それからはちょっと怒った簪がこちらを見ていたので、セシリアにも聞こえるようにあの非常事態のときに簪がやらかしたいたずらについて言ったので、簪は私に怒りを向ける暇すらなく、セシリアへの弁解に必死だった。
え? 仲が悪くなる? 元はと言えば簪が悪い。あれはさすがにやりすぎだ。べ、別に簪からの怒りの視線が怖かったからじゃないし。それでその視線を誤魔化そうとした訳じゃないし。
もちろんのこと、取り返しの付かないところまでいかないようにはしている。
結果、二人はちょっと喧嘩したけど、最後は仲直りした。
「その、詩織」
例の罰ゲームでメイド服を着て、三人でテレビを見ていると、セシリアが話しかけてきた。
「何?」
セシリアの顔はやや顔を赤くしている。
別にただ単にテレビを見ていただけで、私は何もしていないので、なぜ顔が赤いのか分からない。
一応、顔が赤いから別にシリアス的なものではないと思う。
「その、明日は土曜ですわ」
「そうだね」
「ですわよね。その、詩織はすでに私以外の方と、今まで以上のことをされていますのよね?」
セシリアに問われ、それが何を意味しているのかはすぐに分かる。
それと同時にセシリアが何を言いたいのかが分かった。
でも、あえて言わない。セシリアの口から言わせたい。
「今まで以上って?」
私がニヤニヤしながら聞く。
「うう、し、詩織! 絶対に分かっていますわよね!?」
「え~、何のこと?」
わざとらしくとぼける。
「も、もう! その、エッチ、ですわ!」
顔を真っ赤にしてセシリア。
ああ、その言動が見たかった!
満足した私は頭を撫でる。
「ふふ、そうだね。簪と千冬お姉ちゃんの二人とはしたね」
「で、ですから! その、よろしい、ですの?」
「いいよ」
私はセシリアに口付けをしながら言った。
「オルコット、私が……いるん、だけど」
目の前で自分の初めてを貰ってと言われ、自分の目の前でいちゃいちゃされたのだ。特にセシリアの『エッチしたい宣言』の部分で少し引いている。
まあ、私もそういうエッチな内容を堂々と言ったり、言われたりするのは思うところがあるんだけど。
「知っていますわよ。ただ、あなたも詩織とするときは報告してくれましたし、わたくしも言っておこうかと思って言っただけですわ」
「理由は……分かった、けど、いちゃいちゃまで……しないでほしいんだけど」
「それは詩織に言って下さいまし。わたくしというよりも詩織がやってきましたのよ」
「わたしもいるんだから……抵抗してほしい」
「無理ですわよ。詩織からされたら抵抗なんてできませんわ。あなただってできませんでしょう?」
「うぐぐ」
二人が私を挟んで話す。
ただ、そんなに邪険なものではない。
「ともかく、更識さん。その、明日は悪いのですけど、お願いしますわ」
「ん、分かった。明日の夜は……友達の部屋に、泊まりに行く」
「感謝しますわ」
「別に。お互い、様。ただ、その、明日の夜は覚悟したほうが……いい」
「えっと、覚悟ですの?」
「そう。その、前に言ったけど……詩織は暴走する、から」
「そ、そういえばそう聞きましたわね」
二人とも、本人の目の前で悪口みたいに言わないでよ。
それに、べ、別に暴走してないよ! ただ、私の性欲が強かっただけだもん! それに簪も千冬お姉ちゃんも可愛すぎるのが悪い!
「あと、あまり泣き顔とか……見せないほうがいい。詩織が喜ぶ、から」
「ええ……。そ、それって興奮するってことですの?」
「みたい」
だから、二人とも。本人の目の前で言わないでよ。
あと、セシリア。引かないで。べ、別に泣き顔が好きってわけじゃなくて、可愛かっただけだから。
「わ、わたくし、大丈夫かしら。正直、いつものでもいっぱいいっぱいという感じなのですけど」
「だい、じょうぶ。私もそうだった。でも、後半は詩織に任せれば……いい。勝手にして、くれる」
「安心した、と言っていいのか困りますわね。でも、その、されるだけで詩織のほうは満足していましたの?」
「問題ない。詩織、私にだけじゃなくて、自分も満足するようにやる、から」
「なら、問題はありませんわね」
セシリアは簪に夜の話を聞き、簪は自身が体験したことを基にアドバイスをする。
「ねえ、二人とも。その本人がいるのってさっきから気づいてる?」
先ほどのように言葉には出さずにしようかと思ったけど、さすがに限界である。そろそろ私がいるということを配慮して話をしてほしい。簪が言っていることは事実なんだけど、聞いているこっちとしてはとても恥ずかしいのだ。
なんだろう。自分の性癖を客観的に見ているという感じがして、他人の性癖を聞いているって感じなのだろうか。そして、その性癖を聞いて恥ずかしいことだと感じている。
あれ? ってことはつまり、自分のやっていることは恥ずかしいことなの?
思わずそんな結論に達してしまう。
これが主観と客観の違いというやつか。
うん。こんなエッチな話でそんなことを学ぶなんて……。
「もちろん知ってますわよ」
「ん、知ってる」
そんなおかしなことを学んでいる中、二人はそう言う。
「わざわざ詩織の目の前で言ったのは……少しは自重してほしい、ってこと……。き、気持ちいいのは……いいんだけど、は、激しすぎる。あれじゃ、体が持たない」
簪が顔を真っ赤にし、俯きながら言う。
「うう、そ、それはもちろん、やりすぎたかなって思うときはあるけど、べ、別にいいじゃん! それに毎日のようにやってないし」
朝までしちゃうから平日にしちゃうと翌日の授業に悪影響を及ぼすからね。
「当たり前。あんなの毎日……され、たら、こっちの身がもた、ない」
「そ、そんなに……」
セシリアが物理的に引いたような気がする。
「さ、更識さん、わたくしちょっと不安になりましたわ」
「大丈夫。私も、初めては……不安、だったけど、されてると不安もなく、なる」
「うう、ここは信じるしかありませんわね……」
セシリアが不安そうにするが、正直こっちの不安というか、テンションが下がるんだけど……。
これでも繊細なんだけどな。
「こほん! 二人とも! もうその話は止めようか。それよりもセシリア!」
「は、はい!」
「セシリアは朝から、その、するってわけじゃないよね?」
「ええ。わたくしとしては夜がいいですわ。詩織が朝からがいいというのならば、わたくしもそうしますけど」
「ううん、夜にしよう」
さすがの私も朝からセシリアと気はない。何というか盛り上がらない。
まあ、確かに昼間から軽くエッチなことをしたことがないってわけじゃないけど、それは何か興奮する要素、例えば、ほら、観覧車の中とかお風呂場とかシチュエーションというやつがあるのだ。人工的ではない自然にできたシチュエーションが。
というわけで、朝からはしない。
では、何をするのか?
多分それは私もセシリアも決まっている。
「じゃあ、昼間はデートにしようか。夜は……ね?」
「ええ!」
ざっくりとした計画だが、セシリアは喜んで頷いた。
そんなに喜ばれるとやっぱりこちらもうれしくなる。さっき下がったテンションも劇上がりだ。
えへへ、どこへ行こうかな~。
「セシリアはどこか行きたいところある?」
「そうですわね。水族館へ行ってみたいですわ」
「水族館か。いいね!」
水族館へ行ったのはもう小さいときに行って以来である。つまり、数年ぶりというわけだ。
懐かしいなあ。あの時の私は小さくて、前世で大人だったというのに、あの時はもうただの幼子としてはしゃいでいた。それくらい水族館は興味があるし、好きだ。
特にイルカなどのショーは結構好きである。
あの巨体が水面から宙へ大ジャンプをするのはまさかにショーの中でも一番好きなシーンである。
他にもパノラマ水槽が好きだ。
通常は見ることのできない魚の群れを見ることだってできるし、大きな魚だって見ることもできる。そして、何よりもある意味、自然の海を見ることができる。
海に潜るなんて簡単にはできないから、海の中の自然を見ることができる水族館は好きだ。
「セシリアはどこがいい? ただ、日帰りになるからそんなに遠いところにある水族館は無理だけど」
「詩織に任せますわ」
「いいの?」
「ええ。その、実のことを言うと前回と同様に水族館に行ったことがありませんの。だから、詩織に任せますの」
「分かった!」
とは元気よく言ったものの、結構責任重大である。
前回は遊園地で、その遊園地はテレビのCMに出るくらいは有名だった。
ならば今回も有名な水族館へ行けばいいだろうと思うだろうが、しかし、テレビで水族館のCMはそんなに多くはない。
なので、水族館は自力で探すしかない。
むむ、困ったな。セシリアは水族館は初めてだってことだし、変な水族館に行って嫌いになっても困る。
むう、近くに評判のいい水族館はないだろうか。それを見つけないと。
「二人とも……それ以上はダメ。テレビ見よう?」
私達二人が仲良く話していて、仲間はずれになっていた簪が言う。
そうだった。テレビを見ていた途中だった。
というわけで、それからは話を止めて、テレビを見ることに集中した。
デートが明日とはいえ、情報収集だけならばすぐにでも終わる。みんなでテレビを見終わってからでもいいだろう。
ちなみに今見ている番組だが、動物が出るバラエティ番組である。
この番組は可愛いだけの動物を紹介するだけではなく、絶滅危惧種や密漁されている動物についても紹介されているので、教育という意味でも為になる。
なので、結構視聴率などは良いらしい。
これは日本の番組なので、私と簪はこの学園に来る前から見ていたが、セシリアは今日が初めてだ。
水族館という行き先が出たのも、この番組が影響しているのかもしれない。さっき、イルカとか出てたし。
「はわああ~、可愛いですわね~」
今は先ほどのイルカ繋がりで海の動物の一種であるアザラシの赤ちゃんが紹介されている。野生ではなく水族館にいるアザラシの赤ちゃんなので、画面いっぱいに毛で覆われたアザラシの顔が映る。
セシリアが声に出してやや色っぽい声を出し、私と簪はだらしない顔を晒す。
私も簪もセシリアも可愛いものには弱いようだ。
私達は番組が終わるまでデレデレとした顔を止めることはできなかった。