精神もTSしました   作:謎の旅人

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第38話 私の変態行動

 簪が汗を流している間、私はいちゃついていた後片付けをする。それが終わったあとは、することがなくなるので、ちょっとだけ簪のISの作業を進めたりする。

 そうしていると先ほどとは別の部屋着に着替えた簪が出てきた。

 

「早かったね」

「当たり前。風呂入るときは……詩織と。詩織は一緒は……嫌?」

「ううん、嫌じゃないよ。私も一緒に入りたいから」

 

 これは別に下心ではない。前は下心があって風呂に一緒に入っていたが、今は恋人になったということでそれも治まっている。これは本当にただ純粋に仲良くするために入るのだ。

 うん、これは本当だ。だって風呂で肌と肌の触れ合いをしなくても、恋人となった今はちょっと頼めばいつだってできるもん。まあ、だからといって何でも頼むというわけじゃないけどね。

 私はそう思ってふと笑う。

 

「? 何を……笑っているの?」

「ううん、なんでもないよ。気にしないで。それよりも食べよう」

 

 私たちはご飯を用意してそれを食べ始める。

 うん、いつ食べても食堂のご飯は美味しい。高級店はこれよりも美味しいのだろうか? まあ、たくさん食べる私は質より量になっちゃうけど。

 この燃費の悪い体のため、たくさん食べないといけないので、美味しいものを食べることは私の密かな趣味となっている。特に甘いものが。

 前世で甘いものが嫌いだったというわけではない。わけではないのだが、あまり多く食べることができなかったのだ。しかし、この体はそんなことはなかった。

 さらに私の体は燃費が悪いので、実はなんとどんなに食べても太ることはないのだ。

 今度簪かセシリアのどちらかと甘いもの巡りでもしようかな。

 

「ねえ、詩織」

「ん?」

「オルコットと……私は対面する、の?」

「あっ! そうだったね。うん、会うよ。明日の朝会うことになっているの。いきなりだけど大丈夫?」

「大丈夫」

 

 簪の表情を窺うとまるで戦いに臨むかのようだった。

 え? か、簪? 何でそんな表情をするの? ただセシリアと会うだけだよ。戦わないよ。

 簪の表情を見てなんだかセシリアに会わせるのが不安になってきた。

 

「そ、そう」

 

 私は引き攣った笑みを浮かべる。

 それから私たちはちょっとした雑談をしながら夕食を食べた。食べた後はちょっと作業をして、それから風呂に入った。

 もちろん風呂では何もなかったよ? ただ一緒に洗いっこをしただけだよ。まあ、どういうわけか簪が不満顔だったが。

 ……私、簪をやばい方向にしたのかな? それとも最初からなのかな?

 簪の私に対する愛が本当に予想外なのでちょっと困惑してきた。

 その日はそれから作業をしてアニメを見てからベッドへ入った。

 すでに時刻は零時をちょうど回ったくらいだった。

 

「詩織、もうちょっと……近づいていい?」

 

 私と簪の間は本当にわずかで体の大部分がすでに触れている。つまり現状でも近づいているのだ。

 

「えっと、結構近いよ?」

「私はもっと近づきたい。詩織は……私に、くっつきたくない、の?」

「くっつきたい!」

 

 そう問われると私はテンションを上げて即答してしまう。

 

「私も……くっつきたい」

 

 私ではなく簪のほうからさらにくっついてきた。これで本当に私たちの隙間は完全になくなった。ただ、ちょっと問題があるとすれば、

 

「って、な、なんで私の上に?」

 

 簪が私のお腹の上に乗っかっていることだろう。私は頑丈だし簪は軽いので負担にはならないのだが。

 しかし、寝にくいのには間違いないのでどうにかどいてもらいたい。

 

「あのまま、近づくだけじゃ……最初と大して変わら、ない。なので、こっち。これならたくさん……くっつける、でしょ? 嫌?」

「……嫌じゃない」

 

 ちょっと寝苦しいが簪のぬくもりと感触をと比べると私は後者を選んでしまう。

 簪もちょっとやばいけどそれよりも私のほうがやばいね。人のことよりも私だ。

 

「詩織、温かい」

 

 私の胸の上に頭を乗せた簪が本当に気持ちよさそうに言う。

 

「私も温かいよ」

 

 私はそう言いながら上に乗る簪の頭を撫でる。

 私は撫でながらもう片手で簪の髪を指に絡ませて遊んだ。

 

「ん……。遊んでる?」

 

 簪が顔を上げてこちらを見て言った。

 

「遊んでるよ~。簪の髪はさらさらしてるね」

「詩織だってさらさら」

「ありがと」

 

 それから私たちはお休みのキスをしてそのままの状態で眠りについた。

 

 

 

 そして、朝となる。

 私はゆっくりと目を開けた。

 まず視界に入ったのは簪の顔だった。私の首元に簪の吐息がかかる。私たちがくっついて寝ていたので当たり前だ。

 今の状態を確認するとやはりというべきか、簪は私の上にはおらず、横になっていた。まあ、あの体勢のままとは最初から思ってはいなかった。けど、互いに抱き合ったままの状態を保っていたというのはちょっと予想外かな。

 先に起きた私は、簪の寝顔を見るという権利を行使する。

 私はいつも簪より先に起きることが多いのだが、それはこの権利を行使するためと言ってもいい。だってこの時間だけは簪が完全に無防備になって、何をしても起きないんだもん。

 それを利用して私は腰に回している腕を動かし、体中を撫で回した。

 私の手に簪のやわらかい肌の感触が伝わる。昨日何度も感じた触り心地だ。ただ昨日と違うのは直接触れたか、寝巻き越しということだろう。

 むう、やっぱり布一枚だけなのにぜんぜん違う……。直接のほうがいい。

 いつもはちょっと触れるだけで満足していたのだが、やはり一度素晴らしいものを知ってしまうと劣るものでは満足できなくなる。

 

「ごめんね」

 

 私は簪に届かない謝罪をして、簪に回した腕で寝巻きのボタンを一個ずつはずしていった。全てがはずし終わり寝巻きの前部分を開くとそこには、目を閉じればいつでも鮮明に思い出せる、簪のやわらかな肌とやはり小さな胸だ。

 さっそく私は手を寝巻きと肌の間に入れて、改めてその状態から抱きしめた。

 私の手には先ほどとは違い、簪の確かな肌の感触が伝わる。さらに私は簪の感触を感じるためにちょっと下に体を移した。これすることで私の顔の前にちょうど簪の胸が来るのだ。

 で、この状態でぎゅっと抱きしめると必然的により距離が縮まり、私の顔が簪の胸に埋まった。

 私は手の平と顔に感じる簪を楽しんだ。

 ……これって傍からみると私は変態だよね。だって寝ている女の子相手に、脱がしてはないけど、その肌に顔を付けているんだもん。どうやっても言い逃れはできない。

 けど、まあ、私が変態というのは最初からだもんね。そう思いつめるようなことではない。

 私は簪の心地よさに負けて、そのままの状態から二度寝をした。

 それから浅い眠りの中、しばらくすると目覚ましが大きな音を鳴らす。

 それで私の意識は完全に覚醒する。顔をちょっと上げるとそこにはまだぐっすりと眠る簪が。本当によく毎度ながら思う。よく目覚ましが鳴っているのに目が覚める気配がないんだもん。

 さて、と。そんな簪でもさすがに鳴り続けていたら起きてしまう。別にそれはそれでいいのだが、ほら、今の私の状況はちょっとやばい。なにせ簪の胸に直接触れちゃっているんだもん。というか、枕にしちゃっているんだもん。これは寝る前の簪と似ているが、簪は服の上で私は直接だ。いくら簪でも引いちゃいそうだ。だからその前に目覚ましを止めて、色々と整えて起こさなければならない。

 そう思って私は手を抜こうとした。

 だが、

 

「ん? あ、あれ? ぬ、抜けない? な、なんで? 引っかかってる……? うそ!?」

 

 なぜか手が変なところに引っかかったようでこの状況から脱することできなかった。何とかはずそうとするがやはり無理だった。無理にやればできるのだがそうすれば寝巻きが破れてしまう。そうすれば簪から離れることができるのだが、起きた簪にどう言い訳できようか。無理に決まっている。

 そういうわけで無理にせずに脱しようとした。

 しかし、やはり抜けずに時間だけが過ぎる。その間にも目覚ましは鳴り続ける。それは簪の意識がだんだん覚醒へと導く。

 そうして再びしばらくして、恐れていた簪の覚醒が始まった。

 

「ん、んん~」

「!!」

 

 簪のまぶたがゆっくりと開かれた。

 

「……詩織、おはよう」

 

 まだ寝ぼけているのか、この状態に気づかないようだ。

 

「お、おはよう」

 

 私は冷や汗をダラダラと流しながら答えた。

 しばらく簪は私を見つめ続ける。そして簪は完全に覚醒した。簪は違和感を感じて、その違和感の正体に気づき、完全に開かれた目が半開きとなり、ジト目になる。本当に冷たい目だ。

 う、うう、そんな目で見ないで……。

 

「詩織の、変態」

「うう……」

「私の、肌に触れ……たり、胸に、顔を埋めて……楽しかった? それも私が……寝ている間にして」

「……」

「詩織は……どうしようもない変態、ね」

 

 本当に何も言えない。

 

「それで……こんなに言われているのに……まだそのまま、なの?」

「ひ、引っかかっちゃって……」

「……。そう」

 

 簪はちょっと窮屈そうにしながら寝巻きをどうにかして脱いだ。ようやく私は脱した。

 私は体を起こしてベッドの上で気まずそうに俯く。

 うう、簪のジト目を感じるよ……。

 

「詩織」

「は、はい!」

 

 いきなり名前を呼ばれ、大きな声を出して顔を上げた。

 

「なんで寝ているときに……したの? こんなこと……したいなら、頼めば私は……受け入れる」

 

 簪はジト目を止めてやや頬を赤めてそう言った。

 うん、やっぱり簪を色々と変えちゃったみたい。絶対に私に会う前だったらそんなこと言わない子だってよね。

 

「じゃ、じゃあ、私が脱いでって頼めば……」

「脱ぐ。詩織が求めるなら……脱ぐ」

 

 冗談で言ってみればどうやらそれは本当のようだ。

 簪が自分の思い通りになると予想が確信となった瞬間である。

 私はごくりとのどを鳴らした。

 いやいやいや! 待って、私! いくら好きにできるといっても自分のわがままにしていいというわけじゃないよ! というか、それでもやっちゃいけないよ!

 こう思うことで何とか理性を保つ。

 

「今、脱いだほうが……いい?」

「ぬ、脱がなくていいよ! うん、脱がなくていい。そういうのは朝じゃなくて夜するものだからね。今はやらないよ」

「……分かった。じゃあ、今夜」

「今夜!? そ、それって昨日みたいなことしたいってこと!?」

「……」

 

 簪は恥ずかしそうに頷いた。

 

「詩織だって……したいでしょ?」

 

 したい、したいけど!!

 

「今日は……しないよ。うん、しない」

 

 私はそう言った。

 すると簪はがっかりしてしまう。

 この選択に女の子が大好きでいちゃいちゃしたい私は後悔してはいない。いや、嘘。結構後悔している。だけどだけどこうでもしないと私は暴走してしまう。簪はそれでもいいと言うかも知れない。でも、そうやって簪が許してくれるからってやっていると、まるで私が簪をそういう体を目当てだと思われるかもしれないと思ってしまうのだ。

 もちろん簪がそうは思わないだろうが、やはりそう不安になってしまうのは仕方ない。

 私は簪を体目当てで恋人になったわけではなく、簪を愛して簪という存在が目当てで恋人になったということは確かだ。

 

「き、嫌いになった、の?」

「違うよ。嫌いになったんじゃないよ」

「なら、なんで? 詩織がエッチなのは……知っている。でも、これは……私から誘ったのも……同然。受け入れても……詩織をエッチとか……思わない。だって、恋人として当然のこと、だから」

「そうだとしてもしないよ」

「なんで?」

「私ね、不安なの」

「不安? 何が?」

「簪のその誘いに乗っちゃうと多分私、何度も簪が求めちゃうと思う」

 

 これは私の予想ではあるが、現実になるのはほとんど確実である。もちろんこれはただ欲を満たすために求めるのではなく、簪を求めた結果である。私はちゃんと簪を愛している。

 

「そうしたら簪は体目当てって思っちゃうって思って……」

 

 私は不安を簪に言った。

 

「私はそう思わない。詩織は……私のこと、好き、でしょ?」

「当たり前でしょ! じゃないと、キスとかしないよ!」

 

 そう言うと簪はにこりと微笑んだ。

 そのときの簪は私よりも大人びたお姉さんのようだった。ちょっと真剣に考えていた私が子どものようだ。

 先に惚れたほうが負けとは言うがこれもそういうことなのだろうか?

 とにかく私の簪への好感度がまた上がった。もう依存と言ってもいいほどに。今は自覚はないが、簪が私から離れればその心の傷は計り知れないほどの深いものになるだろう。それほどまでに簪という存在は私の中になくてはならない存在となっている。

 これは素晴らしいものなのだろうが、危ういものでもある。

 だって私はこれからハーレムを作るのだ。そして私にとってその子達全員が簪と同じような存在となるのだ。そんなみんなが何かで私の前からいなくなれば? 私は精神的に死んで、ただ死を求める機械人形となるだろう。

 心の本気というのは強くて頑丈で優しくてうれしくて楽しくて幸せですばらしいものではあるが、その本気であるからこそ一旦壊れてしまうとその破壊の影響力は正の感情から負の感情へと変換される。その負もまた正と同じだけの強さを持ち、精神を死へ導くのだ。


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