真に導く者   作:挫梛道

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トーナメント参加者の内、所謂 転生者はフィーグとバルログの2人だけです。




美しき聖堂騎士!!(仮)

「親父、こんな所で何してんだよ!?」

「おぅ、フィーグ…近い近い近い…」

控え室に戻ってくるなり、X(エックス)…もとい、クソ親父を問い詰める俺。

                   

「何してるって言われてもな…

暇つぶし?」

「世界最強傭兵が、暇つぶしなんかで こんなトーナメント参加してんなっ!!

大体 今、ガーデンブルグに居んじゃなかったのかよ!?」

「彼方は大方の目途が付いたのでな、我々は既に、数人を残して撤収したわい。」

                   

傭兵団と言っても戦(しごと)がないと、食と金を求め、略奪を生業とする、只の野党集団に成り下がる事もある。

それが大規模な集団なら、尚の事、厄介な存在だ。

その点、親父が率いるフランベルジュは、王国(ブランカ)とも提携している。

国の要請で、必要とあれば、戦働き以外の仕事もしていた。

 

今から約10年前にガーデンブルグ地方で起きた大震災。

それにより塞がれた、バトランド領とを結ぶ山岳部街道…。

陛下の命を受け、当時からフランベルジュの団員達は、そのガーデンブルグ領に入る陸路唯一の通路の復興作業要員として、ブランカ代表として随時、約20名程度が入れ替わりで派遣されていた。

 

原作では、結局は勇者一向が、魔法の杖1本で道を開いたのだが、それまで自国本国を基として、何処も通路復興してる気配が無かったからねぇ…。

 

かく言う俺も数年前に半年程、一応は王城所属の兵士見習いの筈が、何故か傭兵見習いとして、現地で復興作業の手伝いをした事があったりする。

 

 

親父がアネイルへの砂漠越えキャラバンの護衛として、姫さん達と同行した後にガーデンブルグに向かったのは、少し前に一度、私用で家に帰った時に母さんから聞かされて知っていたのだが…

親父が言うには、もう少しで通路は開くらしい。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

あの試合の後、アナウンスで正式にX(エックス)=傭兵団フランベルジュ団長・ゼヴィウスと発表され、観客席は沸きに湧いた。

幸いにも、同じ髪の色の俺との関係に気付く者は そう多くは居ないみたいだが…

 

「まさか、君がゼヴィウス氏の息子だったとはね…。

驚かせ過ぎだよ…って言うか、キャラクター盛り過ぎじゃないかい?」

バルログ、お前にだけは言われたくない。

…てか、お前、親父に あれだけ襤褸雑巾にされて、平気なのか?

 

「ふっふっふ…自慢ではあるが、俺は戦場なら兎に角、この様な大会に至っては、対戦相手を如何に全力で叩きのめしても、決して大怪我させた事は無いのだ!」

あー、さよか。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

2回戦。

ゼヴィウスを除けば優勝候補筆頭とされていたホウセンが、初戦同様に圧倒的強さを見せ付け、準決勝に駒を進める。

そして、フィーグの父親、ゼヴィウスも、対戦相手のオーゼを難無く蹴散らし、勝ちを得た。

 

「つ…強い…」

バルログとの初戦を観てなかったソロが、その強さを見て驚愕する。

「まあ、あんな、名前の元ネタが『その他大勢』なヤツなんて楽勝だよな…。」

「フィーグ、それ、言って良いのかい?」

 

そして2回戦第3試合、ソロvsコカブリエルの試合が始まった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

わーわーわーわーわーわー…

ソロの入場に伴い、湧き上がる観客席。

初戦の時の、試合終了後に対戦相手に回復呪文を施した行為が、好感度カンストになったようだ。

ちっ…

俺の時なんか、予選の時の奴等と同じ勘違いしやがった観客から、非難轟々罵詈雑言の大ブーイングだったのに…

声援送ってくれたのは、身内だけという哀しさよ…

相手をノーズフェンシ…もとい、牙突で瞬殺したのも実は、超アウェイな空気から、早く帰りたいってのが、理由だったりしていた。

 

 

そして…

「「「「「コッカブリ~!!」」」」」

今回のトーナメント出場選手、16名の内、姫さんと同じ、女性でありながら、予選突破して本戦出場を果たしたコカブリエル。

プロフィールではゴットサイドの聖堂騎団所属となっている、二刀流の細剣の使い手だ。

 

このコカブリー、もとい、コカブリエル、目が かなり血走っていて朱いのがアレだけど、ウェーブの掛かった長い金髪と黒髪が左右ハーフ&ハーフな、超が3ヶは付く程の美人さん。

ついでに言えば、少し耳はエルフっぽい。

そんな訳で、観客席の男共は勿論、一部の女性客も、初戦で魅せた、正に剣舞と言っても語弊が無いような、華麗な闘い方に心を奪われたのか、彼女に黄色い声援を送ってる。

 

 

「コカブリエル姉様~!!」

「ちょっ…落っ着きなさい、ホイミン!?」

…そう、あんな感じに。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ソロ、やりにくそうね…」

「あ~、免疫耐性無いっぽいからね~。」

 

医務室から控え室に戻ってきた姫さんと、ソロの試合を水晶玉(モニター)で観戦。

姫さんは あの後、クリフトの魔法で完全回復したみたいだ。(ソロと一緒に戻ってきた)

ソロが言うには、クリフトは主の危機と負傷を、客席から手を拱いて見てるだけで何も出来なかった不甲斐無さとやらから、火事場のクソ力的なヤツで、その場で上位呪文のベホマを一時的に覚醒習得したとか。

しかし、それについては、「オマエ、試合に乱入して回復させる気だったのか?」と言いたい。

間違いなく反則負けになるだぞ?

そんなのした日にゃ、逆に姫さんからフルボッコだぞ?

いや、コイツ的には、寧ろGOHOUBIか?

多分この男には、「絶交よ!!」の一言のが効くんだろうなー(笑)。

 

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

「はあぁあいっ!!」

「ひぇっ!?」

コカブリエルの左右の剣から繰り出される連続突きを、ソロが必死に躱す。

ソロからすれば、女性が相手ってのは、かーなーりー、戦り辛いみたいだ。

まあ、気持ちは解るが。頑張れ!DT少年!!

 

「でもフィーグ、あの女(ひと)も、かなり強いわよ?

遠慮して勝てる相手じゃないわ。」

「俺からすれば、両手に武器を持って戦う奴って、上半身の動きは兎も角、下半身のフットワークは杜撰てのがデフォだったんだけどね…」

「うむ、それは私も同意だ。

しかし、どうやら彼女は違うみたいだね。

…さて、どう出る心算かい、ソロ君?

逃げてるだけじゃ、勝てはしないよ?」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「あーもう!これがフィーグさんなら、ラキスケ装って平気でセクハラな攻撃するんだろうな~…てぃやぁっ!!」

本人が聞いていたら、間違いなく後で〆られそうな台詞を言いながら、迫る細剣を捌くソロ。

「でも、何時までも これじゃ、ジリ貧だし…どーして この大会、魔法がNGなんですかぁっ!?」

そして次には、大会批判な台詞を放ちながら、体を横移動して躱した細剣の刀身目掛けて、破邪の剣を真上から振り下ろす。

 

ガキィッ…カラン…

「くっ!?」

 

その衝撃で、右手に持っていた武器を地面に落としてしまうコカブリエル。

ソロは拾わせまいと、すかさず その武器を遠方に蹴り転ばす。

 

「すいません…僕は拾わせる余裕を見せる程、まだ強くはないんです。」

「ふっ…気にする必要はありません。

これは戦い…それが当然なのですから。

では改めて…ゴットサイド聖堂騎団コカブリエル…参る!!」

左手に持っていた剣を右手に持ち替えた女騎士は、刀身を地面に水平にして構え、勇者の少年に突進していく。

 

「スクリュードライバー!!」

インパクトの瞬間、手首を捻らせ、切っ先を鋭く回転させる事により、威力を上げる突き技。

「うっ…」

ソロは この剣技を完全に躱す事が出来ず、肩口を貫かれる。

「こ…のっ!」

しかし、追撃させる隙は与えまいと、手にした剣を横の切り払いで距離を置く。

 

「すいませんスイマセンすいません!

傷跡は絶対に残らない様に、後で呪文で回復させすから!!」

そう言うと、左手に持っていた盾を捨て、剣を両手に持つと、今度は自ら距離を縮めて間合いに入り、

「凶斬り!!」

切り落とし、横薙、切上げ、袈裟斬り、逆袈裟の5撃を瞬時に繰り出す。

 

「うふふっ…

女相手に畏縮していたと思っていたら…

やれば出来るじゃないですか…ソロ様?」

「え?…様?」

「はっ…!?

い、今のは失言!気にならさずに!」

一瞬、その顔を 自身の眼の如く赤らめた騎士は、再び己の間合いに詰めると

「ファイナルレター!」

相手の右肩を始点とした横薙、袈裟斬りからの再度の横薙…『Z』の文字の軌跡の斬撃を繰り出し、更には

「百花繚乱!!」

正面の敵の、頭頂から足元まで、体中全てを貫くかの様な、高速の乱れ突きを放つ。

しかし、

「すいません、それ、フィーグさんの千峰塵のが ずっと速いですし…」

「なっ…!?」

まるで、何時も特訓、或いは模擬戦(という名目の虐待)で慣れてますと言わんばかりに、その突きを悉く躱し、

「その前の技も…」

「えぇっ?」

「Z(ゼータ)・スラッシュ!!」

「きゃああっ!!」

先に彼女が放った、ファイナルレターと銘打った技と同じ軌跡の剣技を炸裂させる。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「うんうん、仕込んだ甲斐があった。」

「嬉しそうねぇ~?」

自分が教えた技の披露に、感極まりない顔をしているフィーグを、横でジト目で見るアリーナ。

 

「ソロ君も何か吹っ切れたみたいだし、勝負あったかな?」

「いや…それは まだ分からないよ。」

「うむ、あの少年、やっと あの女と同じ立ち位置になっただけだ、この勝負、長引くかも知れないな?」

「親父…?」

フィーグ達が戦況を分析してる中、その会話にゼヴィウスも参加してきた。

 

「パワー自体は、やはり男女の差だ、あの少年が有利だが、スピードやテク、そして恐らくは長年の実戦経験がある分、あのコカブリエル女史のが若干、分があるな。」

「ゼヴィウス氏は、彼女の方が有利と?」「そうは言ってないがな…ただ…」

「「「ただ?」」」

「どーせ次に戦るのなら、あの小僧より、あっちの綺麗な おねーちゃんの方が良いかな~…ってな♪」

「「「…………………………。」」」

一瞬、固まるフィーグ達。

 

「親父ぃ~…」

「あ~、確かに・フィーグの お父様だわ、この人…」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

カシィンカシィン…!!

わーわーわーわーわーわー…!!

その後、幾度も交差する剣技に、観客も沸きに湧く。

 

 

「ソロさーん!」

「お姉様~っ!!」

「あんた、どっち応援してんのよっ!?」

「え~?そんなの、決まってるじゃないですか~?えへへへ~♪」

「こ、この子は…」

そんな やり取りが客席で繰り広げられている中、

「突き突き突き突き突き突き突き~っ!!」

「わったったっ?もしかして この人、剣1本のが強いんじゃないですか!?」

怒涛の攻めを、ソロは必死に避けていた。

 

「てぃやぁ!!」

「うわっ!!」

正面突きの連打から、不意に横薙に繋ぐコンボに切り替えたコカブリエル。

ソロは それを辛うじてスウェーで避けるが、後方へ倒れる様に体勢を崩してしまう。

この機会を逃すまいと、女騎士は追撃の姿勢を取り、間合いを詰めるが、

「くっ…フィーグさん直伝!」

「!?」

ソロは無理に体勢を整え直さず、敢えて逆らう事なく、自分から背を地に着けると、

「水面蹴り!」

地に伏せた その後に改めて体勢を直し、仮に足の爪先にチョークを付けていたならば、地面に綺麗な円を書き描くな如きな、高速の脚払いを放つ。

「きゃっ!?」

「えっ?」

本人からすれば予想外というか、初めて見る想定外の技に、まともに両足を刈られ、コカブリエルは倒れる。

ドサッ…

 

「「んん~~~~~~~~~~~!?」」

 

 

そして その倒れ込んだ先には、まだ立ち上がっておらず、地に しゃがんだ儘のソロがいた。

必然的に両者の体は、コカブリエルがソロを押し倒す様に重なり合う形になり…

 

「「「「「「「……………」」」」」」」

そして、静まり返る場内。

 

 

「おっのっれ~っ!あの、粗○○勇者~!

よっくも、お姉様に~っ!?

万死!!万死!!万死!!万死!!万死!!万死!!」

「ちょ…ホイミン、頼むからアンタ、少し落っ着きなさい!?」

「ソロさん、不潔…」

数秒の沈黙の後、コロシアムの観客席は囃し煽る様な歓声や怒号なブーイング、喜怒哀楽、様々な声が響き渡る。

 

 

そして立ち上げる両者。

「「……………………………。」」

数秒間、2人は互いに顔を赤らめ、動く事無く、無言で見つめ合う。

 

 

アストロンの如き硬直状態の中、先に動いたのはソロ。

「あわわ…

すいませんスイマセンすいませんン!!」

両膝両掌、そして額を闘技場地面にこすりつけ、何度もDOGEZAするソロ。

 

そして、コカブリエルは…

「い、いっやぁああ~~~~あっ!!」

ちゅっどぉ~ん…!!

「ギャーッス!?」

絹を引き裂いた様な乙女の悲鳴を上げると共に、その掌から雷鳴轟く電撃を放ち、ソロに直撃させる。

そして その数秒後、場内に試合終了を告げる銅鑼(ゴング)が鳴り響いた。

 

ソロ、対戦相手の魔法使用により、反則勝ち。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「あっ、お疲れ様でしt…いえ、何でもないです…」

控え室に戻ったコカブリエルに対し、労いの言葉を掛けようとしたフィーグだったが、未だ頬と言わず、顔中を赤く染め上げていた聖堂騎士に鬼の形相で睨まれ、言葉を途中で止めてしまう。

その後、コカブリエルは荷物を纏めると、逃げる様に控え室を走り出て行った。

 

そして…

「ソ~ロ~!オマエ、美味しいなぁwww」

「ふっ…彼女もだが、ソロ君、まだまだ若いな…」

「あれが らっきーすけべってヤツね!」

「少年よ、君は次の死合で多少なり、修正(物理)する必要があるみたいだな。」

「全くだ。俺が教えた技を、あんな風に悪用するとはな…親父、頼むぞ。」

「ちょ、本当に勘弁して下さいよ~!

てゆうかゼヴィウスさん、何か今、字が違くなかったですか!?」

やはり、未だ顔を朱く染めた儘のソロを、それがライフワークの如くに弄るフィーグ達。

しかしフィーグは、内心では別の事を考えていた。

 

『さっきのは間違いなくライデイン…

あの呪文、普通の人間は習得不可能じゃなかったのか…?

…だとしたら、あの女、一体…?』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 




次回予告(予定)
『フィーグvsベロリンマン』

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