格納庫へ向かう途中は避難している生徒たちと会ったりもしたが、このような緊急事態なので、周りとは逆方向へ向かう私については誰も何も言わなかった。
おかげで格納庫までは引き止められることもなく、向かうことが出来た。
だが、やはりこのような緊急事態ということで、格納庫には先生などでいっぱいである。もちろんISを装着している者もいる。
だが、全てのISが使用されているわけではないようだ。
むむむ、どうやってISを装着しようか。人が多くて、辿り着く前に阻止される。
だけど、二人のことを考えると時間がない。ならば強引に行こう。
私はそう決断して、すぐさま行動に移す。
目指すは一番近くにあるISだ。私はそれに向かって全速力で走った。
「なっ!? 生徒!?」
ただ、やっぱり気づかれる前にISに乗るというのは無理だったみたい。一人の先生に見つかった。だけど、止まる訳にはいかない。
周りが私へ制止の声をかけるが、私はISの元へと着いた。そして、すぐに装着する。
あっ、ちなみにISスーツではなくて、制服だ。ISスーツはISとの接続の手伝いをする役割を持っているだけで、別に動かすだけならば必要ないものだ。もちろん、ISスーツを着たほうがいいに決まっているが。
さて、装着完了!
だけど、
「待ちなさい! ISを使って何をするつもりなの!? まさかとは思うけど、あそこへ行くつもりじゃないでしょうね? ダメよ。あなたは生徒よ! ここは私たちに任せなさい!」
周りがそう言ってくるが無視だ。
私がアリーナへ向かっていると周りのISを装着した先生たちが立ちはだかる。
「行かせないわ! それ以上の行動は許容できないわ! 今なら軽い処分で済むわ」
そう言われると今すぐ止めたくなるが、今回は二人の命の危機なので覚悟する。
だけど、覚悟を決めた瞬間、一人の先生が格納庫へ入ってきて、
「待て。その生徒の行動は私が許可している」
そう言った。
「お、織斑先生!」
千冬お姉ちゃんだった。
「しかし、生徒です! 我々教師が対応すべきです! まだ子どもである生徒を危険な目にあわせるなんてことは許されません!」
「そうだ。だが、これは演習ではない。ここはこの問題に対処出来る者が出るべきだ。その生徒の実力は私が保証するし、私が責任を取る」
「で、ですが!」
「くどい!」
千冬お姉ちゃんが一喝した。
それで周りの先生たちが静かになる。
さすが千冬お姉ちゃん。
「月山 詩織、今聞いていた通りだ。行け」
「はい、行きます」
私は千冬お姉ちゃんの言葉に従い、外へ向かう。
周りの先生たちは混乱して私を止めるべきなのかを迷っていて、実際に止めようとする者はいなかった。
ありがとう、千冬お姉ちゃん!
私は心の中で礼を言ってアリーナへ出た。
すぐに私も参戦しようとしたが、アリーナでは一夏に向かってビームを放ち、そのビームに向かって飛び込んだ一夏がビームを切り裂き、さらにISをも切り裂いた姿だった。
つまり、戦闘終了である。
一夏に切られたISはバチバチというショートした音を立てて倒れた。一夏もかろうじて意識を保っている状態だ。
ほう、自分よりも格上をやっつけたのか。
私は一夏を賞賛する。
とっ、その前に。
「鈴」
「っ! 詩織!」
鈴が私に駆け寄ってくる。
見たところ、大きな怪我はないようだ。
「無事?」
「ええ! 一夏がやってくれたわ」
「そのようね」
と、鈴の無事を確認し、一夏が倒れそうだったので、支えようとしたところ、再び空から先ほど倒したISとは別の謎のISがアリーナの真ん中に土煙を上げて着地してきた。
「詩織、逃げて!」
鈴がそう叫び、
「くうっ、ま、またか……」
意識が飛びかけた一夏が呻く。
おや、どうやら私にもまだ出番があったらしい。私が出ててよかった。
私はゆっくりと近づく。
謎のISは一夏と対峙していて、こちらをロックしていない。
「一夏、よく鈴を守ったわね。後は私に任せなさい」
一夏の隣を通り過ぎながら言った。
一夏はすでに限界なのか、ゆっくりと倒れた。ただ気を失っただけである。
あとで鈴を守ったご褒美として何か送ろう。
「し、詩織!」
鈴が止めようとするが、その前にようやく謎のISが私を認識したようでこちらをロックしてきた。しかも、すでに攻撃態勢に入っていて、すぐにでも攻撃を仕掛けてきそうだ。
もはやここで行動を止めればこちらの命に関わる。
武器であるブレードはすでに手に持っているので、こちらもすぐに攻撃できる。
これからするのは一方的な蹂躙、いや、蹂躙とさえ言えないものだろう。何せ謎のISは私の
それは蹂躙ではない。
そんな私がするのはただ謎のISに近づいて、一回だけブレードを振るだけである。それを今からするのだ。
言葉だけならば誰でも出来るようなことだ。
もちろんのこと、今から攻撃されるというこの状況で、歩いたり、走ったりして近づこうとしても、近づく前に攻撃される。
だから、私のこの化物のような身体能力を使った移動法である、前に試合で使った『瞬動術』を使うのだ。
その結果、ほら、この通り、私は相手の懐に潜り込むことが出来た。
あっ、ちなみにだけど、このISはどうも無人機みたい。なぜ分かったのかだけど、気配云々もあるけど、一夏が倒した謎のISは人間の体がなかったからだ。人間の体かと思った部分はロボットだったのだ。今も血ではなく、何かの液体を流しているし、機械が見えている。
ということで、目の前の謎のISに対して本気で攻撃しても大丈夫だ。
相手が実は人間だったとき? そのときは、あ~、しまった、とは思うが、ただそれだけだ。
何せ相手は襲撃者である。そして、こちらは襲撃された側。相手の命を奪ってしまってもこちらの正当防衛は十分通じる。
というわけで遠慮はしないのだ。
「……『一閃』」
私の必殺技を呟くと共に、得物を持つ私の手は神速の一撃を放った。
その一閃は謎のISを上下に真っ二つにした。
だが、人間ではなく、機械が操るISだ。ただ真っ二つにしただけでは倒せなくて、宙にいる上半身が動きを見せる。
むう、せっかく一回で終わらせるって言ったのに~! ちょっとかっこ悪い。
ということで、再び神速の攻撃を何度か放ち、謎のISの上半身をバラバラにした。
そのとき、私の両手で覆えるほどの球を見つけた。配線がくっついている球だが、ISの勉強をしていた私には分かる。ISの
これがISの本体であり、誰にも中を見ることのできないブラックボックス。
そうだ。これはあれに使おう!
ISの
すでにバラバラであった残骸が『一閃』による衝撃により、上空へと吹き飛ばされた。
これをしたのには理由がある。
だって、このISたちは今回の襲撃の犯人(?)である。その残骸を調べる必要があるのだ。そのときにISで重要なコアがないというのは怪しまれる。そのためにこうして残骸を上空へ吹き飛ばし、幸いにもIS学園は孤島なので、海に落ちる残骸がある。流されたりもするのでISのコアがないとなっても問題ないわけだ。……多分。
それにまだ一夏が倒した一体があるからね。調べるならばこれだけでもいいだろう。
さて、ISのコアをこっそりと懐にしまった私はブレードを最後の締めとして、まるで武器に付いた血を飛ばすかのように一回振った。
ちなみにだけど、私が移動してからここまでにかかった時間は二秒もないくらいである。その一瞬の出来事である。
「ふう、もう来ないよね?」
まだ戦えるが、そんなことよりも簪たちのところに行きたい。
「詩織!」
そんなことを考えていたら、もう一人の恋人であるセシリアがこちらに来る。
セシリアは一夏たちと一緒に戦っていたので、ここにいてもおかしくはない。
「セシリア!」
私もセシリアのほうへ向かう。
セシリアは中距離、遠距離の攻撃が主というせいなのか、見た感じではまったくの無傷だ。
「怪我はないみたいだね」
「ええ、わたくしは隙を作った程度ですもの」
「そうなんだ。あとは二人が?」
「いえ、ほとんどは織斑さんの活躍ですわね。織斑さんが作戦を立て、凰さんが手伝った形ですわ」
「そうなの!? 驚きだなあ」
てっきり鈴の作戦とかで最終的に一夏がトドメを刺したって感じだと思ったけど、まさか一夏がやったのか。これには驚きだ。
まあ、よくやったと言っておこう。素人でここまでやったのだ。ちょっと色々と無謀なところもあったんだろうけど、最後までやって一体倒したのだ。それくらい見逃そう。そもそもはここは先生、または候補生の仕事なんだから。
え? 一夏に対して優しすぎるって? 私だっていつも一夏に対して悪いことを思うわけではない。それに私の義弟になる男だからね。まさか義理とはいえ、弟に対して憎しみを持つわけがない。
まあ、それも私の恋人候補に接触しなければという話だが。
「とりあえず、一夏と鈴を医務室へ連れて行こう。特に一夏はダメージが大きいみたいだからね」
と思っていると、先生たちが来て、事態の収拾を行い始めた。
と、同時に私は先生たちに連れられてとても叱られたけど。
ただ、怒られるだけで、他に罰などはなかった。多分、千冬お姉ちゃんが何か言ってくれたのか、それとも私の活躍のおかげか。
ともかく、結構長い時間叱られたが、何もなかった。
解放されるとすぐに私は簪たちのところへ向かった。
二人は私の部屋にいたので、すぐに会うことが出来た。
扉を開けてすぐ私は二人に抱きつく。
「二人とも! 大丈夫だった?」
見たところ大きな怪我はしていない。
しかし、小さな怪我をしているかもしれない。もしあれば治療しなければ!
「ない」
「わたくしもありませんわ」
二人はそう答える。
「本当に? 本当にない? 無理して隠してない?」
今回が命に関わることであったので、しつこくそう聞いてしまう。
だけど、そんな私に対して二人は二人で私の頭を撫でて何度も答えてくれた。
ふ、二人が優しすぎる!! 自分でもうざいくらい言っているのに何も言わずに答えてくれるなんて!!
「それよりも詩織は大丈夫ですの? わたくし、上から全てを見ていましたけど、一人で突っ込んでいましたわよ」
「!? そんなことを?」
セシリアが心配そうに言い、それを聞いた簪が少々怒った顔で聞く。
「だ、大丈夫だよ。傷一つないよ」
事実、私には傷一つない。
ただ、今日の戦闘で、バラバラにしたときに一瞬で『一閃』を何度も使ったので、筋肉痛になるかもしれないけど。
一回一回放つのならまだしも、あのように一瞬で連続で使うのはさすがに負担がかかるのだ。そのため、筋肉痛になる可能性が高い。
これって怪我になるのかな? 明日の朝が怖い。
「だそうですわよ、更識さん」
怒った顔の簪をセシリアがなだめる。
「そうみたい、だけど、そういう……問題じゃ、ない。私はてっきり……サポートとかそう言う役割かと……思って行かせたの。なのに、一人で……突っ込んだなんて……」
「更識さんの気持ちも分からなくはありませんわ。ですけど、こうして詩織が無傷で帰ってきましたのよ。それはもう忘れましょう? そして、詩織も今回のようなことはあまりしないで欲しいですわ。確かにあなたはとても強かったですけど、それでもわたくしも心配しましたわ」
セシリアは簪をなだめると共に私に忠告した。
なかなかお姉さんらしい対応である。最初の印象であるちょっと傲慢な、物語に出る貴族は今ではほとんどない。むしろお姉さんである。
むむ、私のほうが精神的に年上なのに! 何か私、叱られているし!
「わ、分かった。今度から、あまりしない」
「ええ、それでいいですわ。今回は助かりましたけど、本来はわたくしたちが対処すべきですわ」
私は頷いたが、もちろんのこといざとなれば今日のように行動するつもりである。
だって、単純な力ならばきっとほとんどの人に負けないし、技術だってちゃんとある。ISの技術では一歩遅れるが、それ以外にならば上回るのだ。今回のように役に立つことはあるだろう。
ということで、私も動くときは動く。
「ということで、更識さん。あなたはまだ専用機を持っていないようですし、持つまでは詩織のストッパーをお願いしますわ」
「ん、分かった。私も……詩織が怪我をするのは、嫌、だ」
二人はそう言うけど、私だって簪たちが怪我をするのは嫌なんだけど。
でも、ここで言ってもいたちごっこだろうな。ここは沈黙だ。