精神もTSしました   作:謎の旅人

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第74話 私がしていたことは『特別』

 そうしてセシリアと話しているうちにSHR(ショートホームルーム)が始まる。

 鈴は教室の入り口で一夏に胸を張って話していたので、入ろうとしたお姉ちゃんに頭を叩かれていた。

 その際に鈴が『千冬さん……』って言っていたので、やはりお姉ちゃんとも面識があるらしい。お姉ちゃんに鈴のこと聞こうかな。仲良くなってから直接聞くのもいいが、お姉ちゃんの視点からの鈴を聞くのもいいと思う。

 

 小学生の頃の鈴か。なんだか色んな意味で変わってないような気がする。

 そういえば他のみんなの小さい頃のこと、聞いてなかったな。

 できれば写真付きで話を聞きたい。

 けれど、実家になんてすぐに帰ることができないしね。だから今度みんなを私の家に呼ぼう。夏休みだし日数はそれなりにあるからお泊り会をすればいい。部屋はたくさんあるから問題ない。それにベッドも広いから私と他三人なら余裕だ。そこで私の昔のことを見てもらいたい。

 

 自分の昔のことを自分で話すというのは変な感じがするが、好きな人の昔が気になるということは知っているので、何とか我慢。

 まあ、『私』ではなく『月山詩織』という可愛い子を話すならば全く変な感じにはならないが。

 もちろんのことそれだけではない。自分の家だからたくさんいちゃいちゃする。

 お姉ちゃんは……来てくれるかな? というか、全員来てくれるかな? 全員里帰りなんてことだったら泣いちゃうんだけど。一人で夏休みを過ごすのは嫌だ!

 夏休み前にみんなの予定を聞こう。そして、なんとか私の家に泊まりに来させよう。

 にしても今日のお姉ちゃん、元気ないな。寝不足みたい。

 

 さっきから気になっていた。

 多分ほとんどの人は分からないだろうが、恋人となった私には分かるのだ。なんか寝不足って顔なんだ。

 もしかして結局眠れなかったのかな? だったら可愛いお姉ちゃんだ。

 っと、お姉ちゃんと目が合った。

 昨日のこともあってなのか、お姉ちゃんの頬が赤くなったような気がした。

 私も顔が熱くなる。

 

 手を振ってやりたいが、席が一番後ろとはいえ、ばれるかもしれないので、振ることはできない。

 我慢だ。うん、我慢だ。自分の欲を優先してお姉ちゃんと別れるなんてことにはなりたくはない。

 時は流れ、昼休みになる。

 

「詩織、一緒に食べません?」

 

 授業が終わるとすぐにセシリアがこちらへ来た。

 

「ごめん。昼は簪の都合で食堂には行けないの」

「なぜですの?」

「簪のISの事情知ってる?」

「更識さんのですの? いえ、知りませんわ」

「簪のISってまだ未完成なの。本当は一夏のISを作った所が完成させる予定だったんだけど、一夏のを優先しちゃってそうなったの。だから今も整備室に篭って自分でやっているの」

「担当者に任せませんでしたの?」

「任せなかったみたい。どういう理由でそうしたのか分からないけどね」

 

 まあ、どんな理由なのかは知らないけど、頑張っていることだしそれでいいだろう。私も楽しいしね。

 

「なら、昼休みは更識さんだけの時間ですの? 納得できませんわ!」

 

 セシリアは私と同じクラスなので、私と触れ合う時間がたくさんあるかのように思えるが、実はそうではない。それは授業と授業の間の休み時間は互いに友人との時間に使ったり、予習などに使うからだ。

 私が恋人たち大好きだから、全ての時間を恋人のために全てを使っているように思われるが、残念ながらそうではない。友人との交流は結構大事だからね。

 

「だからわたくしも行きますわ! 文句はありませんわよね?」

「もちろんだよ。でも、簪が……」

「もう! わたくしもあなたの恋人ですわよ! わたくしもあなたと一緒に食べたいんですわ!」

 

 セシリアが怒った顔で言う。

 

「分かった。じゃあ、売店で食べるものを買おう。いい?」

「ええ!」

 

 そう言うと先ほどとは反対に笑顔になる。

 ふふ、全く可愛いやつめ!

 そういうわけで私とセシリアは売店へ行き、それぞれ自分のものと簪のものを買った。もちろん簪の分のお金は簪から受け取っている。

 今回だが、私のお昼はカップ麺たちだ。数は八個。

 お湯という問題があるが、整備室はよく引きこもる人間がいるので、ポットが設置してあるのだ。なのでカップ麺を買っても問題ない。

 

「詩織、本当にそれを食べますの?」

「うん」

「わたくしには真似できませんわね」

「私、一度でいいからカップ麺をたくさん食べたかったんだよね~。家じゃ体に悪いって言われてカップ麺なんて滅多に食べられなかったもん」

 

 だけど、ここには両親がいない。つまり自由にできるのだ。

 ずっと自由にしていたいってわけじゃないけど、たまにはいいよね。

 

「セシリアにはない? 自分の好きなものだけをたくさん食べたいって」

「それは……ありますわ」

「でしょ。私はそれをやっただけだよ。セシリアも今度やったら?」

「……それもいいかもしれませんわね。でも、わたくし、日本の店はよく知りませんの」

 

 セシリアはわざとらしく私をチラリと見た。

 はは~ん、なるほどね! つまりデートの予約ですか!

 

「なら私が案内しようか?」

「ならお願いしますわ」

「ちなみに何を食べたいの?」

「その、スウィーツを」

 

 もじもじとセシリアが言う。

 

「分かった」

「あっ、たくさん食べたいので、ホールではなく、一口や二口で食べられるものがいいですわ」

「了解」

 

 確かにたくさん食べるならそのサイズがちょうどいい。ホールだと私でも五つか六つしか食べられない。

 でも、そのくらいのサイズならば色んな味をたくさん楽しむことができる。ホールを食べるのはそれからでいいだろう。

 確か家の近くにそういう店があったはず。店内でも食べられるし、持って帰ることもできるからちょうどいいはずだ。

 

「いい店があるから任せておいて! 私もよく行くから味は保障するよ!」

「それは楽しみですわ。その日を楽しく待っていますわ」

 

 そうしてデートの予約が成立した。

 そして、私たちは簪が待っている整備室へ。

 

「簪、来たよ~」

 

 いつものように間抜けな声でそう言う。

 もちろんのこといつものように集中している簪は気づかない。

 なので、こちらもいつも通りに対応する。

 一旦、カップ麺たちを置いて、普通に近づく。こっそりなんて近づかなくても、簪は気づかないのだ。普通に歩くのでOK。

 簪の背後に来た私はぎゅって抱きついた。

 一瞬驚きびくりとした簪はすぐに私だと気づく。

 こちらを見らずに気づくのはなんだかうれしい。

 

「詩織」

 

 簪がキスをしてくれと首だけをこちらに向けてくる。

 それに答えて、キスをした。

 いつも通り、最初はくっ付ける程度のキスだ。私がちょっと口の力を緩めて口を開くと慣れたように簪が舌を入れて私の口内を蹂躙していく。

 

「んちゅ……ん、んんっ……むちゅ……」

 

 だんだんと激しくなり、簪が完全に体を私に向け押し倒す。

 押し倒されたことにより、簪の口から唾液が私のほうへ流れ出した。

 

「んくっ、じゅる……じゅるる……。んっ、あん……たく、さん」

 

 私はその唾液を必死に飲み込んだ。

 もちろんのこと口の端からは私の口内に入ることができなかった涎が垂れる。

 味なんて分からない。ただそれを飲むだけだった。

 

「んっ、ちゅうっ……かん、らしぃ……」

「ん、もっと……舌、出して」

 

 言われた通りに舌を出して簪のと絡め始めた。

 体の中にビリビリとした快感が湧いてくる。

 私はさらに求めて簪の舌に吸い付いた。

 私の口からは簪の舌を吸う為に出た、じゅるじゅるという音が。

 簪が一瞬びくりとなり、簪の私の服を握る手の力が強くなった。

 休憩なのか、唇が離れる。そこで簪と目が合う。互いの目には理性はない。あるのは快感を求めようとする欲だ。

 見た目は大人しそうな簪がこのようになるのは非常に興奮する。その欲を向ける相手は私で最初で最後でいてほしい。

 

「ちゅ」

 

 再び簪からキスをされる。

 だが、今度のは違う。簪は私がさっきしたように私の舌に吸い付いた。

 舌を吸い始めたのは私が最初なのだが、その効果までは知らなかった。

 じゅるっと吸われた瞬間、快感が訪れる。度重なる快感で舌も性感帯になっているようだった。

 し、舌でこんなに……!

 絡ませるだけでも気持ちよかったのに吸うこともさらに気持ちよくさせる。

 

「じゅっるぅっ……詩織の……美味しい」

「味なんて、ちゅるっ、し、ないよ!」

「ちゅっ、そう?」

「ひゃっ、そうだよ。ちゅっ、んんっ……」

「ちゅぱ、ならもう一回……飲、む?」

「…………飲んでみる」

 

 本当に味を確かめたかったわけではない。快感を求めたことと流れに流されたのだ。

 私の唇にまたまた簪の唇が――

 

「わたくしがいることを忘れてません!?」

 

 あともう少しで重なるというところで、顔を真っ赤にしたセシリアが怒鳴った。

 わ、忘れてた。

 

「よくもわたくしという恋人が近くにいながら、あ、あんな、は、激しいことをできましたわね!! 本当になんですの!? 二人してわたくしに見せ付けてますの!?」

「ご、ごめんね。そういうつもりじゃなかったんだけど、その、しちゃったら我慢できなくなって」

 

 軽くちゅっで終わることができたはずなのに、私はそうせずに長く口付けしたままだった。私が原因である。

 

「詩織、なんでオルコットが……いるの? 私、聞いて、ない」

 

 自分の口元をハンカチで拭いた簪が、私の口元を拭きながら言う。

 

「それもごめん。セシリアも昨日正式に恋人になったでしょ。セシリアも私と一緒に食べたかったみたいだから呼んだの」

「……せっかく詩織と二人きりの……時間、だったのに」

「ほら、その代わりにいつも部屋で二人きりになれるでしょ。でも、セシリアはあまりそんな時間が取れないの。だから理解してほしい」

「……分かった。こう、なるのも分かってた、から」

 

 そう言ってセシリアがいることを認めてくれた。

 

「じゃあ、食べよっか!」

 

 いろんなことをなかったかのようにそう言った。

 

「はあ……もういいですわ。ほら、更識さんも一旦作業を止めない。食べますわよ」

「止めない」

「はあ? 何を言っていますの? まさかやりながら食べるなんてお行儀の悪いことをするなんて言いませんわよね?」

「やりながら……する。そう言った」

 

 簪はセシリアに目を向けず、作業を続ける。

 う~ん、仲は……悪いのかな? こうしてこの一端を見るとセシリアが躾をする母親で簪が我がままを言う子どもだ。

 まあ、互いに睨み合う様な関係でなくよかったと思うとこの関係も悪くはない。

 

「片手で作業して、もう片手にパン。確かに作業は進みますけど、効率は悪いですわ。むしろ今は休憩という意味でも食事に専念したほうがより作業が進みますわ」

 

 セシリアが正論を述べる。

 うん、その通りだ。疲れた体は失敗を生む。進むどころか後退するかもしれない。

 

「ふっ」

 

 そんな正論を述べるセシリアに簪は鼻で笑った。

 

「誰がいつ片手で……作業するって……言った? 私は両手でする」

「それでは食べれませんわ」

「詩織」

 

 その方法を示すために簪が私の名前を言った。

 うう、人前であ~んをするのか。ちょっと恥ずかしい。

 だけど、やらないわけにはいかない。

 私は簪のためのパンの袋を開けるとパンを取り出す。それを一口サイズにして、

 

「はい、あ~ん」

 

 一口サイズのパンを簪の口元へ。

 

「あ~ん」

 

 簪はそれをぱくりと食べた。その際に指も軽く食べられた。だから簪に指を咥えられているような形になる。私は指を引き抜いた。

 指はちゅぷんという音を立てて簪の口から出てきた。

 簪は何度か咀嚼して飲み込んだ。

 

「ま、まさか……!」

「そのまさか。私は詩織に……たべさせて、もらう。だから問題ない」

「くっ、羨ましいですわ!」

 

 二人がそうしている間に簪の涎の付いた指をペロリと舐める。

 

「詩織! わたくしもやりたいですわ!」

「えっ、したいの?」

「したいですわ! というか、恋人なら絶対にするべきことの一つですわよ!」

 

 結構本気のようだ。

 ふむ、やってあげたいのは山々なのだが、

 

「ごめん。ちょっと無理かな」

「な、なんでですの?」

「さっき言った通り、簪はまだISができてないでしょ。私はこの子に早くISを完成させたいの。だから私は食べさせているの。だからセシリアに食べさせてあげられない」

「な、なんですの、それは。いつも更識さんだけ特別じゃありませんの。更識さんはルームメイトで詩織と二人きりの時間があって、その、あなたの初めてを奪うのは更識さんで、食べさせてもらうのも更識さんだけ。……一応聞きますけど、食べさせもらうのはお昼だけですわよね? それ以外だったらわたくしもいいですわよね?」

 

 せっかくの真剣な話が一気に台無しになった。

 

「う、うん、お昼だけだよ」

 

 そう言うと安心したようだ。そして、顔がまた戻る。

 

「わたくしもあなたの恋人ですわ。あなたのことを好きだと本気で思っている恋人ですわ。わたくしにもその特別がほしいですわ」

 

 それは我が儘だった。セシリアの我が儘だった。

 特別が欲しい、か。む、難しい。

 セシリアの言う簪の特別というのは意図して与えたものではない。偶然の結果が特別となっただけなのだ。

 だから難しい。

 そこで私はセシリアにある提案をすることにした。


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