朝っぱらからいちゃいちゃしていた日から数日が経つ。
その間あったことといえば、久しぶりに夕飯を簪たち二人と食べたこと、鈴との距離が開くかなと思っていたけど、放課後にいつものように私の部屋に来てくれたこと、千冬お姉ちゃんの部屋に寝泊まりしたこと、親友である箒と一緒に恋愛相談しながら昼食を取ったことと対していつものと変わりのない日々であった。
さて、本日だけど、今日はあるイベントの日である。と言ってもISが発明されたこの世界ならではのイベント、つまりISを使ったイベントである。その名を『クラス対抗戦』である。
その名の通り、クラスとクラスがそれぞれの代表者と戦うイベントである。
で、その試合には鈴と一夏が参加する。簪も代表候補生なので、参加するかなと思っていたけど、どうやらどうにかしてクラス代表を免れたため、参加しないようだ。
なので、簪は私とセシリアと一緒に観戦している。
「詩織、見る、必要……ある?」
まだ対戦は始まっていないが、簪がそう言ってきた。
簪がまだ見てもないのにこう言うのは今から始まる試合が一夏と鈴の試合だからだろう。色々と一夏に恨みを持つ簪にしてみれば、一夏が出るというだけで見たくはないのだろう。
でも、
「あるよ! だって鈴がいるからね!」
一夏はともかく、鈴がいるのだ。興味がないはずがない。
ただ、うれしそうに私が言うものだから、私の両隣にいる恋人二人からは周りにばれない程度に私の足を抓ってきた。
いたい……。
「ふふふ、わたくしたちが隣にいるのに何別の方の名前を呼んで喜んでいますの?」
セシリアは笑ってそう言うが、今もずっと抓ったままである。あと、目が笑ってない。
「オルコットの……言う、とおり。私達が隣にいる、のに、別の女の名前、呼ぶなんて。しかも、喜んで」
「別にあなたの恋人が増えようが構いませんけど、あの方はまだ恋人ではありませんわ。だからムカつきますの」
「私も別に恋人が……増えてもいい、けど、凰 鈴音はまだ違う。嫉妬して……当然」
どうやら二人がこうなのは鈴がまだ恋人ではないからのようだ。鈴が恋人になればそれはなくなると言っていると解釈していいだろう。
「そもそも凰さんは対戦相手の織斑さんが好きという話じゃありませんの。諦めたほうがよろしくなくて?」
「詩織、略奪愛は……あまり好きじゃ、ない」
二人が諦めるように言ってきた。
うう、た、確かに傍から見ると略奪愛だけど、べ、別に鈴に一夏の悪口とか吹き込んでないもん! 鈴の思いに任せてるもん!
だから別に略奪愛じゃない!
「……そんな顔をされますといじめたくなりますわね」
「同意」
二人はそう言いながら私をツンツンと突く。
「あら? もうすぐで始まりますわね」
「早く……部屋に帰りたい……」
「更識さん? あなたも代表候補生ならばもうちょっと興味持ったほうがいいと思いますわよ? わたくしたちはこの学園の生徒で同じ代表候補生なので、戦う機会は高いですわ」
「わかってる、けど……相手は織斑 一夏。それ、だけで……見る気がなくなる」
「更識さんは少し考えすぎですわ。もっと単純に考えたほうがいいですわよ」
まあ、セシリアの言うとおり、簪はもっと単純でいいと思う。
簪は一夏が関わっているってだけでこの通りすっかり興味なくすしね。別に悪いってわけじゃないけど、私も思うところがある。それは大人になったときのことである。大人になれば私の嫁として一緒になるのはもちろんのこと当然なのだけど、それでも私の恋人は現時点で複数いる。全員が家事に従事するというわけではない。その仲にはもちろんのこと、働く子だっているだろう。
え? 私が稼がないのかって? もちろん稼ぐ。
でも、私一人で稼げる金額で、みんなを養えるわけではない。
いや、養えないことはない。私には前世から受け継いだ技術がある。ハッキングである。ちょっと私が端末を弄れば、あっという間にお金持ちである。
まあ、これは最終手段である。あまりしない。
ともかく、簪が働く可能性だってあるから、もうちょっと柔軟になってほしいのだ。
まあ、簪は代表候補生ではあるが、ISを自作しようとしていることを考えると、そっち方面の仕事、つまり職人というか、研究系の職業に就けば興味ないものは興味ないでいいかもしれないが。
「それはオルコットに……そういうものが、ないから。あったら見たくないって……思うはず」
「分からないまでもないですけど、そのレベル程度ならわたくしは受け入れられますわよ」
「むう、それはオルコットが私じゃない、から、言えること。オルコットが私になった、ら、分かる」
「そ、そこまで嫌なんですの……」
さすがのオルコットもこの返しにはこれ以上何も言えなかった。
私も簪と一夏のことは知っているし、一夏をボコボコにしてくれって頼まれたから、結構思うところがあるんだなと思っていたけど、なんだか私が思っていた以上かもしれない。
「こほん、ともかく見ますわよ」
「……作業があったのに」
「はあ……確かに見るのは自由参加ですけど、あなたが詩織が行くならと自分で来たのでしょう?」
「うぐっ、だ、だって、織斑 一夏の試合が最初なんて……思ってなかった」
「対戦表見ませんでしたの?」
「……面倒だった」
「自業自得じゃありませんの」
ちなみにアリーナはいくつかあるのだけど、使っているアリーナは一つである。その理由は一年生の技術と三年生の技術はやはり大きく違うというのがあり、複数のアリーナで開催すると一年生の試合と三年生の試合があった場合、片方しか見られない。それを防ぐために一つのアリーナで開催しているし、一日全ての時間を対抗戦に割り振られている。
「簪、部屋で待っててもいいよ。私も一年生の試合を見たら、すぐに帰るから」
私が見る理由は主に鈴が出るからという理由である。鈴がいなかったら二人と一緒にいちゃいちゃしていただろうな。
だって、そっちのほうが時間を有効的に使っているって言えるでしょう? え? 周りの生徒の技量を見て学ぶ? 私、別にISの腕を磨きたいなんて思ってない。なので、別にいいのだ。
それに私の目的は前に千冬お姉ちゃんに言ったようにハーレムを作ること。ISは二の次なのだ。
「はあ……詩織は優しいですわね。更識さんはもっと考え方を変えたほうがいいですわよ。ほら、自室ではありませんけど、本来授業がある時間帯に詩織とこうしてくっついていられるんですわよ。いいじゃありませんの」
「むむ、それはいい……考え。なるほど。そう、考えるのも……いいかも」
「ですわよね」
すっかりと簪は気分をよくする。それを表すかのように簪は私との距離を詰めてきた。
この子、単純だ。
まあ、私も簡単に喜んじゃうんだけど!
「あっ、ほら、二人とも、始まるよ!」
アリーナのステージでは、ちょうど一夏と鈴が出てきて、対峙している。始まる直前だ。
それから開始の合図が鳴り、二人の試合が始まる。
それと同時に互いは接近し、互いの武器がかち合う。一夏のブレードと鈴の棒状の持ち手の両端に刃の付いた特徴のある武器。それが激しくぶつかる。
にしても鈴の武器って、槍みたいに、持ち手の片方に刃ある武器じゃなくて、両端に刃があるから正直使いにくいよね。
けれど、鈴はそれを巧みに操る。
それは曲芸ではない。完全な武で、鈴の持つ武器は相手を攻撃するための動きをしている。鈴もやはり達人に近い腕前を持っている。
まあ、私には勝てないけどね!
とはいえ、つい最近再び剣道を始めた一夏も中々やる。鈴が少しだけ手加減しているというのもあるが、それでも鈴の攻撃を上手く避けている。
むむむ、やはり才能なのかな?
「ねえ、セシリア。この試合、どっちが勝つと思う?」
私、一応強いけど、それは生身でのことであって、ISを使った戦闘に関してはまだ素人と言えるので、そのプロの一人であるセシリアに聞く。
「そうですわね。わたくしは射撃が専門なので、近接同士の戦いは詳しくはありませんけど、普通に考えて凰さんですわね。織斑さんはISの初心者ですもの。剣の腕はわたくしと戦ったときよりも上がっていますけど、これはISの戦いですわ。ISを使った三次元の動きと生身のときの二次元の動きでは、戦い方が全く違いますもの」
セシリアの言うとおり、ISは生身とは違って、三次元的に動く。動きが違うのだ。ISは空を飛べるので、ある意味、ISの戦いでは上下などないに等しい。その気になれば空を地面にして動くことだってできるだろう。そうなった場合、生身で培った武術など意味はなさない。何せどんな武術も
よって、セシリアの予想は妥当なものだと言えるし、私も同じ考えである。
ただ、別に一方的な戦いを予想しているという訳でもない。
鈴も達人に近いレベルとはいえ、達人ではない。まだまだ未熟である。
え? そういう私はって? もちろんのこと、前に説明したように達人ですが?
こほん、ともかく、一夏が勝つというわけではないが、鈴に対して一撃を加えることくらいはできるはず。
私としては一夏にはその一撃に期待している。
期待するのはもちろん、一夏に淡い思いとかそういうのではなく、千冬お姉ちゃんは私の恋人であり、将来一緒になる人なので、つまりはそのときの一夏の立場は義弟である。
少しは弟として見てやっているのだ。
「簪は?」
次は簪に聞いてみた。
「私も……オルコットと同じ……意見。織斑 一夏の腕は中々、だけど……相手と比べると技量に差が、ある。あと、ISの腕の、差。織斑 一夏の負け」
そう言う簪はちょっとうれしそうだった。
どうやら一夏が負けると予想できて、それがうれしいようだ。
「やっぱりプロ二人から見ても同じ意見か」
簪も代表候補生である。その目には狂いがない。
「当たり……前。というか、常識の話。スポーツ、でも……素人がプロに勝つ、なんて……できない」
「そうだね」
私だって身体能力は高いが、技術を必要とするスポーツでは全く強くはない。逆に身体能力が必要なスポーツでは負けないが。
と、思っているとセシリアと簪から恋人同士の甘い視線ではなく、ちょっときつめの視線を感じる。見るとどうしてかジト目でこちらを見ていた。
な、なんだか、ゾクゾクする。あれ? もしかしてこの視線って私にとってご褒美? 新しい扉が開けちゃった?
「な、何?」
私がそう聞く。
「いえ、そんなプロを倒した素人が目の前にいますもの」
「非常識」
「確かISに乗って二十四時間も経っていないんでしたわよね?」
「詩織、は……一般生徒の枠で入学した、から……そのはず。詩織自身も……言ってた」
「でしたら、本当に何とも言えませんわね」
「詩織って可愛い顔して……残酷なこと、する」
「ですわね」
二人してさっきからひどい。本当に私、目覚めちゃうかもしれないよ! 目覚めたら私、すごいんだからね!
「あっ、二人とも鈴が近接から中距離に変えたよ!」
二人が私に対して何か言っている間に二人の近接戦闘は終わり、中距離になっていた。そして、鈴の両肩に浮かんでいる装甲にある武器から不可視の攻撃を始めていた。
鈴の両肩の装甲の武器はもちろんのことどういう攻撃なのかは調べてあるので知っている。
武器の名前は『衝撃砲』、装備としての名は『龍砲』と言って、簡単に言えばその名の通り、衝撃を弾として打ち出す武器である。しかも、衝撃であるので、不可視である。
だけど、この武器は不可視の攻撃だけではない。この武器は死角がないのだ。真後ろでも真上でも真下でも放つことができる。本当に凶悪な武器である。
その武器の攻撃を一夏は受ける。
ただ、避けたりもする。
多分避けられるのはISのセンサーを使ったり、相手の動きで避けているのだろう。
「ふ~ん、織斑さんも中々やりますわね」
セシリアが鈴の攻撃を避けているのを見て、そう賞賛した。
むう、それって一夏のこと、いいかなって思っているってこと? 私、セシリアに一夏をそんな風に思ってほしくない。
これは別に一夏が相手だからとかではない。私、独占欲は強いのだ。恋人たちには私だけを見てほしい。
そう思っているとセシリアは頭を撫でてきた。
「わたくしが愛するのは詩織だけですわ」
「!!」
私の嫉妬を見抜いたのか、そんなことを言ってきた。
それがうれしくて、突然のことで、つい顔を熱くする。
くうっ、し、嫉妬してたときにその言葉は破壊力がありすぎる!
セシリアの恋人らしいその対応に私は照れながらも、抱きしめたい衝動に駆られた。