精神もTSしました   作:謎の旅人

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第35話 私の限界はとっくの昔に

 それから私はセシリアにもう一度頬にキスをして、それぞれの帰路へ分かれた。そして、簪が私の帰りを待っているだろう自室の前に来た。

 私は簪は部屋で何をしているのだろうと思いながら部屋の鍵を開け、中へと入った。

 入った瞬間、私は生徒会長モードではないが、口調を解いていつもの口調にした。

 

「簪~帰ったよ!」

 

 うん、やはり生徒会長モードではないのにあの口調はやっぱりきつい。こっちのほうがいいね。

 私は早く簪に会いたいという気持ちから駆け足でベッドのほうへと向かった。

 簪はいつものように作業をしていた。

 

「おかえり」

 

 簪がモニターから目を離さずにそう言った。

 あれ? 何かちょっと不機嫌?

 簪はいつものように作業をしているだけなのだが、簪と親密な関係となった私はその違いを察知できた。

 簪に何かあったのかな?

 朝は不機嫌のふの字どころか機嫌がとてもよかったので少なくとも私が原因ではないはずだ。となれば、考えられるのは作業に何か悪いことがあったか、私の手の及ばない簪の交友関係のことか。

 私は考えるが分からないので、直接聞くことにする。

 

「簪、何かあったの?」

「……別に」

 

 不機嫌ではないと答えるが、声はあきらかに心の内を示していた。

 私はなんとしても聞きだそうと思い、ベッドに腰掛ける簪の横に弾みを付けて座った。

 

「何かあったんでしょ? どうしたの? 教えてよ」

「……」

 

 簪は無視してカタカタと作業をするだけだ。

 これは何かあったということを肯定したということなのだろうか。図星だから何も言わなかったということなのだろうか。いや、予想通りそうに決まっている。

 簪が不機嫌というのは同室でもあり恋人な私にとっては非常に居心地の悪い。だから私はいくつかの理由で何とかその理由を聞き出そうと思った。

 まずは私は作業中のタブレットを奪った。

 

「!! 何を、するの!!」

 

 簪は隣にいる私に襲い掛かるように迫ってきた。それはまるで飢えた野獣のようだ。

 いきなりだったので私は簪を受けとめることもなく、簪に押し倒されるという形でベッドの上に倒れこんだ。

 !! な、なんてラッキーなんだろうか!! まさか簪のほうから襲ってきてくれるなんて!!

 私はタブレットが壊れないようにしながら簪との攻防を繰り広げる。

 

「返……して!! 私の!!」

「なら教えてよ。不機嫌だって私、分かるよ。教えたら返してあげる」

 

 表面は頑なに不機嫌の理由を聞こうとする私だが、内心では私からタブレットを返してもらおうとするために簪が激しく動く度に色々と触れるため、それに喜んでいた。

 や、やばい! このままじゃ、お、襲っちゃうよ!

 セシリアのときに抑えた欲が沸きあがってくる。それを何とか抑え込む。

 だ、ダメだ! ここで襲っちゃうのはダメだ! ここはそういう場面じゃないもん!

 

「言ったら……返してくれる?」

「うん。返すよ」

「……分かった」

 

 簪は仕方ないとばかりにそれを了承した。そして、私の上からどこうとする。

 あっ! だ、ダメ!

 どこうとするのが名頃惜しくタブレットを丁寧に置いた後、ちょっとだけ距離の離れた簪をぎゅっと抱きしめた。

 

「!!」

「恋人、でしょ? このくらいいいよね?」

「……うん」

 

 最初は戸惑っていた簪だが、私がそう言うと頬を染めて私の腕の中で小さくなった。先ほどの不機嫌はない。

 とりあえず簪がこうして腕の中で抱かれているので、私の欲は先ほどとは変わり小さくなっていた。

 私たちはしばらくこのままでいる。

 

「どうして不機嫌だったの?」

「それは……詩織の、せい。詩織は今日……試合で手加減、してた、から」

「え? 私、そんなことしてないよ」

「うそ」

 

 そう言われるが二つの試合を思い返すが思い当たらない。一夏との試合は確かに一方的なものだったが、それは決して手加減というやつではなかった。いうなれば油断である。手加減ではない。それは誰がどう見てもそうだ。

 

「代表候補生との……試合。そのとき、あの雰囲気……じゃなかった。私は別に……それでも何も思わなかった。だって、詩織は……素人だから。でも、違った。あなたは……本気でやって……なかった。雰囲気が変わった……瞬間、動きが変わった。つまりそれは……手加減をしていたことに……他ならない。違う?」

「……違わない」

 

 簪が言うのはもっともだ。

 私は素人だったが、それでも生徒会長モードにしていれば、あそこまでダメージを受けることはなかった。それに最初から回避だけではなく、反撃することだってできたはずだ。そう考えると私は手加減をしていたということになる。

 私に簪の言葉を否定することはできない。

 

「私、言ったよね? ISを……甘く見ないでって。詩織は……何て言った?」

「分かったって言った」

「そう。でも……詩織は……分かってなかった。詩織は私を……裏切った! だから不機嫌」

「そうだったんだ。ごめんね」

 

 簪の不機嫌の原因が私だと分かり、本当に申し訳なく思う。

 何が簪が不機嫌なのはいやだだ。何が心当たりがないだ。考えれば分かったことではないか。正直、先ほどの私を思いっきり殴りたい。

 

「別に……いい。本当は……違うから。本当は詩織が……羨ましかった、だけ。ちょっとしか……動かしてない、のに、代表候補生に勝ったことが。不機嫌なのは……嫉妬の、せいだから」

 

 簪もまた代表候補生である。素人と代表候補生との間にどれだけの差があるのかを一番よく知っている立場だ。

 私は素人で相手はISのプロである。そんな私が勝った。それはつまりISをほとんど動かしていない現時点でも代表候補生レベルであり、もし本格的にISを学べば候補生ではなく、その国の代表になれる可能性が通常よりも高いということだ。

 それを見せられては嫉妬して当たり前である。

 

「そうなんだ」

「こんな私……いや?」

「ううん、嫌じゃない。むしろ嫉妬しているってことを正直に言ってもらってうれしいよ」

 

 嫉妬というのは醜い感情として世間に知られている。

 故にそんな感情を私に曝け出してくれてうれしかったのだ。

 

「……ありがとう」

 

 私の腕の中でそう言った。

 さて、簪の機嫌もよくなったので、私は簪へのスキンシップをしたくなった。

 

「……ねえ、キスしない?」

「し、したい、の?」

「うん」

 

 私の欲はもう限界を超えているのだ。本来ならばセシリアと二人きりのときに我慢できなくて、十八禁的な展開になっていたはずだ。それを何とか嫌われたくないなどという感情で抑え付け、軽く触れるなどで欲を発散することでそうならずに済んだのだ。

 でも、それがいつまでも続くわけがない。

 私のその欲はすでに限界を超えているのだ。接触による発散を利用しても限界をわずかに下回る程度。だがそれも先ほどまでの話。現時点では簪に抱きついているというのに、発散はされるものの限界を下回ることはなかった。

 それでも暴走して十八禁的な展開にならないのは、私がうまく意識を誘導しているからだ。もう少し我慢すれば簪を好きにできるぞと。

 もちろん、私は昨日恋人関係になった簪に対してそういう十八禁的行為をしようなんて思ってはいない。ただちょっと過激なことをして、ゆっくりと限界まで来ている欲をゼロにするだけだ。

 

「ど、どんなふうに、するの?」

 

 その目には今からすることへの羞恥と期待があった。

 私はそれにドキッとする。

 いや、だって羞恥だけなら分かるけど、期待があるんだよ? それはつまり簪のほうもそういうことへの関心があるということだ。私がちょっとでも十八禁的なことを頼めばおそらくは受け入れるのではないだろうか。思わずここで積極的になりそうになるが、たとえそうでもここで自分の欲で動くわけにはいかない。今日はそうしないと決めたんだから。

 

「教えてほしい?」

「……うん」

「どうやって教えてほしい? 言葉で? 行動で?」

 

 あえて簪に選ばせる。私はそうやって簪をいじめる。

 

「わ、私が……選ぶ、の?」

「そう。簪が好きなのを選んで。ねえ、どっちがいい?」

 

 私は耳元で囁く。

 それで簪がぴくりと震えた。

 

「こ、行動が……いい」

 

 顔を私の胸に押し付け、簪は恥ずかしそうに言った。

 その言動は私をさらに興奮させた。

 

「分かった。どんな風にするか行動で示すね。でも、その前に」

 

 私は抱き合ったまま、ベッドの端から中央へと移動し、簪に覆いかぶさるような形になる。私が主導権を握る形だ。これも同性同士ではないが、異性での経験があるため、初めての簪をリードするためだ。

 私は簪の見る。

 私の目に映るのはこれからされることへの期待を含んだ潤んだ瞳と興奮からかわずかに息が荒くなりわずかに開いた湿り気のある唇に髪をベッドに扇状に散らした簪の姿だ。

 私たちはしばらくその状態から見詰め合う。

 私はのどをごくりと鳴らす。まるで食べ物を前にした獣のように。

 そうして初めに行動をしたのは簪だった。

 簪は目を閉じ、受け入れる体勢となった。

 それに対して私もその簪に答えるべく、行動に移す。私も目を閉じ、その唇に自分の唇を重ねた。

 

「……ちゅ」

 

 ただ触れるだけのキス。だが、今までのよりも長くそのままでいる。

 

「……ん、んん」

 

 別に激しいものではないが、それだけでぞくぞくと快感が背中を這う。

 この体になって初めての最大の快感だった。

 

「んっ……ぷはっ」

「はあっはあっはあっ」

 

 一旦休憩にと口と口を離した。

 簪はこの一度だけのキスで肩で息をしていた。

 

「どうだった?」

「はあっはあっ、よか……った」

「ふふ、よかった」

「これが……恋人の……キス?」

「そうだよ。これが恋人のキス」

「これが……」

「気持ちよかった?」

「…………うん」

 

 恥ずかしかったのかすぐ近くにあった布団で顔を隠しながら小さく答えた。

 ああっもう! なんでそんなかわいい反応をするかな! それって襲ってって言っているの!?

 ようやく欲が下回るほどだったのにまた上回るじゃないか。

 だからまた欲を発散しないといけない。まあ、上回らなくても最初からもっとやるつもりだったけど。

 

「じゃあ、さ。もっとやろう?」

「や、やるの?」

「もっとやりたくないの?」

「……やりたい、けど……あ、あんなの……続けたら……へ、変に、なる!」

 

 布団から目だけを覗きだしながらそう言った。

 

「変になってもいいよ。ここには私以外誰もいない。私しかみてない。この部屋だってある程度防音だしね。だから声が出ても大丈夫だよ」

「だから……! 詩織しかいない、から! し、詩織に……そんな、とこ……見られたくない! 見られたら……顔合わせられ、ない!」

「じゃあ、やらないの?」

「……うん。こ、これ以上は……」

 

 そう言って断るのだが、私はもっとやりたい気分なのだ。ここで我慢などできない。そんなことをすれば確実に暴走する。そういう理由もあってここで止めることはしない。

 

「ごめんね」

「えっ……?」

 

 止めることができないので、まず最初に謝っておく。

 それから顔半分を隠す布団を取り去った。簪は私の謝罪のせいで頭の回転が遅くなっているようで、布団を取られたことに反応できていなかった。

 私はその隙を逃さずに再びキスをした。

 

「んむっ!?」

 

 いきなり口を塞がれた簪は驚愕し、手足をどうにか動かし抵抗した。

 抵抗されると色々とやりにくいので、私は両の手で簪の手首を掴み、脚のほうは簪のと絡ませることによって動きを封じた。

 今回は簪が乱れるようなことはしないので、私の両の手足が動かせなくても問題はない。

 

「ん、んんっ! ん~~!」

 

 まだ混乱が治まっていない簪は精一杯抵抗した。それはまるで私が嫌がる簪を無理やりしているようで、罪悪感を感じるどころか、抵抗されるというのに逆に興奮してしまう。

 なぜ性犯罪が起こるのだろうかと思っていたが、その立場になるとその理由が分かるような気もする。まあ、もちろん私はそんな犯罪は決してしないけど。そんなことをしたら夢を叶えることができなくなるもん。

 そうやってしばらくすると簪も落ち着き、先ほどのもうやらないという発言はどうしたのかと思ってしまうほど、大人しくキスを楽しんでいた。

 

「んっ、んあっ……あむっ……」

 

 互いの口から見ている側も発情するような声が出た。

 そんな声が出て私は恥ずかしくなるのだが、どうしてもその原因であるキスを止めることはできなかった。それどころか私は落ち着きを取り戻した簪を確認して、その口に自分の舌を入れ込んだ。

 私の舌は簪の舌を突いたりして刺激を与える。

 

「!?」

 

 いきなり私の舌が口内に侵入したため、驚きで簪の体がびくりと震えた。

 過激なキスである、ディープキス(フレンチキス)を受けた簪は未だにこのキスを上手く認識できていないようで、困惑だけで頭の中がいっぱいのようだ。

 私は簪がちゃんと認識するまで自身の舌で簪の口内を弄くりまわし続ける。前世の記憶があるので、上手く舌で刺激することができたと思う。

 そうやってしばらく私が刺激を与えていると簪のほうでもわずかに反応が出てきた。動かなかった簪の舌が私のに絡んできたのだ。

 

「!!」

 

 いきなり簪が動き出したので私は驚くが、簪がその気になったことを受け入れて舌を絡ませることに集中した。


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