そして、朝になる。
私はいつものように簪とキスをした後、食堂でセシリアと合流した。昨日正式に私の恋人となったセシリアは以前よりも大胆になって、私と手を繋ぐようになった。もちろんその反対側には対抗してきて、手を繋ぐのではなくいつものように腕に抱きついてくる。
もちろんただ抱きつくのではなく、自分の小さな胸に当てるようにと。
私はうれしいので、思わず顔がニヤニヤしてしまう。
ちなみに簪はセシリアに謝罪している。セシリアは気にしていないと言って、それを許していた。
そういうことで一応仲が悪くなる要因の一つはなくなった、と思われる。
朝食を食べた後は準備をして、セシリアを私の部屋に呼びつけ、朝のおはようのキスをした。これからはこれが当たり前となる。
ただ……不満を言うならばお姉ちゃんがこの当たり前に入れないことだ。
お姉ちゃんは教師ということもあり、生徒の部屋に入るのが難しいのだ。それにこれは毎日の習慣だ。さすがに毎日生徒の部屋に入るのは不審に思われる。
ここで関係がばれると色々とめんどくさいので、誘うことができないのだ。
はあ……お姉ちゃんともしたいのにできないなんて……。別に二人に不満があるわけじゃないけどハーレムを目指す私は三人としたい。
まあ、お姉ちゃんとおはようのキスはできないけど、来週からできるいちゃいちゃで我慢するしかない。お姉ちゃんの部屋に行ったらお姉ちゃんのことたくさん聞きたい。私が知っているのは雑誌からの情報とこの学園で出会ってからの生のお姉ちゃんだ。
ただそれだけ。
まだ会って少しなのでお姉ちゃんのことがたくさん知りたいのだ。もっともっと私たちの仲を深める。そして、もっと好きになりたいし、好きになってほしい。
そんなことを思いながら、今日の学びの時間が始まる。
今日の授業には初のISを使っての授業であった。そこで活躍というか、お手本になったのはもちろんのこと専用機を持っている者たち。つまりセシリアと一夏だ。
私も動かしたことのある人間なのだが、特別扱いとして練習機を使わせて専用機持ちと一緒に、ということにはならなかった。あくまで私はただの生徒ということだ。
まあ、私はISを動かしたくて入ったわけではないので、文句とか特別扱いされないことへの不満などは抱くことはなかった。
あったのはクラス全員がISスーツという体のラインがはっきりと出るスーツを着ていることへの興奮である。
みんな可愛いので女の子大好きの私には天国なのだ。ISを動かすよりも興味がある。
男である一夏がいるのが本当にむかつくけど。しかも一夏ってこんなに可愛い子たちがいるのにどうして興奮する素振りがない!
あいつ、本当に男なの? 男ならもっと動揺したり、チラチラって見るよね? なのに一夏は最初は動揺していたけど、すぐに調子を取り戻して真面目になる。
前世が男だっただけに一夏の反応には驚愕だ。
む、まさかとは思うけど、私と同じで同性愛者なのかな? あ、あり得る! 女ばかりの学園なのに性的な目で見てないもん!
私がこの結論に至ってもしょうがない。
それだけ一夏の行動はそう取ることができるのだ。
その授業では専用機持ちのお手本で時間が終わった。
ただ一夏はド素人なので、ひどいものだった。
例えば、飛行でも一夏のISのほうが速いはずなのに一夏の腕が未熟のせいでセシリアのほうが速かったり、地面へ着地するはずなのに地面に激突したり、武器を展開するのが遅かったりと散々だった。
まあ、最後の武器の展開では、接近戦をほとんどしないセシリアはちょっとてこずっていたけど。
セシリアは近接よりも、遠距離中距離専門だからね。
でも、セシリアも代表候補生だから、近接の練習をしなくていいということにはならない。ISの世界ってそういうのなのだろう。
もし私だったら無手でも大丈夫だから武器を展開しなくてもいいかな。
ともかくISを使った初めての授業はこれで終わったのだ。
その後は万国共通の科目とISについての授業となった。
全ての授業が終わった後、セシリアや簪と一緒に私と簪の部屋で談笑をした。
ただ二人とも私相手にしか返事してなかったけど。やっぱり簪とセシリアの仲はまだダメのようだ。せめて友人レベルになってほしい。
で、夕食後、私は一人で夜の学園島を歩いていた。夜と言ってもまだ日が沈んだ向こう側の空は茜色であるが。まだ春の終わりくらいだからね。
一人で歩き、辿り着いたのは昼間もあまり人が来ないような場所だった。
島の端で海とここは二メートルほどの崖になっている。もちろんフェンスはある。
「まだ……来てない、か」
どうやら私が求めている人は来ていなかった。
多分まだ来ないだろうからと近くにあった、木製のベンチに座った。
待っている人はもちろんのこと女性だ。異性なんて私が待つことはほとんどない。家族はもちろん別だ。
そうして待っていると後ろのほうで誰かの気配を感じた。
あっ、これって……。
その気配が誰のものかなんてすぐに気づいた。
当たり前だ。だって好きな人の気配だもん。他の人たちのは分からないけど、好きな人のならこういう場合は感じ取れる。
「む、もう来ていたのか」
そう言ったのはスーツ姿のお姉ちゃんだった。
そう、私はお姉ちゃんと会う約束をしていた。その理由は恋人としての当然のこと。つまり、会いたい、であった。
「待たせたな」
「いえ、そんなに待っていません」
お決まりの台詞を言う。
「ふふ、そうか」
お姉ちゃんは私の隣に座る。もちろんその距離は接触するほどだ。
「そういえば昨日はオルコットとデートをしたんだったな」
「え? はい」
そういえばお姉ちゃんにも言っていたんだっけ。
お姉ちゃんはハーレムを受け入れてくれているけど、こうして恋人となってしばらくでその気持ちは変わらないのだろうか。簪は変わった。お姉ちゃんも変わるのではないのか。
突然聞いてきた言葉が私をそう思わせる。
「オルコットの様子を見るとお前といい関係になったようだな」
「はい、今までは無理やりの恋人でしたけど、今ではちゃんとした恋人です」
「そうか」
お姉ちゃんの顔色が怖くて顔を見ることができず、顔を逸らしてしまった。
ハーレムを受け入れにくいというのが簪とセシリアを見て分かっていても、お姉ちゃんが変わるのが嫌だった。
全て私の我がままということはもちろん知っているし、理解している。他人のことなど全く考えずに私を優先にしている。さらに他人からの顔色を気にするのだ。
はあ……自分のことなんだけど、一歩間違えれば最低な女だ。私が私でなかったら、絶対にセシリアのようなプライドが高い女になっていただろう。そして、女王みたいになっていたかも。
ちょっと想像してみる。傲慢で我がままで、自分の容姿を利用して好き放題にする私。
むう、そうなった私も可愛い! そして美しい! そんな私に私を恋人にしてもらいたい!
いや、そうじゃない。何結局自慢をしているのだろう。確かに私は可愛くて美しい。でも、今はそうじゃないだろう。
「あの、お姉ちゃんはハーレムを許しますか?」
つい聞いてしまった。
それを聞いたお姉ちゃんは私の肩に手をやった。
「私はお前がハーレムを作ることに関しては何も言わない。作って構わない。だが、それはお前が私をちゃんと見ているときだけだ。その、私のキャラじゃないのだが、私はお前に愛されたいんだ。その愛さえ私に向けてくれればそれでいい」
お姉ちゃんはやや頬を染めながら、恥ずかしそうに言う。
やはりお姉ちゃんはかっこいいけど、可愛い。くくく、こんなお姉ちゃんを知っているのは私だけだ! お姉ちゃんはブラコンだからだらしない姿を見せることはあっても、こういう可愛い姿は見せたがらないはずだ! だから私だけということになる。お姉ちゃんの親友の束さんは……どうだろう。多分見てないはず。
「なんだ、にやにやして」
「な、なんでもないです」
むう、どうやら顔に出ていたらしい。
「さて、話はこれくらいにして。詩織、私の膝の上に」
話なんかよりもスキンシップのほうがしたいようだ。
大人しく膝の上に移動した。もちろん背を向けてだ。
私が膝の上に座るとお姉ちゃんは私をぎゅっと両手で抱きしめる。
「ん、抱き心地がいいな」
「喜んでもらえてうれしいです」
「すん、においもいい」
「か、嗅がないでください!」
さすがににおいを嗅がれるのは恥ずかしい。
うう、まだ風呂に入ってないから汗とか色々なにおいが……! たくさん汗をかいたわけじゃないけど、ちょっとは汗をかいた。そのにおいが一番気になる!
逃げようかなと思ったが、がっちりと抱きしめられているので無理だった。
「別に汗臭いというわけではないぞ。なんだろうな、詩織という存在のにおいだ」
「? ちょっと何を言っているのか分かんないですよ」
「うむ、私もだ。ともかく良いにおいということだ。恥ずかしがるな」
「そ、そう言われても恥ずかしいものは恥ずかしいですよ!」
そう言うがお姉ちゃんは止めてくれない。むしろもっとにおいを嗅ごうとして、私の胸元を大きく広げた。
くっ、広げやすい私服を着たのが間違っていたか!
お姉ちゃんは首元に顔を埋めにおいを嗅ぐ。
「お姉ちゃん、大胆です。んっ、手が……」
お姉ちゃんの手が大きく開かれた胸元に入り、私の胸に置かれていた。
胸元を開いたのはそういうことか。
「別にいいだろう? 軽いスキンシップだ」
「……エッチです」
「言っておくが、私だって人間だぞ。性欲だってある。恋人ができた今、そういうことがしたいと思っても仕方がないだろう。それに詩織は他の恋人とはこれよりも激しいことをしているんだろう?」
「うう、そうですけど……」
指摘されると体が熱くなる。
「それに対して私は会える時間もないし、立場のせいで余計に会う機会が少ない。私だけお前に触れられないんだ。このくらい我慢してしろ」
「あうんっ分かりました……」
「まあ、そもそもお前はこういうことが好きみたいだがな]
「んっ、否定できないですよ……」
それからちょっと過激になり、私の胸元から手を入れてきた。体勢の問題もあり、片手のみだ。
だけど、意識を片手に集中できる分、その手の動きはとてもいやらしい。
「慣れて……ませんっ?」
「そうか? 残念だが、こういうことは初めてだ。私としてはお前が喜んでくれているようで、うれしいな」
「よ、よろこんでなんか――」
「そんな恍惚の表情で言われても説得力がないぞ」
「ひゃうっ」
お姉ちゃんは私をいじめるかのように話している途中で強く揉んだりとしてきた。
「いい声だ。思わずいじめたくなる。あむっ」
「!? にゃっ、そ、そこは……」
突然耳をカプリと噛まれた。それは優しいもので、甘噛みとか呼ばれているものだった。
よく小説の中で耳を甘噛みされて気持ちいいとかって描写があるけど、私は信じられなかった。こうしてされてみて分かったことは、正確には耳を刺激されて、くすぐったいや快感に似た何かだってことだ。
で、でも、気持ちいい、かも。なんというかゾクゾクする。これが……いい。
「ん? どうした?」
お姉ちゃんの涎が耳を冷たくさせる。
「み、耳は……ダメ、です」
「ふふ、可愛い反応だ。そういう反応が私を興奮されると分からないのか? それとも分かった上で誘っているのか?」
「誘って……んっ、なんか、ありま……せん!」
お姉ちゃんの手が私の胸の先を巧みに刺激する。
耳とは違って、そこは完全に気持ちよくさせるところ。しかも、胸を揉まれたり、耳を甘噛みされたせいで、下地はできているので余計に気持ちいい。
私は声を出さないようにと我慢するが、いつものように声は途切れ途切れで漏れる。
本来ならこの我慢すると言う行為もまた、相手を興奮させる要素だと気づくのだが、正常の判断ができない今は気づかなかった。
「こうして触れるのは初めてだったな」
「んあっ、そう、ですね。ん、んんっ! つい数日前に恋人になった、ん、あんっ、ばかりですもんね」
「他の恋人たちは羨ましい。これを何度も触っているのだろうからな」
その言葉が言い終わると痛みを感じるほど強く胸を掴まれた。
私はMの気があるものの、それは精神的なものであり、物理的なものではないので、純粋に痛みとして感じる。
「いたっ」
「むっ、すまん。つい力が……」
手の力が緩くなり、優しくなる。
「嫉妬、ですか?」
「……そうだな。嫉妬だ。やはりハーレムを認めているものの、自分が本気になった相手が、自分以外の誰かとこのような行為をしていると知ったら、誰だってこうなる。お前はそうじゃないのか?」
「私も……そうです。私の恋人たちが私以外といちゃいちゃしてたら嫉妬します」
もう本当に私は我がままだなあ。そう何度も思う。
誰だって私の想いと行動を知っていればそう思うはずだ。
自分はハーレムという名の浮気に近い、またはそれを堂々と行うくせに、その恋人たちには自分以外の人間とはあまり仲良くして欲しくないと思うのだから。
うん、何度も思うけど本当に私は自分中心だ。他人の意思を無理やり曲げている。今のところ、なんとか折り合いをつけているけど、それでも無理をやってもらっている。
それでも私はこの生き方を止めることはできないんだけどね。