精神もTSしました   作:謎の旅人

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第59話 私たちが乗るもの

「何名でございましょうか?」

 

 私たちが入ると同時に店員が営業スマイルで尋ねてくる。

 

「二名よ」

 

 私は二本の指を立て、答えた。

 店員からこちらへどうぞと案内された。案内された場所は窓際だった。私はセシリアの対面に座った。

 私たちは座ると置いてあったメニューを取って、早速どれがいいのか探す。

 あっ、そういえば昨日お姉ちゃんと食べた店ってここと同じ店だ。

 私は今更気づいた。

 まあ、ということは全てではないが、この店のメニューの結構な数を制覇したことになる。

 まあ、

 

「ねえ、セシリアはどれにする? 私としては互いに別々のを選んで半分にして交換するのもいいかなと思うのだけど」

「それはいいですわね! なら私はこれにしますわ」

 

 セシリアがメニューの一つを指差した。

 それは溶けたチーズがハンバーグにのったものだった。

 ふむ、これはこれは美味しそうだ。いや、美味しかった。

 

「なら私はこれかしら」

 

 私が指したのはチーズの代わりにタレがかかったハンバーグだった。私が選んだのとセシリアが選んだのとの違いはチーズがタレになった程度だ。ハンバーグ本体のほうは同じだ。

 ……なんか交換する意味ないような気がする。

 

「へえ、それもいいですわね!」

 

 セシリアは気づかないようだった。

 ま、まあ、チーズとタレじゃ結構違うし、変えなくてもいいよね。

 私たちは他にサラダなどを選ぶと呼び出しようのチャイムを鳴らした。

 店員が来ると私が代表して言う。言い終わると店員は注文内容を繰り返し、私たちに確認した。

 

「問題ないわ」

 

 そう言うと店員は一礼して去った。

 

「さて、料理が来るまで時間があるのだけど、今のうちにどれに乗るか決めない?」

「それもそうですわね」

 

 セシリアは持っていたマップをテーブルに広げた。

 

「なら最初に乗るものはここから近いほうがいいですわね」

「それに賛成するわ」

 

 この遊園地にはたくさんのアトラクションがある。一日では回ることができない。時間が足りないのだ。

 そして私たちはたくさん遊びたいと思っている。

 けれど午前中からではなく午後からなのでどうしても回ることができるアトラクションの数は少なくなる。移動時間を考えるとさらに少なくなるだろう。

 なのでここから近いアトラクションから乗ることで無駄な移動時間を短縮する。

 

「じゃあ、ここにしません? ここからだと一番近いですわ」

「そうね。このアトラクションは確かそんなに激しいものじゃないから食後にはちょうどいいわね」

 

 さすがに食べた後にぐるぐる回るアトラクションなんて乗ったら私は、まあ、大丈夫だがセシリアは無理だろう。ちょっときつすぎる。

 私たちは最初に乗るアトラクションを決めた後も次に何を乗るのかなど一応の予定を決める。もちろん途中で別のアトラクションに乗るだろうが。

 けど、まあ、こうして考えておくことで無駄な時間を消すことができる。無意味といいうわけにはならない。

 

「お待たせしました」

 

 そうやってしばらく話し合っていると店員が私たちの料理を持ってくる。店員は私たちそれぞれに自分たちが頼んだものを置いた。

 私たちはテーブルにあったフォークとステーキナイフを手に取る。

 

「それじゃ半分にしましょう」

「ええ。でも、混ざりません?」

「大丈夫よ。むしろ最高の組み合わせかもよ?」

「そうだとしても最初の一口は別々がいいですわね」

 

 そんなことを言いながら私たちは半分に切り分けた。そして、それを相手の熱々の鉄板の上に移す。

 

「「いただきます」」

 

 私たちは同時にそう言った。

 さてさて、まずはセシリアのではなくて、自分のから食べようかな♪

 私は一口サイズに切り分けて口へ運ぶ。もちろんタレをたっぷりと付けて。それが口に含まれると私は頬を緩ませた。

 やっぱりこれがいいんだよね! 学園の食堂ではなかった肉汁! 健康的ではなく、自分の食欲を満たすためにある味の濃さ! カロリーの高さ! うん、外食でしか味わうことのできないものだ。

 昨日食べたばかりなのだが、日頃を考えると何度もそう思ってしょうがない。

 セシリアを見るとセシリアもまた自分のハンバーグを美味しそうに頬張っていた。

 どうやら気に入ったみたいだ。

 

「ふふ、いつも食べているものよりも美味しく感じますわね!」

「いつも食べているものって?」

「分かりやすくいいますと貴族の料理ですわ」

「ああ、あのとても高いやつね」

 

 IS学園の食堂にはさまざまな国の生徒がいるということで、宗教的なものから貴族専用のものまでさまざまな料理を食べることができる。あそこの食堂のおばちゃんたちは実はすごかったりするのだ。バカにするやつは私から制裁を与えたい。

 

「ええ、無駄に高い割には大した量はありませんから」

「嫌なの?」

「正直に言ってしまうと嫌ですわね。こっちのほうが美味しいですしね」

「ならいつもそれを選べばいいのに」

「言いませんでした? 貴族としてそれ以外は食べませんわ」

 

 そういえばそうだったね。つまりプライドが許さないと。

 

「でも、私の目の前で食べているのはいいのかしら?」

 

 そう言うとセシリアはぶすっと怒り顔になった。

 

「わたくしは詩織の恋人ですわよ。あなたは一応そういう他人ではありませんわ。だからこうしていますのよ。ちょっとは察してくださいな」

 

 もう! だから私のこと好きかどうかはっきりさせてから言ってよ!

 私は顔を熱くしながら聞いていた。

 

「って、何を照れているんですの!?」

「な、なんでもないわ! それよりも食べないと冷たくなっちゃうわよ」

「なんだか誤魔化された気がしますけど、そうですわね」

 

 再び私たちは食べ始めた。

 ちょっと雑談をしてしばらくすると私は食べ終わった。セシリアはまだ食事中だ。

 

「……ちょっと早すぎません?」

「そう?」

 

 私は普通なのだが。

 

「わたくし、まだ半分しか食べてないんですけど」

 

 目の前には半分以下となった料理を食べるセシリア。

 身内からも簪からも言われたけど、やっぱり私は早いのか。でも私は普通に食べているつもりなんだけどな。

 私はさっき買ってもらったジュースを飲む。

 

「ん、まあ、私はゆっくりと待つから。あなたのペースでいいわよ」

「……わたくしもそこそこ食べるのは早いんですけどね」

「セシリア、言っておくけど食事は早さじゃないのよ? 味わうものなの」

「……その台詞、あんただけには言われたくはないですわ」

 

 私は普通に食べているだけだが、周りがそうじゃないと言っているで何も言えない。

 むう、本当に普通に食べているだけなのに。

 私はセシリアをじっくりと眺めて時間を過ごす。

 やっぱりセシリアがお嬢様のせいか、食べ方が優雅だ。私の生徒会長モードも中々だと思うが、やっぱり本家に比べると劣るかな。

 まあ、私がそういう金持ちのパーティーに出るのは滅多にないし、周りも私を見るってわけでもないから劣っていても問題ない。それに『ちょっと』劣っているだけだし。

 セシリアは食べ終わるとテーブルの上にあったナプキンで口元を拭く。

 

「いい味でしたわ。ここを選んでよかったですわ」

「こっちも喜んでもらえてよかったわ」

 

 そうやって言われるとこうしてデートしてよかったと思う。やっぱり反応だけではなく、言葉を使ったほうがいいよね。

 私はそれを実感し、恋人たちにやっていたことをもっとやってあげようと思った。

 あとで人気のない場所で好きって言おう。今日は言ってないからちょうどいい。ついでに頬にキスするのもいいかも。最近はやってなかったし、新幹線でちょっと過激なことしたからいつもよりも過激な(頬に)キスをしてもいいだろう。

 い、いいよね? 口と口じゃないし、たまにやっていることだし、今は抵抗だってしないし、それにそもそも私たち恋人だもん。ちょっと激しくしても問題ないはずだ。

 

「あっ、詩織」

「ん? なに?」

「今回は奢りはなしですわよ。わたくしが払いますわ」

「う~ん、さすがにこれを奢られるのは……。学生にはちょっと大きすぎる金額だと思うのだけど」

「新幹線とこの遊園地二人分の料金を払ったあなたが言います? それとお金のことだったら何の問題もありませんわ。わたくしも貴族ですし、お金には余裕がありますわ」

「でもね」

「ほら、とにかくわたくしが払いますわ」

「それは今度でも……」

「わたくし言いませんでした? 遊園地ではおごらせてくださいって言ったこと」

「うぐっ」

 

 そう言われると本当に何も言えない。

 

「分かった」

 

 セシリアは満足したように微笑んで一緒に席を立った。

 出入り口で勘定を済まし、外へ出る。

 

「えっと、こちらですわね」

 

 マップを見ながらセシリアが歩き出す。

 私はセシリアの隣を歩き、周りの人たちにぶつからないよう注意した。

 うん、セシリアにはこのまま案内をやってもらおう。

 私が方向音痴というわけではないが、こうしてセシリアが頑張っているのを見るのも結構いい。

 セシリアがマップを見ながら歩いていると前から僅かにセシリアの進路と重なるように歩く集団が歩いてきていた。

 私はすぐさま軽くセシリアをこちらに寄せ、衝突を回避した。

 

「っと、ありがとうございますわ」

 

 即座に理解したセシリアが礼を言う。

 

「礼なんていらないわ。あなたには案内してもらっているだもの」

 

 私はセシリアに微笑む。

 

「にしても、やっぱり多いですわね」

 

 セシリアはなぜか顔を逸らして言う。

 

「そうね。やっぱり今日は日曜日だからね。どうしても家族連れとかで多くなるのよ。もちろん私たちみたいにデートする人たちも」

「なっ!」

 

 顔を逸らしていた顔が真っ赤になった。

 何度目だろうか。その反応は私のことが好きで照れているの?

 

「い、行きますわよ!」

 

 そう言って私の手を繋いだ。

 

「!?」

 

 次は私が顔を真っ赤にする番だった。

 

「せ、セシリア?」

 

 さすがの私もこんなうれしすぎる不意打ちには動揺してしまう。

 やっぱり攻めではなく受けだからだろうか? 攻めは自分の好きなタイミングでできるもん。受けは私のタイミングなんて関係なくされるから。

 私の動揺を見たセシリアは微笑む。

 

「ふふ、どうしましたの?」

「な、なんでもないわ」

 

 絶対に確信犯だ。

 私は幼い子どものように前を歩くセシリアの後に続いた。

 なんだろうか。私の手を繋ぎ、前を歩くセシリアが上機嫌のような気がする。

 ……今思ったのだけど、私のこと好きなのでは? それは恋人としてではなく、自分の妹的な存在として。

 だって新幹線のことだってあるし、今のこともある。

 セシリアは渋々私の恋人になったが、本当のところは嫌だったに違いない。それでもこの関係を続けていられたのは私のことを恋人として見るのではなく、妹として見ることでその不満を払拭したのではないだろうか。

 妹相手ならば新幹線のときのような行為は、まあ、理解はできるし、このデートだって家族の一人とのお出かけとして見れば楽しむことができる。

 これらは仮説だが、ありえないことではない。

 今日の遊園地の最後にあるアトラクションに乗ろうと思っているから、そのときに聞こう。それではっきりさせる。

 

「ここですわね!」

 

 ようやく着いた場所はある建物。だが、その建物にあるアトラクションは建物にある何かを歩きながら楽しむものではない。あるのはそこまで激しくはないが、音と光で楽しむジェットコースターがあるのだ。もちろんいくつか種類がある。

 

「ここの中に本当にジェットコースターがあるんですの?」

「あるわよ。まあ、ここからでもよく見えるでっかいジェットコースターよりもとても小さいけどね」

 

 そのここからでも見えるジェットコースターは本当にでかい。長さだけで言うならば世界の上位に入るくらいだ。ただ、絶叫系としては日本の上位には入らない。

 

「乗る予定のないものですわね」

「ええ、さすがに反対側だし、時間が足りないからね。多分今度来るときになるでしょう」

 

 私たちは建物の中へと入った。

 中はやはり外と同じく人でいっぱいだ。だがこの遊園地が広く、アトラクションが多いおかげでぎゅうぎゅうというわけでもなかった。

 

「どれにする?」

 

 いくつかあるジェットコースターを示す。

 

「本当に色々ありますわね」

「いろんなテーマがあるのよ。ファンタジー系とか宇宙系とか」

「ジェットコースターでファンタジー? ちょっと想像できませんわね」

「私も最初は想像できなかったわ。でも、実際に体験したら分かるわ。ああ、なるほどねって。まあ、結局は入ってからのお楽しみよ」

 

 私はよく分かっていないセシリアの代わりにさっと決めて、その道へ向かった。

 やはり大きなアトラクションではないが、人はたくさんだ。

 やっぱり子連れのほうが多いかな。

 ここは他のジェットコースターと比べて絶叫レベルが低いので、ジェットコースター初心者にはおすすめだったりする。ただ光と音のある楽しむ系なので、中は暗闇ではあるが。


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