「ちぃ、ヤバいかも…」
メダリオ格闘トーナメント準決勝第2試合
ホウセンvsフィーグ
互いに得物が長槍であり、互いに間合いに入り辛く、互いに間合いの外から牽制じみた一閃を放ち、槍をぶつけ合うだけで、一見、互角の攻防が繰り広げられている様に見えるのか、客席は沸きに湧いていた。
しかし…
「フィーグ、厳しいわね…。」
「うむ、同じ様な攻撃でも、体格差故の一撃の重さが違い過ぎる。
槍をぶつけ合った時の衝撃は、フィーグの方が大きい筈だよ。」
「フィーグさん…」
控え室から水晶玉(モニター)を通して試合を見ているアリーナ達の見解は違っていた。
「この試合が正念場だな…」
「あ…アナタは…」
其処に、ソロ達に、1人の戦士風な男が会話に混ざってきた。
「小僧、最強傭兵フランベルジュの参加とは、運が無かったな…」
「…はい。」
戦士ブランク。
嘗て、アネイルのモンスター襲撃の際、英雄リバストと共に戦い、モンスターを退けた、リバストの仲間の1人。
そして その時に力尽きたリバストを看取り、彼の着用していた『天空の鎧』を何処かに封印した人物の1人である。
ふとした縁で知り合い、このトーナメントで鎧を着こなすに相応しい実力を示す事が出来たら、天空の鎧の在処を教えて貰う約束をしていたのだが…
「小僧、残念だが、今の お前には合格点をやれんな。
試合は全部見ていたが、初戦は雑魚相手、次はラキスケからの反則勝ち。
そしてフランベルジュには、何も通じずに敗退…」
「うぅ…ラキスケの話は、しないで下さい…。」
「ふん…だから、鎧を隠した場所を知りたいなら、この試合…あの若造が勝敗は兎も角だ、何処まで実力を見せる事が出来るかだな。
フランベルジュは別格としてもだ、あのホウセンも、武術界では最強と云われる漢の1人。さて…どう動く?」
そう言って、他人の試合に興味無しと、相変わらず部屋の角の壁に背を預けているゼヴィウスをチラッと見ると、ブランクはアリーナ達と共に、水晶玉(モニター)を見入る。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「でぇや!」
「ふん!!」
ガィン!
フィーグの横薙ぎ払いも、ホウセンの縦に構えた槍に受け止められる。
その直後、
バシッ!!
「!!」
逆にホウセンの小振りのアッパースイングの槍がフィーグの槍を弾き、無防備の形となったフィーグに特攻、槍術の基本、基礎中の基礎である、斬突払の3種の攻撃を瞬時に、且つ丁寧に重く放つ…
「無双三段!!」
ガシィッ!!
「ぐほぁっ…!?」
この試合、両者通じて初めての、技のクリーンヒットが決まった。
「ふん!!」「くおおっ!!」
ガキィッ!
止めを刺さんとする、ホウセンの縦一文字の追撃を、辛くも防ぐフィーグ。
「ほう…俺の あの技を受けて、尚も動けるとはな…」
「へへっ…少しばかり、知ってる技だったんでね…!」
偶然なのか、ホウセンの繰り出した その技は、まさしくフィーグが以前から頭の中で描いており、現在 修得するべく特訓中の、突進からの、斬叩払を瞬時に打ち込む3連戟だった。
「成る程…それで朧気ながら、技の軌道が見え、急所だけは外したという訳か。」
「お手本、あざっす!!」
ブゥン…
そう言いながら、今度は自分の番ばかりと、未完成版の同系統の技を仕掛けようとするフィーグだが、
ズシャッ
「甘いわ!!」
「ぬわっ?!」
知っている技と云うなら、それはホウセンも同じ事。
しかも、当人は その技を技として、完璧に修得している故に、3連戟の初戟を容易く受け止め、その儘フィーグの身体を弾き飛ばしてしまう。
ホウセンの攻撃は続く。
吹き飛ばされ、まだ体制を直せてないフィーグに連続の突きを放つが、
「さっきの試合、見なかったか?」
「!?」
フィーグは崩れた体勢から その儘 身を伏せて転がる様に移動、対戦相手の足下に位置を取ると、
ビシィッ!
「くぬっ!?」
水面蹴りを繰り出した。
倒された後、無理に立ち上がる事無く、その姿勢から繰り出せる技で活路を拓く。
それはソロが、2回戦で女騎士に取った戦法。
そして それをソロに教えたのは、誰であろう、フィーグである。
片膝を地に着くホウセン。
そして その体勢は、フィーグが最も好む敵の姿勢の1つ。
間髪入れず、その立てている膝を階段の如く駆け上がり、
「シャイニング・喧嘩キーック!!」
ドカァッ!
顔面に強烈な蹴りをヒットさせ、更には
「覇極流千峰塵!!」
間髪入れず、高速の穂先の弾幕を炸裂させた。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「「よっし!」」
控え室、フィーグの反撃逆転を見て、思わずガッツポーズをするソロとアリーナ。
「フィーグには、アレがあるんだよね…」
「はい、槍だけじゃないんですよね。」
「おう、俺が仕込んだ。」
「ゼヴィウス氏…」
バルログ達の呟きに、ゼヴィウスが横から会話に混じる。
「アイツは昔っから、槍にしろ剣にしろ、そして格闘にしても、「技」を考え編み出す、閃きに関しては天才的だった。
しかし、全てが単発で、繋ぐのはダメダメだったからな。
それを実戦で きちんと活用出来る様に、俺と父殿とで鍛えてやったんだ。」
「はぁ…」
技の閃き…これについてはバルログも、まさか、それが前世の世界での知識とは言えず、軽く応じるだけだった。
「うむ、それで、フランベルジュ殿は、この試合、どう見るのかな?」
ブランクがゼヴィウスに問うと、
「ん~、俺の見立てでは、あのホウセンてのが、若干有利だな。
体格差からの一撃の重さの違いもあるが、経験値が違い過ぎる。」
「ちょっと待ってよ、貴方は知らないだろうけど、フィーグだって、それなりに修羅場は踏んでいるわ。」
「一時期、修羅場ってばかりの時もありました…」
アリーナの発言に、誰にも聞かれないように小さく呟いたのはソロである。
但し、それは修羅場の意味が違う。
「実戦では どうかは知らんが、この場で必要なのは、モンスターとの戦闘経験でなく、あくまでも対人との試合の場数だ。
あのバカ息子、恐らくは長い間、自分と同等以上の者とは戦っていないだろう。
しかも…」
「「「しかも?」」」
「あれ程の槍の遣い手となると、実戦、試合通じて、本当に初めてじゃないのか?」
「「あ…」」
「…成る程、逆にホウセンは、今回みたいな大会には場馴れしている。
当然、フィーグ級の遣い手とも、何度となく対戦している…か。」
「そういう事だ。
今みたいな半分まぐれ当たりも、簡単に何度も起きたりはしない。
今迄は様子見っぽかったが、そろそろ一気に動くぞ…!」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫「うっおおおおおおおっ!!」
雄叫びと共に、手にした槍を、縦横無尽に振り回すホウセン。
「む!あの動きはっ!?」
「フィーグさんが偶にってゆーか、さっきも見せた!」
「でも、フィーグのアレって、自分のテンション上げる時とか、見栄を切るだけのアクションだよね?」
その動きに、客席のマーニャ達も驚く。
それは正に、フィーグが戦闘中に時々見せる、槍を己の頭上で振り回す仕種。
それは単に、自身を鼓舞させたりする為、或いは敵に対する威嚇目的な、只のポーズな筈だったのが…
「ちっくしょー、完全に技に化けていやがる!!」
その完璧な穂先の壁に、フィーグは近付けず、攻め倦ねてしまう。
「どうした?来ないのか?
ならば!此方から行くぞ!!」
ダッ…
「なっ…?」
攻防一体の構え、その儘 槍を振り回しながら、突撃してくるホウセン。
そして、
「無双乱舞・方天画戟!!」
ズシャアッ!!
「うがぁっ!?」
ホウセン最大の一撃が、フィーグの身体に まともに入った。
否、反射的に持っていた朱槍を長く前に出す事で、『必殺』の間合いだけは僅かに回避し、直撃を防いだフィーグ。
そして直後、技が極った後の一瞬の隙を突き、ホウセンの肩口に狙いすまし、会心の一撃となる一閃を放っていた。
「…やりおる!!」
「かは…そりゃ、どーも…」
射抜かれた左肩を押さえながら、自身のフェバリットを凌いだフィーグを純粋に賞賛するホウセン。
試合は乱打戦に入る。
ガシッ
「!?」
一直線に突きを放ったフィーグの槍を、アッパー式の突き上げで捌き、懐に飛び込むと左腕を延ばし、相手の首根っこを掴むホウセン。
「うぉおおっ!!」
その儘 数歩ダッシュ、助走を付けてジャンプからのワンハンド式チョークスラムを炸裂、フィーグを闘技場の地面に叩き付けた。
「…っくおぉ…」
しかし その攻撃も必殺には至らず、フィーグは起き上がる。
「運の良い奴よ…まさか先の一撃が、此処で活きるとはな!」
そう言って、再び左肩を庇う様に押さえるホウセン。
先程、フィーグが左肩に向けて放った一撃が、思いの外 効いていた様で、本来ならば必殺となる筈のチョークスラムも、十全に力が入らなかったのだった。
「ふん!貴様と もう少し試合うのも悪くはないが、後に あの、フランベルジュが控えているのでな!!
そろそろ決着を着けさせてもらう!」
決め時と見たか、一度 距離を置いた後、ホウセンが突撃を仕掛ける。
「喰らえぃ!無双三段!!」
ズシャガキィ…
「ほぐっ…残念…!
知ってる技って言ったろ?」「な…っ!?」
序盤にも見せた、斬叩払の三段攻撃。
しかし今度は、その一戟目こそ受けるも、二段目の攻撃である叩き付けを完全にガードし、
「どっせぃ!!」
意趣返しとばかりに、その技の三段目の攻撃である、アッパー式払い斬りを逆に見舞うフィーグ。
すかさずバックステップで距離を取った後に突進からの、
「牙突!」
得意技である突きを放った。
「こんな技!」
それをホウセンは体を横にして躱すが、
「甘いんだよ!!」「何!?」
バキィッ
直後、突きにより延ばしきった槍をフルスイングの横薙に移行、朱紅色の鋼鉄の柄が、技を凌いで安心しきった顔にジャストミートする。
「うが…貴様…っ!?」
「牙突とは本来、特攻からの刺突だけの単発技に非ず!
其れを躱された後、横薙に繋ぐ、二段構えの技なんだよ!」
ブゥンブゥン…
頭上で大きく、槍を数回転させて、改めて構えるフィーグ。
「ぶっ倒す!!」
先のホウセンの技とは違い、単に見栄を切るだけのポーズだが…
「キター!
フィーグのカッコつけポーズ!キターッ!!」
「うむ、この試合、決まりですな。」
「勝利フラグが立ちました!」
客席のマーニャ達は それを見て、勝利確定の様に騒ぎ出す。
そして それは、
「決まったわね!」
「そうですね。」
控え室のアリーナとソロも同様だった。
…が、そう簡単に決着は着かず、試合は再び乱打戦に突入した。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「はぁはぁ…」「ぜぃぜぃ…」
正午から開始された、トーナメント本戦だが、次第に空が茜色に染まってきた中、2人の男が槍を撃ち合っている。
「テメー、さっきの あのポーズは俺の勝ちフラグなんだよ!
いい加減、諦めて試合終了しやがれ!!」
「ふん、ならば そのフラグとやら、へし折ってやるまで!!」
ガシッ
「しまっ…」
右手に持っていた槍を左に持ち替え、今度は痛めていた左腕でなく、右手で目の前の男の首を掴み、利き腕でのチョークスラムを仕掛けるホウセン。
「この俺の武で、決りを着けてくれる!」
助走からの跳躍でフィーグの後頭部を地面に叩き付けようとした その時、
ガヂィッ ドォン!!
「ぐわっ!?」「うげっ!!」
フィーグは自分の首を掴んでいるホウセンの腕を、自らの両腕、そして両脚でガッチリとロック、チョークスラムそのものは喰ってダメージを負いながらも、スタンド式腕ひしぎ逆十時固めを極るのだった。
しかも、チョークスラムの叩き付けの衝撃が皮肉にも尚更、その関節技(サブミッション)をキツく締め上げてしまう形になっていた。
「貴っ様…」
左手で、右肘を押さえながら睨み付けてくるホウセンに対し、
「その腕じゃ、槍は持てないだろ?
まだ、続けるのか?」
構えを解く事無く聞くフィーグ。
「愚問!!」
左手で槍を携えたホウセンは、頭上で数回転させた後に構えを取り、
「参る!」
「あーっ、それ、俺のマネ!?」
再び縦横無尽に得物を振り回しながら、突撃してきた。
「逝け!無双乱舞・方天画戟!!」
バシィッ…ザクッ
しかし、利き腕での攻撃でない、しかも痛めている左肩から繰り出される槍は、朱紅色の槍に簡単に天高く弾かれ、勢い良く回転しながら落下、フィーグの後方に突き刺さる。
「…拾わないのか?」
「舐めるな、小僧ぉ!」
道を開け、槍を拾うように呼び掛けるが、それを情けと捉え、好しとしない武人は、痛めた右腕を掲げえ大きく拳を振り下ろすが、これをフィーグは槍を手から離し、両腕でのクロスガードで受け止めると、
「スペシャル・ローリング・サンダー!!」
「かはっ!?」
神速の左拳5連打で人体の急所を的確に撃ち抜いた。
そして その儘ジャンプ、両脚でホウセンの頭をキャッチすると、己の身体をバク転させる要領で、相手の身体を脚で投げて一回転、後頭部を地面に激突させる。
その衝撃に加え、自身と対戦相手の体重を全て、首から後頭部で受け止めダウン、身動き出来ないホウセンに対し、素早く朱槍を拾ったフィーグは
ザンッ!!
「!!」
その首の真横スレスレの地面に勢い良く穂先を突き刺した。
「「……………………………」」
数秒の沈黙の末、大の字の儘のホウセンの口が開く。
「…お前の…勝ちだ…!!」