真に導く者   作:挫梛道

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大灯台

「はあ…あの旦那、マジで1人で向かったのかよ…」

原作知識から分かっていた事だが、そこは傭兵を雇うとかして、パーティーを組むべきだろうに…

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

コナンベリーは世界レベルで有名な港町だったのだが、港の象徴である大灯台を魔物が占拠した後、そこから昼夜問わず放たれる黒光(ブラック・レイ)が、港に停めてあった船は基より、近辺の海を通る船までも悉く沈めていた。

その影響で事実上、コナンベリー港も封鎖状態に等しかった。

それは即ち、世界の海路流通に大打撃を与えているに等しい。

 

そんな中、

「せっかく大金叩いて船を造っても、出航出来ないなら意味ないじゃないですか!」

…とばかりに、立ち上がったのが、トルネコの旦那。

周りの屈強な船大工や船乗り達の制止を物理的に振り切り、大灯台の解放、奪還を目指して単身、乗り込んで行ったという。

おっさん1人を物理的に止められないなんて、大した船乗りだ。

原作的にも彼を死なせる訳にはいかないので、俺達も大灯台に向かう事にした。

てゆーか、旦那が此処で死んだ日にゃ、俺がネネさんに殺される。

 

 

「あの旦那、もう少し計算で動く人な筈だったんだけどな~?」

出向いた動機が町の為でなく、自分の船の為って辺りは旦那らしいが。

 

「フィーグさん、あのトルネコ氏と知り合いなんですか?」

「あー、何度か護衛したりな。

ちょっとした縁で、旦那の家族には世話になったりしたよ。」

「急ぎましょう。

なんとなくですが、その人は、死なせてはいけない気がします。」

「助けたのを恩に着せて、あの船を貰えたりは…流石に無理かしら?」

港の脇にある造船所の中で、トルネコの旦那が発注した、完成間際の船を見ながら呟くお姉さん。

 

 

「皆さん、兎に角急ぎましょう。」

「ええ。」

「はい!」

「応!」

「ちょっと、あたしの発言、スルー?」

さあ、行こ行こ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ゲームでは町から、それなりに離れた場所にあった大灯台だが、現世(リアル)では港のすぐ傍にある。

港の入口には、「KEEP OUT」っぽいテープが貼られており、警備兵が出入りを規制していたのだが…

 

「うぅ…太ったおっさんに強行突破されてしまいました…。」

使えない警備兵だ。

 

「あなた達は強そうだ!

中に入って、あの人を連れ戻して貰えませんか?

私は此処を動く訳にはいかないのです!」

「しょうがないな…頼まれてやるよ。」

「よろしくお願いします!

これで何かあったら、私の給料が…」

…知らんがな。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「黒い光…不気味ですね。」

「此処が以前は船旅の安全を守っていた灯台だとは信じられませんね。

この邪悪な気配は、この黒い光のせいなのでしょうか?」

灯台内部は黒い炎の照明に包まれていた。

黒くても光である故に、「暗いけど、よく見える」という、何とも矛盾した表現がぴったりな光景だった。

 

「ちょ…暗くて怖いわ…

ちゃっちゃと目的を果たして、こんな処、退散したいわ。」

「ほいよ。」

意外にも?暗いのが駄目なのか、腰が引けてるマーニャさんに腕を差し出した。

け、決してマーニャさんの胸を堪能するとか、そんな下心は無いぞ、本当だぞ。

 

「よろしくね♪」

しかし、このお姉さんはホフマンの腕にしがみついた。

 

「何か文句ある?

あんたは危険だと、あたしの本能が訴えてるのよ。」

いや、今回はマジに、下心無しの親切心で腕を差し出したのに…

って、ホフマン、テメー、何を勝ち誇った顔をしてやがる?

 

「マーニャさん、騙されるな!

コイツは俺よりタチ悪いぞ!

なにしろAAからZZZまで、胸ならALL OK!…なんだからな!」

「えーっ?!ホフマンて、楓ちゃんタイプじゃないの~?(前話参照)

だから、安心してたのに~!」

「ちょ、ちょっとフィーグさん、何を言ってるんですか?

あと、マーニャさんも!凄く失礼です!」

「うるせー!お前、この前の温泉の女の子に『革命(レヴォリューション)だ!』って感激してたじゃねーか!」

「えーっ?あれを見たら、普通は言うじゃないですか?!」

「…………………………………………」

無言でホフマンから離れて、俺の腕にしがみつくマーニャさん。

 

「分かってると思うけど、ドサマギで変な事したら、簀巻きだからね?」

「ははは…大丈夫、on offの区別は付けられるから…多分。」

「何だか納得がいかないんですが…」

「2人とも不潔です。

ソロさんは、絶対にあんな風にはならないで下さいね?」

「は…はい…。」

「「放っといてください!」」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

俺達は今、黒炎の照明に照らさる、暗い廊下を進んでいる。

因みにマーニャさんは、未だに俺にくっ付いている。

意外な一面が見られて、得した気分だ。

 

 

「俺は照光(レミーラ)使えるけど、それ使ったら魔物に見つかるからな~」

「使用禁止よ!

それにしても、魔物の死骸が結構転がってるわね…?

これって全部、トルネコって人が殺ったのかしら?」

「旦那はそれなりに戦闘力あるからね。」

 

 

 

カン!カキン!

「「「「!」」」」

内部を進んで行くと、奥のフロアの方から金属同士がぶつかり合う音が聞こえた。

駆け足で音のする先に向かってみると、其処には彷徨う鎧と戦っているマツ〇・デラッ〇スな体型のおっさんがいた。

 

 

「旦那、大丈夫か?!」

「ほえ?フィーグ…さん?」

「話は後だ、とりあえず蹴散らすぞ!」

「了解ですぅ!」

皆より一足早くダッシュでトルネコの加勢に入った俺は、誰が着込んでいる訳でもない、動く鎧を朱紅の槍で斬り払う。

すると彷徨う鎧が空っぽの内部から奇妙な共鳴音を放ったかと思えば、何処からかホイミスライムがやってきて戦況に加わったのだが…

 

「覇ぁ!」

直後、トルネコの正義の十露盤から放たれた光が彷徨う鎧の存在をかき消した。

そして其処には1匹のホイミスライムだけが残されたのだが…

 

「ピ、ピキー!」

ホイミスライムは逃げ出した!

しかし、逃げた先にはソロ達がいた…!

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「大丈夫ですか?ベホイミ!」

「ああ、すいません…助かりました。」

「…ったく、ヤ〇チャしやがって…。」

ミネアさんの回復呪文で、とりあえずは一安心だな。

 

「ふぅ、参りました、思った以上に魔物が強かったですね。」

「…ったく、旦那に何かあったら、ネネさんやポポロが泣くぜ?」

「いや、全く、面目ないです…」

「え?ネネさんて、あのエンドールの武器屋のママさんの事?」

「あ?言ってなかったっけ?

この人、ネネさんの旦那さんだぜ?」

「「「へ?」」」

ネネさんを知ってる3人の時間が止まる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は動き出す。

「「「え、えーーーーーーーーっ?!」」」

分かる、凄ーく解るが、凄く失礼だぞ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「どうですか、フィーグさん、このまま私に代わって、灯台の魔物を退治してくれませんか?」

「いや、もとより、そのつもりだけど…」

「おぉ、流石はフィーグさんだ!

では頼みましたよ!

私は港町で待っています。」

トルネコは去って行った…

 

「待てぃ!」

「おわっ?!」

…処を後から首根っこをむんずと掴んで逃がさない。

 

「此処から1人で帰るのは、逆に危険だ。

旦那こそ、ついでだから最後まで行ってみようぜ。

ぶっちゃけ、旦那は戦力になる。」

「はあ…分かりましたよ。

全く、そういう風に言われると、断れないじゃないですか!」

 

こうして、ドラクエⅣの通常プレイでは在り得ない、6人パーティーが誕生した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ほ~ぅ…ネネが其方の少年…いや失礼、ソロさんに、ですかぁ…」

ソロがネネさんから店の目玉商品であった破邪の剣を受け取った事を伝えておく。

知らぬ間柄ではないから、信頼関係を保つ意味でも、こういった報告は大事なのだ。

但し、出世払いという事で未だに代金を払ってないのは黙っておく(笑)。

 

「この人が噂の大商人…。

何だかイメージと違います…。」

「意外に軽そうなオジサンね。

体重は重そうだけど…。」

「助けて貰ったついでに、そのまま面倒を押し付けようとする辺り…

流石は噂の大商人、抜け目ありませんね。

フィーグさんはその上を更に行っていましたけど。」

同行決定した旦那に対し、それぞれの面々

が様々な事を思いながら、先を進む。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「皆さん、この灯台には少し前まで、聖なる炎が灯っていました。

そして、その炎の火種が今でも、この灯台の倉庫に保管されているそうです。

聖なる種火を使えば、海を荒らし、船を沈めている黒い光も消せる筈!

先ずは聖なる種火を探すのです!

…と、町の神父さんが言ってました。」

おいおい、情報源て、あの神父かよ?

夜、エロっぽいお姉さんをナンパしてて、ミネアさんに「不潔です」と言わしめた破戒神父の言葉だからなあ…

大丈夫だろうか?

 

「あ、もう1回、言いましょうか?」

「いや、もういいよ…

てゆーか旦那、その情報、町に帰ろうとした時に言っとくべきだろ?」

「さ、さあ!先を急ぎましょう!」

誤魔化すなよ…

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

サササ…

 

「あれは…!」

俺達の前に現れたのは、スライムだった。

しかし、体の色は見慣れた水色の其れでなく、無機質な光沢を放つ黒に近い灰色…

メタルスライム!

 

「皆、囲んで!」

ソロがメンバーに指示を出し、

 

「「はい!」」

「ほいさ!」

「応よ!」

「はいよ!」

皆はリーダーの指示に応じた。

 

「おらぁ!」

コン…

「!!」

先ずは俺が先手必勝とばかりに突きを放つ

が、予想以上の硬さからくる反動衝撃で、槍を手放し落としてしまった。

手が痺れている。

これが所謂ミス!…っていうヤツか…

 

「神様…お父さん…お願い!」

ミネアさんが銀のタロットのデッキから、1枚のカードを引き抜く。

正に『お前なんだか』『タロットカードとか武器にして戦いそうな顔だよな(笑)』だ。

勿論、本人に言ったらシバかれるのは目に見えてるから言わないが。

 

そして出たのは…戦車のカード!

一瞬、仲間全体の体が銀色に光り、何だか体が軽くなった気がした。

 

「ほいな!」

いや、本当に軽くなっている。

トルネコの旦那が考えられない程の素早い踏み込みからメタルスライムに攻撃を仕掛けたのだ。

但し、ダメージは与えられなかった。

 

「ME・RA!」

「熱っちゃちゃ!」

そして直後に反撃の呪文を受けたのは、ご愛嬌という事で。

 

 

「火炎斬り!」

「えぇいやぁ!」

コン…キン…

ソロの魔法剣、ホフマンの力を溜めた渾身の一撃も効果がなく、非力な女性のマーニャさん(但し、左パンチとビンタはマスター級)に結果を求めるのは間違っている話であり…

 

サササササササササー…

結果、メタルスライムに逃げられてしまうのだった…。

 

「何なの?この凄い負けた感…?」

「次は倒したいですね。」

 

因みにゲームではないこの世界にて、奇跡的にメタル系モンスターを倒せても、それで能力が飛躍的に上がったという冒険者の記録報告は存在しない。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「倉庫…ですか。

もしかしたら、種火は此の中にあるかもしれませんね。」

灯台内部を進んでいくと、『倉庫』と書かれた札が掛けてある部屋を見つけた。

扉を開けてみると

 

「あ゙あん?何だ?貴様等は?」

部屋の中には庫内の非常食を食い荒らしている魔物がいた。

身の丈約2.5㍍の黒い身体に2本の角、背中には蝙蝠を思わせる大きな羽根、そして手にしているのは巨大な鎌…

仮に悪魔をイメージしてみろと言われたなら、脳内に浮かぶ姿、そのままが目の前に居る…。

 

ベレス…

ゲーム的に言うなら、遭遇するのは、まだ先の筈の上位悪魔が其処に居たのだった。

 

「ん?貴様、トルネコだな?

貴様が此処に向かったと聞いたので、待ち伏せして喰い殺してやろうと思っていたのだが、正に飛んで火に入る何とやらだな!

ちょうど良い!

こんな固いパンは飽き飽きしてジューシーな生肉が喰いたいと思っていた処だ!

貴様等全員、喰ってやるわ!

特にそっちの女2人は喰らう前に、別の意味で美味しく戴いてやろう!」

「ひぇっ?!」

「嘘?フィーグやホフマン以上の変態?

上には上がいる物ね!」

「「をいっ?!」」

己の身体を抱き締め、ドン引き、人を盾にして背後に回り込む双子のお姉さんズ。

気持ちは解る…。

け・ど、マーニャ、さん…?先に俺とホフマンに言うべき事があるんでね?

 

「ひゃっはーっ!」

そんな事を考えている最中に大鎌を振り回して攻撃してくる上位悪魔。

 

「くっ?!炎よ!」

ソロが鎌を受け止め、手にした剣から炎の帯を放つが…

「効かん効かん効かん!

そんな炎はな、効かんのだよ!」

ベレスは魔法耐性、特に炎の耐性が高い。

 

「生肉も良いが、少しばかりレアに焼いた

のが旨いかな?ベキラマー!」

なんか、とんでもない事を言いながら、呪文を放ってきた。

 

「熱っち!」

「うおっ?!」

「く…っ!」

「ちっ…!」

巨大な炎の帯が俺達を包み込み、

 

「斬!斬!斬!斬!斬!」

更に巨大な鎌で斬り掛かかってくる。

ガキッ!

それを俺の朱紅の槍ルージュ・オブ・ケイジが受け止た、その時…

 

「食らえ!見様見真似・覇極流千峰塵!」

「ギャーッス!」

パーティーもう1人の槍の使い手、ホフマンが連続突きを繰り出した。

 

 

「ホフマーン!」

「ひぇ、フィーグさん?

ごめんなさいスイマセンごめんなさいスイマセンごめんなさいスイマセン!

真似したりして、ごめんなさい!」

「違う、そうじゃない!

それじゃ只の連続突きだ!

もっと右足を半歩前に、左足はもう少し外に開いてだな、気持ち腰を落として脇を固め、そして槍を突く軌道は常に水平に!

こんな風にな!覇極流千峰塵!」

「ギャン!」

お手本を見せるとばかりにベレスをぶっ飛ばしてやった。

別に真似られたのは、全っ然怒ってない。

そもそも俺も模倣な訳だし、そんな資格はある筈も無い。

 

「ぬおぉお…」

立ち上がるベレス。

俺達は再び攻撃の構えを取るが…

 

「きょ、今日は、これ位で勘弁してやる!

覚えていろ!…ルーラ!」

ベレスは逃げ出した!

 

 

ガン!

「クキャー…」

…が、天井に頭をぶつけて落ちてきた。

 

 

「……………………………………………」

返事がない。

気を失っている様だ。

 

「なんともまあ、マヌケな魔物がいたもんですね~?」

「全く…何なのよコイツは?!

頭が痛いわ~。」

「やれやれですな。」

「ソロさんもルーラやキメラの翼を使う時は気をつけて下さいね。

わたしも天井に頭をぶつけたくはないですから。」

各々が感想を言ってる中、

 

「お~い、起きてるか~?」

俺は悪魔の頬をペチペチと叩いてみるが、何の反応も無い。

 

「「「何やってんだ、あんたは?」」」

数名程、突っ込みを入れているが、それは無視して、

 

「寝てるなら仕方ないな…。

行くぜ!ドライヴゥ…シューーーーッ!」

ドカッ!

思いっきりサッカーボールキックを見舞ってやった。

 

「「「あ、あんたは悪魔か?!」」」

「ノンノン♪悪魔はコイツだよ♪」

てか、トドメ刺さないで、どーするよ?

皆がドン引く中、あれだけ派手に蹴っても未だ目を覚まさない悪魔に対して躊躇無く槍を心臓に刺してトドメを刺した。

 

「(姉さん、もしかしてフィーグさんて、絶対に怒らせたら駄目な人なのかも…?)」

「(髪飾りやコート等を強請った件も何時爆発するか分からないわね…

とりあえず、これからは、あんまりおちょくらない様にしよう…)」

「(とりあえず今夜にでも、姉さんが生乳を触らせて、いえ、吸わせてでもして機嫌を取っておくべきですね。

今回は不潔とか言わず、許します。)」

「(な、なんで、あたしが…っ?

そっりゃ、あんたの残念なペッタンじゃ、あの爆NEW大魔王は喜ばないだろーけど?)」

「(ムキー!な、何ですって!)」

双子のお姉さんが俺を見ながら、何やらヒソヒソと話してるが、よく聞こえない。

 

「ん?何?」

「「な、何でもないから!」」

「…?」

 

 

「あっ、ひょっとして、これですかね?」

そんな中、倉庫内の棚や保管庫を調べていたソロが、厳重に封が施された箱から、火の灯っている皿型のランプを取り出した。

 

「ふむ…これが聖なる種火ですか…?

このランプの炎、私では、どの様な原理かは解りかねますが、どうやら魔法処理が成されている様ですね。

神父さん曰わく、決して消える事のない、永遠の聖なる炎らしいです。」

ソロが見つけた聖なる種火?を、トルネコの旦那に早速、鑑定してもらったのだが…

また、あのエロ神父情報かよ…。

 

「確かに、この炎からは聖なる力が感じられます。

弱い魔物は触るのは勿論、近付く事も出来ないでしょう。」

魔法の専門家のミネアさんが補足。

 

「じゃ、これ持ってりゃ、トヘロス的効果があるって事?」

「はい。」

俺達は"聖なる種火"を手に入れた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「本当に魔物が出なくなりましたね。」

聖なる種火で火を点けた松明を持って先頭を進むソロが呟く。

因みに種火本体は旦那が持っている。

確かに、聖なる種火を入手してから、魔物には遭遇しない。

 

「ああ、そうだな。

このまま最上階にあるという炬火台を一気に目指そう。」

「「はい!」」

「「ええ!」」

「はいな!」

俺達は階段を駆け上がった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

最上階…壁も天井も無い、このだだっ広いフロアの中心には巨大且つ、凝った装飾が施された炬火台が禍々しく邪悪な黒い炎を燃え上がらせていた。

その周りを3匹の魔物が踊るように囲み歩いている。

 

「ガガガ…燃えろ燃えろ。」

「「邪悪な黒炎の光で全ての船を沈めてしまえ…ケケケケケケ…。」」

頭髪が真っ赤に燃える炎で形成されている青い肌の魔族と紫の毛色の虎系の獸人…

 

「(炎の戦士と灯台タイガーか…)」

 

 

 

「ん?誰だ?!」

「「ケケケケ…

此処までやってくるとはバカな人間だ。

ちょうど良い!

この黒炎の中に投げ込んで焚き付けにしてやるわ!ケケケケケケケケケ!」」

俺達に気づいた魔物達が襲ってきた。

 

「マーニャさん、コイツ等には多分、炎は効かない!下がってて!」

手にしていた松明をマーニャさんに投げ渡すソロ。

 

「ちょ、急に投げないでよ!」

慌てながらも聖なる炎が灯っている松明をキャッチするマーニャさんが、そのまま後衛位置まで下がる。

 

「旦那も種火(それ)持ったままじゃ、戦えないだろ?

後に下がるんだ!」

「了解ですぅ。」

聖なる種火本体を持ってるトルネコの旦那にも下がってもらう。

 

「BaWOooooooooooooh!!」

「「「「!!?」」」」

いきなり獸人が雄叫びを上げ、ホフマンとミネアさんが思わず立ち竦み、体を硬直させてしまう。

 

「ブッファアー!」

其処に炎の戦士が火の玉を吐き出した。

 

「うっ!」

「きゃあ!」

体を動かせない2人がまともに火の玉を浴びてしまう。

 

「ミネア!ホフマン!」

マーニャさんが思わず叫ぶ。

 

「く、くそ!

見様見真似・覇極流千峰塵!」

「バギ!」

「ギキャー!」

しかしながら、即座に反撃する2人。

本当に頼もしい仲間だ。

それとホフマン、50…いや、45点。

もっと素早く、正確に…だな。

 

「ホフマン、大丈夫か?」

「こ、怖くなんてありませんよ。

皆さんと一緒に旅に出た時から、これ位の事、覚悟の上です。」

よく言った!

 

「一ヶ所に固まらないで散りましょう!

…でぇいやあ!」

指示を出しながら、紫の虎に攻撃を仕掛けるソロ。

 

 

「どっせい!」

その流れで俺は、もう1体の炎の戦士と戦う展開となる。

 

「Gi・Ra!」

「うっく…」

炎の戦士が広範囲の攻撃呪文を繰り出す。

しかし、ソロの出した指示で皆が散り散りになり、実質、1vs1が2組と2vs1の図式になっている為、集団攻撃魔法も、目の前の俺にしか効果が及ばなかった。

 

「熱いだろーがぁ!!」

ズバァ!

怒りに任せた薙払いが会心の一撃となり、敵である魔族を吹き飛ばした。

 

「BaWOoooooooooooooooooooooooooooh!!」

そこに再び魔獸の咆哮が谺した。

今度は至近距離で聞いたソロが立ち竦んでしまい、直後に猛獣の強力な爪から繰り出される斬撃を喰らってしまう。

 

「うわぁあ!」

「ソロッ!」

ソロの救援に向かおうとするが…

 

「おっと?ケケケケ…

ボスの元には行かさんよ?」

先刻、吹き飛ばした炎の戦士が目の前に立ち塞がった。

 

「ケケケケ…

あんなガキにボスの相手をさせるとはな?

まあ、誰だろうと一緒だが?

兎に角、あのガキを助けたいのなら、この俺様を先に倒すkあじゃぱー!」

なんだかムカつく顔面にハイキックを喰らわしてやった後、

「ああ、そうさせて貰うぜ!

ついでにお前には新技の最終調整の実験台になってもらう…喜べ、あじゃぱーB!

貴様が実戦の被害者第1号だ!」

「だ、誰が、あじゃぱーBだっ?」

左手で槍の柄の中央のグリップに持し直し、構える。

狙うのは敵の顔面、下顎、鳩尾、そして両脇腹…その5ヶ所を千峰塵以上の速度で瞬時に貫く…

 

「雷光流転槍!」

ドゴォォォォォォン!

「あ・じゃっ・ぱーっ!」

完成…かな?

後は実戦で回数をこなせば、より完璧に仕上がっていくだろう。          

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ソロ、大丈夫か?」

「フィーグ…さん…」

「よく保ち堪えた。後は任せろ!」

灯台タイガー相手に孤軍奮闘しているソロの下へ駆け寄る。

 

「「ソロさん!」」

ミネアさん達も駆け付けてきた。

どうやら、俺とほぼ同じタイミングで、もう1体の炎の戦士を倒した様だ。

 

「メラミ!」

「グギャァア!!」

「「「!!」」」

更に後から巨大な火の玉が飛んできたと思えば、紫の虎に直撃した。

 

「あたしも居るわよ!」

「姉さん!」

「「「マーニャさん!」」」

マーニャさんも参戦してきた。

ん?…って事は…

 

「…………………………………。」

ふと後方の旦那を見てみると、右手に聖なる種火、左手には先程まで姉さんが持っていたであろう、松明を握り締め、何とも言えない微妙な表情で此方を見ている。

もしかして、ゲームでは定番だった留守番的ポジションが、此方でも確定した?

旦那、どんまい(笑)。

 

「ソロさん、大丈夫ですか?ベホイミ!」

ミネアさんがソロに回復呪文を施す。

 

「ありがとう。

皆さん、また先程みたいに囲む様に散り、全方位から攻撃します!」

「「はい!」」

「「了解!」」

ソロの指示に従い、魔獸を取り囲む。

 

「BaWOoooooooooooooooooooooooooooh!!」

灯台タイガーがまたもや哮るが、今度は誰一人としてたじろぐ者は居らず、

「ルカニ!」

「火炎斬り!」

「牙突!」

マーニャさんの呪文で守備力を削られた獸人に必殺技を放つ。

 

「ウガァアアアアアァ!」

「ぐっ?!」

しかし、その直後に苦し紛れに振り回された魔獸の巨大な腕が、カウンター気味にヒットし、俺は吹っ飛ばされてしまった。

 

「「フィーグさん!」」

「く…大丈夫だ!攻撃を緩めるな!」

心配無用とばかりに激を飛ばす。

 

そしてミネアさんがタロットを取り出し、1枚のカードを引き抜く。

出たのは悪魔のカード。

何処から途もなく吹き出てきた紫色の霧が

紫色の人虎を包み、獸人は先程の呪文に続き、更に守備力を下げられてしまう。

 

「うぉおっ!」

ズガァ!

其処に力を溜めていたホフマンの会心の一撃が炸裂した。

 

 

「GaWOooooooooooa…き、貴様等ぁ…!」

其れは敵を威圧する雄叫びでなく、只の苦し紛れの叫び。

如何に体力、腕力が常人より遥かに優れる獸人も、明らかに並みではない人間…

しかも、其れが複数人相手となると、分が悪かったのかも知れない。

「でぃ!」

「グバァ!」

「せいやぁ!」

「うぅら!」

正面から攻撃した者に反撃を試みても、そ

の次の瞬間には別の角度からの攻撃がやってくる。

見方を変えたら卑怯な戦法と取れなくもないが、此方も狂暴な獣相手に綺麗事に拘る余裕は無かった。

 

「行くぜホフマン!覇極流…」

「「千峰塵!!!!」」

ホフマンと獲物を前後に挟み込んで穂先の弾幕を放つと

「凶斬り!」

ソロも必殺剣を繰り出す。

 

「…!

トルネコ、その松明、こっちに頂戴!」

「え?は、はい!」

突然のマーニャさんの言葉に、旦那が応えて松明を投げる。

回転しながら天高く放物線を描いて落ちてきた松明をキャッチしたマーニャさんは、その松明を敵に投げつけ、

「メラミ!」

自身の文字通り、最大火力の呪文を放つ。

 

 

「うっぎゃああああああああああああ!」

メラミがプラスされた聖なる炎が巨大な火柱となり、紫の人虎を焼き尽くした。

 

 

 

「ふぅ~…

思ってた以上に上手くいったけど…」

「「「「「………………………」」」」」

「アハハ…最初っからコレ、やれば良かったかしら?(笑)」

照れ隠しの笑顔で、床に落ちている火の点いた松明を拾いながら話すマーニャさん。

 

その床には、何かが燃えていた様な大きな黒い焦げ跡があった。

灯台タイガーはメラミと松明(聖なる炎)のコンボで、骨すら残らず燃え尽きたのだった。

 

「いや~、それにしても、我ながら、ナイスな閃きよね~!あたし、天才!」

所謂、頭上に白色電球が不意にピコン!と

灯ったってヤツな訳ね…      

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「後は、この聖なる炎を、あの黒炎に投げ入れたら終わりかしら?」

「その筈です。」

「………………………………………。」

「フィーグさん?」

「あ、いや、何でもないよ。」

何度も言うが、あのエロ神父情報だから、原作知識云々抜きにして、イマイチ信用出来ない。

 

「じゃ、はい、ソロ。」

「え?」

マーニャさんがソロに聖なる炎が燃えている松明を渡す。

「僕ですか?

僕で良いんですか?」

「こーゆーのは、お前の仕事だよ。」

「ソロさん、決めてください。」

「「ビシっと締めましょう。」」

「いけー、ソロー!」

何か遠慮がちな少年に皆が発破を掛ける。

 

「分かりました。

それじゃ、投げますね。」

意を決した様に炬火台に対峙し、その天辺に燃えている邪悪な黒炎目掛けて松明を投げる構えを見せるソロ。

 

 

 

 

 

 

「すいません…

本当~に僕で良いんですね?」

「「「「「いーから早くやれ!」」」」」

「ひいぃっ!」

ぽーい…

 

涙目の少年が投げた松明は黒炎の中に吸い込まれたと思えば、邪悪な炎が明るく輝き始め、聖なる白い炎へと、その色を変えていった。

 

「「綺麗…」」

「これは…素晴らしいですぞぉ…」

 

そして炬火台の炎に続くかの如く、灯台内部の黒い炎の照明も徐々に本来の白い炎に変わっていった。

 




※※※※※※未収録会話?※※※※※※

「姉さん…本当にあれ、早くやって欲しかったです…。」
「「「うんうんうんうん。」」」
「しよーがないでしょ!
最初はダブル千峰塵で終わらせる予定だったのが、書いてる途中で、いきなり閃いたんだから!」
「ま、文句は作者に言えって事だよね。」
「予定って何?」
「書くって何?」
「「「「作者って誰?」」」」


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