しばらくしてそろそろ起きないと遅刻になるので、私は起きる様子のない千冬お姉ちゃんを起こすことにした。
「千冬お姉ちゃん、朝ですよ」
私は耳元でそう言って起こす。ただ、眠りが深いようで、う~んと唸るだけで起きる様子はなかった。
仕方ないので、体を揺さぶって起こすことにした。
「千冬お姉ちゃ~ん! 起きて! 朝ですよ! 遅刻しますよ!」
「う、う~ん、まだ寝たい……」
「ダメですよ! 千冬お姉ちゃんは先生なんですから休んじゃダメです!」
千冬お姉ちゃんはゆっくりと目を開け、私を見る。
寝起きのせいか、いつもの凛々しい目は、ぼんやりとした目だ。なんだか可愛い。
「むう、もうこんな時間か。いつもならもっと意識がはっきりしているのだがな。やっぱり詩織のせいだな」
「わ、私のせいじゃないですよ!」
「詩織が昨日、あんなにするからだ。止めろと言ったのに」
「だ、だって、千冬お姉ちゃんが泣き顔で言うから」
「!! な、泣いてない!」
「泣いてました~! 潤んだ瞳で『や、やめっ、止めて!』って言ってました~!」
「なっ! わ、私はそんな甘ったるい声で言った覚えはないぞ!」
「私、ちゃんと聞きました! そんな声でした!」
あんないつもは聞かない声だったからこそ、私はさらに興奮してしまい、千冬お姉ちゃんの制止を私を興奮させるための動力としてしまったのだ。
「う、うぐぅ」
「というか、ほら! もう時間ですよ! シャワー浴びないと!」
汗を流すようなことをしたので、そのまま登校するというのはさすがに無理である。
私はまだ眠そうな千冬お姉ちゃんを無理やり起こすとそのまま引っ張って、浴室へと向かう。
朝で、今回千冬お姉ちゃんが寝不足と言うことで、シャワーの湯の温度は低めにして頭の覚醒を早める。
千冬お姉ちゃんはまだ少々覚醒していないので、私が最初に浴びる。
ん~! このちょっと冷たいかなって感じが覚醒させてくれる!
「ほら、千冬お姉ちゃんも浴びてください!」
「ん、分かってる」
千冬お姉ちゃんも浴びる。
シャワーの湯を頭から浴び、その湯は千冬お姉ちゃんの体のラインに沿って流れる。
「目は覚めましたか?」
「ん、覚めたぞ。ただやっぱりまだ眠い」
「じゃあ、今日は早く寝てくださいね。多分、疲れていると思いますから」
「そうだな。では、明日は泊まるか?」
「そうですね。泊まります。でも、明日はゆっくり寝ましょう」
「ああ」
平日にしちゃうと今日みたいになる。つまり寝不足ということだ。
なので、休日にやろう。うん、そうしよう。
私たちはそれから軽く体を洗って、水滴を落とす。
私の下着と制服はもちろん持ってきているので、着替えはある。
鞄のほうは部屋にあるので、セシリアに持ってきてもらうことにしよう。
「あっ、そういえばしばらく簪とセシリアと夕食が食べられないんです。千冬お姉ちゃんと食べてもいいですか?」
「いいぞ。だが、食堂で食べると問題になるが」
「あっ、大丈夫です! ここで作りますから」
生徒の寮と違って、教師の寮は生徒の寮の部屋に加えて実はキッチンがあるんです。大きい訳ではありませんが、料理をするには十分なほどの広さを持ったキッチンが。
なので、夕食くらい作ることはできる。
もちろん、私、料理を作ることはできますよ!
ただ、完璧の私ですが、時間がさすがに足りませんので、料理の腕はそんなに上手くないんですよね。せいぜいレシピを見て作る程度。
まあ、私は作る側ではなくて、食べる側なんですけどね! だってお嫁さんがいますし!
しかも、確定しているお嫁さんは三人である。一人は、まあ、料理に関しては不安だが。
練習しているのかな?
ともかく、そんな私が料理をするのだが、レシピがあれば作れるので問題ない。
「そうか。それは楽しみだな」
今度は千冬お姉ちゃんの手料理も食べてみたいですね。
あっ、でも千冬お姉ちゃんって料理を作ることってできるんだろうか? セシリアのような結果ではないことを願おう。または、作れないと正直に言ってくれるといいが。
「材料を見てもいいですか?」
「いや、ない。売店か本土で買ってくれ。お金は渡そう」
「分かりました。ちなみにですが、苦手なものとかありますか? あと、好きな食べ物とか」
「特にないな。好きなものも昔はあったが、最近は気にしていないから、分からない。そうだな、肉にしてくれ」
「はい。肉料理にしますね」
ということで、今夜の夕食は肉料理になった。
もちろんのこと、ここ、IS学園にはお肉などの食料が売っているなんてことはない。売店はあるけど、他よりも大きいというだけの売店で、食べ物はお菓子やパン、インスタント系である。わざわざ調理しなくても食べられるようなものばかりだ。
なので、もし料理を作るのならば、食堂で材料を貰い、その場で作るか、本土へ行ってそこで買うしかないのだ。
今回は本土。
だって、食堂の食材は贅沢に使えないから。そこが残念なところである。
まあ、弁当を作るくらいならば十分ではあるが。
でも、私はそれでは満足できないので、本土で買う。え? レシピを見て作る程度なのに拘りすぎ? う、うるさいです! 別にいいじゃないですか! 料理は技術だけじゃなくて、素材の良さだってあるんだから!
「詩織、楽しみにしているぞ」
「はい! 頑張ります!」
とは口で言ったものの、そう千冬お姉ちゃんに言われると緊張してしまう。というか、思わずそんなことは言わないでって言ってしまいたくなる。
さて、それから着替えて私たちは朝食のために食堂へ向かう。
あっ、人に見られるとダメなので、残念ですが千冬お姉ちゃんとは別行動になる。
うう、せっかく千冬お姉ちゃんと結ばれたのに、その翌日はこのように離れ離れになるなんて……。
くうっ、早く大人になってみんなと一緒に暮らしたい! そうしたらみんなともっといちゃいちゃできるのに!
「うう~、簪とセシリアといちゃいちゃしてやります!」
千冬お姉ちゃんとは放課後までいちゃいちゃできないので、それを二人の恋人に向けるとする。
食堂へ着くとすぐに二人の姿を探す。
あっ、いた! 簪とセシリアだ!
私はすぐさま駆け寄る。
二人も気づいたようで、少々元気のなかった顔が元気でいっぱいになっていた。
「簪! セシリア!」
私は二人に抱きつく。
周りに人がいるが、この程度ならば仲良しにしか見えないので、問題はない。
「し、詩織、こ、ここ、人前ですわよ」
「は、恥ずかしい」
まあ、二人は恥ずかしがっているけど。
はあ~、二人の匂い~! ずっと嗅いでいたいな。
「おはよう、セシリア、簪」
十分に二人を堪能したので、離れてそう言う。
「ええ、おはようですわ」
「おはよう」
二人は私に向けて笑顔を向ける。
二人とも可愛い過ぎだよ!
「ん? 詩織、髪が少し湿って、る?」
「あら、本当ですわね。朝風呂ですの?」
セシリアは朝風呂かと思っているようだけど、簪のほうは何をしたのか察しているのか、ジト目である。
さすが経験者。何があったか分かったようだ。
それを教えるためか、簪がこちらにジト目を向けながら、セシリアに耳打ちする。
簪に意味を教えてもらったセシリアは突然顔を真っ赤にさせる。
「は、破廉恥ですわ!!」
勝手に口から出たのか、その声はとても大きく周りの生徒がこちらを何事かと見てくる。
セシリアはその視線に気づき、慌てて口元を手で覆い隠す。
「セシリア、声が大きいよ」
「だ、誰のせいですの!?」
セシリアが小声で言う。
「わ、私のせいじゃないよ。簪のせいだよ」
私のせいではない。私はまだ何も言っていない。ただ、経験者である簪が勝手に言っただけだ。
「む、私は悪く、ない。どちらかという……と、それを察せない……オルコットが悪い」
「わ、悪くありませんわ。そ、そのわたくしはまだ、け、経験がありませんもの」
「ふっ、純情ぶっている、けど……詩織とはそれに近いことはしてる……くせに」
「う、うるさいですわ! べ、別に純情ぶってませんわ」
「だといいけど。それよりも、詩織。やっぱり……織斑先生と……した、の?」
簪が恥ずかしげに聞く。
「う、うん」
事実とはいえ、このようなことを人に言うのはとても恥ずかしかった。
その相手が最初にやった人間であるとか関係ない。私のこの羞恥はいつまで経っても変わらないのだから。
「ち、ちなみに、織斑先生は初めてでしたの?」
セシリアが頬を染めながら興味深そうに聞いてきた。
やっぱりセシリアもこういう話に興味があるのだろうな。
「そ、それよりも、ほら、朝食食べよう! 私、お腹ペコペコだから!」
「ん、詩織の言う通り。ご飯、食べたほうが……いい」
そう言う簪だけど、簪も興味があるようで、チラチラッとこちらを見てくる。
やっぱり千冬お姉ちゃんってIS乗りなら憧れの人だから、千冬お姉ちゃんのそういう事情とか知りたいのだろう。まあ、私の分からなくはない気持ちだ。私も二人の立場だったら聞いていたに違いない。
食べているときにでも話そう。二人は私の恋人だし、不利益になることはないだろう。もちろん、言わないようにとは言っておくけど。
ということで、適当に朝食を頼んで、話を聞かれないようにと食堂の端っこに陣取る。
「それで詩織。教えてくれませんの?」
セシリアが再び言う。
先ほどは気になる様子だった簪は興味がないようにしつつも、耳だけはこちらに傾けていた。先ほどのように私の援護しないのは、自分の発言で聞けなくなることを恐れてだと思う。つまり、私が断るきっかけを作らないようにするためだろう。
「いいよ。でも、その、絶対に私たち以外には言ったらダメだよ?」
私がそう言うと二人は一瞬だけ顔を綻ばせた。
「もちろんですわ。織斑先生もわたくしたちと同じですもの」
「ん、私たちは詩織の幸せを……望んでる。そんなこと、しな、い」
「ですわ」
よし、信じよう!
「じゃあ、言うね。千冬お姉ちゃんは処女だったよ」
早速結論を言う。
「「!!」」
二人は私から発せられた事実に目を見開き、驚愕する。
「びっくり?」
私が聞く。
「え、ええ。織斑先生も大人ですもの。すでに男女関係があるかと思っていましたわ」
「同じく。でも、なんだか……ありえ、そう。織斑先生は……真面目、だから」
二人もまさか千冬お姉ちゃんが処女であったことに驚いていた。
でも、まだ驚くことはあるよ。
「千冬お姉ちゃんって私が最初の恋人だって」
そう、これである。
千冬お姉ちゃんは簪の言うとおり真面目である。少々エッチなところもあるが、それは恋人だからであり、将来も一緒にいたいと思っているからエッチなこともしているのだと思っている。
だから、処女であっても不思議ではないだろう。
だが、千冬お姉ちゃんのような美人が今まで一度も恋人がいなかったとなるとそれは思わず疑問になるほどだろう。だって、千冬お姉ちゃんならば先ほど言ったように美人なので、選び放題だから。
「え!? どういうことですの!?」
「一人も、付き合ってない、の?」
やっぱり驚いている。
「告白されたことは何度もあったんだけど、全部断ったんだって」
「それで……詩織が、初め、て?」
「うん。付き合ったのは私が最初だって!」
やっぱり自分が好きな人の初めてであるというのはとてもうれしい。恋人たちは物ではないけど、自分のものにしたという気分になる。もちろん、そのような優越感のために恋人にしたわけではない。ちゃんと一緒にいたいとか好きとかちゃんとそういうものがあって恋人にしたのだ。
私、本気で将来も一緒にいるつもりである。
「なんだか意外でしたわ」
「ん、でも、ある意味……それはいい、ことかも」
「あら、なぜですの?」
「だって、詩織は……ハーレム作ってる、けど……ちゃんと愛してくれるから」
簪は自分の発言に頬を染めながら言う。私のことを言われた私も顔が熱くなる。
恋人にそのように言われると、は、恥ずかしい……。
評価が聞けてよかったというのはあるけど、こういう言葉をこういうときに言われると照れる。
「確かにそれは同意しますわ。エッチなところはありますけど、ちゃんと愛を感じますわ」
「ん、感じる」
二人が私についてどんどん話してくる。
私はただ聞いているだけなのだが、それも私のことなので顔を真っ赤にしながら聞くしかできなかった。