「トルネコ殿~!」
「「せ、船長?」」
ライアンとキャプテン・クックの戦いに決着が付き、未だ その余韻(ドン引き)が冷めやらぬ そんな時、カノン船長とソロが俺達の元に走ってきた。
「船長、どうした?」
「うむ、とりあえず甲板の魔物は一掃し、その後は全然、攻めて来なくなったのでな、お前達の助っ人に馳せ参じたのだが…」
「丁度今、終わった処だよ。」
「…そうらしいな。」
なんだか少し、残念そうなカノン船長。
「上は怪我した人はいませんか?」
クリフトが尋ねる。
「多少ダメージを負った者はいるが、それほど心配はないぞ。」
「そうですか、それは良かったです。」
「ピキー…カカカかかかカか…
ミゴとだ…おマエたチ…」
「「「「「「!!!?」」」」」」
ライアンの攻撃で、頭部を完全破壊されて動かなくなっていた、キャプテン・クックが喋りだした。
「コイツ、まだ動けたのか!?」
「ピピピピ…いや、イマワ、ヨビばってりーが茶道シて、喋れルが、ワガぼでいワ、ソコノ戦死に完全二、HAKAIされテイル。
ピーッピ…」
何だか発音が気になるが、そんな事は今更どうでも良い。
「喋れるなら都合が良いや。
幾つか気になる事があったからな。
少し質問させて貰うぞ?」
Q.何故、俺達を襲った?
A.そこに船がいたら、襲うのが海賊だ。
この海域には至る所にマーキングがしてあり、ルーラでの移動が可能。
そして予め、海に放っていた使い魔から「カモ」がやってきたと連絡が入ったから。
…成る程、別に勇者ソロが乗っていたからとかは、今回は関係ないみたいだな。
Q.俺が壊した あの鏡は、何処に繋がっているんだ?
A.分からない。
あの鏡そのものは、昔、魔族の商人から買った物。
Q.この船には、お宝は積んでないのか?
A.………………………………………。
返事がない。
予備バッテリーもエネルギー切れの様だ。
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あの後、船長達と船内を探索してみたが、お宝の様な物は結局見つからず。
外に出てみると、あの土砂降りな雨は止んでおり、空の彼方には虹が見えていた。
「クリフトー、フィーグー!」
「「「「「船長ー!」」」」」
海賊船からトリートーン号に戻ると、姫さん達が出迎えてくれた。
「ミネアさん、マーニャさんは?」
「あら?さっきまで姉さん、一緒に居たと思ったのに…」
「……………………………………。」
甲板の上に残っている魔物の亡骸を全て あっちの船に積み、船長が例の台詞の後、"イオ"を唱える。
アレは断じてギャラクシアン~ではない。
海賊船は爆発と共に、海の底へと沈んでいった。
「あ~ぁ、結局戦利品は、この指輪だけ…ですか…」
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この船での航海で、初めての大規模海上戦闘が終わった。
船長が船員や俺達への労いの意味で、料理長に「今夜は派手なヤツ」をリクエスト。
この前、旦那が釣って冷凍保存(ヒャド)してたエビルアングラーを使った料理をメインに色々と作る事に。
更には料理長の提案で どうせなら…って事で、三角錐型の枠に吊されたエビルアングラーの解体の余興から始まった。
包丁を手にしたのは、料理長補佐のメルシーちゃん(16)。
蒼毛の おさげっ娘で、船員達の中では お姉さんズや姫さんと並び、船内ではアイドル扱いだ。
厨房では どうかは知らないが、俺の知ってる限りでは、かなりのドジっ娘属性で、よくマーニャさんと一緒に、ソロと纏めて 弄ってたりした。
因みに この娘、最高にテンパると、口調が故郷であるスタンシアラ北部の方言丸出しになって、それも船員達に『可愛い』と好評だったりしていた。
「「「「メルシーーっちゃーん!!」」」」
船員達の やんややんやの声援に、テンパってガチガチになるMercyちゃん。
料理長曰わく、彼女は人前、しかも この多人数の前での調理経験は無く、今夜は そういう経験を積ませる為の抜擢だそうだが…
オドオドして、一向に手が動く気配のない彼女を見かねて、料理長が自分がやるとばかりに立ち上がった時、それより早く、マーニャさんがメルシーちゃんの元に。
耳元で何か囁くと、また自分の席に戻っていった。
…って、マーニャさん、普段は船での食事の時は、いつも俺の隣か近くの席なのに、やっぱり避けられてる?
その後は、何か吹っ切った様なメルシーちゃんの見事な包丁捌きで、みるみる内に凶悪鮟鱇が、皮に肉、内蔵から骨まで完璧に解体され、その場に居た皆から拍手喝采。
満足気な顔をした料理長と、あと2人の料理スタッフが加わり、他の食材と一緒に調理開始した。
俺的には、彼女特製の鮟肝スープが、特に美味かった。
これは皆も絶賛していて、姫さん曰わく、あまりの美味さに、凶悪鮟鱇が起こす海渦流に、着ている物全てが吹き飛ばされる幻影(イメージ)に包まれたそうだ。
隣で話を聞いてたクリフトが、何を想像したのか(笑)、また「ぷはぁっ…!!」っと、鼻を押さえて卒倒しかけた。
うむ、やはり この妄想エクスプレスには、姫さんの協力の下、耐性強化特訓する必要があるな。
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♪♪~♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪~♪…
夜、甲板にいるのは、船首と船尾で いつもの鍛錬をしているソロに姫さん、釣り糸を垂らしている旦那とライアンに見張り台の上のモブ船員君、そして『THE SEVEN』が1つ、ツインネックのリュート、゙レヴィアタン゙を奏でてる俺。
「フィーグさん、我々は今日は もう、休みますので。」
「あぁ、お休み~」♪♪
リュートを弾きながら応える俺。
「フィーグは まだ寝ないの?」
「予定じゃ、バトランド領に着くのは、明日の昼過ぎだろ?もう少しだけ…」♪
「そか…じゃ、お休みなさい。」
「お休み~」♪♪
船内に入っていく姫さん。
…と思ったら、またすぐ甲板に出てきて、船尾で剣を振っていたソロの手を引き、再び船内に入っていった。
「???」
「きゃっ!?」
そして、姫さん達と入れ替わるタイミングで、まるで誰かに背中を突き押された様に、マーニャさんが外に出てきた。
「あ、アリーナの奴ぅ~って…あ…」
「………………………………………」
あ~ぁ、目が合ったよ…
ぶっちゃけ、マーニャさんが俺を避けてる心当たりはアリアリ。
間違いなく、あの麻雀の罰ゲームの最中、海賊船にドン!って体当たりされた時のアレだろう。
♪♪♪~♪~♪♪♪♪♪♪♪~♪~♪♪
無言でリュートを弾いてる俺の隣に、やはり無言で椅子を置いて座るマーニャさん。
ん~、やっぱり目が合った時点で、互いに避けたりするのは、ますます気まずいからね。
「「………………………………………」」
無言。只々、互いに無言。
何か喋らないとな、何か話す種は…!
「あ~、そう言えばマーニャさん、あの吊し切りの時、メルシーちゃんに何を話したの?」
「え?あ、あれは…ほら、あの娘、ガチガチだったじゃない?だから、緊張を解すコツを教えてやったのよ!」
「ほう…?」
「周りを人と思うな!
そこら辺の壺や樽と思え!…とか、他にも色々と…ね。」
よし、会話が軌道に乗ってきた。
「それって もしかして、踊り子流?」
「まぁ…ね。」
「へぇ?…にしても、あの場で声を掛けるって、マーニャさん、優しい~♪」♪♪
「まあ、あの娘は、あんたやソロに並ぶ、あたしのオモチ「おいっ!!」
全く、この お姉さんは…
まあ、いいや…
何時もの雰囲気になってきた。
よし、謝るなら今だな。
「あのさ、マーニャさん…ゴメン。」
「あ…あれは…事故だから…気にして…ないから…」
嘘の下手な お姉さんだ…
「いっつも その事故で、グーパンチやら、簀巻きやらに遭ってるんですが?」
「え?あれはワザとでしょ?」
「違う!」
「ふぅ~ん?
でも、フィーグって あーゆーの、狙った様に あたしにしかしないよね?
あ、ホイミンにもしてたk「事・故っ!!」
そこだけは、全力で否定させて貰います。
「ぷっ…くすくす…」
「いや、笑う処じゃないから!」
「くく…いや、無理…くふふ…フィーグ、凄く必死だし…きゃはははは!」
…この お姉さんわっ!
「まぁ、姉さんのファーストが俺相手に、あんなラッキースケベみたいな結末だったってのは、悪かったと思うけどね。」
「そう!あれは只のラッキースケベだから気にしてない!ノーカンよ!ノーカン!」
「あ…マーニャさん、もしかしてマジに初めてだったんだ?」
「うぅっ!!しまった!」
うわぁ…俺的には、「初めてじゃない!」って突っ込み待ちだったのに…
以前、マリーさんがマーニャさんの事を一見、経験豊富そうで、実は そうでもない…みたいな事を言ってたけど…実は全っ然、経験無いって意味だったですか?
…これは仕方ない。
「マーニャさん、とりあえず、一撃は黙って受ける。
それでも足りないってなら、好きなだけボコっても良いからさ、それで全部リセットして、明日からは また、普通にやっていこうぜ?」
「よし、歯ぁ、食い縛れ…」
ん。これは仕方ない…
バッキィッ!
い、痛い!今までで、一番痛い!
「痛たたた…」
「ほら、立ちなさい?」
うぅ…やっぱり一撃じゃ終わらないよね…
chu…
「!!!?」
え…?
「ま、マーニャ…さん…?」
「…あの時のアレを、何時ものラッキースケベとして制裁したからには、ば、罰ゲームのアレは、別口でキチンとしなきゃ、いけないでしょ?」
あ、マーニャさん、顔が赤い…これは…
「大体フィーグは今までも散々、人の身体を弄んD「ちょっと待て!もう少し、ソフトな表現は出来ないのか?」
不覚にも少し、可愛いと思ってしまった、俺のドキドキ、返せ!
「うっさい!キスも裸見られたのも胸触られたのも、全部アンタが初めてなんだから、責任取りなさい!」
えーーーーーーーーーーーーーーっ!!?
「ちょ…ま、マーニャさん、少し早まり過ぎじゃね?
そーゆーのは最低、両想いとか、そういうのでさ…
ましてや、恋人同士通り越して、いきなりは責任とかってさ…
まあ、両想いに関してはマーニャさんの方が大丈夫なら、問題は無いけど…?」
「よし、フィーグが大丈夫なら、あたしも大丈夫だ。」
へ?
「大体、分かるでしょ?
いくら罰ゲームだからって、あたしが好きでもない男に、頬っぺとはいえ ちゅーする様な女に見える?」
「いや、マーニャさんは、絶対に有耶無耶にして誤魔化して逃げるタイプです!」
「なんか、その表現ムカつく!
でも…なら、分かる…でしょ?」
「お、おぅ…
じゃ、これからヨロシクな…
で、良いんだな?マーニャ…」
「ん…よろしくね、フィーグ…」
こうして、月明かりが照らす2つの影が、1つに重り合うのだった…
…と、いう様な、何処ぞの王道な噺みたいな、安易な展開になる筈がなく…
「フィーグ…どうしたの?」
「ゴメン、マーニャ…ちょっと待って…」
折角の良い感じだったから、敢えてスルー
しても良かったが、やはり そういう訳には行かず…
「おら!扉の向こうの奴等、出てこい!!」
「え゙?」
…と、2人で船内への出入り口の扉に目を向けてみると…
わぉーん…
にゃ~ご…
んもぉお~…
「「この船には犬も猫も牛も居ない!!」」
「「「「「「………………」」」」」」
折角の息の合った突っ込みにも、出てくる気配は無い。
ぼぉおっ!
マーニャさ…
マーニャの右手が真っ赤に燃える!
「ほら!デッキ大炎上させたくないなら、さっさと出てきな!!」
「「「「「「……………!!」」」」」」
パタン…
ゾロゾロゾロゾロゾロゾロ…
おーぉ、出てくる出てくる…
旦那に姫さんにクリフト、ミネアさんにソロに船長…ん?メルシーちゃんもかーい?!
「全く、トルネコ殿の犬がワザとらしかったから…」
「いや、絶対に船長の牛が悪いです!」
やかましいわっ!!
「ごめんなしい ごめんなしい!
だぢて、フィーグすんもマーニャすんも、いちもは恋人みていに仲良いぬに、凄くギクシャクすてて、心配だったけら…」
ん。メルシーちゃんは許す。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「すまん、フィーグよ…
そろそろ私は操舵室に戻りたいのだが…」
「船長、副船長がいるから大丈夫です。
1人だけ逃げようって考えは、どうかと思いますよ?」
「うぐぐ…!!」
「ぼ、僕は覗きは良くないって言ったんですが、ミネアさんが…」
「…誘ったのは否定しませんが、ノリノリで先頭に立ったのは、ソロさんです!」
「うぅっ…!!」
「あ、あたしは、皆が扉に張り付いていたのを、何だろ?って見ていただけよ!」
「私も同じくです!」
「嘘つきなさい!
あんた、あたしを外に押し出してから、ずっと見ていたでしょ?」
「…ゴメンナサイ。
だって、あたしもメルシーと同じで、2人が何だか微妙なのが気になってたし!」
よーし、言いたい事は、それだけだな?
とりあえず お前等、朝までSEIZAな。
次回の舞台はバトランドです。