私の持つハンカチが束さんの胸元に触れる。そこから私が少しずつハンカチを動かす。
「汗が拭き取れていますよ」
「そうみたいだね」
「もうちょっと奥もやります」
そう言って、私の手は完全に束さんの服の中へ入った。
ただ、束さんの胸が大きかったことと、服がそんなに伸びなかったためちょっと窮屈だった。
これじゃ無理だ。
そういうことで胸元から入れるのではなく、下から入れることにした。
まあ、ちょっと問題があるとすれば、束さんの服がワンピースだってことだろう。なので、下から入れるイコールスカートから入れるということなのだ。
ご、ごくり、ま、まさかいきなりスカートなんて……。これはさすがの私も予想外だ。今日はここまでするつもりはなかったのに。
「ん、止めちゃうの?」
「止めません。ただやりやすいようにするだけです」
「え? どういう――きゃっ、ちょ、ちょっと! えっ? な、なんでスカートに手を!?」
スカートに手を入れるとそう言われた。
まあ、そう言うだろうね。
「い、いや、べ、別にね! しーちゃんとこういうことするのが嫌いってわけじゃないよ。私だって女の子同士だからキスや抱きつくとかそういうスキンシップで終わるとか思ってなかったし……。つ、付き合ってすぐにこういうことをするとは思ってはなかったの。で、でも、しーちゃんがしたいって言うなら……いいよ。私を好きにして。た、ただ、やり方は知らないから、しーちゃんがやってくれるとうれしい。女の子同士のエッチを教えて。その、今度するときは、わ、私もだから」
束さんが顔を羞恥で真っ赤にする。
スカートに手を入れている最中にそう言われて、私の気分もそういう気分になってしまった。正確に言うならば胸だけを触れるだけだったのが、他の恋人たちにしたような激しいことをしようと思ってしまった。
し、してしまうの? いや、するしかない。だって束さんはもうそれを望んでいるはずだ。しないわけにはいかない。
だからこれからの行為をやりやすいようにと、私は束さんのスカート部分をたくし上げた。露になる束さんのパンツ。色は白だった。
そういえば束さんの服装は不思議な国のアリスに似ている。もしかして意識でもしているのだろうか?
「あわわ、み、見られている……。しーちゃんに、し、下着を、見られている……」
私は初めてみる束さんの下半身部分を存分に見る。
恋人になった今、束さんの全てが私のものだ。
その全てを堪能するために、私はベンチから降りて、束さんの前に膝を付く。
先ほどは視点が違う。先ほどは上からだったが、今度は股間部分やお尻部分の形がよく分かるアングルだ。
まず私はその太ももに手を這わせる。
「ひゃっ!?」
こういうことをされたことはない束さんは可愛らしい悲鳴を上げてくれる。
「束さんの脚、きれいです」
私はちゅっと太ももにキスをする。
「そ、そんなところ」
「すべすべです」
「い、言わないでよ!」
恥ずかしさのせいか束さんは声を荒げて言う。
私はもうちょっとしたいと思い、束さんの股間部分に顔を埋めた。
「んにゃっ!? しーちゃん!? そ、そんなところに顔をやらないで!? き、汚いよ!」
「ですね。でもやります」
「あ、あれ? こういう場面って汚くないよって言うところじゃないの?」
「へえ、そういう言葉を言う場面って知っているんですね」
「!?」
私がそう言うと束さんは自分の失態に気づいたようだ。
顔を見れば別の意味で恥ずかしがっていた。
「やっぱりエッチな本や動画を見ているんですか?」
「み、見て、ないよ……」
力のない嘘だって分かる言い方だ。
やっぱり見ているんだ。
「嘘をついても分かってますよ。エッチですね」
「…………」
真っ赤のまま俯く。
といっても私が見上げる形になるから意味はないんだけど。
私は立ち上がり、束さんの膝の上に向かい合う形で乗る。
「もうちょっとやりたいですけど、今はここまでで。今はキスしたいです」
「私も、したいよ。今度は私からだよ。大人の私を見せてあげる」
「私に見せてください」
私たちの唇が重なる。
先ほどのような軽いものではない。
「ん、しーちゃん、舌、入れるよ」
「入れて、ください」
今回は私は何もしない。されるがままだ。
束さんの舌が私の口内を掻き乱す。その動きは初めてのせいもあって拙いものだ。私はそれをうれしく思う。だって、私以外と経験がないということだもん。
そのようなキスでも私の体は快感を得ていく。そして、体のあちこちが熱くなっていった。
「んむ、じゅっ、んっ……んぱっ、ちょっと下手だったけど、よかった?」
「はい。もっと私とキスして経験を積んでください」
「じゃあ、今度は私にキスしてお手本を見せて。それを参考にするから」
「はい。します」
私はその唇に――
「いたっ」
突然頭に痛みが走り、キスできなかった。
な、なに? いきなり何が?
どうやら束さんも痛みが走ったようだ。
「な、なに?」
束さんが声を上げる。その顔はちょっと不満げであった。
「束、詩織、私が近くで見守っていたことを忘れていたか?」
「「ひっ!?」」
声がしたほうを見ればそこには怒りの顔をしたお姉ちゃんがいた。
「告白とキスまでは私も見ていられる。だが、その、股間に顔を埋めるのは見てられん。それにまだいきなり舌を入れるなどと……。詩織、私もお前の恋人だぞ。ハーレムは認めるが、私の目の前でそんなことをされるとさすがに嫉妬する」
「ご、ごめんなさい」
「ともかくこれで終わりだ。詩織、帰るぞ」
「はい……」
今のお姉ちゃんには逆らえない。残念だが、束さんとの時間はここで強制終了のようだ。
私は束さんの膝の上からどこうとする。
だが、束さんが私にぎゅっと抱きつき、放してくれなかった。
「ダメだよ。もうちょっと待ってよ。せっかく好きになってこうやってできるんだからこのままがいい」
そう言われると私の行動が止まり、私も抱きついてしまう。
「おい、詩織」
「分かってます。でも、束さんとは滅多に会えないんです。ちょっと抱き合うだけです」
恋人となった今、束さんとの時間は確実に増えた。それは確かである。
だが、増えたとはいえ、一週間に一度の頻度で会えるというわけではない。もっと少ない頻度だ。あまり考えたくないことだが、年に片手で数えるほどかもしれない。
私はそのくらいなのではと思っている。
「そうだよ、ちーちゃん。ちーちゃんはしーちゃんといちゃいちゃできるけど、私はできないんだよ。このぐらいいいじゃん。というか、しーちゃんにだって大人なキスしてるんでしょ!」
「!! な、何を言う。そ、そんなことは……」
「おやおやおや! ちーちゃんはなぜそんなに動揺しているのかな? してないのなら、動揺する理由がないよね? あれれ? どういうことかな?」
「おい、束。さっさと離れろ。もういいだろう」
「おお? 答えずにそんなことを言うとは。それは肯定を意味しているよ」
お姉ちゃんが劣勢となり、束さんが優勢になったせいか、束さんはどんどん攻めていく。
お姉ちゃんってかっこつけなところがあるのかな?
「答えないね。じゃあ、その相手であるしーちゃんに聞こっかな」
「!?」
もちろんのこと、お姉ちゃんのことを聞かれれば、ちゃんと答える。
だって隠すことじゃないしね。それに束さんはどう考えても分かっているもん。ただお姉ちゃんが束さんに言いたくないだけ。
よって、私が言っても問題はない。
「ねえ、しーちゃん。ちーちゃんとさっきよりも激しいキスってしたの?」
束さんがニヤニヤとしながら聞いてくる。
あっ、やっぱりこれってお姉ちゃんをいじっているのか。
こういうゆうに相手をいじることができるというのは、二人の仲がいいということが分かる。ちょっと嫉妬しちゃう。
私もいじる……のはちょっと無理だけど、もっともっと弄られたいもん。そして、可愛がってほしい。
「して、ました」
「へえ、してたんだ。具体的には?」
「舌と舌を絡ませて、ました」
やはり自分たちの行為を言うのはとても恥ずかしかった。相手が恋人でも恥ずかしい。
そんな私を見ている束さんはお姉ちゃんだけではなく、私を弄っても楽しんでいるようだった。
うれしい。
束さんは私の回答を聞くと、今度はお姉ちゃんのほうへ視線を向けた。
「あの真面目だったちーちゃんが大人なキスをしてたんだね~。そのことを棚上げして私としーちゃんとのキスを邪魔するなんて。それにどうせちーちゃんはもうちょっと進んでことをしているんでしょ? しーちゃん、そこは?」
再び束さんの視線が膝の上に座る私に戻る。
こ、ここは話したほうがいいのだろうか?
キスで恥ずかしかった私。もちろんのこと、本番行為に繋がるようなさらに進んだことを話すというのは、先ほどよりも羞恥でいっぱいになる。
そして、思わずお姉ちゃんや他の子たちとのちょっと激しい行為が脳裏を過ぎった。
顔が熱い! きっと束さんから見ても顔が真っ赤だろう。
「ふふ、ほら、言ってごらん? 大丈夫。ここにいるのはしーちゃんとそういうことをする私たちだけだから。別に全く知らない人がいるというわけじゃないよ」
「……は、恥ずかしいです」
「ああ~可愛すぎる! ほら、ちーちゃん。ちーちゃんが言ってくれないからしーちゃんがこんなに可愛いことに――じゃなくて、可哀想なことになっているんだよ。そろそろしーちゃんの言葉から暴かれるんじゃなくて、ちーちゃんの口から言ったらどう?」
恥ずかしくて言えない私に、束さんは矛先をお姉ちゃんに向けた。
「わ、私は……詩織と……」
「そうそう。ちーちゃんの口から言って」
私はその間、束さんの大きな胸に顔を埋めている。
やわらかい……。胸が大きいということもあるけど、束さんに包まれていると赤ちゃんになったみたい。
「……っ」
「ん~、いえないの? 私は堂々と言えるよ。私はしーちゃんといちゃいちゃしたい。裸で抱き合って、行為に及びたい。そう言えるけどな」
「!? お、お前はそんなはしたないことをよく言えるな!」
「おやおや、じゃあ、言えないちーちゃんはしーちゃんともっともっと激しく愛し合うときには、言葉を伝えずにどうするんだい? まさか恋人同士だから心で通じ合えるなんて言うの? 私だってそれが一番だけど、現実的に考えて無理だよ。だからはしたない言葉を言うことだってできるよ」
正論なんだろうが、言葉が言葉なのでかっこよくはない。
ちょっと残念な感じがする。
「それに男女は子どもを作るためとか言う、名目があるのに対して、女同士ではないんだよ。それ、分かってるの?」
前にも言ったけど、女の子同士ではエッチがしたいと言っているようなものなのだ。お姉ちゃんのはしたいなどの言葉は行為をしないと言っていると解釈してもよい。
「くっ」
「ちーちゃんはこのしーちゃんの体を抱きたくはないの?」
そう言って、束さんは私の胸をがしっと鷲づかみする。
「ひゃっ」
「なっ!? おい!」
目の前で私の胸を掴まれたことに驚いたお姉ちゃんが声を荒げ、束さんの膝の上に座っている私を脇に手を入れ、自分のほうへと引き寄せた。
今度はお姉ちゃんに抱っこされる形になる。
「私の目の前で堂々とするとは……」
「いや、だってやわらかいんだよ。触らないと損だよ」
「詩織よりでかいお前が言うか?」
「いやいや、自分のと他人のとでは全く違うって。自分よりも他人のほうが触り心地が最高なの。ちーちゃんだっていい歳した大人なんだから、自分で慰めているんでしょ? なら分かるよね?」
「……………………分かる」
「ふふ、ついに正直になったね。いいよ。それでいいよ。だったら私の気持ちは分かるはず。しかも触る相手は自分の好きな子のおっぱい!」
束さんがゲヘへと笑いながら、私たちにのそりのそりと近づく。
もちろんお姉ちゃんは逃げる。
「触りたいと思わないはずがない! ほら! 何度も触ったであろうちーちゃんも揉もうよ!」
束さんが拳を固く握り締めて言う。
熱い演説だが、内容が内容なだけに本当に残念だ。
「お姉ちゃん、私の、揉みます?」
つい先ほどまでそういうことをしていたためか、そんな言葉が出てきていた。
完全に変態だ。もちろん、見境なく頼むような変態ではない。好きな人の前でだけ、変態になるのが私だ。
誰にでもされて喜ぶような変態ではない。好きな人にされて喜ぶのだ。
「!? な、何を……」
「お姉ちゃんは自分の目の前で私が自分以外の人としているのを見たからこうして来たのでしょう? だから、今、していいですよ」
お姉ちゃんもまた、私とキス以上本番未満(?)をした仲だ。例え束さんと私がしていたとしても止める権利などない。私と束さんがお姉ちゃんたちよりも圧倒的に一緒にいて、私が異常なまでにも束さんばかりのことを考えているならばともかく、束さんは今日恋人になったばかりなのだ。それに会える時間はとても少ない。ちょっと激しいキスやスキンシップは十分許されるものだ。
それに私としても束さんとのいちゃいちゃはもっとしたかった。そして、愛し合う者だからこそ見せる姿を見たかった。