精神もTSしました   作:謎の旅人

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第54話 私のルームメイトの真剣な話

 風呂から出ると私と簪は湿った髪を乾かすためにベッドに腰掛けた。

 簪は私の髪を乾かすために私の後ろに回って、私の髪にドライヤーをかけている。

 

「詩織、気持ちよかった、ね?」

「う、うん……」

 

 もちろん『風呂が』というわけではない。簪にしてもらったことがだ。

 恥ずかしかったが、結果としては体を鎮めることができた。

 

「知って……た? 声、結構出てたよ」

「っ!?」

「自覚、してた?」

「し、してなかった」

 

 私は恥ずかしさで俯く。

 部屋が防音で本当によかった! やったのは風呂場だったけど、風呂の入り口は薄い。部屋に響くのは確実だ。だからもし部屋の薄い壁だったらもうIS学園内を堂々と歩くことなんてできない! 自主退学するレベルだ。

 

「詩織の声、よかったよ。思わず……やりすぎる、くらい」

「本当にやりすぎだったよ!」

「でも、詩織は……気持ちいよさそうだった……けど?」

「うぐっ」

 

 簪の言葉は本当だったので何も否定できない。

 今は冷静だけど、本当にされているときは声を抑えようなんて考えられなかった。いや、たとえ考えてもどうでもいいと思ってしまうに違いない。

 やっぱりその最中ではエッチなことを優先しちゃうってことか。

 

「あっ、そういえば簪はなんで寝てたの?」

 

 これ以上話を続けられると今回ばかりは私だけの恥ずかしい話しか出てこない。そして、ただ私が顔を真っ赤にするだけだ。

 それに本当になんで寝ていたのかという疑問は持っているので、この話題を逸らすためにもちょうどいい。

 

「……あまり眠れなかった、から」

「眠れなかったの? その割には私が行く前に起きていたみたいだけど」

「寝たのが……その三十分前、だったから」

「えっ!? じゃあ、それまでずっと起きてたの!?」

 

 昨日は今日が告白する日だということで、確かにちょっと早めに寝たが、私は簪が寝ていたことを夜中に確認している。ぐっすりと寝ていたはずだ。

 じゃあ、あれは寝たフリだったってこと?

 

「違う。寝てたけど……ただ、何度も……起きただけ」

 

 じゃあ、寝たフリじゃないのか。

 そこで私の頭の中にもう一つの可能性が過ぎった。

 私は簪が体調が悪いのかと思い、簪のほうへ振り返って額に手を当てる。

 熱は……ないみたいだね。顔色も悪くない。簡単に見たところじゃ、健康体にしか見えない。ということは内臓とかなの?

 さすがの私も見えない部分は無理だ。大事になる前に病院に行った方がいい。

 

「……詩織、これは……どういう意味?」

「どういう意味はこっちの台詞だよ!! なんでそんな大切なことを早く言わなかったの!? 何度も起きるってそれは病気かもしれないんだよ! いくら私に心配させたくないからだとしても、それで簪が倒れたらただ悲しいだけだよ!!」

 

 心配をかけたくはないという気持ちはよく分かる。私も同じような行動を取るだろう。

 だが、されたこちら側としては逆になんでそんなことを、と思ってしまう。

 同じような行動をするがされるとなんでとなる矛盾だが、これも仕方ない行動だ。人というのはそういうものだ。

 

「待って、詩織。詩織は……また勘違いして、る」

「勘違いって?」

「私が、眠れなかった……原因は分かって、る。そして、それが……病気じゃ……ないって」

「う、嘘!」

「嘘じゃ……ない。というか、嘘をつく理由が……ない」

 

 うん、ないね。つまり勘違い……か。

 

「……あの、その、怒鳴ってごめん」

 

 なんか勘違いだって分かると本当に恥ずかしい。

 

「べ、別にいい。その、うれし……かったから」

 

 簪は顔を赤めて言った。

 私も羞恥とは別の意味で赤くなった。

 

「ごほん、じゃあ、簪はなんで眠れなかったの? 深刻な悩みとか?」

 

 病気ではなく、それでいて自分でも原因が分かるものと言えば悩みだ。悩み程度とかと思う人がいるかもしれないが、悩みは内容によっては深刻なものだ。

 もしかしたらそれで自殺を考えるかもしれなことさえあるのだ。

 簪が自殺なんて考えたくないし、現実にしたくない。

 

「簪、深刻になる前にその悩みを言って。私、簪が死んじゃったら……ぐすっ」

 

 簪が悩んでいるのに気づけずにこの部屋で自殺をしていたのを想像するとどうしても涙が出てきてしまう。

 もし現実になったらただ泣くだけで済まないだろう。

 

「待って、詩織。また勘違い……してる」

「ぐすっ、勘違い?」

「そう。別に私は……悩んで、ない。ただ詩織が……他の女――じゃなくて、篠ノ之博士に告白しに……行くってなったから……それで眠れなかった、だけ」

「本当の本当に? 心配かけまいと嘘言ってない?」

「言ってない。詩織はちょっと……人の話を最後まで聞くべき」

「ううっ、ごめん」

 

 また勘違いしてしまった。

 簪の言うとおり勝手に先読みしないようにしないと。

 

「それで……告白の結果は……どうなった、の?」

「あ、うん、その保留になった」

「……そう」

 

 その答えに簪は残念そうな顔をした。

 普通に考えるならば私が答えをもらえなかったからと思うのだが、私は知っている、簪が反ハーレム派になったということを。

 だから、この顔の意味は答えを貰えなかったことに対するものか、私が振られずにまだチャンスがあることに対するかという二つがあるのだ。本当は前者であって欲しいが、簪は後者だろう。

 ハーレムを作る私としてはハーレムの一員に、喜んでもらうというのは変な感じだが、もう少しいい反応をしてほしい。

 

「あっ」

「どうしたの?」

 

 いきなり声を上げた私に簪が尋ねる。

 

「あの、実はもう一つ大切なことがあった」

 

 それはお姉ちゃんとのことだ。お姉ちゃんが恋人になったので、同じ恋人には言わなければならない。

 お姉ちゃんの確認を取らずに言ってしまっていいのかと思ってしまうが、一応このハーレムの主は私だ。このぐらいは自分で決める。それに簪はお姉ちゃんと恋人関係だって周りに言いふらしたりはしないと信用している。

 

「大切なこと? なに?」

「実はね、恋人が増えたの」

 

 告白するときと同じではないが、ある程度はやはり緊張する。

 

「……待って。答えは……まだ、じゃなかったの? どういう、こと?」

「うん、束さんからの答えはまだだよ。恋人になったのは別の人」

 

 すると簪の目が鋭くなり、見ているこっちが恐怖してしまいそうになる。

 

「……誰?」

「お、織斑先生」

 

 ここで『千冬さん』とか『お姉ちゃん』と言ってしまうと日に油を注ぎかねないと思い、あえてそう呼んだ。

 さすがの私もあの目よりも強い目で見られるのは無理だ。怖すぎる。

 

「どういうこと? なんで……織斑先生が……出てくるの? なんで告白した相手とは……別の人と、恋人になって……来るの?」

「い、色々あってこうなった」

「ふーん。聞くけど、詩織も……織斑先生も互いに……本当に好き、なの? 詩織のは憧れ……じゃないの?」

 

 簪は私のお姉ちゃんへの心を本物かどうかを確かめてくる。

 

「最初は憧れだったよ。でも、最後にはやっぱり好きになってた。この気持ちに間違いはないよ」

 

 言い終わると簪がしばらくじっと私の目を見た。

 

「……そう。詩織が本気なら……もう何も言わない。ただ、何度も言う……けど、ちゃんと私のことも……愛して」

「分かってるよ。ちゃんと愛する」

 

 それを証明するようにぎゅっと抱きしめ、離れた。

 

「思ったんだけど織斑先生はいいの?」

「どういうこと?」

「ほら、セシリアのときはさ、なんか認めないって言ってったじゃん。だからいいのかなって」

 

 セシリアのときは簪は敵意むき出しにして、邪魔者だとか話しかけるなとか言っていた。だから、私はてっきり私の恋人になったお姉ちゃんにも、ここには本人がいないので、何かしら色々と言うと思っていた。

 だが、簪は私が本気だと答えるだけで何も言わずに認めてくれた。

 そこが不思議だった。

 

「はあ……」

 

 すると簪からはため息をつかれた。

 えっ? なんで?

 

「詩織はちゃんと……話の内容を……覚えるべき」

「あ、あれ? なんか間違ってた?」

「間違ってる。あの話は……オルコットが詩織のことを……好きでもないのに……恋人であることが不満だった。そして……何よりもそんなオルコットが……詩織とのデートを先に……奪ったことが不満だった」

 

 確かにそうだったかも。

 私はセシリアとデートできるってことで一杯だったからな。結構大事な話だったのに忘れてしまうとは。

 

「けど、織斑先生は詩織のこと……好きなんでしょ?」

「うん、織斑先生方から告白された」

「だから認める」

「じゃあ、セシリアが私のこと好きになったら認めてくれるの?」

 

 同じ恋人同士だから互いに好きになれとは言わない。

 でも、せめて嫌い合う関係は避けてもらいたいのだ。じゃないとこれからしばらくは簪とセシリアと行動するので、居心地の悪い中二人と接しなければならなくなる。それは正直嫌なのだ。

 全て私のわがままだ。

 まあ、このわがままを止めることなんてしないけど。

 随分と間が空いてようやく簪が口を開いた。

 

「…………認める」

 

 その顔はまるで深刻なことを告白したかのようだった。

 なんかそんな深刻な顔をされると私が無理やり言わせたみたいじゃん。

 

「でも、オルコットが詩織を好きになる……ことはない」

「なんで?」

「オルコットは約束で詩織の恋人に……なっている。つまり、オルコットの心は……早く……詩織から離れ、たいって……思ってる。そんな人が詩織を……好きになるわけが……ない」

 

 確かに簪の言うとおりだ。

 私はセシリアを約束という名の強制力で恋人にした。

 さて、もし好きでない人の恋人に無理やりさせられて、その人を好きになることはあるだろうか。しかも同性だ。

 とてもじゃないが好きになることは難しい。

 

「……」

 

 私の無言を自分の言葉を理解したのだと察した簪は言葉を続ける。

 

「詩織はもう分かっているはず。望んでいない相手を……好きになるのは、無理だって。だから私は詩織に……言う。詩織の幸せのために。詩織、オルコットと……別れて」

 

 簪が鋭い真剣の目を向けた。

 簪から態度や雰囲気ではなく、明確に別れろと言われたのは初めてだった。

 これはただハーレムが嫌だからというわけではなさそうだ。本当に私の幸せを願っての言葉だった。

 その簪の言葉に私はうれしくなった。だって私の愛する人が私のことを思っているって分かるんだもん。

 簪、うれしい。本当にうれしいよ。やっぱり簪は本当に私のこと好きなんだね。

 でも、ごめんね。私は、私は、

 

「私はセシリアと別れない」

「っ!? 詩織? 私の言っていることが……分からなかったの? オルコットは……詩織を愛さ、ない。そんな人と一緒で……いいの? 詩織を愛さない……人が恋人で……いいの? 私や織斑先生なら……詩織をちゃんと……愛することが、できる。セシリアの分まで……愛する。それでも無理なら……詩織を愛してくれ、る……子を見つければいい」

「ごめんね、それでも無理だよ。セシリアが嫌だって言うなら考えるけど、言われてないからね。それに私とセシリアはまだ会ったばかり。今は私のこと嫌いみたいだけど、これから長く付き合って行けば私のこと好きになる可能性だってあるよ」

 

 簪と同じようにセシリアがすぐに好きになるとは少しも思っていない。なってくれたらなとは思うが。

 とにかくそのための努力はする。セシリアといつものように話したり、適度なスキンシップをしたりして。

 そうすれば私という人物を知ってもらうことと無理やりだったが恋人という関係がセシリアの心を動かすはずだ。もちろん動かす前にちゃんと言葉で嫌いだと言われたらその関係は終わりにする。

 まあ、よく考えたらセシリアが嫌だって言っちゃうと約束を反故したことになっちゃうから、言わないのかもしれないけど。ちょっと失敗かな。

 ともかくセシリアが本当に嫌だって行動で示し始めたら、自分から話題を切り出して確かめようか。私だって鬼じゃないもん。

 

「……そう。私は……言ったから」

 

 私たちのこの会話は終わった。後は簪が作っているISの話などをして互いの髪を乾かすのを再開した。

 互いの髪が乾いた後、私たちは夕食を食べるために食堂へ行った。時間は九時と遅い時間だが、IS学園の食堂は朝六時から夜の十二時まで開いている。もちろん職員は交代している。

 そこでいつも通りに食べた。残念だがセシリアとお姉ちゃんはいなかったが。

 部屋に戻った後は二人で黙々と作業をして過ごした。

 この調子だと二週間ほどで完成するだろう。完璧というわけではないが。

 ともかく形はできる。できてしまえばあとは微調整だけとなる。ただ微調整にも結構時間がかかるし、いきなり実践というわけにはいかない。何度か実践をしてからだ。それでようやく完璧と言える。

 簪と私の共同で作られたISで簪が飛んでくれたら……ふふっ。

 そんな簪を思い浮かべると思わず笑みがこぼれる。

 私はそんなことを考えていつも作業している。

 そうして今日は終わった。

 明日はついにセシリアとのデートだ。ちゃんとプランもしっかりと立てた。あとは本番のみだ。

 私はベッドの上で簪を抱きしめながら明日を楽しみにしながら眠りについた。


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