精神もTSしました   作:謎の旅人

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第7話 私の決意はもろい

 見つけたテーブルにはまだ誰もいなくて二人きりになれた。それに周りにもあまり人がいないので余計に二人きりになったという気分にさせてくれる。

 それはうれしい。だって大好きな簪(会ってからまだ数日)と二人きり(自室を除いて)なのだから。

 だが、それとともにある一種の感情が心の一部を占めていた。それは不満という感情だ。

 なぜ不満なのか。

 それは簪との関係だ! だって二人きりなのに簪にやりたいことを我慢しないとダメなんだよ!

 これも全部まだルームメイトという関係だからだ。

 だが、だからといって無理やり関係を進めようとは思わない。

 早く簪が欲しいけど、完全に心まで奪いたいのだ。それには時間がかかる。だからゆっくりでいいからその関係になりたい。

 

「詩織? どうしたの? 全然、食べてない。どこか……悪い?」

「えっ? あっ、違うわ。ちょっと考え事をしていたの」

「話……聞くよ」

「大丈夫よ。心配事じゃないしね」

 

 それにこれを聞いてもらったら簪に告白すると同じことだもん。今はそのときじゃない。まだ違うよ。

 

「本当?」

「ふふ、心配性ね。本当に本当に大丈夫よ。心配しないで」

「……分かった」

 

 本当にまだ会ったばかりなのにこんなに心配してくれるなんて……。なんだか私に気があるんじゃないかって勘違いしちゃうよ。

 でも、そうでないということはちゃんと分かっているのだ。

 この子はただ純粋に私のことを心配していて、私のことはただルームメイト、もしくは友達がいいところだ。

 それにね、普通に考えて同性を好きになる子なんていないのだ。私が例外なのだ。そして簪やセシリアは普通に異性が好きなのだ。だからそういう勘違いは決してしない。

 ということは、私の夢である女の子に囲まれるハーレムなどできないとも言える。

 だが、それを承知の上でその夢を持っているのだ。覚悟だってしている。

 この隣にいる、今一番大好きな簪が私のことを受け入れないかもしれないということも覚悟している。

 もしかしたらみんな受け入れてくれずにその夢は消えてしまうかもしれないということもだ。

 まあ、とにかくそんな普通の子を私のような例外にするわけだからもちろんのこと時間がかかると分かっている。だから完全に心奪うまでなんて時間がかかるのだ。

 

「「ごちそうさま」」

 

 私たちはちょうど同じくらいで食べ終わった。

 

「詩織……早い」

「そう?」

「うん。だって私よりも量があったのに……。ちゃんと……噛んでいる?」

「もちろんよ」

 

 ちゃんとよく噛んで食べている。食べるのが早いのは一度に口に含む量が多いからだろう。決して男性みたいにちょっと咀嚼して飲み込むということはしていない。

 これでも私は女の子だからね。そういうところは気にするよ。男みたいに食べるわけがないよ。

 

「さあ、片付けましょう」

「うん」

 

 残された皿とおぼんを持ち、食堂のおばちゃんに渡す。

 その際に私はごちそうさまと告げる。

 そして、私たちは食堂を後にした。その帰りの道中、何人かとすれ違いになる。

 私たちは軽く会釈をし、相手も返してくる。

 部屋に帰ると私は簪に向かった。

 

「そういえば、今日は風呂はどうするの? 大浴場のほう? それとも部屋のシャワー?」

 

 こう聞くのは簪が私と会ってからずっと大浴場を使わずに自室に備え付けられているシャワーを使うからだ。

 

「ん……シャワー」

「たまには大浴場に入りにいかない? 仲を深めるという意味でも裸の付き合いは必要だと思うのだけど」

 

 というのは建て前だ。本音は変態的なもの。

 もちろん簪の生まれたままの姿が見たいからに決まっている。

 同性が好きな私はもちろんのことだが、性的興奮を引き起こす対象は同性が相手だ。異性には興奮しない。

 だから一緒に大浴場へと行こうと誘っている。

 だが、それならば一緒にシャワーを浴びればいいのではとなるのだが、そんなのはある理由から却下だ。

 その理由は狭い風呂場では肌と肌が触れ合う。ちょっと動けば好きな人の肌。また動けば好きな人の肌。

 これは別に私がいざ本番になったらそのようなことができないヘタレだからというわけではない。ちゃんとした理由がある。それはそういうのことをするのはちゃんとそういう関係になってからと決めているからだ。

 だから私は性的興奮を呼び起こす要因(見るのはOK。触るのはNG)となることはできるだけしないようにしているのだ。うん、本当だよ? 嘘じゃないよ? ヘタレじゃないよ?

 うん、そうしていたのだが……。

 

「それなら……一緒にシャワー……浴びよう?」

「そうしましょうか」

 

 即答だった。

 向こうから誘ってきたならば、もう別ではないだろうか。

 私の決め事は今、簪の言葉によって破られたのだった。

 

「風呂場は狭いけど……大丈夫かしら」

 

 私はずっと大浴場を使っていたので自室に備わっている風呂場のことをよく知らない。

 

「大丈夫。二人なら……余裕ある」

「ならよかったわ」

 

 私たちは部屋に備え付けられている箪笥から下着等を取り出し、一緒に脱衣所へと入った。

 脱衣所は洗面台があったりとして余裕のある広さになっている。一緒に着替えたりしても問題はない。

 さて。ならば脱ぎますか。

 私は制服に手をかけて身に着けているものを徐々に脱いでいく。

 脱いだ制服は明日も学校があるということで洗えないので、きちんときれいに畳む。

 私は下着のみとなった。大事な部分を隠しているのはブラとショーツのみだ。

 私はちらりと鏡を見る。

 そこにいるのはやはり自分でも見惚れてしまうほどの容姿を持った私だ。

 で、やはり目に行くのはそのスタイルだろう。

 普段は自分視点、もしくは衣服を着た状態でしか自分の体を見ないが、今は鏡を使っての三人称視点で身についているのは下着のみ。体のラインがよく見える。

 うう~相変わらずだけど本当になんでこんなに綺麗なのよ! 私!

 この自分の容姿は本当にだが、恋人として欲しいなんて変態的な思考をするほどなのだ。

 欲しい。この体は私の体だけど、そうじゃなくて別のものとして欲しい。

 私は自分を見つめるもう一人の自分とぼーっと目を合わせた。

 

「どうしたの?」

「ひゃっ」

 

 いきなり声をかけられてびっくりした。

 

「な、なに?」

「鏡見てぼーっとしていた……から」

 

 すでに簪はその身に何も身に付けていない。

 ぐはっ! こ、こんなに間近に簪の裸が!

 簪は私の前に回り込んでいたので、大事なところは全て見えていた。しかも、この脱衣所は余裕があるとはいえ、二人で入ったこの部屋は狭くて私たちの距離が近いくなる。もう肌と肌が、主に体の凹凸のなかでもっとも前に出ている胸と胸が触れ合いそうになるほど。

 それにしても簪の胸は私と比べると小さい。小ぶりだ。私も特別大きいというわけではないが、簪よりは大きかった。ちょっとうれしい。

 私がそうやって思って見ているとなぜか簪が両手で自分の胸を隠した。

 み、見えない! なんで隠すの! いや、待って。落ち着いて、私。ここで焦ったらダメよ!

 ゆっくりと視線を簪の顔へと向けるとそこにはなぜか半目をした簪が。

 

「どうしたの?」

「それは……こっちのセリフ。さっきから……ボーっとしている……し、今、私の胸……見てた、でしょ? 詩織は……そういう趣味?」

 

 や、やばい! このままじゃやばい! 今ここでばれるわけにはいかない!

 どうやら私の視線に気づいていたようだ。これは今までで一番のピンチだった。

 私は意識までも生徒会長モードにして強制的に冷静へとさせた。

 

「ふふ、簪は面白いことを言うのね。残念だけどそういう趣味はないわ。あなたの胸を見ていたのはあまり他人のを見ないからよ。ただちょっと同じ年頃の子と比べて見たかっただけよ」

「本当に? なんだか……変な感じがしたけど……」

「気のせいよ。私がそういう感じで見る相手はかっこいい人だけだもの」

 

 本当は可愛いとか綺麗な人(女)が好みだ。かっこいい人(男)になんて全く興味ない。例えどんなにもてる男が私をナンパしようとも私は絶対になびかない。

 それだけの自信、というよりも確信がある。

 

「そうなんだ」

 

 よし! 何とかばれずに済んだ。

 納得した簪はその胸を隠していた両手を退かした。

 ふふ、小ぶりだけど可愛い胸。

 ちょっとその胸を私の両の手で覆いたいという衝動に駆られるが、そこはなんとか理性で対抗して落ち着ける。

 でもこのまま偶然を装って体を前に傾ければ、すぐにでも肌と肌が触れ合うことができる。

 や、やろうかな。だ、だってこんなチャンスなんて滅多にないと思うもん。

 あるとしてもそれはそういう関係になってからであって、それは当分後の話だ。

 よ、よし! やろう!

 私は実行しようと思った。だが……。

 い、いや、待って、私! 本当にそんなことをしてもいいの? 確かに躓いたように演技してやればばれないかもしれないけど、それで嫌われたらどうするの? それは嫌でしょう?

 もう一人の冷静な私がそれを抑えた。

 で、でも簪と触れ合いたいし……。

 なら早く簪の心を奪わないと! そしたら簪とこんな演技なんてしないで堂々とできるんだよ! だから我慢して!

 私と私が心の中で戦いあう。

 う~ん、そうかも……。もしこれで嫌われたら嫌だし……。

 結果はやはりここで我慢ということになった。

 

「さあ、入りましょう」

「あっ、お、押さないで」

 

 私は簪の両肩に手を置いて、回れ右をさせて押して風呂場へ入って行く。

 うわあ~風呂場ってやっぱり狭いね~。初めて入ったけど二人でぎゅうぎゅうだ!

 私が入ったことがあるのは洗面所までだった。風呂場なんて全く見なかった。

 私たちはちょうど二つあった風呂椅子に座った。

 私がシャワーを取り、お湯を出す。

 最初出るのはもちろんのこと冷たい水だ。流れる水はだんだんと温かくなり、ちょうどいい温度へとなった。

 

「簪から洗う?」

「詩織からでいい。私は後から」

「じゃあ、遠慮なく先に洗わせてもらうわね。でも、ほら、こっちに来なさい。あなたまだ浴びてないでしょう? それじゃ風邪を引くわ」

「で、でもそれじゃ……ぎゅうぎゅうに……」

 

 簪は頬を赤く染めて言う。

 私が提案したこれは別に簪に接触しようと思って提案したわけではない。ただ純粋に簪のことを気遣ってのことだ。

 

「恥ずかしいのは分かるけど私たちは女同士よ。そこまで恥ずかしがらなくていいわ」

「それは……分かっているけど……。それでも……は、恥ずかしい……から」

「とにかく! ほらこっちに来なさい。あなたに風邪なんて引かせないわ」

「えっ……」

 

 本当は自分の意思で来てほしかったのだが、このままではずっと簪の体は冷えたままだ。だからちょっと強引な手を使った。簪の腰に腕を回して引き寄せたのだ。

 ちょっと乱暴になったが、その結果は私にとって天国かのような状態へとなったのだった。

 強く抱き寄せたということもあり、簪の体は私の体に接触、いやぶつかった。しかも正面から。

 必然的に抱き合うような形となる。それは肌と肌の触れ合いを意味する。

 あうう……や、やばい胸と胸が! そ、それにお腹とか~!!

 抱き合ったせいで胸と胸が触れて互いの胸の形を変えていた。そして、ちょっと動くたびにまた形を変える。それは私たちにわずかな快感を与える。

 

「んあっ……」

「あぅ……」

 

 互いの口から甘い声がこぼれた。それはとても私の色々を興奮させる結果となる。

 こ、このままじゃ自分を止められなくなる! こ、これ以上はダメ! 今はまだこれ以上はやっちゃいけない!

 私は何とか冷静になり、簪と距離を取った。

 

「ご、ごめん! ちょ、ちょっと強すぎたわ」

「だ、だい……じょう、ぶ……。は、恥ずかしかった……けど、大丈夫……だから」

 

 簪は顔を真っ赤にしてそう言った。

 その姿も可愛いと思うのだが、きっと今は曇っている鏡を見ればそこにもう一人顔を真っ赤にした可愛い子がいるだろう。

 しばらく私たちは俯く。

 互いに何も言わない。この室内に響くのはシャワーから流れるお湯が床を跳ねる音だけだった。

 しばらくした後、このままじゃダメだと思い、顔を上げた。と、同時に簪も顔を上げていた。

 

「「あうっ……」」

 

 私も簪も目が合ったことで先ほどのことを思い出し、治まったはずの恥ずかしさが込み上げてきた。そして、再び顔を真っ赤にした。

 

「か、簪、ほ、ほらシャワー」

「う、うん」

 

 先ほどのこともあり、簪は素直に近づいてくれた。

 私はお湯を簪の体から頭へと丁寧に流した。

 

「温度はこれくらいでいい? 熱くない?」

「ん、大丈夫。ちょうどいい……くらい」

 

 現在のお湯の温度は約四十度ほどだ。

 

「じゃあ、頭から洗うわね」

「えっ、ま、待って! 詩織からじゃ……なかった、の? それに……一人で……できる」

「まあ、いいじゃない。ほら、この状態からしても髪を洗うにはちょうどいいしね。それに洗い合いなんてやるのもいいと思うし。これも仲を深めるためよ。そういうわけだから後で私を洗ってね」

「……分かった」

 

 簪は渋々という感じだが頷いた。

 これも別に簪に触れることが目的ではない。こちらは関係の深め合いだ。

 ただそれに洗い合うという触れ合いが必要なだけだ。

 簪は私に背を向けて、私はさっそく簪の髪に手を入れて丁寧に洗い始めた。

 

「痛くない?」

 

 初めて人の頭を洗うので加減が分からない。しかも私の身体能力が高いのでちょっと優しくやっているつもりでも相手にとってはとても強すぎるということがある。だからこうやって相手に何かするときはちゃんとこのように聞くことを忘れないようにしている。

 

「痛くない」

 

 簪はそう答えた。


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