「か、簪、だ、ダメ! そ、そんなところをされたら私……んっ」
「ぷはっ、別に乱れても……いい。快楽に……溺れ、て」
「そ、それは夜、んぐっ、でしょ?」
「ちゅ、こういうのは……別に一回だけじゃ……ない。何度やってもいい」
簪は何度も何度もキスなどの刺激を与えてくる。
抵抗も無意味なこの状況で、私の体の力はだんだんと無くなってくる。私は時折体をびくんと震わせながら簪にされるがままになる。
「ん、詩織は……何もしなくて……いい。されるがままで……いい」
こうして簪に攻められるのは何度もだろうか? いつも最初は私が攻めだったのに、いつの間にか立場が反対になっている。
「ほら、見て。私の脚……濡れている」
視線を落とせば、簪の脚は確かに濡れていた。これは私から出たものだ。ど、どこのかは言わない。
私は羞恥で顔を赤くする。
「ね、ねえ、こ、こんなふうになったんだし、もう止めたほうがよくない? わ、私、これ以上されたら……が、我慢できないよ」
下着が軽くダメな状態になっているが、ま、まだ何とか理性を保っている。
でも、これ以上されて外だけど我慢できる自信がないのだ。他の人なんてどうでもいい、簪とエッチなことをすることが優先だってなるかも。だから、そんなことになる前に終わらせたい。
「よ、夜は長いよ。今はデートしよう?」
「言っておく、けど、誘ったのは……詩織」
い、痛い所を突かれた。
うん、私が止めようなんて言える立場ではない。誘った私が、ただ返り討ちにあっただけだもん。本来ならば簪が言う台詞だ。
だから、止めるのは簪次第なのだ。私の意思はない。
「そ、そうだけど、や、止めて。夜いっぱいするから」
「……しかたない。続きは、夜、ね」
「う、うん」
簪が私の肩に手を置きながらゆっくりと離れた。私の肩に手を置いているのは私の体の力が抜けているだからだ。
私は簪に支えられながら体を整える。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫。もうちょっと待って」
私は簪の方に顔を埋めて、深呼吸をする。
「ティッシュ、使う?」
「使う。拭いて」
「じゃあ、寄りかかって」
私は壁に寄りかかる。
簪は手にティッシュを持って、私の前にしゃがむ。そして、私に私のスカートの裾を持ち上がらせて、行為の跡を拭いていく。
とても恥ずかしがったが、簪が相手なので最初のころよりは慣れた。恥ずかしいのは分からないが。
簪は足を伝っているものから下着まで拭いた。
「か、簪! し、下着まではやらなくていいよ!」
「でも、ここを拭かないと……同じことに、なる。ちょっと拭かないと……ダメ」
恥ずかしがる私とは反対に、簪は淡々と拭く。先ほどのようなことがなかったかのようだ。
私は簪に拭われながら、じっと待った。
う~、どうして私がされる側なんだろう。私の予想では私が前世の経験を生かして、お姉さん的な感じで優しくやるつもりだったのに。
もういつものことのようになっている立場。年上である(前世を含めて)私はどちらかというと慣れない恋人に優しく教えてあげたいのだ。それなのに簪は最初のときからもそうだったけど、私を攻めてくるのだ。
いや、確かにいつも最初は私が攻めるけど、結局は反対になる、それが不満なのだ。
べ、別に攻められるのが嫌というわけじゃない。ただ最後は私が攻めたいのだ。そして、簪は私の物って優越感に浸りたい。
ならば最初に簪に攻めらせればってなるが、そうなると最初から最後まで簪のターンになるのだ。私のターンはない。ただ攻められるだけなのだ。
「終わった」
「……ありがとう」
ことがことだけに礼を言いにくい。
「詩織」
身なりを整えていると簪に呼ばれた。
私は振り返る。
「ちゅっ」
「!?」
振り向くと同時に簪の顔が迫ってきていて、キスをされた。
ぐぐぐっ、ふ、不意打ちは、だ、ダメだって! さ、さすがの私も可笑しな反応しかできないから。
「赤くなって、可愛い」
「む、むう」
か、勝てない。最近簪に振り回されてばっかりだよ。最初はあんなに――って、最初から勝ててない? あれ? 負けてた? い、いや、確か最初の最初は勝っていたはずだ。だ、だよね?
私たちは最後に身だしなみを再確認した後、この場を後にした。
したのだが、しばらく路地を歩いていると五人の男たちが私たちの行く手を塞いだ。
男たちは私たちをニヤニヤといやらしい目で見てくる。どう考えても狭い路地を歩いた結果塞いでしまった、というわけではないようだ。完全に私たち、いや、私たちの体が目的だ。
私はすぐさま生徒会長モードになる。
私も女の子なので、怖いなんて思うことはあるのだ。だから生徒会長モードになって、その恐怖を抑える。
私はすぐに簪の前に出て、簪を隠した。
「よお、俺たちを遊ばないかい?」
男たちはまさにチャラいって感じで、そのうちの一人が私たちにそう言った。
「残念だけど、まだ行くところがあるの。あなたたちとは遊べないわ」
というか、男と遊ぶなんて却下だ。女だったら考えたけど、男は無理。どんなにイケメンだろうが、無理。女になって出直して来い!
「まあまあ、そんなことを言うなって。絶対に俺たちと遊ぶほうが面白い。休日に友人同士で遊びに来ているんだ。彼氏、いないんだろう? だったらなおさら俺たちと遊ぼうよ」
「残念ながら私もこの子も恋人がいるの。だからどいてくれるかしら?」
「おっと、そうだったのか。それなのに彼氏と一緒じゃないなんてな。ひどい彼氏だぜ。俺ならそんなことはしないね」
嘘つけ。どうせお前みたいなやつは、下手でも気遣いをしようなんてできないやつだ。それに本気で付き合うのではなく、遊びで付き合うんだろうが。
私は心の中で悪態をつく。
にしてもこんな場所で誘うってことは断れば確実にこの場で私たちの体で遊ぼうって狙いだ。はあ……これってどこの薄い本だろうか?
「まあ、彼氏がいてもいいや。どうだい? 俺たちは何も告げ口なんてしないから、別の男の味ってものを知りたくはないか? どうせ彼氏とはヤってんだろう?」
全く、女の子に対してなんて下品なんだ。もっと言い方ってものがあるだろうが。前世のときだって私はそんな誘い方はしなかった。まあ、恋人なんて嫁さんが最初で最後だったんだけどね。
私の中で低かった男たちの評価がさらに低くなった。
う~ん、この状況からどう脱しようか? 一先ず簪だけは逃がしたい。いくら簪がある程度武術をやっていようとも、この数でこんな狭い場所ではその実力も完全に出すことはできない。
私? 私は問題ない。だってこう見えても化け物ですから。男五人が相手でも、力で押し切ることができるし、この体は頑丈なので負けることはない。
これは決して過信ではない。事実だ。
「どうせ遊びなんだ。一度きりなんだ。ずっと会うわけじゃない。だから浮気なんかじゃない」
ひどい理論だ。一度でも別の人と関係を持ったらそれは浮気だ。私だったら許さないよ。むしろ遊びで他の人と関係を持ったということに一番怒るね。
「嫌よ。私は恋人以外と関係を持つ気はないの。この体を好きにしてもいいのは恋人だけって決めているの。だからあきらめて道を開けなさい」
何度も言おう。この体を好きにしてもいいのは恋人だけだ。恋人以外なんかにこの体を好きになんてさせない。
「ちっ、こっちがせっかく優しくしてやるって言っているのに。しょうがない。おい! やるぞ!」
「「「「おう!」」」」
さっきからしゃべっていた男の声に周りの男たちが声を上げる。
あまり見たくはないのだけど、男たちの股間は大きくなっている。きっと私たちを犯しているところでも想像したのだろう。
ちなみに簪の目は私の背中で固定させている。簪は知らなくて良いことなのです。
「いいの? 私、叫ぶわよ?」
「いいさ。叫べよ。この場所は叫んでも通りに声が響くことはないんだぜ? 知らないだろう」
うっ、まさかそんな所だったとは。はったりという可能性も考えたが、男たちは焦った様子はないし、距離も空いているので本当のことだと思う。
やはり男たちを倒して逃げるしかないか。
でも、その前に簪だ。簪を逃がさなければ。
「簪、全力で動ける?」
「む、無理」
簪の声は震えていた。やはりこの状況に恐怖を感じているようだ。
幸いにも後ろが空いている。多分女だからって走る速さを甘く見ていたせいだろう。
だから簪に先に行かせて、私がここに残る。うん、これがベストだ。いくら簪が恐怖で上手く走れなくても、私がここでこいつらをボコボコにしていれば逃げられるはずだ。
ただ不安なのは待ち伏せをしていないかってことかな。
「簪、後ろへ逃げるよ。簪は私のことは気にせずに逃げて」
「詩織は?」
「こいつらを片付けて後で行くから」
「だ、ダメ!」
まあ、この人数だからね。いくら私が強いと知っていても、普通は勝てるなんて思わない。簪が見たのはセシリアと一夏との試合だけだもん。
「信じて。荷物置き場で会おうね」
「……分かった」
私が合図を出して簪は駆け出した。
もちろんのこと簪も目当てのやつらは追いかけようとする。
「ここは通さないわ」
そう言って私は道を塞ぐ。
男たちの判断は早くて、簪を追いかけるのを止めた。
「ちっ、逃げられたか。おい! このままじゃ人を呼ばれる。さっさと気絶させて運ぶぞ! 幸いにもあっちよりも上玉が残ってくれた」
男たちはじわじわと私との距離を詰めてくる。もちろんニヤニヤしながら。
一応、正当防衛にしたいから、向こうが襲ってくれるまで待とう。
待っていると一人の男が私へ向かって手を伸ばしてくる。その手は私の手だ。
とりあえず両手を押さえて、私の抵抗を抑えるってところか。
その男の手は私の手を掴む。
避けられたけど、避けたら未遂になるかなって思ったのでね。だから掴ませた。
「へへっ、気持ちよくしてやるから大人しくしていろ」
ふんっ、自分だけが、だろうに。
まあ、とりあえず正当防衛だね。手を出しただけではなくて、言葉でもね。
「残念ながらあなたたちと気持ちよくなんてならないわ」
「何――をっ!?」
男が言い終わる前に私は反対の手で男の手首を掴んで、男を回転させた。
ん? 合気道? 違う。これは相手の力を使わず、自分の力だけでやったのだ。こう、ぐりっと。私だからできることだね。
無理やり体を回転させられた男は体を地面に叩きつけられ、そして、手首を痛めた。
まあ、無理やりだから下手をすれば手首を痛めるだけでは済まなかっただろう。よかったねと言ってやりたい。というか、感謝しろ。
「な、なにしやがるんだ!」
見ていた男が叫ぶ。
「何を言っているの? あなたたちは私の体を犯すんでしょう? 私は犯されたくはない。なのに抵抗しないなんてありえないじゃない。もしかして抵抗されずにって思ったの? だったら大間違いよ」
私は最後のトドメに腹を踏みつけた。も、もちろん手加減はしている。うげえっとか言っているけど、腹に衝撃がきたからだから。ち、血も吐いてないから内臓も大丈夫。
「な、なんて女だ」
そのせいか襲ってきたやつらが引いていた。
「多少傷がついても構わない! とにかく捕まえろ!」
「ちっ、綺麗なままで楽しみたかったのに!」
男たちは私を殴りにかかる。
まず一人目が私の顔面へ向かって殴ってきた。
私はそれを当たる直前に避けて、逆に顔面を殴ってやった。カウンターってやつだ。
私のパンチは軽くだったが、相手が私を思いっきり殴ってきたため、威力はより大きくなった。
「がふっ」
悲鳴がしたが、私は次の相手を見ていた。
私はそこから裏拳で次の相手の側頭部を殴る。
殴られた男は私の拳の威力で路地の左右の壁に叩きつけられる。
結構な威力だったので、気絶していなくてもすぐには立ち上がることはできないだろう。どちらにせよ無力化。
これで残り三人。
三人目がこちらに来ようとしていたが、倒された二人を見てすぐにバックした。
「武器を使え!」
犯すどころではなくなったとようやく気づいたのか、武器を出してきた。三人が出したのはナイフだ。刃渡り約十センチほどだ。
おい、完全に殺す気じゃん。シャレになんないんだけど!
私の警戒度はさらに上げる。
「あら、女相手に武器を使うのかしら? 素手じゃないの?」
いくら私が武器相手でも勝てると言っても、やっぱりあるよりはないほうがいいだろう。安全第一だ。
「男二人を一瞬で倒す相手に武器なしなんて無理だろうが」
「俺たちだってやられるなんて嫌だからな」
そっちは私を性的に襲おうとしていたくせいに。何がやられるのが嫌だ、だ。
私はちょっとムカついて、ちょっと本気を出す。手前にいた、つまり三人目の懐に入り込み、掌底を放った。
男の体は一瞬宙に浮く。
私はその瞬間を見逃さず、浮いた体に蹴りを入れた。
男は蹴り飛ばされ、残りの二人のうち一人を巻き込んで壁にぶつかる。
スカートだけど気にしない。
「は、はは、おい、どこの漫画だ? なんで人が飛ぶんだ? あ、ありえねえよ」
最初に喋っていた男は構えることもなく、ただ呆然と言う。
「世の中には化け物って呼ばれる人間がいるのよ」
私はそう言って、最後の男も無力化した。