精神もTSしました   作:謎の旅人

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第51話 私の姉からの不意打ち

 車に戻った私たちは雑談をしながらIS学園へ向かった。

 その間の雑談は私の簪とセシリアの話だ。

 お姉ちゃんがいるというのに他の女性の話というのはおかしなものだが、そもそもこの話はお姉ちゃんから振られたものだ。私が恋人たちを自慢したくて始めたのではない。

 正直に言うと私はお姉ちゃんを警戒している。

 それはお姉ちゃんが二人を狙っているのではと思ったからだ。

 別にお姉ちゃんも私と同じく同性愛者だと思っているわけではない。狙うというのにもさまざまな意味だってあるから。

 とにかく例えどんな意味だとしてもお姉ちゃんが私の恋人を奪うと言うのならば、許すことはできない。

 でも、まだそうとは決まっていないのでただ警戒するだけだ。

 

「そういえば一夏って好きな人いないんですか?」

 

 ある程度しゃべったところで話題を変えた。

 

「むう。なんだ? 詩織は異性には興味がなかったんじゃないのか?」

「ありませんよ」

 

 あるわけがない。私が大好きなのは異性じゃなくて同性だもん。

 なのに一夏の話題をしたのにはもちろんのこと理由がある。

 

「束さんの妹である箒のこと知っていますよね?」

「知っている。私も昔は束の家へ行ったことがあるからな。それなりに話したこともある。それが?」

「箒は一夏のこと好きなんです」

 

 私は箒の恋を応援しようと決めた。だから私は箒の幸せを願って絶対に一夏と恋人になってほしいと思う。

 でも、一夏にもし好きな人がいたら? その中で箒がアプローチしても効果は低い。だからまずは情報を集めなければならない。本来ならば最初にするべきことだったが、IS学園には一夏を知る人はいないし、直接私のような美少女が聞くとまさか自分に気でも、と思ってしまうと思ってやらなかった。やることができなかった。

 でも、ここには一夏の姉がいる。勝手に箒が一夏のことを好きだとお姉ちゃんにばらすのは、と思ったが、優先すべきは情報であると思った。

 

「……ほう」

「私は箒の友人として箒の恋を応援すると決めたんです。でも、一夏に好きな人がいたらちょっと……」

「なるほど。そういうわけか。いいだろう。教えよう。だが、その前に一つ。お前は箒には手を出さなかったのか? 私が見るにあいつも中々良いと思うのだが。好みじゃなかったのか?」

「いえ、好みでしたよ。でも、一夏のことが好きだって言われたらあきらめるしかありません」

「意外だな。てっきりどうにかして一夏への好意を自分へ向けるかと思ったんだがな」

「いくら私でも好きな人がいる子に無理やりなんてしませんよ。他は無理やりですけどね」

 

 その無理やりがセシリアである。

 

「だったら束がもしお前を振ったときもか?」

「……束さんにはやらないと思います。いくら振られたとしても初恋の人です。初恋の人だからせめて見苦しいことは見せたくないから。でも、多分他の人から振られてもあきらめると思います。もちろん何度かアタックしてですけどね」

「セシリアと同じようにしないのか?」

「セシリアは違いますよ。セシリアは無理やりですけど、セシリアの口から恋人について嫌とか言われてないので振られてはいません。だから違います」

「なるほど」

「それで一夏は?」

 

 話が逸れたので戻す。

 

「そうだな。あまり家に帰らないが私が見る限りではあいつに想い人いないな」

「……どういう判断で?」

 

 申し訳ないがあまり家に帰らないのにいないと言われても説得力がない。正直に言うと役に立たない。

 

「私はあいつの姉だ。確かにあいつといる時間は少なくなった。だが、おそらくこの世であいつを理解している人間はいないな。だから分かる。あいつには想い人はいないと」

 

 私が聞かされたのは、自分はブラコン、ということだけだった。

 だけど、まあ、ある意味確実ではある。だって家族という長年ずっと一緒にいた関係なのだ。人の変化が一番よく分かっているのは長年一緒にいた者のみだ。

 なのでこのブラコン発言を信用するしかできない。

 

「これでよかったか?」

「え、えっと、はい。よく分かりました」

 

 一応一夏に想い人がいないと分かったので良しとする。

 ただやはり長年の付き合いの様子からという確実性の低い情報だ。人を想うというのは別に表情に表れるものではない。ただ単に好きな人がいるのか程度ならばいつも通りにいないと答えることはできる。

 一応箒自身に聞いてもらおうか。男というのは異性からそう聞かれると勘違いするから、そういう意味でもプラスになるし。

 

「聞くことはそれだけでいいか?」

「はい。これだけで十分です」

「ならば私からもいいか?」

「いいですよ。なんですか?」

「詩織はハーレムを作ると言っていたが、人数は決めているのか? いくらなんでも三十人も作るわけではないだろう?」

「それはもちろんです。さすがにそんなに多くは作りません」

 

 私の体は一つだ。十人ほどならまだしもその三倍はさすがに無理だ。そこまでするとどうしてもその全員に愛を示すことが難しくなる。恋人にしたからにはちゃんと愛したい。だから、最高でも十人ほどが限度だ。

 

「十人くらいですね。それが私の限界です」

「今は二人だからあと八人か」

「束さんが入ってくれたらあと七人ですけど」

「そうだな。だが、七人か。もう決めているのか?」

「いえ、まだです。一年生は見たんですけど、これ以上はいないみたいなので次は二年生か三年生ですね」

「一年生にも可愛い子がまだいると思うのだが、これ以上はいないのか?」

「これ以上はいませんよ。言っておきますけど私が選ぶのは可愛いとかそういうのだけじゃないですよ」

「そうなのか」

 

 まあ、基準というのは大して決まっていない。

 簪もセシリアもただ、いいなと思って決めただけだ。ふと見て、ああ、この子なら一緒にやっていけると思って選んだだけだ。

 でも、適当のようで適当というわけではない。見た瞬間に感じる、感覚的なものに従っているのだ。もしかしたら運命的なものかもしれない。

 

「そういえばIS学園と絞っているが、他の場所では見つからなかったのか?」

「見つかりませんでした」

 

 本当に不思議なことにそういう子はいなかった。そう考えると運命的というのは間違いではないのかもしれない。

 

「この学園に来て初めてです。もちろん束さんやお姉ちゃんは除きますけど」

 

 この二人は別だ。特別だ。

 

「不思議なものだな」

「運命ですね」

 

 本当にいろんな意味で運命だ。

 私という存在は前世がなければここにはいなかったのだ。私はイレギュラーだ。本来はいるべきではない存在。前世は幸福そのものであり、今のように転生する要素などなかった。

 それなのにどういうわけか転生して、こうして色んな人に会った。

 これこそ本当の運命だろう。どんな人間が運命と言おうが、私の言う運命と比べれば劣ってしまう。

 本来いなかったはずの者と本来から存在していた者が本気で愛する者と出会った場合を比べればすぐに分かる。

 

「お姉ちゃんとこうして会えたことも運命です」

「そうか? 私はIS学園の教員だから生徒かIS学園が一般公開されるときに来れば会えると思うが」

「そういう意味ではありませんよ」

「どういう意味なんだ?」

「ふふ、教えません。たぶんこの世の誰もが分かんないことですから」

「ちょっと特別な関係でもか?」

「はい、それでも教えません。これはもちろん恋人でもです」

 

 もしかしたら二度目の人生があるなんて情報を知っているのは私だけでいい。私以外は知らなくていい。

 これは独占とかそういう問題ではない。この情報は生きる者にとっては余計な情報なのだ。

 もし人が、この人生を本気でやり直したい人がこれを聞けばどうするだろうか?

 その答えは簡単だ。

 確率が低いと言われてもちゃんとしたデータがないので、誰でも転生できるのではと思い込み、自ら命を絶つ人が増えるに決まっている。

 いくら私でも自分のもたらしたことで人が死んでしまうのはなんか嫌だ。もっとも嫌なのは身内にその情報によって死んでしまう人が出てしまうことだろう。

 まあ、そもそも信じてもらえるかどうかのレベルなんだけどね。

 

「この世と言われると気になるな」

「きっかけを作った私が言うのはおかしな話ですが、答えを求めようとしちゃダメですよ。あきらめてくださいね」

「むう、仕方ない」

 

 お姉ちゃんは私の言葉に従った。

 しばらくそれからは雑談を交わす。

 数時間はそうして過ごした。

 駅に着いたときはすでに日は傾き、夕焼けを作っていた。

 

「ん~」

 

 車から降りると私は背伸びをする。

 道中には休憩があったが、やはり結構な時間座っているのはさすがに疲れる。

 お姉ちゃんのほうも同じのようで、体を動かしていた。

 お姉ちゃんは車の鍵をかけた。そして、私と一緒に駅へ向かおうとする。

 

「詩織、手を」

 

 向かう前にお姉ちゃんが手を差し出してきた。

 いきなりのことで思わず困惑する。

 

「えっと……」

「何をしている。手を繋ぐんだ」

「えっ!? て、手を!?」

「い、嫌なのか?」

 

 お姉ちゃんが不安そうで泣きそうな顔で言ってくる。

 えっ、なにその顔。めっちゃ可愛い。

 いつものクールとは違う、乙女らしさのお姉ちゃんにそう思ってしまう。

 たぶん、いや、絶対に私のせいなんだろうな。

 お姉ちゃんはブラコンで私が加わったことによってシスコンでもある。やっぱりそんなお姉ちゃんだからこそ、日頃弟である一夏に不器用なため、格好つけようとして甘えられないので、妹ではあるが一夏に比べると他人の私でそれを発散しようとしているのだろう。

 ならば一夏にはできないことをお姉ちゃんにやってやろう。

 

「嫌じゃないです。ただちょっと戸惑っただけですから」

 

 私はその手を繋ぐのではなく、思い切って抱きついた。

 腕に抱きつくというのは手を繋ぐよりも密着度が高い。だから喜んでもらえると思ってやった。

 お姉ちゃんは一瞬戸惑ったが、頬を赤めすぐに笑みを浮かべた。

 どうやら満足してもらえたようだ。

 もちろん私も満足だ。お姉ちゃんのことは恋人になっていいと思っているくらい好きなのだ。こんなことができて満足じゃないわけがない。

 

「さあ、行きましょう」

「そ、そうだな」

 

 そのまま私たちは駅へと向かった。

 駅にはモノレールは来ていなくて、しばらく待った。もちろん私は腕に抱きついたままで。もちろん周りには誰もいない。いたら絶対に何か言われるに決まっているから、そのときは離れていた。

 しばらくただこの状態を待っているとモノレールが来た。

 乗っている人は幸いにもいないようで、このままの状態で乗り込んだ。

 今日が土曜日にも関わらず人がいないのは運がいいのか、それともみんながあまり外へ出かけないためか。どちらにせよ、おかげでお姉ちゃんとくっついたままでいられるのだ。感謝感謝だ。

 けど、この幸せな時間はいつも有限だ。これから何度もあるだろうが、いつ来るかわからないものだ。

 だから今を存分に楽しむ。

 私は動物の如く、自分のニオイを付けるかのようにして、お姉ちゃんに体を擦り付けた。

 この私を誰かが見たら、他人の体でおかしなことをする変態にしか見えないだろう。

 うん、それは分かっている。けど、お姉ちゃんに対する思いが独占欲を湧かせるのだ。もちろんお姉ちゃんは恋人ではないことは十分に分かっている。でも、私のお姉ちゃんに対する気持ちは恋人にしたいというのもあるのだ。独占欲が湧いても仕方ない。

 

「詩織? 何をしている? 体を上下に動かして」

「ふえっ!? な、なんでもないです!」

 

 気づかれた。

 いや、普通は気づくよね。

 

「いや、何でもなくはないだろう。そんな動きは普通はせんぞ? ん? ……詩織」

「な、なんですか?」

「まさかとは思うが、その、言いにくいが、遠まわしに言うと私の体を使って気持ちよくなろうとしているのか?」

 

 お姉ちゃんが顔を赤めて出した答えはそんなものだった。

 

「違います!! こんなところでしませんよ!!」

 

 あまりの発言に私も怒鳴ってしまった。

 全くもう!! 私はそんなはしたない女じゃないよ!! こんな公の場で自分を慰めるほど変態じゃない!! するにしたってちゃんと時と場所を選ぶよ!!

 そもそもだが、今の私はそんなに性欲はない。その、簪がちょっと激しいキスで発散してくれるからだ。こんなところでする必要はない。

 

「す、すまない。勘違いした」

「ひどい勘違いです!!」

「じゃあ、先ほどの動きは何なんだ? そもそもあんな動きをした詩織にも非があると思うのだが」

「うぐっ」

 

 痛いところを突かれた。それを言われると何も言えない。

 だって正直に自分のニオイを付けていただけなんて言える? 言えない。

 

「と、とにかく! そう言うのじゃないですから」

「そうか」

 

 これでこの話は終わった。私もまたニオイ付けのような行動は止めた。

 それでふとお姉ちゃんを見たのだが、いつもより顔が赤いようだった。

 はてはて、どうしたのか? 赤くなったのは先ほどの話題が終わってからなのだが、お姉ちゃんに顔を赤くするようなことはあっただろうか? 反対に私なら多々ある。今も若干赤いはずだ。

 ない、よね? そんなことはなかった。

 考えている間にお姉ちゃんがこっちを向いてきた。

 その顔はまだ赤いままであった。

 

「し、詩織」

 

 声が上擦っていた。

 声が上擦ったことでお姉ちゃんが顔をより赤くした。

 

「んっんん! 詩織」

 

 それをなかったことにするかのように咳をして、最初からにした。

 なんだろう。この感じからするにきっと大事なことを言おうとしているんだ。お姉ちゃんは緊張している? だとしたら顔が赤かったのもそれに?

 

「なんですか?」

 

 お姉ちゃんがなかったことにしたいようなので、私もまた同じように対応する。

 

「その、肩にゴミが付いているぞ」

「えっ!?」

 

 だが、なんか大事な話というのは肩に付いたゴミの話だったようだ。

 驚きのあまり声を上げてしまう。

 

「ど、どうした?」

 

 お姉ちゃんも驚いてしまう。

 

「な、なんでもないです」

 

 うん、そうだよね。別にお姉ちゃんは別に今から重要なことを言うなんて言っていないもんね。私がただ勝手に勘違いしただけだから。

 ひとまずはゴミを取るか。私としてもあとは帰るだけとはいえ、ゴミを付けっぱなしというのは嫌だ。

 

「どこですか?」

 

 探しても見当たらなかったので、お姉ちゃんに教えてもらう。

 

「私が取ろう」

「お願いします」

 

 ここはお姉ちゃんの好意に甘えよう。

 お姉ちゃんは私の両肩を掴み、お姉ちゃんのほうへ向かせた。

 しばらく見詰め合う。

 お姉ちゃんの顔が赤いので、まるで今からキスするようだ。そういう関係ではないからありえないのにそう思って――

 

「んむっ!?」

 

 思考の途中で私の口はお姉ちゃんの口で塞がれていた。

 それは決して事故ではないということを私の驚きで見開いた目に映る、お姉ちゃんが目を瞑っている姿が教えてくれた。

 これはお姉ちゃんの意思でやったものなんだと。


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