精神もTSしました   作:謎の旅人

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第62話 私への最高のプレゼント

 初デートの記念の証を買い、外へ出た私たちは、そのあとに幾つかのアトラクションを楽しんだ。

 乗り終わる頃には日はすでに傾き、空が茜色に染まっていた。

 そろそろこの楽しい時間にも終わりが近づいている。

 その夕焼けを見ると物悲しくなる。

 たくさんあった時間はなくなり、最後のほうに抱くのはもっと遊びたかったとかそういう後悔的なものが芽生える。そんなよくあること。

 はあ……結局半分も回れなかった……。もっと乗りたかったなあ。

 

「もう終わりね。最後に乗れるのは一つね」

「そうですわね。でも、まだいくつか乗れるのではなくて? 新幹線の時間もまだまだですし問題ないと思うのですけど」

「ええ、乗れるわね。でも、私、乗りたいものがあるのよ。それが結構時間がかかるから最後なの」

 

 この遊園地に行くと決まってからずっと思っていたことだ。最後、というわけではないが、この時間帯に乗りたいというものは決まっていた。しかも、今回は『初』デートである。絶対に恋人と乗りたいと思っていた。

 

「あなたがそう言うなんて、それは何ですの?」

 

 わくわく気味のセシリアが問う。

 そ、そんなに期待してないでほしいんだけど……。

 

「その、恥ずかしいのだけど、観覧車に乗りたいのよ」

 

 私の顔が熱い。別に恥ずかしいフリとかじゃない。本当に恥ずかしいと思っているのだ。私には生徒会長モードというお姉さまモードがある。今はそのモードのフリだけど。

 やはりお姉さまというとイメージするのは優雅とか高潔だとか高圧的とかそんなので、自分から観覧車とかそういうものに乗るようなイメージは無い。まあ、そんなことを言えばそもそもクマのぬいぐるみなんて買わないのだが……。というか、セシリアにも言われたし。

 ともかくそういうのがあって、生徒会長モードを真似している今は恥ずかしく思っているのだ。

 だからもし生徒会長モードでもない、いつもの私ならばそう思わなかったはずだ。自覚はしているけど子どもっぽいからね。

 

「それはいいですわね!」

 

 セシリアはクマの件で悟ったのか、私の発言にどうも思わずに喜んでいた。

 ともかく決まったのでさっそく観覧車へ向かう。幸いにも観覧車が近かったので移動に時間はかからなかった。

 ただ並んでいる人は結構いて、二十分ほど待つ必要がある。

 まあ、何せこの時間帯の観覧車から見る夕焼けは本当にきれいで、遊園地のパンフレットにもおすすめとして紹介されるくらいだ。

 しかも密室に夕焼けというとても雰囲気のあるアトラクションのために告白の場となっていたりする。ネットでも告白の場とか書かれていたし。

 はあ……もし一夏が学園に来なければ、ここで告白したかったなあ。

 私だって雰囲気を気にする。私だって夢見る少女なのだ。本当はあんな告白はしたくはなかった。

 そんな未来がありえたかもしれないと思うと一夏に対する怒りがふつふつと湧き上がる。

 いくらお姉ちゃんの弟とはいえ、やっぱり許せない! 絶対にまた圧倒的な力でボコボコにしてやる!

 並んで待つ私たちはもう当たり前になって手を繋いでいた。

 ちなみに荷物は近くのコインロッカーに預けている。

 

「そういえばあなたって代表候補生になりませんの?」

 

 並んで暇だったセシリアが唐突に聞いてくる。

 

「何で聞くのかしら?」

「あなたの力は正直に言って候補生を超えていますわ。あなたならば確実に代表になれるますわね。だから聞いていますの」

 

 まあ、確かになれると言えばなれる。代表候補生になるのは金とかじゃない。実力だ。結構な倍率の中から戦わされて僅かな人数しかなれないものだ。

 代表候補生になることは一種のステータスだ。尊敬もされるし、社会的に優位に立てる。

 私はその才能のある子どもたちに勝ち抜き、専用機を与えられた少女、セシリアに勝ったのだ。それもたった一撃で。

 あのときはボロボロだったが、今のISに慣れた私ならば、あそこまでボロボロにはならずにセシリアを倒す自身がある。つまり圧倒的。

 そんな私がなれないわけがない。

 これは虚言ではない。事実である。

 でもなろうとは思っていない。

 

「そうね。ならないのは私が今の(・・)ISに興味がないから、かしらね」

「今の? どういう意味ですの?」

 

 セシリアが眉を寄せて尋ねる。

 

「セシリアにとってISはどういうものかしら?」

「決まっていますわ。兵器ですわ」

 

 セシリアは当たり前のことを答えたという顔をしていた。

 私はそれに悲しくなる。

 

「ま、間違っていましたの?」

 

 悲しい顔をする私にセシリアは慌てた。

 

「いいえ、合っているわ」

「では、なぜそんな顔をするんですの?」

「それはISが本当の使われ方をされずに兵器として扱われているからよ。ISは本当はそんな兵器ではないわ」

「それは……知っていますわ。本来は宇宙での船外活動を目的に作られた宇宙服ですわ」

「ええ、そうよ。けれど今の時代はそういう宇宙への研究ではなく、兵器としての研究が進んでいるわ。私はね、ISは宇宙(そら)へ飛ぶための手段、かっこよく言えば翼だと思っているのよ。けど、今は兵器。だからなりたくないのよ」

 

 もちろん私だって作ったものが兵器になることがあるとは理解している。ISが今の世界のように主に兵器として扱われても間違いは無いのだ。

 でも、分かっていたって受け入れられるかどうかは違う。

 理解することと受け入れることは違う。

 これも束さんが好きだからだろう。

 

「……あなたの言いたいこと分かりましたわ。そしてその気持ちも分からなくも無いですわ。それにあなたは篠ノ之博士が好きですものね。それならあなたがならないわけも分かりますわ」

 

 セシリアは納得してくれた。

 

「あっ、そういえば昨日篠ノ之博士に告白したと聞きましたけど、どうなんですの?」

 

 話題を変えようとしたのかそれを聞いてくる。セシリアはどうしてか不安そうな顔になっていた。

 えっと、その顔は私が振られたかもしれないからでいいのかな?

 

「まだ答えは貰っていないのよ」

「え? なぜですの?」

「その、私もよく分からないわ。でも、また会ってくれると言ってくれたからよかったわ」

「そうなんですの。正直に申しまして、あなたが振られていなくてよかったですわ」

「あら? 心配してくれるの?」

 

 ちょっと意地悪を言ってみる。

 

「当たり前ですわ。わたくしはあなたの恋人ですわよ。心配して当然ですわ」

「…………」

 

 何を言っているんだというセシリアの発言に対して、私は何も言えない。

 何度も言わせて! 本当にセシリアはどっちなの!?

 思わずセシリアに対して憤りを感じてしまう。

 やはりここははっきりと聞いたほうがいいのだろうか? それがいいのかもしれない。いや、憤るのはいいが、だからといって急ぐのは間違いだ。

 もうちょっと待つか……。

 ついに私たちの順番が来る。

 互いに座ると膝が当たりそうになる。なので、当てることにした。

 ふむ、やっぱりこんなに狭いのは恋人同士の接触のためか。こうやって接触してドキドキさせてって所だよね。だったらその策に乗ってあげるのだ。

 さすがのセシリアもそれに気づいたようで、顔をやや赤くしながらなんでもないように振舞っていた。

 私たちを乗せたゴンドラはゆっくりと上がる。

 

「へえ、本当に綺麗ですわね!」

 

 完全に頂点ではないが、それなりの高さに来たところで、夕焼けが楽しめる。

 ここから見える夕焼けは本当に綺麗だ。近くが海ということもあり、太陽が海へ沈んでいくのだ。その光景には感動を覚える。

 

「でしょ。ここって結構好きなのよね。人工物のある風景ってあんまり好きじゃないけど、ここは別ね」

 

 人工物のゴンドラからの眺めだが、ここだけは好きだ。それはここから見た風景だけではなく、小さい頃に家族で思い出を作ったからだ。ここは特別の場所と言えるかな。

 でも、そんな特別な場所であるここも遠くない未来になくなってしまうのだろう。

 それが悲しいな。

 私はこの景色をじっと見つめる。忘れないようにと。

 ふとセシリアを見るとこの素晴らしい景色に目を向けずにどうしてか顔を赤くして、私のほうをチラチラと見ていた。

 ん? どうしたの? もしかして顔に何かついている?

 私も女である。顔に何かを付けたままというのは恥ずかしい。

 ただ、目の前でそれを確認するのは無理だ。

 なので、ゴンドラのガラスの反射を上手く利用して、自分の顔を確かめた。

 そこに映るのはいつもの私の可愛い、または美しい顔である。うん、汚れも何も無い。

 ではなぜ?

 私がついじーっと見ているとセシリアと目が合う。

 

「どうしたの?」

 

 目が合ってしまっては誤魔化せない。聞くしかないね。

 

「ふえっ!? あっ、その、その! わ、わたくし、じ、実は――」

「落ち着いて、セシリア」

 

 このままじゃ何を言っているのかよく分からない。なのでまずはセシリアを落ち着かせた。

 セシリアは何度も何度も深呼吸をしてようやく落ち着く。

 

「……落ち着きましたわ」

 

 やや顔は赤いが落ち着いてはいるようだ。

 

「それでどうしたの?」

 

 再度問いかける。

 

「あの、わたくし、実はあなたにプレゼントがあり、ますの!」

 

 セシリアの顔は真っ赤だ。

 そっか。さっきチラチラとしていたのはプレゼントを渡すためだからか。ふふ、やっぱり可愛い!

 

「あなたならそのプレゼントはとても喜んでもらえると思いますわ!」

 

 私はその言葉に目を僅かに見開いて、驚いた。

 何せまだ短い付き合いである私へのプレゼントに自身があるというのだ。例え長い付き合いでも喜んでもらえるようなプレゼントを贈るのは難しいというのに。

 だがセシリアの目は本気だ。本気でセシリアが贈るプレゼントで私が喜ぶと思っている。

 

「ただ、そのあなたに贈るときに見られていたら恥ずかしいので、目を瞑ってもらえるとうれしいですわ……」

「分かったわ」

 

 セシリアに言われたとおりに目を瞑って待つ。

 私はドキドキと鼓動を鳴らしていた。

 ま、まさかいきなりこんなサプライズがあるとは思わなかった。ドキドキするなあ。

 そんな感じで私は待った。

 静かなゴンドラの中ではセシリアの息が荒いのが分かった。きっと緊張のせいだろう。そして、セシリアが近づくのが分かる。

 どうやらプレゼントが渡されるようだ。

 この近さからしてネックレス? それとも髪飾りとか?

 見ることができない私はわくわくしながら想像する。

 

「詩織、好きですわ」

「んむっ」

 

 セシリアの突然の言葉に驚く暇もなく、私の口は柔らかい何かで塞がれた。

 私はすぐさま目を開く。見えたのは目を瞑ったセシリアの顔だった。状況から考えてセシリアの唇と私のがくっ付いているというのはすぐに分かった。つまり私はキスをしている。間違いはない。

 ど、どういうこと? な、なんで私がセシリアとキスを? そもそもさっきの言葉は……。

 私の頭の中はうれしいとかよりも困惑が大きかった。

 その間にセシリアの唇と私の唇は離れた。

 セシリアは顔を真っ赤にして俯く。

 私は放心状態だ。

 ゴンドラが頂点に来て下り始めたところで私の意識がふっかつした。

 

「せ、セシリア。さ、さっきのってどういうことなの?」

 

 さっきの言葉と行為で私はセシリアが私のことをそういう意味で好きだという結論を出さざるを得ない。

 だが、それは私だけの勝手なもので、セシリアからの言葉ではっきりと言ってもらえないと安心できない。

 

「ぷ、プレゼントですわ! い、言いましたでしょ? わたくしはあなたのことが好きだと。つまり、本当の恋人になるということですわ」

「ま、待って!」

 

 セシリアの言葉は本当にうれしい。セシリアが本当の意味で恋人になると言ってくれてほとんど安心できた。

 だが。

 

「その意味、本当に分かっているの? 恋人になるってことは異性の恋人がするようなことをやるということなのよ! つまり、そ、その、私とエッチなこともするってことよ。それが分かっているの?」

「もちろんですわ。だからあなたにこの身も心も捧げるという意味でプレゼントですのよ」

 

 セシリアの目に偽りはない。その目は私は見たことがあった。

 ああ、そうだ。簪と同じ目だ。私のことが大好きな簪の目と同じだ。

 私はもう疑うとかできない。

 

「詩織はこのわたくしというプレゼントを喜んでもらえます?」

 

 セシリアが私の手を取り、その手を自分の胸に誘導した。私の手にはセシリアのナイスバディの象徴の一つである、おっぱいの柔らかさが広がる。服の上だが、それがよく分かった。

 この意味は自分の体が私のものだということの証明の証なのだろう。好きにしてもいいということだ。

 ちょっとその手に力を入れて楽しんで、改めてセシリアに向き合った。

 

「当たり前じゃない! 私はずっとあなたが欲しかったのよ! ずっとずっと欲しかった! あなたを無理やり恋人にした私を恨んでいるのではないか、嫌われているのではないかってずっと不安だったのよ! そしてあなたが私のこと好きって言ってくれて、キスまでしてくれて恋人になってくれて喜ばないわけがないわ!」

 

 私にあるのは喜びだけだ。もう不安などない!

 

「それを聞いてうれしいですわ。これからよろしくお願いしますわね、わたくしの大好きな人♪」

「はい! 大好きだよ、私の愛しい人♪」

 

 今度は私からキスをした。


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