精神もTSしました   作:謎の旅人

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第113話 私たち、ついにその夜に

 そんないちゃいちゃをしていたらようやく元の場所へと帰りついた。

 その時点ですでに九時を過ぎていたから結構遅くまで外に出ていた。

 うわあ、何だか悪いことをしている気分になるなあ。

 この学園には様々な国の生徒がいるので、門限的なやつは十二時になっている。問題はないのだけど、普通、寮のある学校ってもっと早い門限だからね。そういう気分になってしまう。

 それに家でも家族なしでこんな遅い時間まで出歩くなんてなかったから。それもあると思う。

 

「真っ暗ですわね」

「だね」

「わたくし、こんなに暗くなるまで外を出歩いたことはありませんわ」

「そうなの?」

「ええ。とは言っても家族以外で、という話ですわ」

 

 そう言うセシリアは何だか寂しげである。

 ホームシックってやつなのかな? 私、恋人たちのことは知りたいとか思っているけど、家族とかに関してはあまり聞いていない。

 セシリアの反応を知った私はそういう精神的に癒したいという気持ちから、恋人たちの家族を知ることも必要だなと思った。

 もちろんあまり言いたくはないのだったら無理して聞かないけどね。

 

「私も家族がいないときでは、今日が初めてだよ」

 

 セシリアの表情に気づかないフリをして言った。

 それからは自分たちの部屋へ戻る。

 部屋には誰もいなくて、もう一人の恋人の簪は友人のところかな。今日は朝に寝顔を見ただけだからちょっと物足りない。

 いや、今日はセシリアとの一日だ。今日はそれでいいのだ。今日はこれ以上他の恋人たちのことは考えない。セシリアのことだけ考えないと。

 私だって恋人たちが私と一緒にいるときに別の人のことを考えるのは嫌だからね。

 

「じゃあ、私から入るね」

 

 入ってしばらくは互いにこれからのことを意識して沈黙が続いたのだけど、何とか勇気を出して私が言った。

 

「え、ええ」

 

 セシリアは恥ずかしそうに返事をする。

 それ以上の会話が続かなかったので、逃げるようにお風呂場へ向かった。

 さっそく服を脱ぎ、お風呂へ入る。

 今日はセシリアの初めてなので、いつも以上に綺麗に洗う。

 

「簪、千冬お姉ちゃん、そして、セシリア」

 

 処女を奪った恋人とこれから奪う恋人の名を呼ぶ。

 恋人たちを道具とかのようなただの物扱いする訳じゃないけど、私が奪ったというのは私の物だという証明になると思っているから。だって、消えないものだからね。

 そんなことを考えていたらちょっと興奮してしまった。

 慌てて別のことを考えて冷静になる。

 危ない危ない。今からセシリアとするのだというのにこんなところで一人でしてたらダメだよね。

 しっかりと洗った私は風呂を出て、ちょっとだけエッチな下着を身に付ける。

 女同士なので、普通ではなくとも、少し特別な下着にすればいいのだろうけど、これからすることは性的なことである。エッチな下着で問題はない。それにこれまでの行為で、恋人たちは皆エッチな下着のほうがいつもより興奮するというのは確認済みである。セシリアもそうだ。

 なので、これでいい。

 服のほうだけど、こちらはバスローブを。

 何かエッチな服があればよかったのだけど、ないので、バスローブだ。

 

「やっぱりエッチなの買ったほうがいいかなあ?」

 

 下着の上にバスローブを着た自分を鏡で見て、そう呟いた。

 正直、バスローブなんて脱がせやすいという点でしかメリットはない。興奮は微妙だろうなあ。

 うん、今度買おう。

 さて、私の準備が終わったので、脱衣所を出た。

 

「終わりましたのね」

「う、うん。その、私、バスローブなんだけど、いい?」

 

 これからの相手はセシリアなので、セシリアにこの姿の意見を聞く。

 

「いいですわよ」

「そう? その、あまり色っぽくないけど」

「大丈夫ですわ。今のあなたの姿は十分色っぽいですわ」

 

 セシリア、優しすぎる!

 チョロイ私はまたセシリアに惚れ直した。

 

「あ、ありがとう」

「ふふふ、そんな顔をされたらわたくし、あなたを襲いたくなりますわ」

「うう~」

 

 これから本番をやるので、今は襲ってほしくはないのだけど、襲ってほしいと思っている私がいるので、何も言えず唸るしかなかった。

 ここからはセシリアの判断に任せるしかない。

 セシリアが私を襲いたいのならばそれに身を任せるし、ただのそういう感想で、行為は後からなのならば後からする。

 そう考えて、待っていると目の前に立っている私に向かって、セシリアが近づいてきた。セシリアが近づいたため、セシリアの匂いがする。

 やばい、興奮する。

 その興奮を助長させるかのようにセシリアが私の腰に腕を回し、密着するほど私を近づけた。

 

「ん」

 

 ちょっと強く引き寄せられたから、変な声が出た。

 ちょっと恥ずかしい。

 

「いい香りですわ」

 

 密着したセシリアは私のバスローブの肩部分をはだけさせ、そこに顔を埋め、私の匂いを嗅いだのだ。

 風呂上りなので、抵抗はしない。

 さすがに運動後とかだったら抵抗はしたけどね。まあ、その抵抗が本気の抵抗かどうかと問われれば違うんだけど。

 

「そう?」

「ええ」

「ボディソープとかの匂いじゃない?」

「それもありますけど、詩織の匂いもありますわ」

 

 私の匂い、か。どんな匂いなのだろうか。

 『詩織』の匂いを嗅いで、堪能したいのだけど、私は『詩織』で、『詩織』は私なので、それは叶わない。

 私も嗅ぎたいな。

 

「セシリアもいい匂いだよ」

 

 自分のは嗅げなかったので、代わりにちょうどよく密着しているセシリアの匂いを嗅ぐことにした。

 私の恋人はセシリアだからね。『詩織』のことを考えるのはダメだ。

 

「だ、ダメですわ。詩織と違ってわたくしはまだお風呂に入っていませんわ」

 

 セシリアが離れようとするが、今度はこちらが腕を腰などに回し、その抵抗を防ぐ。

 

「だ~め! 逃がさないよ。セシリアだって私の匂いを嗅いでたもん。私だって嗅いでもいいでしょう? それに別に臭くないよ。いい匂いだよ」

「そ、それでも気にしますわ。いつも言っているでしょう?」

「言っているけど、私もいつも言っているように気にしないよ」

「うぐっ」

 

 いつものことなので、もうセシリアは何も言えなかった。

 その間にも私は臭いを嗅ぎ続ける。

 すう~、はあ~、やっぱり女の子っていい匂いがする。そして、興奮する。匂いで興奮する人の気持ちが分かる。というか、うん、匂いで興奮する人は私か。

 

「詩織、息が荒いですわ」

 

 どうやらすでに私は興奮しているらしい。それも息が荒くなるほどに。

 

「ね、ねえ、セシリア。す、する?」

 

 セシリアはまだお風呂に入っていないけど、興奮しているので、そう言ってしまう。

 

「ふふふ、そんなにすぐにしたいんですの?」

 

 そんな私をセシリアはいじめて楽しむかのように私の体を指先で触るだけで、いつものように思いっきり触ってはくれない。

 本当は思いっきり触って襲ってくるほどの勢いでしてくれていいのに。

 それがわかってセシリアはやっているのだ。

 いじわる……。

 潤んだ私の瞳で甘えるようにセシリアを見るが、それに効果はない。いや、あるけど、余計に私をいじめてくる。

 

「詩織は本当に可愛いですわね。そのような顔をしてよほどいじめてほしいんですの?」

「ち、違うよ! おねだりしているの! もっとしてって!」

「ふふふ、おねだり? わたくしにはいじめてほしいって顔にしか見えませんわ」

 

 嘘だ。そんなはずはない。

 潤んだ瞳で上目遣いをしたのだ。そんな可愛い仕草をした自分を想像するけど、とても可愛くて、いじわるをしたらどんな可愛い顔をしてくれるのだろうかと――あれ?

 おかしい。

 なぜかいじめてしまう。

 

「まあ、いじめるのは後ですわ」

 

 私をいじめるのは確定みたい。

 

「今からお風呂に入りますわ。その、いつもより時間はかかりますけど、それはいつもよりも念入りに洗っているからですわ」

 

 セシリアは恥ずかしそうに言った。

 

「だから、待っている時間が長いからといって、一人でするのはダメですわよ」

「や、やらないよ! ちゃんとセシリアを待つよ!」

 

 これからセシリアとするというのに一人で始めるほど、我慢できない子ではない。

 私がプンプンと怒っている間にセシリアがお風呂へ向かった。

 一人になった私はちょっと寂しくて、その場に小さくなる。プンプンとなっていたものも、空気のない風船のように萎んでいる。

 もっと構ってほしかったなあ。

 私が思っていたのはプンプンと怒った私を、頭を撫でたりして宥めてくれている構図だったのに。

 なのに、こんなにあっさりと……。

 これから構う以上のことをするのだけど、それはそれ、これはこれである。どうせ減らないのだから、ちょっとくらいは構ってほしかった。

 

「早くお風呂から上がらないかなあ」

 

 セシリアがお風呂に入ってからまだ五分も経っていないのにそう思ってしまう。

 寂しいので、ディスプレイを起動して、恋人たちが映った写真を見て、紛らわせることにした。

 別にエッチな写真とかではない。普通の日常を写した写真ばかりだ。こっそりと撮ったものが多いので、カメラ目線なのは少ないけどね。

 

「ふわああ~、やっぱりみんな綺麗だし、可愛いなあ」

 

 盗撮した――ごほん、こっそりと撮った写真は本人が知らぬ間に撮った写真なので、どれもポーズなどは取っておらず、自然体である。ポーズを取った写真もあるけど、個人的には自然体のほうがいい。まるで、実際にそのときの光景を見ていたように感じるから。

 ただ、そんな数多くの写真がある中で不満なことがある。

 それは束お姉ちゃんの写真が全くないということだ。

 千冬お姉ちゃんは同じ学園にいるし、放課後に部屋へ行ったりするので、写真を撮る機会はたくさんある。

 しかし、束お姉ちゃんは違う。

 束お姉ちゃんは世界から身を隠しているということもあり、そう簡単に会うことは出来ない相手である。しかも、恋人だというのに会った回数は片手で数えるほどしかない。

 そのため、全く写真がないのだ。

 一応、インターネットを探せば、ISが出来たころに撮られた写真や動画などがあるのだけど、それはなんか違う。全て撮られることが前提のもので、自然なものがない。

 いや、束お姉ちゃんのことだから、ある意味自然なのだろうけど、家族や恋人の前で見せるものなのかと言われれば違うものだ。

 何となくそれが分かる。

 はあ……、束お姉ちゃん、今、何をしているんだろうかな。

 先ほどはセシリアとの二人きりの時間だから他の恋人のことは考えないとか言っていたが、数多くある写真の中で束お姉ちゃんの写真がないということで、つい考えてしまう。

 

「今度、束お姉ちゃんと話そう」

 

 束お姉ちゃんの連絡先は一応聞いている。

 でも、私が原因で迷惑をかけてしまうのではないかと恐れていた。

 しかし、それで本当にいいのかと思う。

 だって、私たちは恋人である。束お姉ちゃんだって私に会いたいと思っているはずである。……自惚れじゃないよね?

 これを機に話すだけでもするのはいいかもしれない。もちろん、迷惑をかけないように様々な手を使うけどね。

 よし、そうしよう。

 セシリアを待っている間、私は束お姉ちゃんとの交流のための計画を練っていた。


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