココにある。たとえ世界中から恨まれようと、未来永劫呪われようと、それでも進む覚悟はある。
エヴァンジェリンに何やらわめかれているアイカを横目に、人知れず超は拳を握りしめていた。
時系列的に超を先に持ってきた方が良いかなぁとヘルマンは先送り そんな34話 明日菜の反応も書きたかったんだけどなぁ
さて没ネタを一つ
転入生ということでパパラッチに質問攻めにあっていたアイカちゃん
もうウンザリというところで隣のエヴァちゃんに話しかけました
ア「や、エヴァちゃん。隣同士だな」
エ「ふん。気安く話しかけるな」
ア「そういうこと言われると傷つくぜ? あの日はあんなに激しく求め合ったのに」
キャーナニソレー ドウイウコトナノー
エ「い、いいいきなり何を言い出すんだ貴様は!」
ア「あの日、俺の首筋に触れたエヴァの唇。ハッキリと思いだせるぜ」
キャー キャーキャーキャー
ア「耳にかかる吐息も、俺にしがみつくエヴァの腕の弱々しい力も、肌をなぞる舌の熱さも、夢にまで見るほどに、とても情熱的だったな」
エ「黙れ黙れ黙れ!」
ア「あ、それうるさいうるさいうるさいってセリフでリピートプリーズ」
ま、没ネタということで
他にもネギ赴任まで一気に行きたいので色々削る予定だったり