頬に当たる冷たい風が、辺りに漂う血の匂いを運んでいく。
その場はまるで戦場の様な雰囲気に包まれていた。
レウザ) 「おやおやぁ…敵将の登場ですか……これはまたピンチに助けに来るとは、ふふふ……どこまで私たちを楽しませてくれる人達ですかぁぁあ!!」
両手を広げ、歓迎を表すかの様な仕草を見せながら言うレウザに対し、空中に浮かぶ7人の中から1人の人間が前に出てきて、右手に細長い刀を召喚する。
糜爛) 「我が名は糜爛 時雨……我らが友を失った悲しみ…今ここで晴らしてくれよう!!」
長い黒髪を後ろで結んだ糜爛の外見からは、女性を連想させられるが、発せられる声は低く男性だと言う事が分かる。
糜爛が叫ぶ。
それを合図に、ニッ怪を抜かした残り6人がレウザとバールドに攻撃を仕掛ける。
それに応じて2人も飛び出し、激しい空中戦が幕を開けた。
突如ニッ怪、仙座と共に現れた5人の人達の強さは確かなもので、人数的に有利だとしても夏来たち3人を簡単に遊び倒したバールド、レウザ相手に互角以上の戦いをしている。
そんな希望に満ちた光景を見て唖然としている夏来に、ニッ怪が駆け寄り傷を癒し、顔に着いた血を拭く。
夏来) 「ありがとうニッ怪君 ……あの人たちは…」
ニッ怪) 「…機動隊に恨みを持つ者たちじゃよ」
その言葉に、夏来は幻花の発言を思い出す。
過去に機動隊に滅ぼされかけた人達が居た事……
それが今、夏来の目の前で激戦を繰り広げている人達なのだろう。
機動隊に糜爛たちがどんな酷い事をされたかは夏来には分からない。
だが、彼らから感じられる殺気と怒りの混じり合った思いが、夏来には痛いほど伝わって来た。
夏来) 「ニッ怪君、ちーちゃん達を!」
ニッ怪) 「承知」
バールド) 「クソッ…!」
倒れている炎条寺と幻花に駆け寄る2人に、バールドが衝撃波を放つ。
糜爛) 「愛佳!」
神代) 「任せて 時」
仙座) 「捕まって!」
神代が仙座の手を掴み、瞬間移動で夏来たちとバールドの間に割って入ると、神代が斜め右上に向かって手を素早く動かす。
すると その部分の空中が割れ、ブラックホールの様な黒い渦が巻く小さな空間が現れる。
そしてその空間の淵に両手をかけ、腕に力を入れて左右に広げる。
それに従って、幅が大きく変化していき、バールドの衝撃波が吸い込まれていく。
バールド) 「っ!」
神代) 「ディメンション・ワープ」
と神代が言った次の瞬間、バールドの頭上に同じ空間が現れ、そこから先程吸い込まれた衝撃波が放たれる。
それに気づいたバールドが避けようとするものの、その攻撃範囲の広さは大きく、こんな至近距離で避けられる訳が無かった。
地面に叩きつけられたバールドが、ヨロヨロと立ち上がる。
バールド) 「ぁぁぁ……くそ…自分のを喰らうとはな…」
右手で頭を押さえ、左手で服に付いた塵を払う。
額から血が流れてくる。
その様子に炎条寺は違和感を感じていた。
バールドが言っていた自身の能力……受けたダメージを力に変える能力が働いて居ない様に感じた。
仙座) 「……あいつは自分の攻撃と斬撃には能力が発動しないんだよ……糜爛達から聞いた」
炎条寺) 「そうなのか!?」
神代) 「はい、ですから此処は私と糜爛、ニッ怪さんに任せて、貴方達はレウザを! 奴は不死身ですが…勝てない相手では無いはずです!」
夏来) 「分かりました! 」
神代はそう言うと、ニッ怪と共にバールドに向かっていった。
夏来、炎条寺、幻花、仙座の4人はレウザに標的を合わせ、仙座の手を掴み瞬間移動でレウザと戦っている3人の元へと向かった。
3人) 「ッァァァア!!」
レウザに対して、三方向から攻撃をしている。
水と氷の弾丸、そして青白く光る弾、それが一斉に無防備のレウザに襲いかかって居た。
流石に身動きが取れない事に危険を感じたのか、レウザが周りにバリアを張って攻撃を防ぎ、さらにそれを3人に向け攻撃として放つ。
3人は咄嗟に頭の前で手をクロスさせ、ガードの姿勢を取り、ダメージを軽減する。
攻撃が収まり、再度標的を確認しようと前を向くが、其処にレウザの姿は無かった。
幻花) 「ボサッとしない!」
と、其処へ仙座の瞬間移動で加勢に来た幻花が横に着き、斜め上を見上げる。
3人がその方向を向くと、レウザが右手を前にかざし、横に白い光を作り出して居た。
仙座) 「武!皆んなで一斉に攻撃して! 策を思いついたの!」
武次) 「ゆりかさん……分かった! 澄華、泰人 行くぞっ!!」
澄華・泰人) 「了解!」
仙座の指示により、4人が攻撃の体制に入る。
その瞬間、視界に入るレウザの姿が光に包まれた。
レウザ) 「御返しです! シャイニングストラーレイン!!」
そしてその光が形を変え、無数の光線となって降り注いで来るとの同時に、幻花達は手を前に突き出す。
幻花) 「フェザー ストーム」
武次) 「アイス バーニング」
澄華) 「ウォーター マジックスマッシュ」
泰人) 「ゼロ スピアポイント」
それぞれから多様多色な弾幕が放たれ、迫り来る光線と打つかり相殺されて行き、その度に小規模爆発が起こる。
レウザ) 「ぎ……ぐっ……これなら…どうですかっ!!」
幻花たちの抵抗により、少しずつ押されていたレウザが、フリーとなっている左手で横にもう1本の線を引き、そこから更に無数の光線を放つ。
それにより状況は一変し、レウザの攻撃が幻花達を追い詰めていく。
防ぎきれなかった光線が4人の体に傷をつける。
何回も何回も、それを体に喰らう度に力が弱まり、防ぎきれない光線の数が増える。
それでも諦めない幻花達は、自分の持っている力を全て出し切ろうと力を込める。
それにより、再度レウザが押し返される。
レウザ) 「ぐぐっ……調子に…乗るなァァァア!!!」
諦めの悪い幻花達に怒りを覚えたのか、レウザの口調が荒くなる。
その瞬間、放たれる光線の量が爆発的に増える。
だが幻花達も負けまいと気合いの入った叫び声を上げる。
レウザ) 「テメェらは何故彼奴の味方をするっ!? 彼奴を帰したら…俺らは全員この世界と共に死ぬんだぞっ!!」
武次) 「そんなのは分かっている……!! だが我らは死ぬ事に恐怖などない! 」
澄華) 「お前らは私達の幸せを壊した…っ!絶対に許さない!」
泰人) 「夏来さんは俺らにチャンスをくれたんだ!! だから俺らの亡き友の為に…」
3人) 「お前らを倒す!!」
レウザ) 「ククク……クハハハッ! そりゃぁ結構な事でぇ!! だったらそんな夢物語は俺がぶっ壊してやるよォ!!!」
仙座) 「行くよ2人共!今がベストだよ!」
レウザが目を充血させ、興奮状態に入ったのを俳句の能力で会得した千里眼により確認し、夏来と炎条寺に伝えると、仙座が瞬間移動でレウザの近くへと回った。
目の前の敵に意識を集中させているレウザに向け、仙座が右手の人差し指から一発の弾を撃ち込む。
完全なる不意打ちだった。
仙座の攻撃を受けて怯んだレウザが血走った目で睨みつけると、仙座に両手を向け攻撃の仕草を見せる。
と次の瞬間、魔力が送られてくるレウザの手が離れた事で白いラインに宿る力が失われ、そこから放たれた光線が一瞬で粉々に砕け散る。
そう…レウザが興奮状態に入り、理性を保てなくなったのを利用したのだ。
両手が使えない時に攻撃をすれば、反撃をしなければならなくなる。
もしも正常だった場合、レウザは手を離したりはしなかっただろう。
不死身の体に攻撃なんて効かないのだから……
策が十分すぎるほど完璧にこなされたと言う意味を込め、仙座はクスッと笑った。
そして……光線が消滅した事で、対の存在が無くなった幻花達の放った弾幕がレウザを襲う。
レウザ) 「し…しまっ…!」
その視野に広がる弾幕に、レウザの身体が飲み込まれる。
数秒後、身体中に痛みを感じたレウザが悲痛な叫び声を上げた。
不死身と言っても一度に大量の攻撃や、致命傷を受ければ痛みも感じるだろう。
その点、ただ氷の槍で貫いただけではビクともしないのは、不死身らしいと言えば不死身らしい……
炎条寺) 「今だ千代!」
レウザが踠いて居るこの瞬間、地上にて待機していた炎条寺が幻花に指示を出す。
幻花) 「ブラスト!」
それを聞いた幻花が左手をフリーにし、上昇気流を作り出す。
そして夏来と炎条寺を浮かび上がらせると、レウザ目掛けて物凄いスピードで飛ばした。
武次達の横を通り過ぎると、炎条寺が夏来の身体の周りを二重の炎で包む。
炎条寺が上昇気流から外れ、落下して行く。
炎条寺) 「やっちまえぇえ夏来ーー!!」
レウザ) 「ッェァア!!」
レウザが両手を前に出し弾幕を放つ。
しかし、それは夏来に当たる直前に幻花達の弾幕に相殺される。
さらに上昇気流に乗り、爆煙がレウザに覆い被さった。
なんとか視界を確保しようとレウザが、爆煙の中から上に向かって飛び出す。
だが其処にはそれを待っていたかの様に、力強く握りしめられた仙座の拳があった。
仙座) 「落ちな」
顔面を殴られ真下に吹き飛ばされるが、なんとか上手く体制を立て直す。
レウザ) 「こ……こんな事がっ…!」
まさか不死身の自分が此れ程まで追い詰められるとは思っても見なかったのだろう。
それまで余裕の表情を見せていたレウザが冷や汗を流す。
それと同時に理性を取り戻したレウザは、ある事に気づいた。
先程まで自分目掛けて弾幕を放っていた幻花達が、今がチャンスだと言うのに攻撃をしてこない事に…
何故だと思い幻花達の方を振り向こうとした時、爆煙を掻き分けて炎と共に夏来が現れた。
レウザ) 「な……何!?」
幻花) 「ストーム・スキャホールド!」
幻花が夏来の姿を確認すると、瞬時に夏来の足元に空気を固めて作り出した足場を召喚する。
夏来がそれに足を掛けて膝を曲げ、全身の炎を右手に集中移動させる。
レウザ) 「こんな所で…! シャイニングーー」
夏来) 「ブースト……!」
ストラーレイン、という言葉を発する前に、レウザは腹部に違和感を感じた。
内臓が焼ける様に痛い。
視線をそっと下へとずらすと、腹から背中にかけて夏来の右手が貫いていた。
夏来) 「うわぁぁぁぁあ!!!」
叫び声を上げながら、夏来が右手をグッと押す。
レウザ) 「速い……です…ね… ガァァッッ!!」
レウザは左手で夏来の右手を身体から抜き出すと、右足で夏来を地上へ向けて蹴る。
体に力が入らないまま落ちて行く夏来を目で追いながら、レウザは貫かれた腹を再生しようと力を込める。
しかし、何故か元に戻らない。
不思議に思ったレウザが確認すると、腹の中が焼け焦げていた。
……炎……
レウザ) 「それはぁ…再生出来ないじゃないですか……」
よろめき、バランスを崩したレウザは力を無くしたかの様に頭から落ちていき、地面へ勢い良く叩きつけられ、その後は少しの間身動きが取れなかった………
一方、レウザとの激しい戦いによって負傷した夏来達は、傷を治す為に仙座の瞬間移動でニッ怪の元へと向かった。
近くまで来た夏来達が、ニッ怪達3人の姿を見つける。
声を掛けようと夏来が息を吸い込んだ瞬間、3人の方向から何かが宙を舞い、地面へ落ちて此方にコロコロと転がって来た。
それを確認する為、夏来達は近づく。
人は好奇心旺盛だ。
それ故、物見たさに見てはいけないものまで見てしまう。
夏来達の目に映ったのは、まだ血がトクトクと流れ出している肩から切断された人の腕だった。
春休みを利用して小説を書く……
だけど宿題があるぅぅう!!
宿題…小説…宿題…小説……ぁぁ…小説を書く宿題が欲しいよ!
次回予告!
斬撃が効くと言う事を聞いたニッ怪、糜爛はバールドとの激しい剣闘を繰り広げる!
ワープを作り出せる神代に、バールドはどう対策をして行くのか!
そして決着が着いた時……新たなる脅威が夏来達を襲う!
この作品中、最大の絶望が待っている!
夏来) 「次回はいつも以上に期待しててね!」
仙座) 「制作時間は少し掛かるかも!」