精神もTSしました   作:謎の旅人

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第29話 私とライバルとの予想外

 一夏は剣を構え、その必殺技に耐えようとする。

 対して私は何も構えずにブレードをだらりと持つだけである。第三者からしてみれば、やる気のない姿である。

 だが、一夏はそんな私に対して何も不満を言うことはない。むしろ、その姿ではあるが、私が必殺技を披露すると言った時よりも警戒している。

 無防備に見える私だけど、一夏はセシリアの試合のときに見たからだろう。

 

「ごくり」

 

 構えたままの一夏が喉を鳴らす。

 私はそれに対してゆっくりと近づいた。

 ゆっくり近づいているが、この場合は一夏に相当なプレッシャーを与えているようだ。

 余裕に見えるその姿だからだろうか。

 そうしているうちに一夏との距離は私の間合いに入った。

 

「さあ、心して受けなさい」

 

 その言葉を聞いた一夏はより一層気を引き締めていた。

 

「……『一閃』」

 

 その瞬間、ブレードを持っていた私の腕は消え、そして、

 

「えっ?」

 

 一夏のそんな間の抜けた声を残して、一夏は私の目の前から一瞬にして消えた。

 直後、ドゴオオォォォンという轟音がアリーナに響き、アリーナの一箇所から土煙が上がる。

 土煙が晴れるとそこにはアリーナの壁にクレータを作り、四肢を投げ出してめり込む一夏がいた。

 一夏は痛みのせいか、呻いているが別に一夏の機体のシールドエネルギーが全損したわけではない。だって、私が当てたのは一夏のブレードだから。そのときの衝撃で一夏は吹き飛ばされたのだ。

 ただの人間が同じようにブレードを振ったならばここまで一夏が吹っ飛ばされることはなかっただろう。受け止めるや弾かれる程度であっただろう。

 だが、振ったのは人間の力を超えた私である。体に当たらなくても、このようになる。

 ただ、私の必殺技である『一閃』はその威力が高いため、人に対してやるのはセシリアが初めてで、一夏で二人目のため、一夏が怪我をしていないか不安である。

 え? なぜ一夏の心配するのかって? 私も一夏に死んでほしいとか思っているわけではない。もちろんのこと、心配くらいはする。

 

「う、ううっ、こ、これが……あのときの……」

 

 一夏はゆっくりと立ち上がった。

 

「どう? 私の必殺技を受けた感想は」

「……当たってたら負けてた」

 

 一夏は悔しそうにそう言った。

 にしても、今の一夏はボロボロではないだろうか? 痛みもあるようだし、負けそうだと言っているから精神的にもボロボロだと思う。

 これは簪が望んでいる姿ではないだろうか?

 でも、まだまだかもしれない。もうちょっとやろう。

 そう思って、ゆっくりと近づく。

 

「一夏、もう一度やってあげるわ。どう?」

 

 これは正当な行為であると見せ付けるためである。

 一方的にやるとただのいじめだ。あえて相手からの許可を貰うのだ。

 

「もちろんだ! 見切ってみせる!」

「ふふふ、頼もしいわね。じゃあ、続けてやるから見切って見せなさい!」

 

 そう言って再び『一閃』を放った。

 先ほどと同じ動きだ。

 だが、ISの機能を使って見えても、それを操るのは人間であって、その速さに慣れていない一夏にはそれに対応することはできなかった。

 ただ、すでに一夏が攻撃の内容を知っていてからの攻撃ということもあり、先ほどのようにアリーナの壁に激突することはなかった。どうやら後ろに下がって私の攻撃から逃れたようだ。

 野生の勘かな? それとも才能?

 どちらにせよ、見切ってはないが、避けることが出来たのだ。多少の賞賛はしよう。

 でも、何度も同じように避けることができるかな? やっぱり何度もできるようになってから、初めてまぐれなどではなく、できるようになったと言えるだろう。

 というわけで何度か繰り返す。

 たが、それは当たらない。というか、下がって回避している。多分、私の剣を見切ったわけではないけど、とりあえず下がっているのだろう。

 

「くっ、見切れねえ!」

「でも、発動のタイミングは分かってきたみたいね」

「あれだけ見ればな!」

「じゃあ、次はこの攻撃を掻い潜って私に攻撃しなさい」

 

 私は上から目線でにやりと笑って言った。

 

「ああ、やってやるぜ!!」

 

 一夏は今、攻撃をしないのをいいことに私に攻撃してきた。

 あ、危ない!

 私の避け方は周りから見るとあっさりと避けたように見えるけど、内心はびっくりしていた。

 全く! 話の途中での攻撃はダメだよ!

 さすがの私もびっくりである。

 

「ふふ、残念。せっかく攻撃したのに当たらなかったわね」

「だが、まだだ!」

 

 再び私の『一閃』を使った攻撃と一夏の回避のループがはじまる。

 だが、先ほどと違って、一夏は後ろに下がって回避するのではなく、横に移動して回避するようになった。つまり、私の攻撃を見切り始めているということだ。

 しかも、後ろに下がるのと違って、横に移動して回避しているので、私との距離が開くことはなく、あとは一夏の技量次第で、私へ反撃できるということだ。

 まだ一夏に反撃されていないのは私の技の出が速いからだ。そのため、一夏が反撃できないのだ。

 にしても、さっきからビービーうるさいな。損傷しているってのはもう分かっているって。そうずっとされたらむかつくだけだよ。

 私はさっきからなぜか鳴っている警報を消す。あと、機体のシルエットの表示も。

 よし、これでうるさい音も視界の邪魔物も消えた。

 だが、この選択は間違いだった。私は一夏をボロボロにすることに夢中でその間違いには気がつくことはなかった。

 うん、本当このときの私はバカだった。ちゃんと見ておけばあんなことには……。

 こほん、ともかく邪魔な表示と音を排除した私は再び攻撃を再開する。

 ちなみに一夏の様子だが、結構ボロボロだ。

 一応、大ダメージは与えないようにしているが、それでも小さなダメージが重なった結果だろう。

 と、私がボロボロぐあいを見ていると、

 

「ここだ!」

 

 一夏が叫び、私の視界から一夏の姿が消えた。

 え、どこ――

 

「があっ」

 

 私が女の子らしくない声を出すと共に認識したのは痛みと衝撃だった。

 すぐに何が起きたのか認識すると一夏が私に体当たりをしてきたということだった。

 い、いつの……間に? な、何をしたの?

 私はすぐに何をしたのか考える。

 まず、先ほどの一夏の距離は互いの間の外であった。私ならともかくほかの人間がここまで距離を詰めることなんて出来るはずがない。それこそ瞬動術か、瞬時加速(イグニッション・ブースト)しか……。

 !? まさか瞬時加速(イグニッション・ブースト)!? そんな馬鹿な!? だって一夏はISの初心者のはず!

 原理は知っていたとしても、すぐに使えるようなものではない。

 それを使ったとなるとこれは発想なのか、それとも原理は知っているだけで、いざやってみたらできたというやつなのか。一応、練習したという線も考えられるが、箒からISの練習はしていないと聞いているので、先ほどの二つのうちどちらかだ。

 ちなみに私はできない。

 え? なぜかって? 練習してないから。まあ、私が天才だということは否定しないよ。でも、私は最初からいきなりできるという天才ではなくて、練習をしてたらすぐに出来てしまう系の天才だ。つまり、成長が早い系である。

 ともかく、体当たりされた私は一夏の頭目掛けて、ブレードの柄で殴って一夏との距離を空けた。

 

「びっくりしたわ。まさか初心者のあなたが瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使うなんて」

「ああ。俺もまさか出来るとは思わなかったよ」

 

 なんとこいつ、原理は知っているだけで、いざやってみたらできたというやつらしい。

 くっ、なにそれ! まるでどこぞの主人公じゃない!

 いや、まあ、ハーレムを作っている私が言う言葉じゃないけどね。

 

「おかげで結構大きなダメージを食らったわ」

 

 何せ一瞬で距離を詰める技だ。それを攻撃として用いれば、そのダメージは当然のことながら大きい。

 予想以上のダメージである。

 まさか一夏に一撃入れられるとは思わなかった。一方的な蹂躙が崩れた瞬間である。

 とはいえ、それは一時的だ。すぐに攻撃すれば再び蹂躙が始まる。

 だけど、その蹂躙が始まる前に一夏が攻撃してきた。

 さて、これは試合なのだからもちろんのこと攻撃されて当たり前なのだが、一夏の瞬時加速(イグニッション・ブースト)を利用した攻撃は痛みを感じるほどだった。ちょっとムカつくくらいには痛かった。何が言いたいのかと言うと、一夏に攻撃したいということだ。つまり八つ当たり。

 だから、まずはこの攻撃を手で受け止めて、もう片方の手に持つブレード、または拳で一発攻撃しよう。

 そう思って、掌で受け止め、ブレードを掴む。

 もちろんのこと、ダメージが入るが、これからすることを考えてのサービスである。言わばダメージ交換。まあ、私のほうが威力高いけどね。

 私が一夏に向けて意地悪な笑みを浮かべようとしたとき、バキッという嫌な音が聞こえた、ブレードを受け止めた腕から。

 え? 何?

 そう思っていると次の瞬間には、受け止めた腕のISの装甲が粉々になった。

 ISは鎧のようなものだが、その装甲のすぐ下に腕があるわけではない。IS展開時は手を延長したかのようにISの腕が展開されるのだ。なので確かに装甲が粉々になったが、私の手まで切られるということはなかった。まあ、その前に絶対防御が発動するけどね。

 そのISの腕が粉々になり、私の本当の腕が見えた。そして、受け止めたはずの一夏のブレードは腕という先ほどまで私のブレードを使っていたものが壊れて止めるものがなくなり、私へ向かってまっすぐに向かってきた。私は残った腕でそれを二本指で掴んだ。

 あ、危なかった~! もう少しで――

 安心していたのも束の間、さっき聞いたばかりの何かにヒビが入った音と何かが砕ける音がみみに入った。それはまだ粉々になっていなかったはずの腕だ。それが受け止めたと同時に砕けたのだ。再び一夏のブレードが迫ってきた。

 素手で受け止めることは出来るのだが、動いた後なので、さすがの私もこの攻撃を受け止められない。つまり、体で受け止めるしかない。

 私は自分のシールドエネルギーを確認する。三割ほど残っていた。

 !? いつの間にこんなになっていたの!?

 色々と原因に思い当たるので、どれか分からない。今は原因はどうでもいい。それよりも一夏の攻撃で負ける可能性がここにきて大きくなったということだ。

 さすがの生徒会長モードでも負けの道しか考えられなかった。一夏のほうも勝ちを確信した顔だった。

 ……ごめん、簪。油断した……。

 心の中で簪に謝った。

 だが、ここで予想外の出来事が起こる。

 一夏のブレードが私に当たる僅かなというところで試合終了のブザーが鳴ったのだ!

 試合終了を知らせるということはどちらかのエネルギーがゼロになったということだ。

 私は自分の勝ちを知らせるブザーだと分かり、笑みを浮かべた。反対に一夏は自分の負けを知らせるブザーだと分かり、悔しそうに顔を歪めた。

 しかし、予想外の出来事というのはこれだけのことではない。このブザーがどういうわけか私の勝ちを知らせるものではなく、一夏の勝ちを知らせるものだったということだ。

 

『試合終了。月山 詩織の搭乗ISのダメージレベルが許容範囲を超えたため、勝者、織斑 一夏』

 

 アナウンスがそう告げた。

 

 

「「えっ?」」

 

 

 私と一夏は同時にそんな間の抜けた声を出した。


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