「しかし、ハスターやプレヤと組むのも懐かしいな。
これで、シンちゃんやロレンスがいたら、完ぺk(ゴン!)あぅち!」
痛たたた…誰だ?
せっかく人が、久しい友と、久しぶりにパーティーを組めた喜びに浸っている時に不意打ちくれてる奴わ?!
「ちょっとフィ~~グ~、あたしも居るんだけど~?」
…ですよねー。
「や、やあ…マリーさんも、久しぶり…」
この、俺の後頭部に剣の柄での一撃くれたバニーちゃん、マリーさんといい、ハスター達同様に、ブランカでの昔からの知り合いだったりする。
バニーちゃんな見た目はアレだけど、それなりの実力を持つ魔法戦士だ。
そして…
「ちょっと、フィーグ、何なの?この痛い格好の女?」
マーニャさん、今は毛皮のコート着込んでますが、貴女も少し前までは、そう変わりませんでしたよ?
「え~と、此方のマリーさんは…
「ん~元カノ?」
「違う!」
「あ、そうか!
別に別れた訳じゃないよね!
じゃ、現在進行形で彼女って事で♪」
「もっと違う!」
「どーして、そんなに全否定する訳ー?
お姉さん、泣いちゃうよ?
あたし達、※※※もしたじゃないの!」
「「え、えーっ!?」」
驚くソロとマーニャさん。
「フィーグ、それ、本当なの?」
「いや…それは…」
「くすくす…フィーグのDT、大変美味しく頂きました」
「黙れ!このDT専ショタ!」
そうなのである…
このお姉さん、俺の15の誕生日の時に、「あたし自身が誕生プレゼント」とか言って、俺のDTをムリヤリに奪ったのである。
ついでにハスターも同じ口実で、このお姉さんの毒牙に掛かっている。
「兎に角、そーゆー訳だから、マーニャさんもソロも、愉快な誤解しないよーに!」
何で俺が、此処まで必死に弁解しないといけないのだろう?
「ふーん…
ま、そーゆー事にしといてあげるわ。
此処にミネアが居なくて良かったわね?」全くです。
絶対に「不潔です」と言われていたに違いないでしょうから。
「…で、アンタがフィーグの今カノ?」
嗚呼…俺としては、早く収集したいのに、今度はマリーさん、マーニャさんに絡んできた。
「な…ち、違うわよ!あたしは…」
「奥さんです。」
「「違う!」」
ソロ、お前も言う様になったな。
「へぇ~、そーなんだぁ…
…ところで、キミ、可愛い顔してるね?」
「え?」
俺とマーニャさんの息の合った全力の否定に、何かを察したかの如く、軽く受け流したと思うと、今度は要らぬ発言をしたソロに目を向け、話し掛ける。
ソロを見るマリーさんの瞳が妖しく光る。
そしてソロに歩み寄り、更には顔をググッと近づけるマリーさん。
ソロ…合掌(ざまぁ)…。
「え?ちょっと、近いです…」
勇者の貞操の危機(笑)だが誰1人、止めようとはせす、黙って展開を見守っている。
マーニャさんや姫さんも顔を赤らめながらガン見している。
品定めでもしてるのか、ソロの顔をまるで舐めるかの様に(あくまでも比喩です)見つめるマリーさん。
「へぇ…」
何かを確認、納得した様な笑みを浮かべたマリーさんは、ソロから離れると、再び俺に近づくと耳元で、
「ねー、フィーグぅ、お姉さんと寄り、戻してみない?」
「ひゃあっ?!」
…等と、とんでもない事を口走りながら息を吹っかけやがる。
「だから、そもそも付き合ってねーし。」
「ぶー、連れないなぁ…」
「あ、アンタ、何言ってんのよ!」
「ん?何故、あなたが此処で口を出す訳?
別に、このコとは、何も無いんでしょ?」
「な、あたしは只、仲間として、アンタみたいな軽い女とくっつける訳にはいけないと思っているだけよ!」
「ふぅん、そうなんだぁ…(笑)」
「ムキーっ!」
地雷姉さんx2=最悪。
…もう、帰りたい。
「あ、あの~、その話は後にして、先に進みませんか?」
そうだね、そうだよね!
XANADUサンもきっと、そう思ってるよ!(笑)
現場が収集つかない修羅場となる前に、プレヤが割って入った。
ナイス、プレヤ。
「「あ゙ぁん?!」」
「ひっ!」
しかしながら、お姉さんズに睨まれた僧侶は、俺を盾にして背後に隠れてしまう。
「「ま、いいわ。
後で存分にOHANASHIしましょ。
フィーグ、アンタにも、立ち会ってもらうわよ!」」
「は、はひ…」
がっくしと頭を垂れる俺に、
「どんまい…」
ハスターが肩をポンポンと叩いてくれた。
何としてでもOHANASHIは回避せねば…
マーニャさんは酒で、どうにでもなる。
マリーさんは…よし、ソロを人身御供に差し出して切り抜けよう。
「さあ皆、先に進みましょう!」
姫さんの声の下、俺達は漸く足を前に進めたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ハスターよぉ…何故にマリーさんまで連れ出したんだよぉお…?」
「言わないでも分かるだろ?
勝手にムリヤリ着いて来たんだよ!」
歩きながら、ハスターに一応、聞いてみたが、返ってきたのは、やっぱりな答え。
原作知識でハスター達が、最初はバニーガールとパーティーを組むのは知っていた。
ゲームでは、姫さんがハスターのパーティーに入る際に入れ替わりで、そのまま姿を消す筈のバニーちゃん。
しかしながらリアル?では、パーティー人数の上限縛りが無くなったのか、姫さん加入後も、そのまま残留している。
まあ、この際、それはどうでも良い。
問題は、そのバニーちゃんがまさか、世界中のDT少年の天敵であるマリーさんであったという事だ。
「そもそもマリーさん、城の仕事はどうしたんだよ?」
「勿論、キチンと陛下に許可は得たわよ。
地獄の帝王討伐の旅に出るというハスターのお守りだと言ったら、路銀までくださったわ♪」
「陛下ぁ…」
マリーさんは、ブランカ城兵士団に所属している。
俺やハスターより、少しばかり年上で、俺達が兵士見習いとして、城に出入りし始めていた時には既に、正規の兵士として城仕えしていた。
当時から偶に戦闘指南をして貰っており、最初は綺麗なお姉さんに手解きして貰えるのは正直な話、ウキウキだったのだが、まさか、その正体がDT喰い(チェリーイーター)だったとは思わなかった訳で…
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「うわわわぁ?!」
現在進んでいる、通称"パデキアの洞窟"は、現地では"氷の洞窟"と呼ばれている。
その名の通り、床も壁も氷で覆われ、少し油断してると足が滑ってしまい、その場で一回転して腰を痛打するだけならラッキーな方で、運が悪いと、ツツツツツツーっと床を滑走してしまい、そのまま壁に激突してしまう。
そう、今の俺の様に…
「痛たたたたたた…」
「大丈b「フィーグ、大丈夫?」
倒れた俺に手を差し出すマリーさん…の前に回り込み、引っ張り起こしてくれるマーニャさん。
お姉さんズの目線がシンクロし、その中心がバチバチとスパークしてる様に見えるのは気のせいですか?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ギラ!…か~ら~の!」
マリーさんが唱えた呪文により発現した炎が、彼女の持つ細剣の刀身を包み込み、
「火炎斬りぃ!」
ズバッ!
「ウオォォーン!」
魔法剣でイエティを一撃で倒した。
「ふふん♪」
してやったりなドヤ顔をマリーさんに向けるマリーさん。
「ムッカー!メラミ!」
ぶおぉ!
「ウオオォオォーン!」
「どだぁ!」
マリーさんの挑発?に乗ったマーニャさんも負けじと魔法一発でイエティを倒す。
向こうから襲ってきたとはいえ、モンスターに同情するぜ…。
そして、
「フィーグ、よく見ててね!」
姫さんが自我を持ち、己の意思で剣を振る黒い甲冑…地獄の鎧の斬撃を右手の鉄の爪で受け止め懐に入り込み、がら空きとなった土手っ腹に左の拳を叩き込む。
「二重の極み!ぁーっ!」
ドゴォッ!
鎧のボディ部分が粉砕され、床に落ちた手足や兜のパーツも、もがく様にカタカタと動いていたが、直にそれも止む。
「凄いな姫さん、もう完璧にモノにしてるじゃないか…よっとぉ!」
口伝…と言うより、只の口頭説明だけで、あの技を体得している姫さんに感心しながら、俺も斬りかかってきた地獄の鎧にカウンター気味の牙突を繰り出す。
「ヒャダルコォ…じゃっ!」
「でぇいや!」
「てぇい!」
「まあまあ、君達、少しは落ち着いて下さいよ…って、やっぱりモンスターには通用しませんか?うりゃ!」
ブライ、ハスター、ソロ、そして商人のゼニーが、目の前の魔物を倒していく。
「あー、もう、キリが無いわ!
ちょっとアンタ、手伝いなさい!」
「仕方ないわね…
本っ当~~にヤだけど、仕方ないわ…」
「「ギラ(x2)!」」
嫌々ながらのマーニャさんの呼び掛けに、渋々応じたマリーさんの2人による、Wの呪文から出来上がった炎の壁が、残った魔物を殲滅した。
イエティの吐く吹雪…この不意打ちから始まり、その後も絶える事なく魔物の増援がやってきた戦闘も、漸く終わりを告げた。
「皆さん大丈夫ですか?」
プレヤが皆に回復呪文を施し、とりあえずは安心と言った処か。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「フローミ…どうやら、このフロアが最下層の様だね。」
「さあ、早く種を探しましょう!
クリフト…待っててね…。」
「よし、皆、行こうよ。」
何度となく階段を降り、皆の顔に疲れの色が見えてきた。
そんな時に何気に唱えた俺の魔法から得た情報は、皆に僅かながら元気を与えた様だ。
自然が作った洞窟の中にある、明ら様な人工物の扉。
洞窟入口の扉を始め、この最下層に来るまでも幾つかあった。
扉を開けると、宝箱がある小部屋もあったが、いずれも目的である、パデキアの種は無かった。
そして、魔物を蹴散らしながら最下層の廊下の様な長い真っ直ぐな道を進んでいくと、目の前に行く手を拒むかの如く、ソレッタの紋章が刻まれた、巨大な扉が立ち塞がった。
「如何にもって感じな扉ね…」
「とりあえず、開けるよ。」
先頭を歩いていたハスターが扉に手を触れようとした時、
「おおーっと、そこまでだ。」
「「「「「「「「!!?」」」」」」」」
なんか前にも、こんなパターン、あった様な気がするんですが…?
「ぐへへへ…その先のお宝は俺が戴くぜ!
死にたくないなら早々に去りな!」
「「「「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」」」」
現れたのは厚っ苦しい程の筋肉質なボディにマントと一体型となった覆面を被った海パン男。
右手には巨大な手斧を握っている。
そして、その子分っぽいチンピラ風な男が4人。
はぁ…やっぱり、またコイツ等かよ…
「コイツ等は…!」
「え、マリーさん、知ってるんですか?」
「えぇ…。コイツ等は手配中の盗賊の…
「あじゃぱーA。」
「「違う!」」
マリーさんと海パンマンが同時に俺に突っ込んだ。
「ぐぬぬ…何処かで見た顔だと思ったら、またオマエか?!」
「やっ、久しぶり、元気してた?」
「んな訳ねーだろ!
貴様のお陰で俺達わなぁ…!」
「盗賊カンダタ!そして、その一味!
脱獄したのは知っていたけど、あたし達の前に現れるのは運が無さ過ぎるわね!」
マリーさんが哮る。…って、
え?カンダタ?
そうか~、ゲームシナリオには登場しないけど、この『Ⅳ』の世界にも、他のナンバリングで名を馳せているのと同名な盗賊が居るのは時事通で知ってはいたが、この、あじゃぱーが当人だったとは…
「ふん!今からリベンジだぜ!
そして、その奥にあるであろう、パデキアの種も俺達が戴く!
げっげっげっげ…
万能薬で知られるパデキアの種、幾らで売れるか、想像しただけで笑えるわ!」
「ひゃっはー!テメー等、此処で、
MI・NA・GO・RO・SHI…皆殺しだぜ!
あ、そこの姉ちゃん達は、美味しく頂いた後、売り飛ばしてやr(ビシィッ!)れるろ?!」
チンピラ子分Aが言い終わる前に、マリーさんの細剣…でなく、彼女のもう1つの武器、普段は腰に付けている三つ叉の鞭がうねりを上げた。
「あ゙?今、何つった?ゴラ?」
「「マズい、マリーさん、キレてる?
皆、下がって!」」
彼女を(色んな意味で)よく知っている俺とハスターが皆に下がるよう促す。
「この腐れ※※※※※※野郎がぁ?!
このあたしの肢体(からだ)わなあ、世界中のDT少年だけのモンなんだよぉ!」
キレても決してブレないマリーさん(笑)。
「ねぇフィーグ、※※※※※※て、何?」
「姫さんはまだ、知らなくていいです。」
「じゃあ、DTは?」
「それも知らなくていいです。」
本当は俺的には、教えても良いのだが、後で爺さんが睨んでいるので、ね…。
ビシビシビシビシビシビシビシビィシ!
「ぎゃぎゃぎゃぎゃきゃぎゃぎゃぎゃ!」
チンピラ子分Aを鞭でビシバシとシバくバニーちゃん。
「あははははははははははははははは!
痛い?痛いの?大丈夫よ?
痛いのは死んでない証拠だから!
ほら?生きてるって素晴らしいでしょ?
ほらほら、もっと、「生」を実感しなさい!
きゃはははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
………………………………………………。
マリーさんのキレっぷりに、俺達は勿論、あじゃぱー…もとい、カンダタ一味以下、その場に居る全員がドン引いています。
「カッコいい…かも…?」
いや、約1名ほど…
姫様は女王様に目覚めた様だ?
「…はっ!な、何をやっとるオマエ等!
早くアイツを助けて、コイツ等ぶっ殺してしまえ!」
「ひ、ひゃっはー!」
いち早くドン引き状態から抜け出したカンダタが手下を一喝。
チンピラB・C・Dが動き、巻き添えな鞭を数発ずつ喰らいながらも、チンピラAを救出する。
「マリーさん、落ち着いて!」
「…ハスター?はっ!わたしは何を…?」
同時に此方も弩S女王と化したバニーなお姉さんをハスターが鎮めるのに成功させた。
戦闘仕切り直し。
チンピラ子分A~Dの4人を前衛に据え、後方でどっさりと構える覆面海パン男。
片や、俺、ソロ、姫さん、マリーさんの4人が前衛となり、その後ろにハスターとゼニー、更にその後ろに残る3人の配置。
5対9。
「お~い、あ~じゃぱ~?
この人数差で勝てる気か~?」
普通なら負けフラグな台詞だが、全然、負ける気がしない。
「る、るせーっ!
テメー等、殺ってしまえ!」
「「「「ひゃっはー!」」」」
チンピラ子分達が襲い掛かる。
さらに、あじゃ…カンダタが
「喰らえ!必殺!」
何だか筋肉を強調したつもりの様な変なポージングをとり…
「マッスル・スパァーク!!」
「なぬっ?!…くっ!」
いきなり、あのむさっ苦しい筋肉質な身体から不気味かつ眩い光を放ち、直視してしまった俺は、不覚にも目が眩んでしまう。
そして、其処に飛びかかってきたチンピラ子分の攻撃を
「そぉら!ひゃっはー!」
「く…」
まともに受けてしまう。
「おら!」
「うわっ…!」
「きゃっはー!」
「うっ…」
声から察するに、ソロとハスターも、目眩ましを喰らった処に攻撃を受けた様だ。
「いっただきまぁ~s(ビシィ!)ぎゃーっ!」
「な・に・を・戴くつもりだったのかしら?
この※※※※※※がぁ?!」
え?マリーさんは無事?
てか、またキレてる?
「マリーさん、目は大丈夫なのか?」
「当ったり前でしょ!
あんな醜い筋肉達磨のポージングなんか見たくもないから、思わず目を背けたのが幸いしたみたいね!」
凄い納得(笑)。
「ギラ!」
「うぎゃー!」
「良いから あんた達は、早く目を回復させなさい!」
…どうやらマーニャさんも同じ理由で、あの閃光を受けてない様だ。
「よ、よし、行くぜ!」
「はい!」
「うん、大分、目も見えてきたよ!」
「おーっほっほっほっほっほっほっ!
このあたしに刃を向けた罪、死ぬまで後悔してなさい!」
「「「……………………………。」」」
マリーさん、殺る気失せるから黙ってて…
ドガッ ゴンッ バスッ ガンッ ドゴッ バキバキッ…!!
「「「はぁ、はぁ、はぁ…」」」
チンピラ子分A~Dをやっつけた!
「さあ、カンダタ!
後はオマエだけよ!
今すぐに参ったすれば、半殺しで許してあげるわ!」
「ぐぬぬ…舐めるな!」
マリーさんの挑発にキレたカンダタは、またもや例のポーズをとり、
「マッスル…」
「!!」
マリーさんが顔を背けた瞬間に
「掛かったな、バカ女がぁ!」
ドガァッ!
「きゃぁあっ!」
突進してからの強力なラリアットを炸裂させ、壁まで吹っ飛ばしたのだった。
「うぅ…」
この一撃で、マリーさんは壁に激突して気を失ってしまい、
「でやぁ!」
「せぇい!」
ハスターとソロの同時攻撃も手にした斧でガードすると、
「うがあ!」
バコッ!
「うわわっ??」
ハスターをアッパースイングで吹き飛ばすと同時に、
「ふんぬ!」
ゴンッ!
「~?!」
ソロに強烈な頭突きを喰らわし、ソロは気絶してしまう。
槍と斧が交差する。
「コイツ、こんなに強かったか~?」
「やかましい!
あの時も、あの巫山戯たナイフが無かったら、無様は晒さんかったわ!」
「あー、そーかよっ!?おら!」
斧の一撃を躱し、身を屈めてからの
「水面蹴り!」
「うぉっ??」
足元を払う様に蹴りつけ、大男がバランスを崩した処に
「今だ!姫さん!」
「てぃやあぁぁぁ!」
お転婆姫が飛び込み、浴びせ蹴りを放つ。
更に
「メラミ!」
マーニャさんが炎の塊を飛ばす。
「熱ゃーっ!?」
この呪文で海パン男のマントに火が点き、燃え始める。
「熱つつつつ!」
慌てるカンダタに対し、姫さんが突撃。
狙うのは
「二重の極み!」
バキャア!
自称・大盗賊の巨大な手斧が粉砕された。
「熱ーちちぃ、熱ーち!」
武器が破壊されたが、それ処ではない海パンの覆面男。
燃え上がるマントと覆面。
「くっ、これは堪らん!」
バサッ…
ついにカンダタはマントと一体型の覆面を投げ捨てた。
その覆面の下は髭面強面のスキンヘッド。
「菜っ葉さん?」
「誰だ?それわ?!」
その素顔は、仮に鳥山先生に似顔絵を描いて貰ったとしたら、自称・宇宙最強の戦闘民族のハゲたオッサンそのまんまだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「う…う~ん……ここは?!
はっ!フィーグさん!」
脳震盪から目が覚めた少年の視界に入ったのは自分の仲間達がスキンヘッドの巨漢と戦っている場面だった。
多勢に無勢な筈の大男は、そんな素振りを見せず、攻撃を仕掛ける仲間達に凶暴な拳を振るっていた。
「くっそー!ナッパさんの分際で強いじゃねーかよ!」
「だから、誰だ、それわ?」
フィーグは眼前の男を過去一度の戦闘や、やりとり等から、正直な話、嘗めていた。
完全に出オチキャラと思っていたが、その認識は改めざるを得ない。
コイツは強い…と。
「フィーグさん、退いて!」
「ソロ?目を覚ましたか!」
「火炎斬り!でいやぁ!」
スバァ!
ソロの必殺剣が炸裂するが、これも決定打にはならず、
「うがぁ!」
頭上で両手を組み合わせ、一気に振り下ろす一撃…ダブルスレッジハンマーを再び脳天にマトモに喰らい、
「っ~~…」
またもや気を失ってしまう。
「ボーヤ!」
ソロより一足先、気絶から回復して戦列復帰していた女魔法戦士が叫ぶ。
「おいおい、よく墜ちる日だな、?!
後で、反省会だ…ぞと! おわっと?!」
口と槍を一緒に動かすフィーグ。
距離を取った位置からの攻撃を放つが、その直後に間合いを詰められ、反撃のフロントキック…ビッグブーツが飛んでくる。
今はギリギリで躱せたが、断じて油断出来る状況ではない。
「皆、大きいの撃つから退いて!」
マーニャの声に、フィーグ達が応じ、壁際に寄ると、
「残り魔力的に、コレが最後かも!
メラミ!」
正面の大男に翳した掌から火の玉を放つ。
「ギラ!」
更にマリーが追撃する。
「うおおおぉぉぉぉぉおぉおおぉお~!」
全身、炎に包まれるカンダタ。
「「やた?」」
しかし、
「うごあぁっ!」
そのまま突進。
「わっ??」
ハスターが炎を纏ったショルダータックルを まともに浴びてしまう。
「マジかよ?なんちゅー生命力だ?!
マジに実はサイ〇人でした(笑)…なんてオチはないよな、おい?」
「あ痛たた…タフにも程があるよ…」
更に続くカンダタのターン。
両腕を左右に大きく広げ、
「ふんふんふんふんふんふんふんふん!」
身体をぐるぐると回転させ、敢えて名付けるならば『大回転・超Wラリアット』とでもいう技を繰り出し、
「きゃあ!」
「うおおっ??」
アリーナとフィーグを吹っ飛ばす。
「痛ぅっ!姫さん、大丈夫か?」
「えぇ…なんとかね…」
「ホイミ!…更にホイミ!」
僧侶プレヤが回復呪文を唱える。
「プレヤが居なかったら、とっくに全滅だったな…」
そう、プレヤは皆がダメージを受ける度に絶妙なタイミングで回復呪文や防御呪文を唱えていたのだ。
「そろそろ、私の魔法力も尽きそうです。
早い処、終わらせて下さい!」
「了解!マリーさん、アリーナ姫、フィーグ、僕達でヤツを囲んで一斉な攻撃だ!
ゼニーさんは、そこのソロ君を、プレヤはマーニャさんとブライさんをガードしていて!」
「「「了解!」」」
「分かったわ!」
「応よ!」
フィーグ達は冒険者。
決して正々堂々な真剣勝負を信条とする騎士でもサムライでも、無論、正義のヒーローでもない。ましてや相手が賊であれば、尚の事。
正面からだけでなく、多方面から攻撃して、自分達のダメージを最小限に抑え、素早く戦闘を終わらせるのが当然な話だ。
現在、パーティーの中には、その正々堂々な真剣勝負をこよなく愛すバトルマニアな少女が約1名程、居るのは居るが、空気を読んでいるのか、戦闘と試合は別腹として割り切っているのか、現状の多対1に異を唱えず参加している。
「逝っけー!ケルベロス・バインド!」
マリーの振りかざす三つ叉の鞭がうねりを上げ、カンダタの巨体に絡み、縛り付け、動きを拘束する。
「必殺!五月雨斬り!」
そして、ハスターが流れる様な連続斬りを放てば、
「一閃突き!」
フィーグが狙いすました一撃を放ち、
「二重の極み!やぁー!」
アリーナが刹那のタイミングで放つ必殺の左拳を鳩尾目掛けて撃ち抜いた。
「ゲハッ…!」
アリーナのボディブローが効いたのか、今までとは明らか違う苦悶の表情を見せるカンダタ。
そして、
「グッハホォーッ…!ゲホゲハゲホ…」
大量の胃液をリバースしたのだった。
無数の小さな青い水晶の様な欠片と共に。
「「「「「う、わぁ…」」」」」
「ドン引いてる場合ですか?
今がチャンスでしょう!」
「「「「はっ!!」」」」
プレヤの突っ込みで我に帰るフィーグ達。
「クソがぁ!」
そこにマリーの鞭の拘束から逃れた大男が最後の抵抗、捨て身の特攻とも受け取れるタックルで迫る…が、
「な?体が…動か…ん?」
急に動きが止まるカンダタ。
よく目を凝らして見ると、極細の半透明の糸が身体に巻き付いている。
「斑尾蜘蛛糸…です。」
「ゼニーさん!」
斑尾蜘蛛糸…投げつけた対象の身体を拘束、或いはスピードを極端に低下させるマジックアイテム。
その糸を投げつけたのは商人のゼニーだった。
「ナイス蜘蛛の糸!
いい加減に終わらせるぜ!
じゃあな、カンダタ!
その巫山戯た名前、あの世で芥川先生に詫びてこい!」
フィーグが吼える。
その場の全員が「芥川先生て誰?」と突っ込みたいが、そういう雰囲気ではないのを察し、黙り込む。
「雷光流転槍ォーッ!」
眉間、顎、鳩尾、両脇腹…人体の急所に神速の5連突きが放たれた。
「姫さん!」
「はい!!」
そして間髪入れずにアリーナが飛び込み、先にフィーグが放った箇所に寸分狂わず、左右の拳…神速の10連打を撃つ。
「雷光明王流転拳!」
「あじゃぱーっ!!!!」
ドガァ!!
独特、且つ奇妙な断末魔と共に天井まで吹っ飛ばされたカンダタは、そのまま頭から ほぼ垂直に落ち、動かなくなった。
「姫さん、ナイスフィニッシュだ。」
「師匠のお陰かしら?」
パチィ!
どちらかともなく、互いに手を出し合い、
ハイタッチをする赤茶色い髪の少女と赤髪の青年。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「こ、れ、で、良、し…と。」
ゼニーが持ち合わせていたロープでカンダタと、その子分を縛り付けるフィーグ達。
「さぁて皆さん、お待ちかねぇ、楽しい持ち物検査の始まり始まり始まりだ~!」
「「「「「おー!♪」」」」」
最っ高に悪(よ)い顔をしたフィーグの音頭に、ノリノリで応える面々。
「巫山戯んな、テメー!」
「俺達より悪党じゃねーか!」
「あ~、聞こえんな?」
賊達の非難轟々をスルーして、薬草やキメラの翼等、使えそうなアイテムを次々と強奪(ぼっしゅう)するフィーグ達。
そして、
「(おぉ!)」
フィーグを限界まで声を小さくして唸らせたアイテム…それは、フィーグお気に入りのお宝本、『悩殺教室』の中でも、彼が2番目に気に入っている、ツンデレ系狩人娘なキャラクターの『ぴー』な姿の肖像画だった。
「(そういえば、最終巻、もうすぐ出るんだよな…まあ、これは、マーニャさん達にバレない様にと…)」
…と、静かに懐に忍ばせようとしたフィーグだが、その手首をグイッとマーニャに握られ、
「フィ~グ~?(笑)」
「は、はい…(泣)」
肖像画は遭えなく没収(ごうだつ)され、マリーと共に無惨にもビリビリに引き裂かれる。
「「あ゙ーーーーーーーーっ!!!!」」
フィーグと肖像画の元々の持ち主だった、チンピラ子分Dの魂の慟哭が洞窟に響いたのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これは…もしや…」
手袋を幾重にも嵌め、カンダタがリバースした胃液まみれの水晶を鑑定するゼニー。
「この水晶は所謂、賢者の石と呼ばれる魔法石です。
膨大なる治癒の力を秘めていると言われています。」
「あのタフネスぶりの秘密は、この石だったのか…」
「賢者の石…」
賢者の石という言葉を聞き、急に神妙な顔になるマーニャ。
「マーニャ…さん?」
「…フィーグ?
あ、ごめん、何でもないから。」
「(…絶対に何かあるよな?)」
「ふむ。
その石が貴重なのは、解らんでもないが、我々の目的はパデキアの種ですぞ。
さあ、先を急がねば!」
「そうよ!ブライの言う通りよ!
早く行きましょう!
(…クリフト、もう少しだからね。)」
フィーグ達はソレッタ王家の紋章が刻まれた大扉を開いた。
マリーさんは某・劣等生クラスの外国語教諭をイメージすれば、それで間違いないと思います。
念の為…
この菜っ葉さんは転生者ではないです。