簪の頭を十分に洗ってその泡をシャワーで流す。
その後は体だ。
さて、ここで困ったことがある。簪の体を洗うのにタオルを使うのか、それとも私の手を使うのかということでだ。
タオルは表面がザラザラとして肌に刺激を与えるのでダメなので最初から却下したくて、手で洗おうと思っているのだが、果たしてそれをまだルームメイト程度の関係でやっていいのかを迷っているのだ。
「詩織? どう……したの?」
「ん? 大丈夫よ。すぐに体も洗うから」
このままじゃダメだし思い切って手で洗おうか! ちょっと強引だけどこれも仲を深めるためだ。徐々に私への好感度を上げるというのもあるのだが、それだけではだめな時だってある。それが今だ。
私はさっそく行動へ移した。
まず手にボディソープを付けて泡立たせる。十分に泡立たせてゆっくりと簪の肌に近づけた。
ど、ドキドキする~! だ、だって簪の肌に触れるのだ。先ほどのことがあったが、あれは事故だ。今度は自分の意思で触れるのだ。
私はドキドキとしたまま泡の付いた手で簪の肌に触れた。
「んっ……。詩織? な、なんか……変な感じが……する」
「そ、そう? 気のせいよ。ただ洗っているだけだもの」
簪は私に背を向けているので背中に触れている。
私は手をそこからスーッと横に這わせた。
「……っ。し、詩織! な、なんか……!」
簪が体を左右に揺らしながらそう言う。
その声はなんだか喘ぐようで再び私を興奮させた。私の体温は興奮とともに上がって、思考さえもぼんやりとさせる。
私の手は徐々に範囲を広げていく。
そんなことをしている私のこの行動の目的は、無意識のうちに簪を洗うことから簪の肌を触れることへと変わっていた。
簪の肌は私の肌と同じくすべすべとしていた。
私はゆっくりと動かしたり、優しく触ったり、強く触ったりとしてそれを楽しむ。
「あっ……んあっ……だ、ダメ……! し、詩織! ちょ、ちょっと……!」
背中はすでに終わった。すでに泡で染まっている。なら次は前か腕だ。ならば次は腕にしよう。
そう決めた私は再びボディソープを手に付けた。そして同じように泡立たせて腕へ。
「次は腕……」
その言葉は簪に伝えるためだったのか、それとも自分へ向けていったのかは私にも分からなかった。
私の手は簪の腕へ触れた。
「んあっ!」
簪が声を上げ、簪に触れるということを目的となっている私にはさらに興奮させるためのものへとなる。
うわあ~! 腕も気持ちいい! プニプニしている!
だが、簪の腕はただの脂肪だけでなっているわけではなく、筋肉もある程度ある腕だ。だから、完全にプニプニというわけではない。ある程度の筋肉の固さがある。それは別に気持ちよさを阻害するものではない。
腕を優しく揉みながらそれを堪能する。
「ん、んんっ……!」
簪の甘い声が響く。
私はその声を聞きたいと思い、簪を洗う手つきをいやらしくさせた。
「いや……だ、ダメ! や、止めて……! んあっ……ん……やんっ……」
そんなことを言われるがやはり目的が変わった私には無意味なものだった。今は自分の欲を満たすだけだ。
全部、簪が悪いんだから。簪がこんなに可愛すぎるからいけないんだ。
私はもはや自分を抑えられなくなった。その結果ついに私は今の関係では触れてはダメな部分、つまり胸部分へ触れようと考えていた。
すでに簪の腕は洗い終わっている。
私はごくりとのどを鳴らしてぼんやりとした思考の中、簪の背中越しから小ぶりの胸に触れようとした。
だが、触れる前に簪が首を回してこちらを見てきた。
すぐに手を引っ込める。
簪のその頬はほんのりと染まっており、息も荒いものだった。
それはやはり簪もまた興奮していたことを示す。
「どうしたの?」
「そ、それは……こっちの、台詞……! 手つきが……いやらしかった!」
「そう?」
このときには冷静になっていた。
私は先ほどの自分の行動を思い返す。
ああ……こんなになるなんてやっぱり欲求不満なのかな? きっとそうだ。だってようやく私の夢が叶えることができるのだ。
今までは女の子に対してそういう目では見ても、高校になってからハーレムを作ると決めていたので、決してそういう意味で触れようとはしなかった。
つまりまだ身も精神も幼い簡単に落としやすい女の子がすぐそばにいながら、自分のルールに縛られて触れることもできなかったのだ。それは欲が大きく肥大化させることに手助けをしていた。
だから、三年間の欲求が溜まっているため、ムラムラとしてあのようなことを考えてしまったのだ。
けど、今はもう発散するだけなのだ。溜めるということ自体がすでになくなりかけている。その結果、先ほどのような行動に出ようとなっているのだ。
「そう! 止めてって……言ったのに、止めてくれ、なかった……」
「だって気持ちよさそうだったから……」
「うそ。やっぱり……そういう趣味……あるでしょう?」
「ないわ」
ここであると言えればどんなに楽だろうか。しかし、言えない。
それは簪に嘘を付いていると感じるが、一番は自分を偽っていると感じるのがつらい。
「手が……いやらしかった」
「そう? ならきっと初めてだから偶然そうなったのよ」
「偶然、で?」
「そう、偶然」
「……怪しい」
簪が半目で私をじっと見てくる。その頬はやはりほんのりと赤く染まっていた。
「ほら、次は前よ。体をこっちへ向けて」
「む……逸らした。やっぱり……」
「違うと言っているでしょう」
ずっと怪しんでくるので簪が座っている風呂椅子を百八十度回転させた。
ご、ごくり。
今私の目の前に再び小ぶりの胸が現れた。
さ、さっきは後ろから揉む――じゃなくて、洗おうとしたけど、今度は互いに向き合いながら簪の胸を洗うのだ。やはり緊張する。
ど、どんな感じなんだろう? や、やっぱり小さいからちょっと硬いかな? それとも大きさ問わず軟らかいのかな?
私は自分のなら何度も触ったことがあり、その感触をよく覚えているのだが、他人のとなるとあまり触ったことがないのだ。しかも、触ったとしても今のように興奮しながらではなく、淡々としたものでだ。だから感触なんて楽しんだわけではない。
だが、今回は違う。
今回は性的興奮があり、その感触を楽しもうとしている。
ふう~、いい? 私。今からするのは決して簪の胸を楽しむことじゃないんだよ。今からその胸を洗うことなの。決して揉むことではないことを忘れないで。で、でも、ね。そ、その、胸なんて洗っているとやっぱり、ちょ、ちょっとだけ! うん! ちょっとだけ揉むようになってしまうかもしれない。そのときは仕方ないんだ! うん、仕方ない!
私は自分に言い聞かせ、さっそく手にボディソープを手に付けた。
では!
私の泡立った手をゆっくりと伸ばしていく。
「し、詩織? な、何やっている……の?」
「えっ? 見ての通り洗おうとしているのだけど?」
「どこを?」
「そうね。まず胸からだけど」
私は正直に答えた。
別に隠す理由などない。
あくまでも今のやるべきことは簪を洗うことだ。やましいことなどない。
私が答えると簪はなぜか両手をクロスして胸を隠した。
「ちょっとどけなさい。それじゃ洗えないわよ」
「だ、大丈夫! ま、前は……自分で、洗える……から」
「はあ……それじゃ洗い合いができないじゃない」
「で、でも、そ、その……自分で、洗える……から」
簪の頬の赤みはさらに増す。
「それに……恥ずかしい」
わずかに俯き、上目遣いでこちらを見てきた。
ぐっ、そ、それはずるい! その仕草は私にはご褒美であると同時に攻撃だ!
「それなら私もよ」
「なんで?」
「だってあとで私のも洗ってもらうのよ。つまりお互い様というわけよ。だからどけなさい」
「うう……背中と腕だけで……いいから。だから……前は……」
これは……どうすればいいのかな? 簪の言うとおりにする? それともこのまま洗う?
これは重大な選択だ。
選び間違えれば少しだが関係が近づくどころか、遠くなってしまうのだ。
ならば普通に考えて簪の言う事に従おう。
「……分かったわ。前は自分で、ということで」
「なんか……残念そう。し、詩織は……わ、私の……触りたかったの?」
思わず耳を疑うが、ちゃんと聞こえていた。
もちろんのこと、生徒会長モードが崩れてテンションが高いまま、はいと答えたところだ。しかし何度も述べるのだが、ここでそんなふうにすることはできないのだ。
私は何とか我慢する。
「まさか。なんで同性のを喜んで触れなきゃならないのよ。それに私のを見なさい」
「詩織のを?」
「そうよ。大きいとまでは言わないけど、簪よりは大きいわ」
本当は胸のことは言いたくなかった。
だってきっと簪は自分の胸にコンプレックスを感じていると同じ女である私が感じ取っていたからだ。
感じ取れた理由は簪の視線である。簪自身は私に気づかれないように見ていたようだが、祖父に鍛えられた私には丸分かりだった。
どこを見ていたのかだが、それは私の胸である。
私が着替えるときなどに簪の視線が私の胸へ注がれるのだ。そして、自分のと比べていた。
だから、分かっているのだ。
うう~ごめんね、簪。私が女の子大好きだってばれないようにするために傷つけて。
言われた簪はやはりショックを受けたようで、軽く涙を溜めてこっちを怨みでも込めているのかというほど睨んできた。
それは本気だ。
だが、それでも私はこの簪の睨む顔が可愛いと思ってしまった。
か、可愛すぎるよ! なんで睨んでいるのにこんなに可愛いの!? ごめん! 本当にごめん! 簪は本気なのにこう思って本当にごめん!!
「詩織なんて……嫌い」
「ふふ、ごめんね。それよりもほら、早く体を洗いなさい。早くお湯で泡を流さないと風邪を引くわよ」
「また……逸らした」
最後にそう言って簪は残りの部分を自分で洗い始めた。
簪は私に背を向けていた。
むう~洗うところを見られないなんて残念だ。
女の子の体に性的感情を抱く私としてはそういう姿も見たかった。
だが、我慢しよう。この風呂だけで、まあ、色々とあって満足している。これ以上望むのは欲張りすぎというものだ。
私はしばらくシャワーを浴びて待つ。
しばらくして、
「詩織、終わった。それ、貸して」
「いえ、私が洗い流すわ。じっとしてなさい」
「………………分かった」
その間が気になったが、とにかく了承を得たのでさっそく泡を流した。
泡は簪の体のラインに沿って流れ、風呂の排水溝に溜まる。
「前を流すからこっちを向いて」
「ん」
大人しく私の言葉に従い、簪はこちらを向いた。
下心ある私は流しつつも、簪のその体を隅々まで見て堪能していた。
きれいな体だな~。
触れたくなるがそれは我慢だ。これ以上はダメだって決めたのだから。
「終わったわよ」
「……ありがとう」
簪は小さく礼を言った。
「じゃあ、次は私ね。お願いするわ」
「分かった。でも、私、初めて……だから。上手く……できない、かも」
「それでもいいわよ」
だって簪に洗ってもらうってだけで私は十分なのだ。
そこに上手い下手などどうでもいい。ただ洗ってくれればそれで。
「じゃあ……やる、から」
「ええ」
簪はまず私の髪や体を十分に濡らす。その後は知っているとおり、手にシャンプーを付けて髪を洗う。
うん、やっぱり自分じゃなくて他人に洗ってもらうのは変な感じがするよ。
私はそう感じながら大人しく頭を洗われる。
「上手に……できてる?」
「ええ、できているわ。上手よ」
「ん、よかっ……た。このまま……続ける、ね?」
「お願い」
それからは無言で簪は私の頭を洗った。
それは別に話さないわけではないのではなくて、慣れない作業を一生懸命しているためだ。その一生懸命する簪を想像して、私は思わず笑みを浮かべてしまう。
その姿を見れないのが残念だ。
ちょっと見たかったな~。
「こ、これでいい……かな?」
「自己判断でいいわよ。あなたがそれでいいと思ったら次で」
こっちはもう簪に洗ってもらえたということで十分満足。ぶっちゃけ髪の汚れなんてどうでもいい。
「じゃあ、洗う、ね」
簪はシャワーを手に持ち、泡を洗い流し始めた。
「髪、長いね」
途中で話しかけてきた。
「ええ。髪なんて滅多に切らないわ」
「短く……した、こと……あるの?」
「もちろんあるわよ、まだ小さい頃だったけどね。でも、やっぱり女は髪が長いほうがいいと思って、それ以来は今の長さを維持しているわ」
別に私のショートヘアが似合わなかったわけではない。ちゃんと十分に似合っていた。
だが、前世が男だった私からすると、そのとき、鏡に映るショートヘアの可愛らしい少女と記憶にある髪が長い可愛らしい少女を比べたとき、好みとして長い髪のほうがいいかなと思ったのだ。
「簪は伸ばさないの?」
「似合わない?」
「いえ、とても似合っているわよ。ただ髪の長い簪も見てみたいって思ったのよ」
想像してみたいが、残念なことにうまく想像することはできなかった。