幻想夢物語 〜少年の日々〜   作:わたっふ

17 / 22
書いたら長くなってしまったので、この話は前編みたいな感じで見てもらえたら嬉しいです!

それと、まさか一年前から見て下さってる方は居ないと思いますが、偶然見かけて見て下さってる方々へ一言……
一年間ありがとうございました!!


十七夢 無敵のバールド、そして──

レウザと夏来達の戦いから少し時間は遡り、ニッ怪、糜爛、バールドは互いに剣を召喚し、睨み合っていた。

いつでも動ける様につま先に力を入れる。

 

レウザ) 「御返しです! シャイニングストラーレイン!!」

 

遠くでレウザの声が聞こえる。

それを合図に、弾かれる様にバールドが前へ。

 

バールド) 「テヤッ!」

 

上段からの打ち下ろしに、2人は剣を使わず体捌きで躱す。

剣戟が空を切る。

すかさず剣を返し、遅滞なく横薙ぎに移行した。

バールドはそれをもう片方の手に瞬時に召喚した大剣で防ぐ。

体制を崩した2人の首元を狙い、バールドが両手に持っている2種の剣で突き刺す。

が、ここぞと言わんばかりに能力を使う時を伺っていた神代が、2人の上半身にワープホールを展開。

それによりバールドの剣は吸い込まれ、そして背後にワープの出口を創り出す。

 

完璧だった。

 

何も失態など無い。

 

だがバールドにはダメージは入らなかった。

神代の行動を予知していたのか、背中全体を覆う様な形で透明なバリアが備えられていた。

そして間を空けずに、左手に持つ大剣を地面に突き刺す。

するとニッ怪達の足元のコンクリートが剥がれ落ち、長く大きな柱状に変形した土の塊が飛び出して来て3人の腹に直撃する。

 

ニッ怪) 「うぐっ…」

糜爛・神代) 「ガハッ…!」

 

空中へと放り出されると、地上から弾幕が襲いかかって来る。

だがそれを物ともせず、剣で斬り裂きながら迫り来る2人。

一方、神代は2人が防ぎきれなかった弾幕を数カ所に展開したワープに吸い込ませる。

 

バールド) 「しぶてーな……おい」

 

困り顔を浮かべ、舌打ちをしたバールドは目を瞑り、少し浮かび上がらせた右足に全神経を集中させる。

 

バールド) 「グランド・オブ・アルマス!!」

 

目を見開き、力強い声を上げ、勢い良く足を下ろしたバールドを中心に、広範囲の地面が段階的に凹む。

剥がれたコンクリートの欠けらが舞い上がったかと思うと、それらが彼方此方で合体し、直径10㎝程の先の尖った細長い物体へと形を変え、3人へ向け放たれ──

 

はしなかった。

 

いや、正確には…

 

3人では無く「神代」に向けて全てを放った。

 

神代) 「あっ………」

 

突然のことに神代は反応が出来ず、その物体は彼女の身体を貫いて行く。

 

皮が捲り上がり、生々しい肉片と共に宙を舞う。

グシャグシャ…と、その物体は まるで飢えた獣が獲物を狩るが如くに、神代の身体から全てを奪い去ろうとしている。

 

痛みが、苦しみが、怒りが、悲しみが、とめどなく流れ出る血により塗り潰される。

意識が朦朧としている世界で、いつ命が尽きるか分からない世界で、神代の心を支配したのは、受け入れがたき死への恐怖だった。

 

もう? もうなの? 今って生きてるの? 死んでるの?

生きるって何なの? 命を弄ばれてるって生きてるって言えるの?

生死って何なの? 死ぬって何で怖いの? 何で 生きるのは必要なの?

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

限りなく押し寄せて来る、絶対的な死への拒絶。

 

神代) 「タ……セッ……」

 

小声で呟いたソレは、神代の最期の言葉となった。

手足はだらしなく垂れ下がり、その身体は力無く下へ下へと落ちて行く。

 

糜爛) 「ぁ………ぁぁ………」

ニッ怪) 「…っ! 糜爛殿!!」

 

自分を呼ぶ声にゆっくりと振り向いた糜爛の目に、白く光り輝く剣が映り込む。

次の瞬間、腹部が急激に熱くなり、さらに何かが喉を通って口から吐き出される。

それは新鮮な赤、綺麗な赤、これまでに見た事がない程の「赤」だった。

 

剣を引き抜いたバールドの蹴りが背中に当たり、糜爛は地面へと叩きつけられる。

力を振り絞って立ち上がろうとするものの、何かに手を滑らせ、再び地面に身体を強く打つ。

ピシャリと音が鳴る。

舞い上がった赤い水玉が糜爛の目に映り込む。

 

血……赤い…血………

 

憎い…憎い…に……く…い……

 

地面に伏せながら、糜爛は視線を横に移す。

そこには身体がボロボロになった神代が、此方に顔を見せながら、血溜まりの上で横たわっていた。

 

糜爛) 「す…まない……愛…佳」

 

目の前が暗闇に包まれ、だんだんと意識が遠のいて行く……

 

 

 

 

 

 

 

 

地へと降り立ったニッ怪とバールド。

先程まで一緒に戦っていた2人が血を流し、倒れている。

ピクリとも動かない。

そんな光景を見て、バールドはケタケタと笑っていた。

 

バールド) 「一気に2キルかよ! クハハハハッ!! お前らは デカイ態度の割には、最期は小さく呆気ない物の様だなァァア!?」

 

ニッ怪) 「…れ…」

 

バールド) 「あ? 聞こえねーよ」

 

ニッ怪) 「黙れ…」

 

谷から吹き上げて来る野分の様に、襲って来たのは激しい怒りだった。

そんな怒りに満ちた心は口を押し開けて、笛の様な息と共に外に溢れる。

 

ニヤリと微笑むバールドに、鷹の様な据わった眼差しを向ける。

 

バールド) 「その怒りを力で示して見せろ!!」

 

ニッ怪) 「討つ…」

 

相手の動くタイミングを見計らい、地面を蹴り前へ。

剣と剣のぶつかり合う音が響き渡り、火花が散る。

鍔迫り合いで両者の距離が一気に縮まり、互いの眼を睨み合う形となる。

 

バールド) 「ふっ」

 

と、バールドが力を抜いて誘う様に半歩退く。

 

ニッ怪) 「ハァァッ!」

 

この機に乗って、一気に追い詰めにかかる。

同時に無防備に残されたバールドの右足を踏み抜いて………。

 

ニッ怪) 「ぐっ…!」

 

しかし それは叶わず、バールドがもう片方の手に召喚した小さなナイフを飛ばし、ニッ怪の右横腹を切り裂く。

さらに畳み掛ける様に重い蹴りが腹に入り、血を撒き散らしながらニッ怪は大きく転がる。

だが、即座に体制を立て直し、能力を発動。

身体に付いた傷が見る見るうちに消えて行く。

 

 

バールド) 「流石だな……情報以上だ いいぞ…」

 

ニッ怪) 「……貴様らは…何故 能力者を殺し続ける……その先に何があると申すか!」

 

バールド) 「平和がある それの実現の為には、いずれ脅威となる能力者は排除せねばならない 俺たちは幻想を叶える人々にとって、絶対的な信頼者でなくてはならないのだ」

 

ニッ怪) 「そのような者は信頼者などでは無い! 屍の上に立つ唯の殺戮者じゃ」

 

バールド) 「そう呼ばれても別に構わない 死にたくなければ、歯向かわず従属すれば良い」

 

ニッ怪) 「違う…」

 

バールド) 「そう出来ない者は死ぬ そこの2人も俺たちに歯向かうが故に死んだのだ この世とはそう言う物だろ?」

 

ニッ怪) 「違う!」

 

自分の身体から流れ出た血により、赤く染まった剣を拾い上げ、バールドに斬りかかる。

 

ニッ怪) 「誰もが生きたいと願っておる!命とは他人に支配される物では無い!」

 

バールド) 「屑の戯言など…知った事かァ!!」

 

剣を押し上げられ、大きく後ろへと退いたニッ怪に向け、バールドは地面に手を置き、地中からの攻撃を放つ。

コンクリートが割れ、土の柱が出現。

ニッ怪は胸の前で剣を盾のように構えて受け止めるが、絶大な衝突の威力により宙へ打ち上げられる。

 

バールド) 「貫けっ!」

 

その言葉と共に、神代に放った先の尖った小さな土の塊が……いいや、それよりも遥かに大きな物がニッ怪に襲いかかった。

 

剣ごと身体を回転させ、目の前の物体を真っ二つに切り裂きながら進む。

バールドに近付くに連れ、それは数を増やして───

 

ニッ怪) 「なっ……!」

 

突然、バールドの攻撃が止んだかと思うと、ニッ怪の横を黒い何かが通過。

慌てて振り向いたニッ怪の目と鼻の先には、今にも彼の頭部に蹴り降ろされ様としているバールドの右足が映っていた。

グキッ…と鈍い音が脳に響き渡る。

 

 

次に身体が強烈な刺激を味わったのは、地面へと叩きつけられた後だった。

頭が、首が、全身がとてつもなく痛い。

痛くて、その痛みだけで死にそうな程に。

 

バールドの足音が近づいて来る。

聞こえるだけで、見ることは出来ない。

何故だろうか……先程から全くと言って良い程に、首が動かなくなっていた。

恐怖から…? いいや、違う。

 

バールド) 「おいおい…もう終わりかよ〜 もっと楽しもうぜ? その首治してからよ」

 

バールドの右足が、ニッ怪の腹を踏みつける。

ジリジリと熱が帯びる感覚が伝わる。

 

ニッ怪) 「ぁ…が…」

 

首の骨が折れた今、呼吸が出来る事は奇跡に近かった。

この奇跡で得た、死までの僅かな時間を無駄には出来ない。

近くに転がる剣に手を伸ばす。

だが其れさえも行う事は許されず、その手はバールドの持つ剣に串刺しにされる。

 

バールド) 「……どいつもこいつも屑ばかりだな」

 

呆れたように溜息をつき、バールドは右足を地面に降ろす。

ニッ怪の手の甲に刺した剣を引き抜き、足元に召喚した光のゲートに吸い込ませると、入れ替わりに短剣が飛び出して来た。

右手で素早く掴み、そのまま流れる様にニッ怪の首元に当てる。

 

バールド) 「ならば俺は、お前の指を一本一本切断する感覚を堪能しながら、ジワジワと苦しみ踠いて死んで行く様を見届けるとしよう」

 

狂気的にギラギラと輝く双眸が視界いっぱいに広がる。

死ぬ……いや、もう死は経験済みか…

二度目だとしても、やはり受け入れ難い物だ。

 

首から離れた短剣が、ニッ怪の指に優しく触れる。

滑らかに手前へ軽く引くと、短剣の刃が皮膚を斬り裂き、肉へと達する。

 

バールド) 「一本目…」

 

ボソッと呟いた直後、大量のアドレナリンが発生すると共に、人差し指の第一関節から上がボトリと落ちる。

 

ニッ怪) 「……ーッ!」

 

今のニッ怪には、もはや「痛い」と言う事すら儘ならない。

バールドが切断した指を拾い、ニッ怪の目の前に放り投げる。

生々しく赤い物体の中に、白い物が見えた。

恐怖に引きつる顔を見たかったのだろう。

顔を覗くも、ニッ怪は睨むだけで表情を変えようとしない。

 

バールド) 「……不服、不承、不承知 実につまらない……死と言う運命に抗おうとしない者は──」

 

横になっているニッ怪の顔を上に向かせ、短剣を振り上げる。

 

バールド) 「ここで死ね」

 

その言葉は灰色に染まった世界で、死を目前に投げかけられたものだった。

正義に反し、世界を破滅へと導く愚か者への断罪の言葉。

風を切る音に合わせ、短剣がニッ怪の首へと振り下ろされた────その時、

 

 

 

ニッ怪が目を見開いて、バールドの背後を直視する。

その目線の先には、バールドへ向けて弾幕を放つ「ワープホール」が存在していた。

直ぐに異変を察知したバールドは振り返り、その攻撃を体全体で受け止める。

此方に背を向けたのを物にし、ニッ怪は素早く立ち上がって距離を取り、身体を回復する。

 

 

ワープホールは神代が使う技。

その持ち主が死した今、何故出現したかは分からない。

……分からないが、こんな機会は二度とないだろう。

呼吸を整え、決意を固めたニッ怪の目付きが変わる。

 

バールド) 「………! ほぉ…それがお前の本気か 」

 

弾幕を全て出し尽くしたワープホールを破壊し、振り返り直したバールドは「あるモノ」を見た。

肩甲骨部分の服を貫き、黒翼が羽根を広げているニッ怪の姿を。

 

ニッ怪) 「我は死神と言う立場より、多くの者の命を奪ってきた……」

 

俯向きながら話すニッ怪の右腕が、青黒いオーラに包まれる。

それが手のひらに集まると、日本刀の様な細長い形へと姿を変える。

 

ニッ怪) 「嘆き…悲しみ…怒り……黒青刀は全てを覚えたり 我はそれを受け止める」

 

バールド) 「驚いたな 最後に相応しい奥の手と言ったところか」

 

ニッ怪) 「この身に変えても……貴様を倒す!」

 

バールドが短剣を投げ捨て、再び剣を召喚する。

直後、ニッ怪の足元の地面が砂煙を上げると共に、その場から忽然と姿が消えた。

瞬きを一回。

この一瞬の内に、ニッ怪はバールドに間合いを詰めていた。

 

バールド) 「……くっ!」

 

黒青刀の刃が、体を反らしたバールドの頬を掠る。

さらに間を空けず、重く素早い蹴りを背中に食らわす。

その衝撃に宙へと打ち上げられたバールド。

先程まで圧倒していた者に、顔に傷を付けられただけでなく、蹴りまで入れられた事に苛立ちの表情を見せる。

 

バールド) 「おのれ────おのれ、おのれおのれおのれおのれェェェエ!!!!」

 

冷静さを失ったバールドは、無造作にニッ怪へ向けて弾幕を放つ。

だが、そんないい加減な攻撃は当たるはずも無く、黒青刀の一振りによって生まれた斬撃が、弾幕を破壊尽くす。

 

ニッ怪) 「……これに終わりか? なお本気にやりてほしいの」

 

バールド) 「ホ……ホザけ!! 殺してやる…野郎ぶっ殺してやらァァァア!!」

 

逆転に次ぐ逆転に、冷や汗を流すバールドは焦りを感じていた。

負けてしまうかもしれない、勝てないかもしれない。

憶測でしか無いが、確かな何かがバールドの心の中で危険信号を発していた。

 

 

ギラギラと光る剣を、バールドは頭上に掲げた。

すると、その剣先に1つの光の玉が宿る。

それが秒を重ねるごとに、二倍三倍と大きさを変えて行き、止まる頃には人間の身長の何十倍もの大きさとなっていた。

 

バールド) 「これは衝撃波の塊ィ!! 避ければ此処一帯は吹っ飛ぶ! 受けざるを得んぞ!!」

 

剣を振り下ろすと、その塊は地上へ向け放たれる。

 

ニッ怪) 「我は負けぬ……夏来殿の為、皆の為……この刀に全てをかける!」

 

迫り来る衝撃波の塊に乗り、激しい突風がニッ怪を襲う。

 

バールド) 「喰らえェェェエ!!」

 

ニッ怪) 「黒青刀…毘沙門天!」

 

地面を蹴り、宙へと飛び出したニッ怪は、衝撃波の塊に刀を突き刺す。

瞬間、これまで味わった事の無いような感情が、切先から感じ取れた。

誰かの悲しみの気持ち、誰かの怒りの気持ち、それらが混じり合った不思議な………

 

「私の悲しみを……俺の怒りを……力に変えて」

 

何処からか、そんな声が聞こえた気がした。

暖かく、力が湧き出してくる感じ…

 

 

身体を打つけながらも、奥へ奥へと刀を押す。

何度も何度も身体を傷付ける痛みに耐えながら、ニッ怪は勢い良く刀を押し上げた。

それに従い、衝撃波の塊は2つに分かれ、それぞれが地面に着く前に爆発する。

解き放たれた衝撃波の波が辺り一帯に広がり、1番近くに居たニッ怪は、その直撃により遠くへと飛ばされる。

が、すぐに身を翻し、バールドへ向けて翼を羽ばたかせる。

 

バールド) 「は………ぁ……?」

 

ニッ怪の接近に気付いた時には、もう避けることなど出来なかった。

地面に打ち付けられたバールドは、頭を抱えながら力無くヨロヨロと立ち上がる。

 

今がチャンスと空気を掴み、猛スピードでバールドに迫るニッ怪だったが………

突然、グラっと身体が揺れたかと思うと、手足の自由が利かなくなり、そのまま地面へ落下。

手をついて起き上がったニッ怪は、自身の影を見て目を疑った。

……あるであろう黒翼の影が確認できない。

背中を触って存在を確かめるが、そこには何も無かった。

 

バールド) 「どうやら……時間切れのようだな……」

 

ニッ怪) 「くっ…!」

 

刀を構えたニッ怪に対し、先制するのはバネの様に身体が大きく跳躍したバールド。

見えない空気の壁を足場とし、膝を伸ばす再跳躍でニッ怪目掛けて飛びかかった。

剣と刀が十字に交わる。

打つかる衝撃に、地面に着く足が土を擦りながら滑る。

声を張り上げたニッ怪は地面を踏み直し、自分の持てる力全てを注ぎ込む。

 

跳ね返された剣が宙を舞い、地面に落ちる。

バールドの喉元に刃先を突きつけるニッ怪。

その表情は険しく、今にも刀を横へと引こうとするその手は小刻みに震えていた。

今まで沢山の人間を手にかけて来た……

ためらい無く、自分の為に行って来た事。

この男を殺すのは、自分の為……そして仲間の為なのに……こんなにも殺意が湧いているのに、この行動に終止符を打とうとする手が拒否反応を起こす。

 

バールド) 「フッ…….」

 

目を細め、小さな笑みを浮かべるバールド。

直後、背中に張り裂ける様な痛みを感じたニッ怪が膝から崩れ落ちる。

 

バールド) 「すまねぇな、余りにもガラ空きだったからよ〜」

 

背中に深く刺した一本の短いナイフを引き抜き、ゲートに吸い込ませる。

ニッ怪の髪を掴み上げると、その顔目掛けて拳を振るう。

殴り飛ばされたニッ怪の身体は、地面を数メートル転がって止まる。

刀を突き刺し、それを杖の様に使い起き上がると傷を癒し、荒い呼吸を何度か繰り返す。

 

ニッ怪) 「(この黒青刀の力も長くは持たぬ……) 次で決める……!」

 

バールド) 「俺も全身全霊で答えよう……来い」

 

この狂気と張り合えるのは、現状の戦力、戦術では自分しかいない。

街への被害、仲間への影響を最小限に食い止め、その上で奴を仕留められるのは自分だけ。

距離を取り、剣を拾い上げる男を睨み付け、ニッ怪の踏み込みの速度が上がった。

接近を食い止める様に、周りに出現した光のゲートから射出される弾幕の攻撃を置き去りに、ニッ怪は矢の如く疾走する。

 

不要な感情を削ぎ落とし、黒青刀と1つになり、鋼で邪悪たる者を切り裂くために猛進する。

バールドに近づくに連れ、光のゲートから繰り出される攻撃の激しさは増す。

ニッ怪が片手から1つの小さな光の弾を、バールドの手前の地面に向けて放つ。

砂埃が舞い、バールドの姿勢が崩れる。

その中心へ刀を持つ手を突き出す。

 

バールド) 「……学習しないな…」

 

グシャ…と音を立てて、ニッ怪の身体が宙で固まる。

上下から細長い剣に身体を貫かれていた。

 

バールド) 「流石のお前も、これじゃぁ身動き取れねぇだろ?」

 

ニッ怪) 「…………」

 

バールド) 「最期はお前自身の刀でとどめを刺してやる 楽しかったぞ」

 

足元に転がる刀を拾い上げる。

青黒いオーラを失っている刀に少し違和感を覚えたが、構わずに刀をニッ怪の首元に突き刺した。

顔が崩れる程の笑みを浮かべるバールドだったが、それも一瞬のうちに打ち砕かれる。

 

皮膚を破り、うなじまで達した刀。

だが不思議な事に、傷口からは血が滴り落ちてこない。

今思えば、先ほど身体を貫かれた時も血が吹き出して来てなかった………なぜ?

 

バールド) 「………まさ…!」

 

その答えにバールドが目を見開き、声を上げようとした瞬間ーー、

 

ニッ怪) 「ぢぁぁぁぁぁぁ───ッ!!」

 

頭上から放たれる連泊の気合いに、バールドは凝然と顔を上げた。

その身体を袈裟斬りに落ちる斬撃が、バールドを斬り捨てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肩から腰までを深々と斬り付けられ、致命的な傷にバールドの姿勢が大きく揺らぐ。

 

バールド) 「な…ぜだ……何故、俺は……」

 

ニッ怪) 「貴様が見た我の残像は、殺気の塊……油断故に、無となりた我には気付かぬ」

 

バールド) 「フッ……面白いな……そ、その力は…何処から来るのだ……」

 

ニッ怪) 「皆の想いが、貴様ら機動隊に殺された者の念が、我に力を与えた……それだけじゃ……」

 

黒青刀をオーラに変えて身体に吸収し、ニッ怪は激痛に顔を歪めるバールドに背を向けて歩き出す。

 

バールド) 「ま、待て! 何処へ行く……まだ決着は…」

 

ニッ怪) 「ついたも同然、今の貴様には我を倒せる程の力は残っておらん」

 

バールド) 「ぐっ……」

 

ニッ怪) 「情けをかける気は無し……その身体でも死ぬ事は無いじゃろう 行け…我らの前に二度とその姿を見せるで無い」

 

刀剣士は非情でなければならない。

しかし、必要以上に相手を苦しめる事は許されない。

また、殺す相手も同じ刀剣を操る者である以上、名誉や誇りは尊重すべきである。

よって相手の命は奪うものの、致命傷で苦しむ者にとどめを刺し楽に死なせる事や、死後丁重に弔うと言った刀剣士としての温情を掛けなければならない。

 

 

だが、ニッ怪は違った。

 

 

情けをかける事すら拒否し、最後の最後までバールドを許そうとはしなかった。

 

見逃され、命を救われ、刀剣士として死ぬ名誉を軽視する無用の深情けを受けたバールドは、奥歯を噛み締めた。

 

バールド) 「お前は……この俺に………」

 

津波のように押し寄せて来る悔しさに耐えきれなくなったバールドが、糜爛と神代のそばに寄り添うニッ怪に手をかざし────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

糜爛殿……糜爛殿……!

 

暗闇の中、遠くの方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえて来る。

その声に答えるように、閉じていた目を開く糜爛。

そこには、心配そうに顔を覗かせたニッ怪の顔があった。

 

糜爛) 「滝…さん…」

 

ニッ怪) 「動くでない…」

 

糜爛の腹の上に、そっと手を乗せる。

白く輝く光が傷口に触れると、細胞同士が再生機能をフルに働かせ、常人ではあり得ないほどの回復力を見せつけた。

 

ニッ怪) 「お主が生きておったとは………希望はまだある様じゃな……」

 

糜爛) 「すまない……愛佳は…愛佳はどうなっ……」

 

糜爛が言い終わる前に、ニッ怪は唇を噛みながら首を横に動かした。

ニッ怪の視線が、糜爛の背後に移る。

ゆっくりと振り返ると、そこには未だに血の上に横たわる神代が居た。

 

糜爛) 「………そう……ですか…」

 

ニッ怪) 「しかし不思議じゃ……何故あの時 ワープホールが…」

 

糜爛) 「それは愛佳が仕掛けた物です……[タイムセット]……愛佳は最期まで諦めては居なかった……」

 

もう動かない神代の手を取り、額に当てると一粒の涙を流しながら言った。

その姿を見つめたまま立ち尽くすニッ怪。

 

糜爛) 「ニッ怪さん…愛佳の身体を治してはくれないでしょうか…」

 

ニッ怪) 「生き返りはしないぞい…」

 

糜爛) 「分かっています……ですが、いつもの変わらない愛佳のままで居させてあげたいのです……」

 

ニッ怪) 「承知した」

 

糜爛の願いを聞き入れ、神代に手をかざす。

光が神代の全身を包み込み、見るも無惨なその姿は、徐々に元の傷1つ無い美しい姿へと回復して行った。

感謝の言葉を言い、神代を抱えた糜爛は、此方に向かって来る夏来達と合流しようと歩を進める。

 

後を追おうとニッ怪が足を前に出した時、背後からの強烈な殺気を感じる。

振り返った2人は、此方に手をかざしているバールドを見た。

 

バールド) 「この俺に……殺されるべきなんだァ──!!」

 

直後、その手から衝撃波が放たれる。

それは怒りの気持ちが蓄積して行くように大きくなり、地表を削りながら2人に迫る。

 

ニッ怪) 「たわけ者め!!」

 

地面を蹴り、ニッ怪が1人 衝撃波に立ち向かう。

黒翼形態になる力も、黒青刀を創り出す体力も無い今の状態では、素手で迎え討つしか無かった。

衝撃波自らが生み出した斬撃に、ニッ怪の両手はズタズタに斬り付けられる。

斬られ、斬られ、斬り裂かれる………左手が肩から切断され、爆風に乗って遠くへと飛ばされる。

 

バールド) 「死ね…死ね死ネ死ネシネシネェェェエ!!! ヒャハハハッ!」

 

髪を掻き毟り、目を充血させ、バールドは感極まって激情を堪えられない。

 

ニッ怪) 「ぐっ……っぁぁあっ!!」

 

気合いの声を上げるニッ怪は、糜爛の心の中へ直接ある事を語りかけていた。

それを聞いた糜爛は少し驚いたが、納得したかの様に声を上げる。

 

糜爛) 「分かりました! 私の力を使ってください!!」

 

その言葉を聞いたニッ怪は、躊躇うことなく能力を発動する。

心臓がドクンと跳ね上がったかと思うと、力が湧き上がって来るのを感じた。

背中に黒翼を広げ、右腕に青黒いオーラを纏う。

 

ニッ怪) 「黒青刀 毘沙門天」

 

オーラが刀へと形を変え、柄を握ったニッ怪は、衝撃波を下から上へと斬りあげる。

それに従う様に衝撃波は軌道を変え、天高く打ち上げられた。

 

バールド) 「ぁぁ……ま…また……俺は…ま、まま負け……ぐっ……がぁぁぁあ!」

 

狂った様に周囲に光のゲートを張りめぐらせるバールド。

だが不思議な事に、そこからは弾幕や剣は出てこなかった。

不意に後ろから突き飛ばされる感覚を味わい、前方に倒れる。

立ち上がろうにも、手に力がほぼ入らず、両膝と両手を地面につける。

 

バールド) 「か…かか……身体が…」

 

ニッ怪) 「悲しき男よ……体力が尽きた様じゃな……いい加減諦めたらどうじゃ…」

 

そんなニッ怪の言葉も、怒りに打ち震えるバールドには届かなかった。

 

と、そこへ先程飛ばされたニッ怪の左腕を持った夏来と、その後を追う仙座達が合流。

糜爛の腕の中で安らかに眠る神代を見て、それぞれ悲しみの表情を見せた。

誰1人取り乱すこと無く、冷静な反応が出来たのは、過去これと同じ様な光景を見てきたからだろう。

夏来達は悟神の死を……糜爛達は沢山の仲間の死を。

 

そんな夏来達をよそに、バールドは歯をむき出しにし、唸る様に声を上げる。

 

バールド) 「雑魚共め………1人じゃ何も出ねぇクズが」

 

炎条寺) 「うるせぇ!! 殺人鬼の癖に勝手に決めつけてんじゃねぇ!!」

 

相変わらず悪態をつけるバールドに、拳を強く握った炎条寺が怒りの声を上げる。

 

バールド) 「この世界の為に働かない奴を排除して何が悪い? アァ!?」

 

炎条寺) 「そいつらにも命はあるんだ! それをお前らの考えだけで絶たれる身になってみろ!」

 

こいつらは罪も無い人々を殺す、正義という名の皮を被った殺人鬼だ。

こんな奴らを野放しにしたら、この世界に平和なんて訪れるわけが無い。

拳に炎を纏わせ近付く炎条寺に、恐怖の眼差しを向けるバールドへ誰かが声をかける。

 

 

「「お前の言う通りだァ バールド 世界の為にならねぇ奴ァ 消すしかねぇよなぁ?」」

 

 

その声は夏来達にもハッキリ聞こえた。

どこかで聞いた様な、二度と聞きたくなかった声で───、

 

 

 

 

 

次の瞬間、夏来達は目の前でまた一つ命の灯火が消えるのを目撃する。

 

空から雨の如く降り注ぐ、電気を帯びた無数の矢。

それがバールドの背中を深く抉り、血を撒き散らしながら前のめりに倒れる。

 

空を見上げた夏来達は、その声の主の男を視界に捉えた。

稲妻に乗り、地面に降り立った男は夏来達を見るや否や、ケタケタと嗤いながら再開を喜ぶ様に両手を広げ───、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「特殊能力撲滅機動隊 戦闘部隊隊長──ゾルバース・ヴェルデ、デス」」

 

 

そう声高に名乗りを上げた。

 




誠に申し訳ありませんでした──!!
一ヶ月間何やってたんだ! って言われるのも分かります!
でも…でも!!

花粉症になったり、メモに書いた丸一日分の文章が消えたり、宿題にバタバタしたりしたんですよ……

そのお詫びと申しますか……この話は他の話と比べても5000文字位多くしました!!

これで許してください……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。