「あんた、本気で言ってるの?」
「姉さん、落ち着いて!
ただ、フィーグさん、あたしも納得は出来ません!」
キングレオ領に着岸し、とりあえずはマーニャさん達の故郷である、コーミズ村を目指す事にした。
…が、俺はマーニャさん達には今回は船で待機する様に勧めたのだが、予想通りに反発された。
「だから、危険だって!
2人は多分、この国の中では、国王暗殺未遂のテロリストとしてブラックリストに記されている可能性が大だ。
少なくとも、その辺りの心配事が取り払われるまでは、忍んでいるべきだ。」
「「…でも!」」
譲らない双子の姉妹。
「フィーグ、諦めよ?
大丈夫よ、いざという時は、皆で守れば…ね?」
「姫さん…」
「フィーグさんの考えも分かりますけど、マーニャさん達の気持ちも…
僕も…マーニャさん達を守りますから…」
「ソロ…」
姫さんとソロも、マーニャさん達の味方に付く。
「本当はフィーグさんも、最初から そのつもりなのでしょう?」
「旦那…
あー、分かったよ!分かりましたよ!
そうですよ!どーせ、折れないってのは分かってましたよ!言ってみただけですよ!
皆で行く!それで良いんだよね?」
俺の問い掛けに、全員がニッコリと良い顔して笑いながら首を縦に振った。
皆して、迷わず「守る」って言いやがる。
ちくしょー、コイツ等、最高過ぎる(涙)。
「決定だな…。心配いらないよ。
俺が…皆がいるからさ。」
「ん…ありがと…」
「フィーグさん、お礼に姉さんが、ちゅーしてあげると言っています。」
「ミネア!」
あくまでも自分の身は守り、姉を突き出そうとする実は黒い妹。
「すいません、ぱふぱふの間違いでした。」
「よし、皆、行くぜ!!準備は、おけー?
さあさあ早く!はりーあっぷ!」
「「「…………………………。」」」
「フィーグ~!!?」
「…フィーグさん、やっぱり不潔です。」
自分で話振ってから言うか?!この黒妹わ?
「ねえ、クリフト、ぱふぱ「ひ、姫様は知らなくて良いですから!(姫様がぱふぱふ…姫様のぱふぱふ…姫様とぱふぱふ…ぷ、ぷはぁあっ!)」
クリフト、一応、質問しとくぞ?
お前は一体、何を妄想している?
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パインウインドの前側をソロ、両脇を俺とクリフト、後ろを姫さんが固めてコミーズ村を目指す。
途中、何度か魔物に襲われたが、其れを蹴散らし、俺達は無事にコミーズ村に到着した。
「悪いけど、もう少しの間、馬車の中に潜んでいてもらうよ。」
少なくとも手配が回っているたどうかの確認はした方が良い。
ここは素直に頷いてくれる2人。
畑を耕しているオバちゃんに何気なく、マーニャさん達について何か知っているか聞いてみると、
「あんた等、何者だい!国の回し者かい?
マーニャちゃんもミネアちゃんも、帰ってないよ!」
オバちゃんの怒鳴り声で、周りで畑仕事していた村人達が、鍬や鋤を握った儘、殺気を撒き散らしながら馬車を囲み込んだ。
「どうする?見た感じ、国の兵士じゃないみたいだが?」
「流れの賞金稼ぎか?
だったら、この場で始末したとしても、国も気づかないだろう。」
「殺っちまうか?」
…何か凄く物騒な事を言っているが、1つだけ分かった事が。
「姉さ~ん、顔、出していいぜ~。」
俺の呼び掛けに応え、双子の姉妹は馬車の中から、ひょこっと顔を出して
「「やあ、皆、久しぶり…」」
「「「「「「「「「「「マーニャちゃん?ミネアちゃん?」」」」」」」」」」」
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お姉さんズの仲間と分かった途端、見事なまでの掌返しで態度を変えて大歓迎してくれた村人達。
マーニャさん家で休んでいると、村で最初に声を掛けたオバちゃんが、改めて謝りに来た。
「ごめんなさいねぇ、てっきり、マーニャちゃん達を追ってきた輩だと思ってしまってねぇ…」
「いや、誤解が解けたらなら、別に…」
「くーん、くーん…」
何故だか、俺の膝の上に乗っかってる犬のペスタを撫でながら、気にしてないとアピール。
「「ただいま~」」
そこにマーニャさん達が帰ってきた。
「墓参りは済ませたかい?」
「はい、おばさん。」
「わんわん!」
俺の膝の上から、ピョーンと飛び降りたワンコは、尻尾を振りながら、ミネアさんの脛にしがみついた。
「こ、こら、ペスタ!♪」
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その後、このオバちゃんから知ってる限りのキングレオの現状や、マーニャさん達の国内での立場を教えてもらった。
「…具体的に、国王暗殺の件については、何も言ってはいないと…やっぱりね。」
「どういう事?」
オバちゃんが自分の家に帰ってから、話し合いを始める。
「推測だが、城の兵士達には、マーニャさん達を国王暗殺未遂の実行犯として追うようにしているんだろう。
しかし、街の警備兵団なんかには、その事を全く伏せていると思う。
国としては可能な限り、2人の事は秘密裏に処理したいんだよ。」
…なんとなくだが、最初から、こんな予感はしていた。
あの時、時事通信に載っていた情報は
『キングレオ国王暗殺未遂』
『実行犯は国外逃亡』
そして
『犯人の身元は不明』
…だ。
被害者(?)であるキングレオ王は、犯人は『錬金術師エドガン』の娘の2人と分かっている訳だから、普通なら、その事を時事通を通じて、他国に国際手配を要請するのが普通な話。
しかし、これを敢えてしなかったのは、マーニャさん達に『余計な事は喋るな』という様な牽制の意味も少なからずあったのだろう。
仮に他国で身柄を拘束されたら、この2人は間違いなく、キングレオで起きた事を全て、其の場で話すに決まっている。
その場合、それを聞いた者は、直ぐに全てを真に受けたりはしないだろうが、一応は上官なり、その国の王なりに報告はする。
そうなると、その国からは表からキングレオ王に その証言を含めた事情聴取の報告をすると同時に、裏から密偵を送る等して、事実確認する筈だ。
そしてキングレオとしては、それは極力避けたい事態。
「…大体、こんな感じ?」
「ふむ…十分考えられる話ですじゃな。」
「だったら尚更、直ぐにでも城に乗り込んで、その魔物が化けた国王…ん?…国王が化けた魔物?…を倒さないと!」
「そんな簡単な問題じゃないよ。」
とりあえず、夜も遅くなってきたので、今夜は休む事に。
マーニャさん達の家に流石に全員は泊まれないから、姫さんは この家に泊まり、残りの男衆は村の民宿に足を運んだ。
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次の日の朝。
男衆が泊まった民宿にマーニャさん達がやってきて、全員集合。
よーし、キングレオに出発だ!…と村を出ようとした時、
「おーい、マーニャちゃんミネアちゃん!ちょっと待っとくれよ!」
昨日のオバちゃんが父親だろうか、爺さんを1人、連れて声を掛けてきた。
「ごめんなさいねぇ、昨日の夜、マーニャちゃん達が帰ってきたって お父さんに話したら、伝えなきゃいけない事があるって言ってねぇ…。」
「ふむ…マーニャにミネア、久しいのう。
もしも、お前さん達が村に戻った時には、伝えて欲しい事があるとオーリンに頼まれておってのう…」
「「オ、オーリン?!」」
老人の口から出た名前に、驚きを隠せない双子の姉妹。
「ちょっと、おじーちゃん、オーリンて、オーリンが村に来たの?」
「オーリンさんが…」
「うむ。」
老人曰わく、オーリンは村の西側にある洞窟の隠し部屋に、2人宛てに書き置きを残していると言う。
いつか2人は絶対に、この村に戻ってくる筈だからと。
「オーリンが生きていた…
生きていたんだぁ…!
ふぇえええぇぇええええええええぇん!」
死んだと思っていた父親の弟子の無事を知り、俺達の目を気にする事なく号泣するマーニャさん。
そして、ミネアさんも、
「オーリンさんが、生きている…
オーリンさんが…良かった…」
…涙ぐんでいる。
そりゃそーだよ。
自分達の仲間であり、自分達を助ける為に命を落とした筈の恩人が、実は助かって生きていたんだ。
嬉しいに決まってる。
「うむ、全身に大怪我を負ってな、1人じゃマトモに動かせない体を、可愛らしい娘さんの肩を借りてから村にやってきての、儂に洞窟の事を告げると、また2人で去って行ったわい…。」
「…はあぁっ?!」
ピシィ…
一瞬、周りの空気が凍った気がした。
ふと、声の出所を見てみると、背後にゴゴゴゴという、効果音的文字を出しながら、禍々しい漆黒のオーラを放ってるミネアさんがいた。
顔も夜叉みたいになっている。(」゚O゚L)
マーニャさんが耳元でボソッと
「実は あの子、オーリンが好きでね、かなり前から さり気にアピールしてたんだけどさ、オーリンて堅物な上に超鈍感でね…」
…教えてくれた。
「と、とりあえず皆さん、西の洞窟とやらを目指しませんか…?」
「「「「「い、異議なし…」」」」」
一刻も早く、今の空気をリセットしたいソロの提案に、全員(約1名、それ処でない心理状態な人を除く)が賛同した。
※※※※※※※次回予告!※※※※※※※
「な、何すんのよ!?この馬鹿ぁ!」
バコォ!
「痛い?!」
次回、真に導く者:錬金術師の洞窟
乞う御期待!