精神もTSしました   作:謎の旅人

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第28話 私とライバルの終盤戦

「もらった!」

 

 私の手からブレードが離れたのを見逃さずに一夏が斬りかかってきた。

 まさか、このようなことになるとは。ちょっと油断したね。やっぱりまだISでの戦闘であることに慣れていないみたい。

 生徒会長モードは確かに冷静になるが、私自身の中身が変わるということではない。もちろんのこと、このような失態を犯すことだってある。

 でもね、武器がない(イコール)私の弱体化というわけじゃないんだよ。むしろ、私は無手のほうが強いんだよ。

 不思議なことではない。だって、私の身体能力や反射神経などは化物クラスなのだ。いくら剣術という力任せではない技術を習得しているとはいえ、化物クラスの私には本来必要ないものである。むしろ、技術などない素人、いや、獣のような戦い方で充分である。例え攻撃されても、その反射神経で、『見てから回避する』なんてこともできるのだ。だからいらない。

 まあ、全て回避できるというわけではないけど。

 故に私は笑みを浮かべる。私がブレードがないと何もできないと思った一夏にそれは違うよ、罠だよと告げるために。

 

「っ!」

 

 案の定、私の笑みに気づいた一夏だったが、そのままブレードを振った。

 ブレードが私に当たる寸前、私はちょっとだけ本気を出した。

 

「嘘だろ!?」

 

 本気を出した結果、一夏は目を見開いて驚いた。

 だって一夏の両手で持った勢いのある重いブレードを私が片手で、いや、たった二本の指で掴んで受け止めているのだから。

 

「ふふ、残念ね。その程度じゃ簡単に止められるわ」

「……本当にどうなっているんだ? さっきもだけどこっちは両手で向こうは指だろ? 絶対にありえないだろ」

 

 私は指に挟んだブレードを引き寄せた。

 

「うおっ」

 

 両手でしっかりと掴んでいたため、ブレードと一緒に一夏も引き寄せられた。

 もちろんこれは計算済み。私の目的は一夏から武器を取り上げることではない。攻撃するためだ。

 私はもう片方の手を拳にして、一夏の腹目掛けて殴った。もちろん軽く。

 

「ぐっ」

 

 一夏はうめき声を上げる。ダメージはそれほど大きくはないが、それでも充分な攻撃だろう。

 軽く殴ったにもかかわらずこうなのは、私に向かってくる力と一夏へ向かった力がぶつかった結果だ。

 一夏の体はくの字に曲がる。

 私は一夏の手を取ると合気道の要領で地面に向かって投げた。もちろん力はほとんど使っていない。だって合気道ですから。

 一夏は落ちる途中で体勢を立て直そうとしたが、初心者である一夏には無理で地面に叩きつけられた。まあ、途中で立て直そうとしたおかげか、そこまでダメージはないようだ。

 私はすばやく地面に降りると拳を構える。

 なぜ私が二本目のブレードを使わないのかだが、先ほどまではもっとブレードを使っていい試合をしたところで、拳のほうが強いと示そうと思ったけど、私の油断でブレードが飛ばされ、すでに拳で戦ったのでこのままで行くことにしたのだ。

 この場合の作戦はもう考えてある。一夏はブレードという近距離で、私は拳というブレードよりもさらに近い距離である超近距離だ。その私にやられるのは精神的にダメージを与えることができるはずだ。

 私が構えていると一夏が立ち上がりブレードを構えた。

 少々一夏のISに傷があるが、簪の言うボロボロにはまだ遠いかな。まだまだボロボロしよう。

 

「月山さんはブレードを取らないのか? 取るまでは攻撃はしないぜ」

「いえ、必要はないわ。しばらくは拳だけで戦わせてもらうわ」

「……随分と余裕だな」

「ええ、だって剣よりも素手のほうが得意なんだもの」

「嘘だろう!?」

「嘘じゃないわ。だから、一夏は遠慮なく来なさい。まさかとは思うけどこっちが拳だから自分もブレードを捨てるなんて言わないわよね?」

「い、言うわけないだろう!」

 

 絶対に捨てる気だったな。言ってよかった。

 

「これが私とあなたとの実力の差よ」

「……なんか悔しいな」

 

 一夏が小さく呟いた。それをISのハイパーセンサーが拾ったので、私に耳にまで届いた。

 

「私から行くわよ」

 

 私は足に力を込めて一気に解放した。瞬動術だ。

 私は一瞬で一夏のそばに移動する。私がいた場所大きく陥没し、土煙を上げた。

 

「!!」

 

 一夏が驚き、一瞬で一夏の前まで来た私に反応できていなかった。

 一夏が慌ててブレードを振るうが、もう遅い。私はすでに一夏の懐に潜り込んでおり、素人である一夏が防御したり避けることは不可能だ。

 懐に入ると私は一夏のブレードを振り切った腕を掴む。

 え? 何をするかって? もちろん攻撃である。

 ただし、私が攻撃するとシールドエネルギーが大幅に削れるので、殴る蹴るなどの攻撃はしない。私がするのは相手の力を利用する、柔術、または合気道などと呼ばれる武術の投げである。

 まあ、私ほどの力があれば、相手の力なんて関係なく投げられるのだが。

 私の体は脳が『相手を投げる』と決断したためか、ほぼ無意識に技を放っていた。

 意識なんてする必要ない。体がすべて覚えている。

 もちろん、すべてがこうであるわけではない。これはほぼ護身術であるからこのような状態なのだ。

 私も人の子である。恐怖で体が動かないことがあるかもしれない。だから、護身術だけは様々な型を他よりも多くやり、無意識でもお手本のように動くように体に覚えさせたのである。

 え? さっきもやった? うん、やったね。あれは自分の意思で意識的にやったやつだ。ちょっとだけ違う。

 私に投げられた一夏は大きな音を立ててアリーナの壁に穴を作りめり込んだ。

 や、やりすぎた? 投げる方向を調整したけど、こうなるとは思わなかった。

 じっと見ていると壁に反応があった。

 穴の中から一夏が這い出してきた。ブレードを片手に持ち、なんとか出てきたって感じだ。

 ダメージは受けたようだが、痛みを大きく感じるほどのダメージはないようだ。

 よかった。

 

「な、なんだ、今のは?」

「ただの投げよ」

「な、投げ?」

「あら? 知らないの?」

「知っている。さっきもやられた。ただ、いつの間に投げられたのか理解できなくて……」

 

 まあ、それほどの技術がないとね。護身術だから、反撃されたら意味がない。さっきとは違うのも当たり前。

 

「武器ってあると確かに有利だけど、武器である以上、懐に入られると弱いのよね」

「ぐっ」

 

 一夏は私の指摘に顔をしかめる。覚えがあるようだ。

 もちろん千冬お姉ちゃんや祖父レベルならば、懐に入られようが防いだだろうが。

 

「まだやれる? 私としてはもうちょっと本気を出したいのだけど」

 

 手加減するのと本気を出してやるのとでは、やっぱり後者のほうが気持ちがいい。

 

「あ、あれでまだ手加減していたのかよ……」

 

 一夏が小さく呟いた。もちろん私にはしっかりと聞こえていた。

 なんだか一夏の言葉には悔しさが篭っているようだった。

 やっぱり男の子って女の子に負けるの、悔しいんだよね。まあ、私も前世で男だったから分かる。

 別に見下しているというわけではないけど、やっぱり男性にとって、女性はか弱いものだという認識がある。そのため、このような力が関係あることで負けるのは悔しいものなのだ。

 

「それでやれるの?」

「もちろんだ! やってやるぜ!」

 

 一夏がにやりと笑った。

 どうやら一夏はこの戦いに興奮しているようだ。

 こいつ、戦闘狂? 思わずそう思う。

 

「なら、私もブレードを使わせてもらうわ」

「いいのか?」

「ええ。あなただって剣で戦い合うほうがいいでしょう? サービスというやつよ」

「ありがたいな」

「意外ね。私が不利になるようなことを許すなんて。てっきり何か言うかと思ったわ」

「そうだな。確かに言ってたかもな。だが、今回は甘えさせてもらうよ」

 

 ということで、許可を貰ったので地面に落ちている私のブレードを手に取る。

 と、その瞬間、一夏がいきなりスラスターを噴かせ、ブレードを振り上げて迫ってきた。

 一夏の間合いに私が入った瞬間、一夏はその振り上げたブレードを力を込めて振り下ろした。

 ふむ、中々いい剣筋だね。さっきよりもよくなっている。まっすぐしていて力強い。私のような達人級とはいかないけどそれなりには高いクラスのものだ。おそらくはこのまま剣道を続ければ、近い将来達人級にいけるはずだ。

 私はそんなことを思いながら一夏の攻撃を紙一重で避けた――はずだった。避けたはずなのに体の左側に衝撃が走った。それは一夏の攻撃が私に当たったということだ。

 な、なんで!?

 まさかのことに私は驚愕する。先ほどの油断していたときとは違って、避けられないものではない。私は確かに避けたはず。紙一重という絶妙な回避だった。なのに、結果は一夏の攻撃が当たってしまった。

 まさかこの私が目測を誤った? ありえない! そのような素人のミスを生徒会長モードの私がするはずがない! 生徒会長モードは心がどのようになろうが、冷静に正しい判断を出せるモードなんだから。故に生徒会長モードの私が『避けた』と判断すれば、その判断は正しくちゃんと避けているのだ。

 私はすぐさま何が起こったのかを確認する。そして、自分が何を装着しているのか(・・・・・・・・・・)を思い出した。

 私が装着しているのは、いまさらだが、インフィニットストラトスというパワードスーツだ。つまり、私は生身ではなくちょっと体が大きくなっている。その状態だというのにいつもの感覚で紙一重での回避なんてすれば当たって当たり前だ。

 一夏のブレードは私の肩のアーマーを破壊していた。それにシールドエネルギーの四分の一も削られた。

 私は一夏を蹴って距離を作った。

 軽く蹴られた一夏は軽く飛ばされる。

 

「へへ、やっと当たったな」

「……言っておくけど偶然よ」

「偶然でも一撃が当たったことは事実だ」

「まあ、そうね。それでいいわよ。でも言っておくけどこれ以上はその偶然は続かないわよ」

 

 先ほどは生身の感覚でやっていたが、もうそれはない。ちゃんとISのことを考えて行動するから。

 まさかこの私がアーマーのことを忘れるなんてね。油断したかな。

 

「じゃあ、次は私から行かせてもらうわ」

 

 打鉄の全速力で一夏へ接近する。

 一夏はすぐに構えて私の攻撃に備えた。

 私はブレードを薙いで、一夏に攻撃する。

 ちょっと本気で振ったので、その速度は速い。そのせいか、一夏は一瞬目を見開いて、ローリングして避けた。

 反撃が来るかなと思ったが、ISを動かしてちょっとだけの一夏には、ローリングした状態から攻撃というのはちょっと無理があったようで、バランスを崩して地面に激突した。

 ちなみに反撃されても、もちろんのこと対処することは可能である。何せ片手でブレードを振っただけである。もう片手が対処できる。

 一夏は少々恥ずかしそうにして、体勢を起こした。

 きっと一夏の中ではかっこよく避けるつもりだったのだろう。

 

「ふふ、情けないわね」

「う、うるせえ」

 

 さすがの一夏も恥ずかしかったようだ。

 一夏は剣を構える。それは話をこれ以上しないためかもしれない。

 さっそく私はもう一度攻撃を開始する。

 私の攻撃を一夏は避け続けた。

 もちろん一夏程度の技量ならば、私がちょっと工夫するだけで攻撃を当てることができる。例えば戦闘ならば当たり前のフェイントとか。

 一夏はやっぱりそういう所を想定していないのが甘い。それがよく分かる。

 

「くっ、お、重い!」

 

 一夏は私の攻撃を受け止めて防御する。避けたりもするが、どちらかというと受け止めるほうが多い。

 こういうところを見ると脳筋なんだなと思う。

 

「一夏って受け流せないの?」

 

 一旦一夏から離れてそう聞く。

 

「力に対して全て力で返そうとしているわ。そんなのじゃ、体力が持たないわよ」

「……俺、苦手なんだ」

「力もいいけど、技術は必要よ」

 

 力のみでいいのは私くらいだろうなあ。

 

「あなたにその技術を見せてあげるわ」

 

 というわけで一夏に攻撃させることにした。

 一夏は私に攻撃してくるが、私はそれを最小限の動きで避ける。または、一夏の攻撃をブレードで最小限の力で上手く受け流す。

 ちなみに力などは一夏とほぼ同じ程度にしてあるので、一夏にも可能な動きである。

 攻撃している一夏は私に攻撃が当たらないせいか、動きが速くなるが、雑なものとなっていた。

 

「なんで、当たらないんだよ!」

「技術の差と戦い方の差よ」

 

 一夏は先ほどからの戦闘を見て分かるようにフェイントを使っていない。おかげで簡単なのだ。避けるのも受け流すのも。

 一夏って素直すぎるかな。

 

「どう? これで技術の必要性が分かったかしら? 一夏のような戦い方もあるけど、それは技術あってのことよ。今のその戦い方では私に勝つ可能性はとても低いわ」

「くそっ、それって今の俺じゃあ勝てないってことか」

「その通り。まあ、そうよね。いくらISの性能の差があっても、使う人間が下手だったらその性能を発揮できないわ。本来ながら私が使っている量産型が専用機、しかも世代が違う機体に善戦なんてしないもの」

「くっ」

 

 一夏は悔しさに顔を歪めた。

 やっぱり男の子だから勝ちたいんだろうなあ。

 でも、勝たせない。そして、簡単には倒さない。ボロボロにしてからもっと屈辱を与えてから負かす。

 

「さあ、一夏。そろそろ試合も終盤よ。私の必殺技を見せてあげる」

「必殺技?」

「ええ。私とセシリアとの戦いの最後に使った技よ。見なかった?」

「見たぜ。何をしているのか全く分からなかった」

「ふふ、ならよかったわ。あなたに見せてあげるわ」

 

 もちろんいきなり当てて一瞬で終わらせたりなんかしない。当たらないように使って、ジワジワと攻撃しよう。

 そもそも当てたら冗談抜きでひどいこちになるからね。ボロボロにしたいのは間違いないけど、私だって悪魔とかじゃあない。一夏相手でも怪我はして欲しくないと思っている。


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