精神もTSしました   作:謎の旅人

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第64話 私の素晴らしい作戦と醜態

 二人で仲良く歩いて出口に向かっている途中であるアトラクションが私の目に止まった。

 そのアトラクションは時間帯に関係なく楽しめるアトラクションであった。室内のアトラクションである。

 うん、このアトラクションってやっぱり遊園地デートでは定番だよね。

 今回のデートで遊園地デートの定番と思われることはほとんどやった。だが、まだやっていない定番がある。

 その定番は普通の恋人(男女の)、特に男のほうにとっては大変なご褒美的なものだ。逆に女のほうには男を自分の体を使ってメロメロにできる。男女共にお得だ。

 前世では残念ながらその定番はなかった。

 あれ? 何でなかったのかな? 遊園地デートは何度かしたんだけどなあ。

 まあ、そのときの私がへたれだったのかもしれない。昔の話だから覚えていない。

 

「ねえ、セシリア。最後に寄りたいアトラクションがあるんだけどいい?」

「そうですわね……」

 

 セシリアが時間を確認する。

 

「いいですわよ。どれにしますの?」

「あれ!」

 

 元気いっぱいでそのアトラクションを指差した。

 

「ひうっ」

 

 ん? セシリアから何か変な声が出た?

 ともかく、私の指差した先には『  県立横 病院』と県の部分と病院の名前の部分が欠けた、ボロボロの看板が架かった建物があった。四階建てである。

 アトラクションのジャンルはお化け屋敷だ。

 ふっふっふ~、分かったかな? そう! お化け屋敷こそ! 男女をいちゃいちゃさせ、仲をさらに深くする最高のアトラクションなのだ!

 やっぱりお化け屋敷は遊園地デートには必須だよ!

 

「し、詩織? ほ、本気ですの? 本気でこのアトラクションを?」

「うん、本気だよ。ここね、怖いって有名なんだよ。けど、パパとママがこういうのが嫌いだからずっと入ったことがなかったんだよね。だからすごく楽しみなんだ! セシリア、行こ?」

 

 私が楽しみにしていると言うことで、わざとセシリアに断りにくくする。

 ごめんね。多分セシリアは、こういうのって苦手なんだよね。それでも我がままを言わせて。

 

「……っ、分かりましたわ。行きましょう」

 

 覚悟を決めてくれた。

 

「ありがとう」

 

 思わず礼を言ってしまう。

 

「た、ただ、腕を組んでもらうと少しは安心できると思いますの」

「分かってる。絶対に放さないよ」

 

 私はぎゅっと力を入れる。

 ああ、もちろんその腕は私の胸が当たっている。いや、当てている。

 ただセシリアはこれから入る、お化け屋敷への恐怖でせっかくの私の胸を堪能できていないようだが。落ち着いたときに堪能してもらおうか。

 私たちはお化け屋敷へと入って行く。

 私はこれからの楽しみを期待してわくわく。セシリアはこれからの恐怖で生まれたての子鹿のようにプルプル。

 全く対照的な私たちである。

 中へ入るとまずそこでスタッフが説明してくれる。内容はどの道順で歩けばいいのかとか。

 それが終わりようやくお化け屋敷である。

 私たちはスタッフの『いってらっしゃい』という言葉をかけられながら、僅かな光しかない暗闇に一歩を――踏み出せなかった。動かそうとしたのだけど動かなかった。

 私は思い出した。思い出してしまった。実は私が大の大の怖い物(ホラー系)嫌いだと。

 なぜそんな私がお化け屋敷などがきり穴ことを忘れてしまったのかだが、それはそれが前世の頃のことだからだ。前世なのでもちろん引き継ぐところだってある。私のこれも引き継がれたようだ。

 まあ、つまり、前世では怖い映画とかお化け屋敷なんてものは長いこと見てもないし行っていなかったし、現世では両親が苦手だったので思い出すきっかけがなかった。

 ま、まさか、この私が怖いものが嫌いだったなんて!! え、これじゃ余裕を持って抱きついてくるセシリアを楽しめないじゃん! 絶対に抱きつかれても楽しいとかよりも怖いとかとのほうが上だよ!

 セシリアも私も苦手と分かった今なのだが、残念ながら出るわけにはいかない。別にもうお化け屋敷に入ったのだから、道順とかそういう意味で出られないというわけではない。これは私が言い出したのに私から『やっぱり怖いから止めましょう』なんて言えない!

 もしそんなことを言ってしまえば、絶対に情けないって思われる! それは嫌だ。

 私は恋人の前ではかっこつけたいのだ。

 もちろん生徒会長モードの私は少し子どもっぽいってことは知っているけど。

 

「ううっ、怖いですわ……」

 

 怖いと思う私の横で怯えるセシリアが言う。

 わ、私も怖いよ!

 それを悟られずに済んでいるのは偶然だ。私の最後の細い何かが体の震えをなくしてくれている。

 あっ、ちなみに生徒会長モードを発動しても意味はない。あれはただの意識の切り替えであって、別人格ではない。すぐに解除されて無意味になる。

 

「だ、大丈夫だよ!」

 

 し、しまった! どもっちゃったよ! こんなんじゃ私が怖がっているって思われるじゃん!

 

「頼りにしていますわ」

 

 幸いにも気づかれていないようだ。

 それはよかったけど私はどうしよう。言ってしまった今、私はどんどん逃げられなくなっている。というか、逃げられない。どうやっても逃げられない。逃げ口が見当たらない! これって詰んだ!

 ともかくそんな感じで私たちは歩みを進めた。

 このお化け屋敷は全国のお化け屋敷の中でも上位に存在しているということもあって、お化けたちは機械だけではなく役者もいる。

 うう、本当になんで入ってから思い出すの! 入る前に思い出してよ!

 そうしてしばらく歩くとついに最初のお化けが。

 

「ぎゃあああああああっ!!」

 

 その悲鳴は隣のセシリアでもお化け役の脅かした声でもなかった。私の悲鳴だった。

 うん、色気のない悲鳴だ。

 

「ひいいいいいいいいっ!!」

 

 また別の場所で私の悲鳴。

 

「にゃああああああああっ」

 

 またまた別の場所で私の悲鳴が響く。

 

「ひゃあああああ!!」

 

 私の悲鳴がどんどん響く。

 それまでセシリアはびくりとするだけで小さな声さえも出していない。

 あれ? 苦手じゃなかったの? なんで?

 恐怖でボロボロになった心でそんな疑問を抱いた。

 

「ひぐっ、うえええええええんっ!!」

 

 疑問を持っている間にもまたお化けが脅かしてきて、ついに私の心は折れてしまった。

 心が折れた私は子どものように泣く。そこにはかっこいいとかそういうものはない。ただの泣き虫しかいなかった。

 私も泣かないようにするが、いつどこで脅かされるのか分からないこの場所では落ち着けるわけがなかった。

 

「もう嫌だよ! 早く出たいよ! なんでお化け屋敷なの! こんなところいたくないよ!」

 

 うん、もうみっともない。こんな姿を生徒会長モードだけを知っている人が見たら幻滅するだろう。

 簪とセシリアとお姉ちゃんはしないよね?

 そうやって子どものように泣き叫びながらセシリアの腕に掴まりながら歩いて行く。

 また何度か脅かされてしばらく歩いていると私は違和感を感じた。感じた部分は私の下腹部だ。

 な、なんか変な感じがする……。なんだろう。

 私の下腹部、もっと正確に言うと股間部分が何か変なのだ。いや、別にエッチな気分でとかそういうのではない。こんな怖いものいっぱいのところで発情なんてできないよ。

 私はセシリアの腕を掴んでいる両腕の片方をこっそりと服の隙間から下着へと持って行く。

 

「えっ、うそ……」

 

 その手に湿った感触がした。気のせいではない。なるほど。違和感を覚えるはずだ。

 私はそのおそらくは自分の体液と思われるものが付いた手を自分の鼻元に持っていった。

 !? こ、こここ、これって!!

 ニオイを嗅いで分かったその正体に私は驚愕するしかない。

 これって……おしっこ?

 認めたくはないが私はおしっこを漏らしたようだ。いや、スカートがびしょびしょではなくて、下着も股間部分の一部ということからちびったというのが正しい。

 ……ただ違和感を感じるほどのちびっただが。

 はあ……こんなことならトイレに行くんだった。そうしたらこんな恥ずかしいことにはならなかったのに……。

 確か近くにわざとなのか知らないけど、服を売っている店があった。確か下着もあったはず。ここは恥ずかしいけど、セシリアに頼んで買ってもらおう。

 ……セシリアはこんな私を嫌いにならないよね?

 不安はあるがずっと黙っていてセシリアにばれて何か言われるよりはいいと思う。ここはちゃんと言って着替えるほうが優先だ。幸いにもスカートまでには至っていない。

 

「せ、セシリア」

 

 羞恥と不安の入り混じる声。

 

「な、何ですの?」

 

 逆にセシリアは恐怖とかではなく、興奮の混じった声。

 

「あ、あのね、とても言いにくいんだけど、その」

 

 言ったほうがいいと思ったが、それでも恥ずかしいと思うし言いたくはない。

 

「ちょっと……ちびっちゃった」

「え?」

 

 いきなりのことだから理解できなかったのだろう。

 

「も、漏らしたの!」

 

 話があるということで立ち止まっているので、結構精神的余裕がある。

 あと、声を上げているが、もちろん周りに人の気配がないかは確認済み。これも精神的な余裕があるからだ。

 

「も、漏らしましの?」

「で、でもちょっとだけなの! びしょびしょ~ってわけじゃないの! 本当だよ!」

 

 なんだか引かれそうな気がしたので慌てて何かを言った。動転して何を言ったのかよく覚えていない。

 でも、私のことだ。変なことは言っていないに違いない。

 

「ひゃうっ」

 

 セシリアが私のスカートの股間部分とお尻の部分をさらりと触った。

 

「そう、みたいですわね」

 

 どうやら確かめたらしい。

 

「もう! いきなりやらないでよ!」

「あら、わたくしはあなたの恋人ですわよ。キスをした仲ですわ。それにあなたを触ったというよりは、服を触ったという感じですわ。わたくしとしてはもっとがっしりと触れたいって思ってますのよ」

 

 ……私と正式に恋人になってからセシリアが簪みたいになった。

 え? なに? 私と恋人になるとみんなこんな風になるの? それともデレたから?

 とても複雑なんだけど。いや、別にエッチな子が嫌いってわけじゃないけど。

 

「と、とにかく下着を替えたいから出たら買ってきて!」

「分かりましたわ。でも、なぜ行きませんの? 自分で買ったほうがよくなくて?」

「無理! こんな状態だもん。見た目には出ていないけどそんなので他人に見られたくはない!」

 

 人間一度はあるだろう、こういう何か失態をやってしまったときに周りが自分について何かを言っているのではないのかという錯覚を。

 今現在、私がそれにかかっているのだ。

 それにセシリアたちに見られるならまだしも、自分から他人にこの醜態を見せるような行動はしたくはない。

 

「分かりましたわ。だったら早くでましょう。多分もうそろそろですわ」

 

 セシリアの言葉の通り、お化け屋敷のゴールはすぐ近くだった。ただその間に何度か脅かされ、また泣いたが。あと、またちびるということはなかった。

 お化け屋敷を出た私はセシリアと別れた。

 私はトイレの前に。セシリアは近くの衣服を売っている店に。

 はあ……せっかくの初デートにこんな醜態を晒すなんて……。台無しだよ……。

 私は落ち込んでしまう。

 ああ、本当にこの初デートは忘れられない思い出になりそうだ。

 トイレの前で落ち込んで待っていると手に袋をぶら下げたセシリアが私の元へ。

 

「買ってきましたわ」

「ありがとうね。助かったよ」

 

 私は袋を受け取る。

 中を覗くと白の下着が入っていた。

 さっそく私はトイレトイレへ行こうとするのだが、私の手をセシリアが掴んで放さない。

 

「えっと、何?」

 

 下着がまずいことになっている私は早く着替えたいのだけど。

 

「わたくしも手伝いますわ」

 

 笑顔でそう言い出した。

 

「な、何を言い出すの!? 手伝いなんていらないよ!! 一人でできるよう!!」

 

 これがエッチ的な意味でも却下である。

 確かにこんなプレイをしてみたいな、あんなプレイをしたいな、なんてよく考えるけれども!! でも、何がうれしくて赤ちゃんプレイをしなきゃならないの!! そんなプレイは嫌だ!! セシリアとするプレイは『お嬢様とメイド』って決まっているもん!!

 

「遠慮はいりませんわ」

「遠慮とかじゃないよ!! 自分でやるって言っているの!!」

 

 セシリアがこんな変態になったのは絶対に私のせいだ。もし世界がたくさんあるのならば、私以外とセシリアが恋人になった世界ではこんな変態にはならなかったに違いない。

 セシリアを変態にした責任という意味でも、セシリアの人生を貰おう。責任を取って私のお嫁さんにしよう。これがベストだね、うん。

 あ~そういえば簪もエッチな子にしちゃったし、やっぱり私が責任を取ってお嫁さんにしないと! ああ、本当に私ったら罪な女ね、二人も変態にしたのだもの。

 っと、現実逃避はこれでお終いにして! ど、どうしよう……。


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