精神もTSしました   作:謎の旅人

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第61話 私たちの初デート記念の証

 色んな意味でお腹いっぱいの私はセシリアと一緒にアトラクションに乗ったりして楽しんでいた。

 再びアトラクションに乗ろうとしたところで、小物店を見つける。

 

「あの店で何か買わない? 初デートの記念に何か買いたい」

 

 初デートの記念の証。それを買いたいというのには大切な理由がある。

 大切な初デートを記憶だけに留めるのは、嫌だ。記憶力がないのではないが、あるのとないのとでは全く違う。その証があればより思い出すのが容易になる。思い出せなかったものを思い出すきっかけになることだってある。そして、自分の部屋のベッドでそれを眺めながらニヤニヤできる。周りから見れば頭のおかしい子になるが。

 そんなうれしいことだらけなのが記念の証である。

 買わないなんて手はない。

 

「それもいいですわね。わたくしも買いたいですわ」

 

 セシリアは喜んで言った。

 セシリアも買った記念の証を見て、ニヤニヤとしてくれるのだろうか? セシリアのことが大好きな私は私のことを思ってニヤニヤしてほしいのだ。そして、一緒にニヤニヤしながら初デートを語り合いたい。そして、いちゃいちゃしたい。

 そんなことを考えながら私はその店へと入る。

 店はやはり簡単に持ち運べるものが多かった。キーホルダーからぎゅっと抱きしめるほどの大きさの枕やぬいぐるみまで。店自体も大きく記念の証を買うにはここで十分と思わせるだけの品揃えだった。

 この分だとあとで買うっていうこともないかもしれないなあ。ここで済んじゃいそうだし。

 

「色々ありますわね。あっ、詩織! あちらを見たいですわ!」

 

 はしゃぐセシリアに私は微笑みながらセシリアに引っ張られる。

 セシリアってお嬢様だよね。そんなセシリアがこんなにはしゃぐのは少なくとも私には気を許しているからだよね。

 セシリアが私のことを妹的な意味で好きかどうかはこの際関係ない。恋人的な意味で好きになってほしいが、今は好意があるかどうかだ。

 セシリアが私を引っ張って来てたどり着いたのは、ぬいぐるみやらがある陳列棚だ。

 どれも動物をデフォルメしたぬいぐるみで、愛嬌のあるものばかりだ。

 私も可愛いものが好きなので欲しいなと思う。ああ、そういえば自分の部屋にはあんまりこういうのなかったなあ。

 私の部屋は実は全く女の子らしいのが少ない。あるのはいくつかの小さなぬいぐるみと私が女の子にもてようと頑張った証である、小難しい専門書が置いてある本棚とパソコンくらいだ。年頃の女の子の部屋ではない。

 けど、私は頑張ったし、恋人もできたのでもうちょっと女のらしい部屋にしようと思った。

 

「あっ」

 

 ぬいぐるみをきらきらな目で見ていたセシリアが声を上げて止まった。

 なぜか顔を真っ赤にして俯いていた。

 

「どうしたの?」

「……そ、その、失望しましたでしょ?」

 

 え? なんで失望なの?

 セシリアの行動を思い返すがそのようなことはなかった。あるのは可愛いとかそういうものだ。

 

「その、こうやってはしゃいだことですわ。子どもみたい、でしたわよね?」

「ぷっ」

 

 思わず笑ってしまった。

 

「ちょ! なんで笑いますの!?」

「だ、だって、ふふっ、そんなことを言ったら、あははは!」

「だからなんですの!?」

「くふふ、もう手遅れよ。そんなの今更よ。忘れた? あなた遊園地に着いてから子どもみたいにはしゃいでいたのよ。ふふ」

「し、詩織? そ、それって嘘ですわね!? はしゃいでいませんわよね!?」

「あはははっ」

「笑ってないで答えてくださいませ~!」

 

 もう今のセシリアにお嬢様らしさはない。普通の女の子である。

 こんなセシリアは私だけ見せてくれたらいいな。他の人ではツンツンでいい。デレデレは私だけで十分だ。

 

「とにかくセシリアに失望なんてしないわ」

 

 私はすばやく人の目や監視カメラの位置を確認した。どれもこちらを向いていない。

 だから私はセシリアの背後の陳列棚にセシリアを追い込んで逃げられないようにする。逃げられないようにしたのでどうしても私とセシリアの距離はなくなる。

 

「詩織? ち、近いですわよ」

「別にいいじゃない。周りには誰もいないわ。それにちょっとだけ、だから」

「こ、こんなところで……」

「場所は別にいいじゃない。セシリアが一番心配しているのは誰かに知られること、でしょ?」

「……」

 

 私の言葉が肯定するように何も言わなかった。

 私は同意を得たと認識し、セシリアの首下に顔を埋めた。セシリアは本当にいいにおいだ。

 つい私は溜まった欲をここで吐き出してしまう。

 

「はむっ」

「んあっ」

 

 私はその首元を甘噛みした。

 私の耳元で甘い声が響く。

 あうっ、ちょ、ちょっとあんまりそんな声で囁かれると……我慢が! い、今はダメだよ! ちょっとはいいけど、ここまで! これ以上はダメ!

 そういうことでしばらく甘噛みをし、最後に首元をキスする。

 セシリアの体が強張る。

 

「ん、んん……」

 

 しばらくしてようやく私はセシリアから離れた。

 キスした場所を見るとそこにはキスマークが。ちょっと強く吸ったけど、やっぱりこうなっちゃったか。付ける気はなかったけど、私のものという意味ではよかったかも。

 

「し、詩織……」

 

 頬を赤めたセシリアが私を見つめる。

 

「これ以上は……」

「分かっているわ。これ以上はしない」

 

 こんな場所だし何よりもセシリアがまだ私のことを好きではないからね。

 離れた私はセシリアの乱れた服装を直す。

 

「セシリアはどれがいい?」

「え? え、ええ、そうですわね……」

 

 あんなことがあったすぐあとに私が何もなかったかのように聞いたからセシリアは一瞬戸惑っていた。

 

「わたくしはこれがいいですわね」

 

 セシリアが手に取ったのは六十センチほどのデフォルメのクマのぬいぐるみだ。ぎゅっと抱きしめるためのぬいぐるみだ。

 思えばどうしてクマの人形って人気があるのだろうか? クマではなく本物の熊を見れば恐怖しかないのだが、こうしてデフォルメされたクマを見ると可愛いとかそういう感情しか湧かない。ちょっと不思議だ。

 

「それ、いいわね」

 

 私もセシリアと同じぬいぐるみを手に取る。

 ちょっと手に力をいれると簡単に私の手はぬいぐるみの体に埋もれる。

 むむ、このでっかいお腹はまさか!

 ぬいぐるみのお腹はふっくらとしている。中には綿がたくさん詰まっている。それの意味するところは私たち客にこのモフモフを味あわせるということだ。

 な、なんて商売テクニック! 確かにこんな気持ちいい感触だったら女子どもは買いたいって思ってしまう。

 女の子の私は買いたいって思ったもん。

 

「私はこれを買おうかな」

 

 感触もいいし、可愛らしい。女の子が部屋に置いていて当たり前のぬいぐるみと言っていい、このぬいぐるみ。

 本当にこのぬいぐるみを気に入った。もう買うことは決定だ。

 

「…………」

 

 するとどういうわけか隣のセシリアがポカーンと口を開いて私を見ていた。

 え? な、なに? 私、何もしてないよ?

 

「どうしたの?」

「い、いえ、あなたがこういうものを好むとは思ってもいなかったので」

「むかっ、あなた、私を何だと思っているの? これでも年頃の女の子よ」

「そうですわね。でも、あなたのことだからもうちょっと高価なものを買うかと思っていましたわ」

 

 高価なものを欲しがるって、それ、誰? 少なくともそんなのは私ではない。

 

「なんだかあなたって可愛いですわね」

「……わざとやっているの?」

「何がですの?」

「なんでもないわ」

 

 もういい。どっちだろうとどうでもいい。今は買うことに集中しよう。

 

「セシリアはどう?」

「わたくしも買いますわ。これでお揃いですわね」

「ええ、デートの記念には最高と思うわ」

 

 初めてのデートで記念の証を買う。しかもお揃いのものを。

 それを考えるとうれしさしか湧かない。

 

「う~ん、ちょっと足りないかな」

 

 自分とセシリアのぬいぐるみを見てふとそう思った。

 

「足りないって何がですの?」

「このぬいぐるみって私たちの記念の品になるのよね?」

「ええ、そうですわね」

「だけど、私とセシリアのを見ると全くの同じもの」

「? 当たり前ですわ。同じものを買うんですもの」

「そう、そうよ。だから足りないのよ。だから何か付けたい」

「……すみませんけど、わたくしには分かりませんわ。どういうことですの?」

 

 むむ、セシリアは分からなかったか。

 私はまだ買っていないクマのぬいぐるみを抱きしめながら、セシリアに私の考えを教える。

 あれ? ぬいぐるみを抱きしめるのって結構いいかも。よくアニメとかでやっているけど、今の私ならよく分かる。ただ可愛いヒロインを見せるだけではない。

 今度簪の前でやってみよっかな。そしたら何か面白い反応をしてくれるかもしれない。

 

「今のままだと二つのクマは初デートの証になるわ。なる、なるけどほらこのたくさんの同じぬいぐるみを見なさい」

 

 棚にはまだたくさんのクマたちがいる。数は三十はある。

 だが、日が変わるたびにクマたちは補充される。同じものが何十体も補充される。

 私たちはそのうちの一つを手に取っているのだ。価値はどれも平等のものをだ。

 それは商品としては当たり前のことだ。一個一個が違うわけではなく大量生産された同じだからこそ、多くの人々が求めるものが売れていって商売となる。

 だが、同じものではなく特別なものは? 価値は高く需要が低いもので商売としてはあまり褒められたものではないだろう。

 まあ、ここまでグダグダして何が言いたいのかだが、私たちが手にしているのは大量生産された持っている人は持っているもので、特別じゃないということだ。

 

「この通り、同じものばかり。私たちの初デートの証にするにはふさわしくないと思うの。あなたはそう感じない?」

「!! そうですわね。言われてみればわたくしたちの初デートなのですのに、そんなものはふさわしくありませんわね」

 

 どうやらセシリアにも分かってもらえたようだ。

 

「でも、どうしますの? オーダーメイドでもしますの?」

「いえ、さすがにそうなると時間がかかるじゃない。初デートの今日買って受け取ってこそ初デートの証になるのよ。いくら今日それを頼んだとしても私はみとめたくはない」

「ですわね」

「だから、ここで何かアクセサリーを買ってクマに飾りつけするのよ。どう?」

「素晴らしいですわ! そうしましょう!」

「でも、自分で飾りつけたクマをもらう、というのは変な感じがするのよ。だからそれぞれで飾り付けて交換しない?」

 

 そうすることでさらに特別にすることができるし、思い出にもなる。

 それにセシリアからの贈り物だと考えるとさらに興奮する。

 

「いいですわね」

 

 そういうことで私たちはこのクマに似合う装飾品を探す。

 幸いにもクマが大きいせいか、幼児用のものがちょうどよかった。とはいえ、服は無理かな。幼児用でもちょっと違和感が……。

 そういうわけで私がセシリアにあげるクマは紳士にするため、幼児用の蝶ネクタイを一つ手に取った。

 ふむ、なんだか蝶ネクタイだけというのはよくある。こういう王道的なクマもいいけど、もうちょっと手を加えたい。ということで紳士クマには黒の帽子も。

 ふむ、中々の紳士だ。すばらしい。これならセシリアにも気に入ってもらえるはずだ。

 にしても特別にすると言ったわりには結局この程度にしかできなかった。

 私の予定ではもっとすごいものにするつもりだったのだが。やはり所詮は理想というわけか。

 

「でも、シンプルだけど可愛いからね。うん、これでいい」

 

 私は言葉に出して納得した。

 しばらく待っているとクマ以外に色々と持ったセシリアが来る。

 

「詩織のほうも終わったようですわね!」

「ええ、終わったわ。互いのを今言う?」

「そうですわね」

 

 まだクマや装飾品は買ってはいないので、クマを飾ることはできない。だから単に見せるだけとなる。

 セシリアが見せてくれたのはどこにあったのかと聞きたくなる、クマのサイズにあったドレスだった。

 いや、本当にどこにあったの? 絶対にクマ用だよね?

 セシリアが持ってきたのはドレスだけではない。安物だが、ネックレスがあった。

 なるほど。お嬢様できたか。私の紳士とちょうどいいかも。

 

「へえ、詩織のは結構シンプルですのね」

「気に入らなかった?」

 

 若干不安になる。

 

「いえ、気に入りましたわ。逆にわたくしのはどうですの?」

「もちろん気に入ったわ」

 

 クマがセシリアが持ってきたものを着けている姿を想像したとき、そのクマは確かに可愛らしかった。私の好みであることには間違いない。

 

「にしても私の紳士のクマとセシリアのお嬢様のクマって結構いいわよね。まさかかぶることなくこうなるなんて」

「そうですわね」

「ねえ、私たちって相性がいいのかもね」

「!?」

 

 私の言った言葉にセシリアはびくりとする。

 それは私の言った意味を正確に理解しているからか。

 私の言った『相性』はもちろん恋人とかそういう意味だ。それの相性がいい。

 

「そう、ですわね」

 

 分かっていないフリをしたのか、分からないが、そう言って肯定してくれた。

 でも、なんで顔が赤いのだろうか? クマたちを買って外に出る間でも分からなかった。


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