どうやら私が勝ったようだ。
やった! やった! 勝った! セシリアに勝った! セシリアに勝ったということはセシリアを自由にできる!
私は勝ったことを喜んだ。
もうすでに生徒会長モードは解除している。
あっ喜ぶ前にセシリアは大丈夫なの?
私の使った必殺技は本当に必殺技だ。ISを装着している上に絶対防御があるとはいえ、体には相当なダメージを負っているはずだ。実際私も掠ったり直撃を食らったりして、体中が痛い。服を脱いで生まれたままの姿になればそのダメージが目に見えるだろう。
うう~私のきれいな体に傷がなんて……。
自分大好きな私は自分の体に傷があるのは嫌だった。まあ、傷なんてものはすぐに治るけど。
便利なことに私の体は身体能力が高いだけではなく、回復力も優れているのだ。前にちょっと大きな怪我をして全治一ヶ月をわずか一週間で治してしまった。
おそらくはこれも明日、明後日には完全に治っているだろう。
とにかく、私でこれだけの怪我をしたのだ。私の攻撃を受けたセシリアはどうなのか心配でたまらない。
私はすぐにセシリアのもとへと飛んでいった。
セシリアは大きく凹んだ壁を椅子にするかのようにして座って気絶していた。
「セシリア。セシリア」
私はセシリアの両肩に手をやって揺さぶり、声を何度もかけた。
脈は正常だし血も出ていないので死ぬことはないというのは確認済みだ。
「ん、んん…………」
気絶していたセシリアの目がゆっくりと開く。
「なに、が……起きましたの?」
私と視線が合ったセシリアがそう尋ねてくる。
「え、えっと、私の一撃をセシリアが食らったのよ」
「つまり、わたくしは……」
「……私が勝ったわ」
「そう、ですの」
なんだか空気が重い。
セシリアはプロで私は初心者。そのプロ相手に初心者が勝ってしまった。それも私のたった一撃で。プロであることに誇りを持っているセシリアにとっては屈辱的な敗北だろう。
こんな空気になって当たり前だ。
「そんな顔をしないでくださいまし。この勝負に何も思っていないと言えば嘘ですが、あなたとの勝負は楽しかったですわよ」
私が声をかけづらそうにしているとそれを察したセシリアがそう言ってくれた。
「……ありがとう」
私の中でセシリアに対する好感度が高くなった。
や、やばい! 私の中でセシリアに対する愛がやばい! なんだか今すぐ抱きしめたいって思ってる! いや、それどころかここでがばって襲っちゃいたいって……!
私の鼓動はその思いに呼応するかのように大きくドクンドクンと鳴っていた。
わ、私ってこんなに単純なの?
そう自分に疑問を持たざるを得ない。
何せ私は簪の本人にとって無意識の何気ない動作でドキッとして、勝手に好感度を上げる子だ。単純という言葉で表してもいいだろう。
私は自分が単純だったということを理解し、高鳴る鼓動を落ち着かせる。
「体は……大丈夫かしら?」
私の問いかけにセシリアは体を動かそうとする。
「っ!! い、いたっ」
だが、動かした瞬間にセシリアが顔を歪めた。
私はそれを見て申し訳なく思った。いくら勝つためとはいえ、ISだけでもなくセシリアの体にまでダメージが入ってしまった。
私はこれ以上セシリアに無理をさせないためにすぐにセシリアの体に手をやる。
「動かなくていいわ。私が手を貸すわ」
「……その言葉に甘えさせてもらいますわ」
セシリアは私を配慮してISを解除した。専用機であるセシリアのISは量子化によって鎧のような装備からアクセサリーへ変わった。
「ええ。任せてちょうだい」
私は丁寧にセシリアを抱き上げた。できるだけセシリアに痛みを与えないように。
「えっ? ちょ、ちょっとお待ちください! こ、これは!!」
セシリアが顔を真っ赤にしてそう言う。体は動かせないので抵抗はできなかった。
セシリアが慌てるのは私がお姫様抱っこをしているからだ。
あはは、可愛い反応♪ ちょっといじめたくなってきちゃった。
でも、私はなんとか我慢する。ここはまだみんなの前だ。まだそんな関係ではないし、さすがに抵抗もできない状態でいじめちゃダメだろう。それに無理はできない。
「お、下ろしてくださいませ!!」
「ダメよ。このままで行くわ」
「で、ですが皆に見られたままというのは……」
セシリアは顔を伏せて言う。
「我慢しなさい。今は恥ずかしさよりもあなたの怪我よ」
「うう……」
セシリアは恥ずかしさのあまり声を漏らす。
にしても、セシリアってきれいだな~。
近くから見るとそれが余計に分かる。
肌は白く髪は金髪で顔だって整っていて、美人に入る部類だ。体のほうはISスーツという水着のように体のラインが分かるようなエッチなスーツなので体の凹凸がよく分かる。胸は小さいわけではないが、巨乳というわけでもない。私と同じくらいの大きさで美乳というのが似合う胸だ。腰はほどよく引き締まっている。スタイルはまさにモデルと比べても遜色ない。
まあ、それは私もなんだけどね! 自分で見てもセシリアと同じくらい、いや、それ以上だと自負している。それだけ私が可愛くて美しいのだ。
おっと、今はセシリアだ。私は今はどうでもいい。
こうしてセシリアの体を観察した私は次は感触を確かめた。
セシリアの体はやわらかかった。だが、ただやわらかいわけではない。鍛えられた筋肉の硬さが混じったものだ。その混ざり合ったやわらかさが触り心地がいいのだ。私のも同じくらいだ。
うん、やっぱりただやわらかいだけじゃダメだよね。ほどよい筋肉による硬さも必要だね。ん~早く私のものにしたいな。
こうして初めてセシリアに接触できたことで私のセシリアへの想いが余計に高まってしまった。
「じゃあ、戻るわよ。もし痛むことがあったら言ってちょうだい」
「分かりましたわ」
私はその気持ちを隠しつつ、平然とそう言った。
私はセシリアの体を上手く動かさないようにしながらピットまで飛んでいった。
セシリアは終始なにもしゃべらなかった。というよりも恥ずかしさでしゃべれなかったようだ。
セシリアをピットまで運び、セシリアを椅子に座らせる。
「ありがとうございます」
「いいのよ。もともと私がそうさせちゃったんだから」
私もISを解除する。ただし、私が使っているISは専用機ではなく、この学園の訓練機なのでセシリアのようにアクセサリーにはできない。ISの装備が場に残るのだ。
私は乗り物から降りる感じでISを解除した。そして、使ったISを見る。
うわ~やっぱりところどころボロボロじゃん。
セシリアの攻撃を受けたISは試合前とは違い、なんだか新車から中古車のようになっていた。しかも破損だらけ。
やっぱりちゃんと生徒会長モードにしとけばよかった。あのモードならばもっと冷静になれて動揺なんてしなかったのに。
私が反省をしているとアナウンスがピット内に響いた。それは約二十分後にセシリアと一夏の試合をやるということを知らせるものだった。
私はセシリアに向き直る。
「セシリア、あなたはその状態だけど大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫、ですわ」
セシリアがそれを証明するために体を動かした。だが、セシリアは顔を歪めたりしたりして、誰がどう見ても大丈夫ではない。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 全然そうは見えないわよ! やっぱりゆっくり体を休めないと!」
「だ、大丈夫ですわ。内臓にも骨にも損傷はありませんから」
そうは言うが私はセシリアが心配で堪らなかった。
「それよりも約束を果たしましょう」
「え? 約束?」
私は何のことか分からなかった。
「あ、あんなことを約束したのに忘れましたの!? うぐっ」
目を見開いてちょっと怒ったように言う。だが、すぐに痛みで顔を歪める。
「ちょ、ちょっと待って。すぐに思い出すから」
「はあ……わたくしが言いますわ」
呆れた顔でそう言われた。
「勝ったほうが負けた側に何でも一つだけ言うことを聞かせることができるという約束ですわ」
「あっ!! そうだったわね……」
そもそもこの勝負を受けた理由はこの約束をするためだったからだった。だから私はがんばったのだ。それを忘れていたなんて。
「なら今、それを言ってくださいな」
「え? 今?」
「ええ、今ですわ。試合全てが終わってからでもよかったのですけど、気になって次の試合に集中できませんから。わたくしの心の準備はできてますわ。さあ、どうぞ」
セシリアはどんと構えていた。
だが一方の私は試合が終わってから言うつもりだったので、こっちの心の準備ができていない。
これって絶対に今言わないとダメなんだよね。つまり今すぐに心の準備をしないと。
そう思って心の準備をするのだが、言おうとしていた内容を考えると鼓動が激しく鳴って緊張してきた。
「どうしましたの? 顔が真っ赤ですわよ」
「!! そ、そう?」
「ええ、真っ赤ですわ」
セシリアが心配そうに私を見る。
「だ、大丈夫よ。言うから」
「本当は言わないでほしいですわ……」
セシリアはさっきと変わっていやな顔をした。
まあ、今から言うことはセシリアが絶対にやらなければならないことで、それを拒否することはできない。例えばセシリアに奴隷と私が言えばセシリアはそれを従わなければならない。それはプライドが高いセシリアには屈辱的なことだ。セシリアがそう思って当然だ。
その反対に言う側である私はセシリアを自分の好きなようにできるという立場だ。屈辱的とかそういう感情はない。むしろやった! という感情しかない。
「セシリア」
私はセシリアにそっと近づき、そうセシリアの名前を呟くように呼んだ。
「私が今から言うことは絶対よね?」
「……ええ、絶対ですわ」
セシリアは嫌な顔をして言った。
「ふふ、そうよね。私がこれから言うことは絶対だからね」
「…………」
「そんな顔をしないで」
「……あなたは自分の運命を決められるようなことでも笑っていられますの?」
「それも……そうね。でも、さっきはそんなふうじゃなかったわよ」
さっきはどんと来いという風な顔だった。けど今はそれはない。
「それはただの見栄、ですわ。ただその見栄もそのときになるとなくなってしまった。ただそれだけ」
それはセシリアのプライドが砕け散ったかのように感じた。見栄はプライドの表れだから。
「じゃあ、言うわよ」
「ええ」
私は大きく深呼吸をして自分を落ち着ける。
しばらくすると完全ではないが落ち着いた。
よし! 言おう! 私の願いを!
「セシリア、あなたは今から私の恋人になってもらうわ!」
私は嫌な顔をしていたセシリアにそう言った。
そう、私がさせようとしていた約束はセシリアを恋人にすることだ。すべてはこのためだけにセシリアたちの決闘に割り込んだ。セシリアを奴隷とかそういうことは全く考えなかった。だって私の目的はハーレムだもん。そういう上下関係なんて求めていない。恋人という対等な関係を求めている。
まあ、拒否不可能なこの約束による恋人関係のどこが上下関係なく、平等な関係なのかという疑問が生じるが。そこは仕方ない。
「い、今なんと?」
セシリアが先ほどの嫌々な顔から変わって引き攣った顔で聞いてきた。
「私の恋人になりなさいって言ったの」
「じょ、冗談ですわよね?」
「冗談じゃないわ。本気よ」
こんなことを冗談では言わない。本気なのだ。
「あ、あなた、わたくしの性別を勘違いしていません? わたくしはあなたと同じ女性ですわよ?」
「知っているわ。あなたが女性だからそう言ったのよ」
「ど、どういうことですの?」
「本当は分かっているのでしょう?」
私が異性ではない同性であるセシリアに恋人になってほしいと告白(?)したのだ。頭のいいセシリアならすでに分かっているはず。
「わ、分かりませんわ!!」
だが、それを分かりたくないセシリアは声を上げてそう言った。
「なら教えてあげるわ」
私はさらに近づく。そして、その頬に手をやった。
セシリアは私の手が自分の顔に触れた瞬間にびくっとなる。
「ふふ、そんなにびくってしなくて別にまだ何もしないわよ」
何かするのはちゃんとセシリアが私のことを好きになってくれてからだ。
今のセシリアは私のことが好きではないのは知っている。きっと嫌いレベルだと理解している。それが簪よりも長い時間がかかると分かっている。
私はセシリアからの愛を求めているのだ。欲を発散するための体との接触ではない。だからそのためだと思えば長い時間など我慢できるのだ。
「私はね、異性よりも同性のほうが好きなのよ。もちろんこの好きは友人に抱く好きじゃなくて異性に対して抱くほうの好き。反対に異性は嫌い。異性をそういう対象で見ることなんてできない」
「じゃあ、あのとき織斑 一夏のことを嫌いと言ったのは……」
「ええ、私が同性愛者だから。だから一夏が嫌いって言ったのよ。これで理解した?」
「理解は……しましたわ。そして、恋人になるというのは別に何も言いません」
つまりそれはセシリアが私の恋人になることを承認したということ。
私は自然と喜びの笑みをこぼした。
ついに……ついにセシリアも私のものに! 私の夢がまた一歩!